スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

文字の大きさ
122 / 572

第121話 ドルイドの真価

しおりを挟む

 俺は何もできずに子供が苦しんでいるのをただ眺めている。その目からはあまりの悔しさに涙が溢れて来る。その様子を見たヤクは肩を落として落ち込んでいる。ヤクもどうにかできると思ったのだろう。それがまさかの何の役にもたたずに何もできずにいるだけというのは悔しいはずだ。

 そんな中ドルイドがベッドに降り立ち、孫娘の様子を見ている。それから俺の方を向いて何かを吹き出しで語りかけている。俺はそれを読むために涙を拭う。

『ドルイド・…世界樹…バレても…いい?……』

「何とかできるなら何だっていいさ。その程度のことはもうどうでもいい。」

『ドルイド・……少し…待て…』

 そういうとドルイドはスマホの中に戻っていってしまった。それから待つこと10分、再び現れたドルイドは何か気持ちが悪そうだ。心配するとそんなことは良いと言わんばかりにこちらに語りかけて来る。

『ドルイド・…スマホ……近づけて…』

「こ、こうで良いか?」

 ドルイドにスマホを近づける。するとスマホから木の枝の先が少しだけ出て来た。ドルイドはそれに触れて俺に最終確認をして来た。本当に世界樹のことがバレても良いのかと。俺はそれに対して構わないと了承する。

『ドルイド・…了解……始める……我が名はドルイド…ここに……大精霊の力……世界樹の力…行使する。』

 その瞬間、スマホから少しだけ出て来た世界樹の枝が成長を始め、ベッドに横たわる少女を持ち上げる。そしてその少女を囲うように世界樹がさらなる成長を始める。世界樹は瞬く間に枝葉を茂らせ、花を咲かせる。その世界樹の花は神々しく輝いていた。

「そんな…あれは伝承にある世界樹の花…万物を癒し、魔を拒絶し滅する世界樹の持つ神の力…ミチナガさん…あなたは一体…」

 俺は何も答えずただ眺めていた。やがて少女の体の黒く染まった部分が薄まり、人間らしさを取り戻していく。それは一気に治してしまうものかと思われたが、徐々に勢いが落ちて来た。

『ドルイド・力…足りない……スマホ……』

「ああ、スマホの力でも何でも持っていけ!足りない分は課金してやるよ!課金は俺の十八番だからな!!」

 その瞬間、先ほどよりも輝きが増した。おそらくスマホの力を持っていったのだろう。その輝きは少女の体を癒し、骨と皮だけのような体つきに活力を与え、孤児院の子供達と遜色ないほどまともな肉体へと変貌を遂げた。

 やがて世界樹は少女の身体を癒しきったと確信した頃に枝葉を縮め、一本の木の棒となった。もうスマホからは何も飛び出していない。ドルイドも完全にやり切ったのだろう。力の使いすぎで死んでしまったようだ。スマホを確認するとちゃんと10分後に再度復活することとなっている。

 それとスマホのバッテリーが残り1%しかないんだよなぁ…何とかギリギリで持たせてくれたのはありがたいと感謝しておかないといけない。また課金しないとダメそうだ。1%で金貨1000万枚使うからまた金貨不足になりそうだ。まあそれで治ったと思えば安いものか。

 しかしそんなことよりも今はこっちの方を気にしないといけない。治療が完了し再びベッドの上に戻された少女はようやく目を開いた。そして身体を持ち上げ辺りをキョロキョロと見回している。その様子を震えながらリカルドは見ている。やがて少女は父親に気がついた。

「パパ…お腹すいた。」

「ああ、ああ!そうだな。お腹が空いただろう。パパと一緒にご飯を食べよう。おじいちゃんもみんなも一緒だぞ。またみんなで…みんなで一緒に…一緒に…」

 父親は娘を抱きしめ咽び泣いた。リッカーもたまらず駆け寄り息子と孫娘を抱きしめ同じように咽び泣いた。数年ぶりに家族一緒に抱きしめあった。これで少女の治療完全終了だ。




 その後は家族総出の食事会だ。俺たちは家族水入らずの状態を邪魔しては悪いと帰ろうとしたのだが、どうしてもと言われこうして一緒に食事をとっている。リッカーとリカルドからはこれでもかというほど感謝の言葉を述べられている。

「本当に…本当にありがとう。何とお礼を言って良いか…」

「いえ、そんな。あ、でもこの治療の件はご内密にお願いします。特に世界樹の話は本当に内密に…」

 世界樹の件は使用人一同全員に箝口令を敷いたので絶対に口外されないと約束してくれた。まあこれで俺としても一安心だ。先ほどからリッカーの孫娘はいろんな人から可愛がられている。俺はその様子をただ遠くから眺めていた。

 その時、俺の目に小さな黒い靄が見えた。一瞬目の錯覚かと思い目をこすったが、その靄はやはり消えない。その靄は徐々に少女の元に近づいていく。俺にはすぐにわかった。あれは呪いだ。まだ呪いは消えていなかったのだ。

