スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第85話 一つの戦い

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 ここから先はプランBだ。その先にあるバックアッププランだけはやりたくない。これで成功させなくては。

「カイ国王陛下!ここは危険です!私の馬に付いて着てください!」

 俺は近くの馬に乗り、カイへと近づく。カイは己の洗脳の力によほどの自信があったのだろう。それが効かなかったことに驚き、放心状態となっている。そんなカイを俺は揺すってなんとか正気を保たせる。

「あ、ああ…わかった。お前に付いていく。早く安全なところまで案内しろ。」

「こちらです!」

 俺はカイを連れてその場から立ち去ろうとする。そんなカイのことを見た他の兵士もそれに続こうとするが、メリリドさんたちが急に猛攻撃を仕掛けてくる。ここを通したらまずいとすぐに察知した土岩の魔女ジャイリスはその行く手を阻むように巨大な土壁を築いた。

「陛下を連れて早く逃げて!」

 ジャイリスの声が聞こえる。俺はそれに呼応するようにカイを連れて馬を走らせた。生い茂った森の中を俺はこっそりとスマホのマップを見ながら移動する。




 森の中で乱戦が続く。魔王クラスのアクラとジャイリスに対するのはメリリドとガヴァド。他の兵士はメリリドの残りのパーティ2人が対応している。この2人もかなりの手練れだが、どちらかというと補助向きの能力が高い。

 何せ戦力はメリリドとガヴァドという準魔王クラスの二人がいる。だからその二人では対応できないようなことができる人材ということでこの二人は活躍しているのだ。しかし魔王クラスがいないにしろ、その二人が相手しているのは国の精鋭たちだ。そんなのを10人近く2人で相手するというのはかなり酷だ。

 しかしそれでも耐えなければならない。何せ二人は魔王クラスという別格を相手にしている。ちょっとした横槍が入るだけでも十分戦局は左右される。

「その金棒…陛下の前だから言わずにおいたが、お前だなメリリド。」

「あら~気がついていたの~てっきりそんな状況だから~気がついていないものだと思っていたわ~。」

 メリリドはクスクスと面白そうに話している。その光景は金棒と顔を隠すマスクさえなければごくごく普通の談笑のように聞こえそうだ。そんなメリリドに対し、剣と盾を構えながらアクラは鼻で笑う。

「そんな金棒を振り回すのはお前しかいないだろう。相変わらずわけのわからない筋力だな。しかしお前が盗賊とはな。お前だからやりかねんとはつくづく思っていたがな。」

「ひどいわ~アクラ~。昔は~よく遊んだ仲じゃない~」

「遊んだ?いじめたの間違いだろう。お前には散々ふり投げられ、殴られ、ひどい目にあった。だが今の私はこの国の王を守る騎士だ!そして魔王クラスへと成長した!もうあの頃の私ではない。」

 アクラのその身からほとばしる魔力は強大だ。しかしメリリドはその魔力の異様さにすぐに気がついた。マスクで隠れてしまっているが、その顔は悲痛を訴えている。

「話を聞いた時は~まさかと思ったわ~でも~本当のようね~今あなたを救うわ。」

「救う?ッハ!一体何から救うというんだ?それにお前は私よりも格下だ。私はお前を倒し、お前の仲間も倒して陛下を救いにいく!」

「その陛下は誰のこと?あなたの守るべきものは何?」

 メリリドは淡々と問う。いつものおっとりとした雰囲気が薄れつつある。アクラもその空気が変わったことにすぐに気がつく。そして先ほどまでよりも集中力を高めた。

「カイ国王陛下のことに決まっているだろう。お前たちがなぜ襲うかは知らないがな。だがあの方の敵を私たちは許さない!」

「辛いのね。その言葉を言うたびに私にはあなたが苦しんでいるのがよくわかる。だけどそれももうお終い。今日で悪夢も終わるわ。だけどその悪夢は永遠にあなたを苦しめる。だけど決して挫けないで。壊れないで自分を保つのよ。」

「何を言っているか意味がわからないな。それにメリリドお前…その口調の時も随分優しく喋れるじゃないか。」

「あなたにわからなくても心の中のあなたはわかったようよ。だってあなた…泣いているもの。」

 何を言っているかアクラはわかっていないようだが、確かにその瞳からはひとひらの雫が流れている。そんなことを意には解さないようにアクラは剣を構える。

「いい加減…おしゃべりするのも飽きた頃だ。そろそろ始めよう。お前ごときすぐに蹴散らしてやる。お前に魔王クラスの力を見せてやる。」

「魔王クラスね…結局そのクラスに至るのは力だけじゃないってわかっているはずよ。あなたは騎士団の団長になったから魔王クラスに届いただけ。実力は私とそう変わらない。まあ今のあなたはだいぶ弱っているけどね。それと口調が優しくなったのは子供ができたからよ。あなたもそのうち会いに来なさい。必ずよ。」

 メリリドはその場で深呼吸する。アクラはその隙に斬りかかろうと思った。が、すぐに気がついた。メリリドの纏う空気が変わったことを。アクラはその先にあるものを知っている。嫌という程体感している。だからこそこちらも魔力を高め、その準備に入る。

 メリリドはおもむろに宙に手を伸ばす。すると手首から先が消え、前腕も少しずつ消えていく。やがてそこから手を引き抜くと巨大な鎖のついた鉄球が現れた。

「さて…久しぶりに昔に戻るわ。両手に別々の武器を持ったのなんて何年ぶりかしらね。それじゃあ……いっちょ始めるかぁぁ!!!」

「暴虐のメリリド復活ね。右手モーニングスター、左手に金棒…相変わらず無茶苦茶なバカ力ね!」

 片手に100キロ以上はあると思われる武器を軽々と持ち、突進してくる。その光景はまさに絶望という言葉を体現しているかのようだ。アクラは盾を構え攻撃を防ぐ。その盾で攻撃を守る音は異常だ。金属と金属がぶつかっているような音ではない。ぶつかるたびに衝撃波が辺りに散る。

 その鬼気迫る戦いには誰も近づこうとすら思わなかった。あんなのに巻き込まれたくないと洗脳中の兵士たちも思ってしまう。洗脳すら関係ない本能の部分に直接訴えかけているようだ。

 その戦いはごくごく単純でメリリドが攻撃し、アクラが防ぐ。アクラは攻撃の隙を見つけ細かく攻撃を仕掛けるがメリリドの圧倒的攻撃の前にそれは無意味に散る。その戦いは誰の目に見ても長引くものに見える。

「相変わらず馬鹿みたいに硬い防御だなぁ!とっとと終わらせたいのにねぇ!!」

「馬鹿なのはお前だ!この馬鹿力め!」

 メリリドも早く仕留めに行きたいが、殺してはいけないし焦ったらこちらが逆にやられるので決定打を出せずにいる。ガヴァドの方を見てもジャイリスは超防御型の魔法使いであるため、なかなか勝負がつけられずにいる。

 メリリドとガヴァドのどちらも超攻撃型の戦いだ。そしてアクラとジャイリスは超防御型。相性は悪く、短期決戦は難しい。ミチナガに行くとは言ったが、それは難しいかもしれない。

(悪いけど店長にはなんとか一人でやってもらわないといけないわね。あの店長が死ぬと今の職場がなくなって困るのよねぇ…結構気に入っているし。だけどどうしようもないのは本当だし…頑張ってね、店長。)

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