スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第99話 ブラント国での最後の日

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「ジャギックさんには本当にお世話になりました。」

「お前さんがいなくなるのは寂しくなるが、まあ元気でやれば良い。」

 今日も挨拶回りだ。すでに出発は明日で準備も進んでいる。マックたちも準備に怠りが無いように最終確認をしているはずだ。俺の挨拶回りもこれで終わり、と言うより元々そんなに挨拶に回るような人はいない。挨拶に行くような人はほとんどうちの従業員やっているし。

 時間もまだまだあるので最後にこの国を散策する。こうして改めて見ると、初めてこの街に来た時と全く違う。実に明るい雰囲気だ。子供達が楽しそうに遊びながら道を横切っていく。奥の酒場では男たちが昼間から酒をあおっている。

 見た感じ彼らは昨日道路工事をして来たのだろう。話が聞こえて来たが、今日の分は外れてしまったらしい。しかし明日の分は確保できたので今日は英気を養うとのことだ。出店では多くの品物が売られている。一人の女性が晩飯の買い物をしている。旦那が今日道路工事に出ているようだ。そんな旦那のために今日はたくさん買っていくとのことだ。

 見ていると品物がよく売れている。どこの店も商売は順調のようだ。これが、経済が回ると言うことなのだろう。大きな国にいるとよくわからないが、このくらいの国の大きさならちょっとした効果がよくわかる。

 よくテレビで会社の社長が金を使えば使うほど金が入ってくるなどと言っていたが、そんなに上手くいくのかと常々思っていた。しかしその話は本当のようだ。1日の出費は金貨1500枚以上あると言うのに収益は金貨1000枚以上まで増えている。娯楽施設の建設の出費がでかいがそれがなければ十分プラスになる程だ。

 元々ただ散財しまくる予定だったのに儲けに儲けてしまっている。しかしそのおかげで道路工事に牧場建設、さらに娯楽施設の建設を1年間続けても問題ないだろう。儲けることによってもっと多くの人々に金が行き渡らせることができるのだ。

 前にふと思ったことがある。俺も何かを間違えればカイのように人々を苦しめるような人間になっていたのではないかと。前はそれを思ってゾッとした。眠れずにベッドの中で震えていた。しかし今は違う。今なら心の底から言える。

「俺はこうしてみんなを笑顔にしたぞ。お前もやり方さえ間違えなければ同じことができたはずだぞ。もう一度…輪廻転生ってやつがあるならその時は…今度は失敗するんじゃねぇぞ。」

 洗脳しなくちゃ笑顔にできないなんてことはないんだ。洗脳だって、その威力を抑えて暗示程度に済ませれば心を病んだ人を助けることができるはずだ。洗脳の力だって多くの人を助けることができたはずだ。それができなかったお前は間違っている。

 もう俺は迷わないぞ。もうお前のことを思い出して夜も眠れない日を過ごすつもりはない。しかしそれはお前のことを忘れるつもりではない。お前のことを忘れず、俺の人生の糧としてしっかりと生きていくつもりだ。

 このブラント国では様々なことがあった。今までの俺とは全く違うものになっただろう。しかしそれで良い。昨日の自分と今日の自分が同じわけはない。たとえ1分前だろうが自分というのは違うものになる。その変わるのが良い方向に変われば良いだけだ。俺は足を上げて一歩を踏み出す。この一歩は新しい自分への一歩だ。

「いつまでそんなとこに突っ立ってんだい!邪魔だよ!」

「おーいこっちで遊ぼうぜ!…いて!あ、ごめんなさい。」

「あ~ごめんなさい。打ち水かかっちゃったかしら?」

「あ、大丈夫ですよ。すいませんぼーっとしていて。」

 どうやら俺の明日への一歩はまだまだ大変なものになりそうだ。




「あ~…やっぱ風呂はいいなぁ…」

 本店舗に帰って来た俺は従業員用に備え付けてある大浴場に入っている。昼過ぎのこの時間は従業員が全員働いているのでこの大浴場を独り占めできる。こうして風呂に入るのは至福の時だ。しかし明日から出発してしまうとこの風呂にも入れなくなる。実に辛い。

「五右衛門風呂でも作ろうかな。でも金属足りるかな?」

 金属の少ないこの状態であまり俺の都合だけで動くのはいけないだろう。しかしお風呂は欲しいなぁ。でも野営中に五右衛門風呂設置して入るのは無理かぁ。なんかいい方法ないかなぁ。