 焦る俺を尻目に靄はどんどん少女の元に近づいていく。俺は慌てて席を立ち上がったがもう遅い。靄は少女に触れようとして…何かに弾かれ霧散した。

 よく見ると少女は先ほど治療の際に出た世界樹の木の棒をぎっちりと握っている。おそらく世界樹が呪いから少女を守ってくれたのだろう。しかしこのままではいつかまた呪いが降りかかるかもしれない。その光景に気がついたのは俺だけではなく、リッカーもリカルドもちゃんと気がついていた。そして俺に声をかけ、すぐに部屋から出ていった。

「こちらに来てください。呪いの元凶をお見せします。我々ではもう太刀打ちできないのです。しかし世界樹を持つあなたなら…」

「何とかしてみます。しかし…一体何故こんなことが?災害があったとお聞きしましたが…」

「それもお話しします。実は災害というのはモンスターでも自然災害でもなく…人災なのです。」

 どういうことかと聞くと約6年前、とある山で謎の呪いや毒が蔓延し生物すべてを殺したという。その原因を探っていると山の内部にその発生源があることがわかった。それを解決するためにリカルドの妻が出向いたのだという。

 その妻は実力も魔帝クラスで、封印に特化した能力だった。だから今回の件もすぐに型がつく、誰もがそう思った。しかし結果はリカルドの妻は封印には成功したものの、その呪いをその身に受け死んでしまった。しかもその呪いは血縁関係にある娘にまで飛び火したという。

「そしてその封印されたものは悪用されないように今もこの屋敷の地下深くに封印されています。庭を広くしてあるのも封印が解けた時のためです。しかし…すでに封印が緩んでいたとは…」

 そんなものは一刻も早く何とかしなくてはいけない。リッカーたちに案内された先にはエレベーターがあった。そこには特殊な仕掛けが施されており、特定の方法をするとその封印されているものの場所まで行ける。

 エレベーターは地下深くまで降りていく。やがて止まった場所は一体地下何階なのだろうというほど降りた場所だ。そこには厳重に封印されている棺がある。そこに呪いの正体があるようだ。

 棺の蓋はリッカーとリカルドの二人掛かりでようやく持ち上がるほどの重さだ。あ、俺は何の役にもたたないので横で見ていました。その棺の中には一人のミイラ化した死体が横たわっていた。その手にはロザリオが握られている。

「これがその呪いの原因です。世界樹で癒すことは可能ですか?」

「え、ええ…だけど…ちょっと待ってもらっていいですか?」

 俺はその呪いの原因を目の前にして既視感を感じた。それはあの時の、俺がゼロ戦を見つけた時のあの時の感覚だ。確かにあの時も遺体を目の当たりにした。ただそれだけのはずなのに何か同じものを感じた。そして俺は遺体の手に握り締められているロザリオに注目した。

ミチナガ『“なあ、これってもしかして遺産じゃないか?あのロザリオ…多分そうだと思うんだけど。”』

マザー『“回収したのちに確認します。スマホをロザリオに近づけてください。回収を試みます。”』

 俺はマザーに言われた通りにロザリオにスマホをかざす。するとロザリオは見事に回収された。

『遺産の回収を確認。解析にかかります。…解析完了。遺産の能力を発動します。』

 まさかの解析まで終了だ。普段ならもっと10日以上はかかるのに今回はすべて完了してしまった。しかも遺産の能力を発動するとまで出て来た。そんなことは今まで一度もなかったのでオドオドしているとスマホから使い魔がロザリオを持って出て来た。しかもこの使い魔俺の知らない使い魔だぞ。

 その使い魔がロザリオを片手に遺体の上に乗ると何やら祈り出した。すると先ほどまでおどろおどろしかった遺体から靄が晴れ、何事もない普通のミイラ化した遺体に変わった。

「これは一体…」

「えっと…俺にもわかりません。何かこの遺体のあった場所の情報ってありませんか?」

 さらに話を聞くとこの遺体があった山には盗賊の隠れ家があったらしい。かなり凶悪な盗賊でかなりの被害が出ていたとのことだ。討伐しようにも盗賊の頭が魔王クラスの強者でなかなか手出しができなかったらしい。

「もしかしたらこの遺体はその被害者なのかもしれませんね…そして自らを守るために、盗賊を倒すためにその力を使ったんだと思います。もしかしたら死んでも自分を汚されないように自ら自分を呪って守ったのかもしれませんね……今となってはもうわからないですけど。」

「……私は正直この遺体が憎かった。しかしこの遺体の人も被害者なのだと思うともう憎めない。むしろその盗賊を野放しにしていた自分自身が憎くなる。もっと…この国を変えないといけませんね。」

 もしかしたらこのロザリオがこんなにも早く解析されたのはこの遺体を早く解放したかったからなのかもしれない。この遺体はもう安全だとはわかっていても、もう死んでいるため止めることができなくなった。制御することができなくなってしまったのだ。

 そしてロザリオももう終わらせたいのに止めることができなかった。だから俺に回収されたのちに、こうして終わらせるために出て来た。まるでこのロザリオに意思があるかのような物言いだが、そう考えるとどこかしっくりくる。これで本当に全てが終わったのだ。

 後日、この遺体はリカルド立会いのもと、世界樹の根元に埋葬されることとなった。そこは草花に囲まれた静かで綺麗な場所だ。決してこの遺体を汚すことはできない。この遺体の眠りを妨げることはできない。

 名前も知らない遺体はこうしてようやく誰も憎まず、誰も呪わずに安らかな眠りにつくことができた。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

処理中です...