ミチナガ『“野営中にお風呂入れる方法ない?五右衛門風呂とか設置するの可能かな?”』

親方『“そういうことなら木で風呂桶だけ作ってスマホの中で沸かしたお湯を注ぐっすかね。あとで簡単なもの作っておくっす。”』

ミチナガ『“それいいねぇ。大きいのを頼むよ。それから湯船に浮かべるお盆とコップもお願い。”』

親方『“へーい、お酒用にお猪口も作っておくっす。徳利は厳しいんで我慢してください。”』

 まあ風呂に入りながらのお酒は危ないからまあいいかな。しかし風呂に入るのはそんな方法もありだったか。これでまた旅が一つ良いものに変わったな。旅の途中で入るお風呂か。今までは貯めたお湯にタオルをつけて体を拭くくらいだったからな。これから寒くなることを考えたら最高だな。

「防寒対策もしっかりしたつもりだけど大丈夫かな?寝るように毛布もう一枚足すかな…まあ足りなかったら誰かに買ってもらうか。」

 街に使い魔を配置しておけば足りないものはいつでも買い足せるからな。そこまで色々と心配する必要もないだろう。そういえばルシュール領のシェフの調子はどうなんだろう。普段はこっちのスマホの中にいるから特に何かあったって報告は受けていないんだよな。

ミチナガ『“シェフ~最近そっちの店の調子はどうだ?”』

シェフ『“この前新しく始めた居酒屋が良い感じ。それに伴って珍しい作物も売れるようになって来た。”』

ミチナガ『“え?いつの間にそんなこと始めているの?”』

 なんでもブラント国には第2店舗まであるのにこっちにないというのもどうかということで、前々からやりたかった居酒屋を始めたらしい。ちなみに夜は居酒屋で昼間は大衆食堂みたいな感じらしい。あまり大きな店にしなかったので元手は少なめに済んだとのことだ。

 いや、まあそんなことは正直どうでもいいんだけどさ。なんか俺の知らない間に色々なことが進んでいくよな。もしかしてこのブラント国でも俺がいなくなったらいろんな開発進むのかな。だけどシェフは十分売上出しているから問題ないよな。この使い魔達結構商売上手だよな。

 そんなことを思いながら風呂から上がり、牛乳を飲みながら一息つく。ちなみにスマホ内では現在、牛舎の建設が始まっている。近々完成する予定なので完成したらランファーに牛を購入して入れておいてもらおう。

 その後、最後の夜ということで従業員と一緒に食事をとり、酒を呑み明かす…とまではいかないが随分遅くまで騒いでいた。ミミアンもかなり呑んでいるようだ。そんなミミアン、最近一人のお客さんといい感じだという噂が入っている。今度休みの時に出かけるという話も。

 うちの使い魔の情報網さえあればすぐにそんな情報も入ってくる。本人はこっそりと秘密にしているようだが甘い甘い。しかしそんな情報をバラすような俺ではない。酔っているからといって他人の秘めた思いをバラすなんてそんな…そんな面白いこと…

「そういえばミミアンは今度あの彼と…」

 まだまだ酒は進みそうだ。



「き、キボチワルイ…水…」

 かなり呑んだ。これは二日酔い確定だ。ベッドの上で横たわっているとポチが水を持って来てくれた。その水を飲み干すと少しだけ楽になる。いやぁ…ミミアンをだしに随分と呑んでしまった。明日も早いというのに随分とやってしまったな。

 しかし秘密をバラされたことと知られていたことに恥ずかしがって頰を赤らめるミミアンを見られたのだから良しとするか。この気分の良いまま寝ようと思ったが、スマホを確認すると日が変わっていることに気がついた。そうなると日課である女神ちゃんガチャをやらなくては。

 すぐにアプリを開きガチャを回す。出たのは鉄だ。外れ枠のようだが、今は鉄が欲しいので割と当たりだ。これで終わりかと思ったら硬貨が出て来た。このエフェクトは確か前にサクラを手に入れた時以来だ。

『おめでとう。遺品の発見報酬を入手したよ。ガチャを回してね。』

「遺品?あれ?前は確か…なんだっけ?遺産?まあなんでもいいか。」

 ガチャを回す。するとゆっくりと白い塊が浮遊しながら出て来た。今までの使い魔とは全く見た目が違う。頭が大きく体が小さい。少し奇妙だ。

『おめでとう!新しい使い魔を手に入れたよ。』

マザー『“初めまして。私はマザー、管理者です。”』

 名前持ちの役職持ち。色々聞きたいことはある。どんな能力か、どんなことができるのか。一体遺品とはなんなのか。しばらく話して聞きたいことがあるのだ。しかし今はもう完全に酔っている。正直もう起きているのが辛い。

 だから寝た。

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