スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第176話 ナイトとムーンと12英雄とその3

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「下層までたどり着いたな。ここからは一気に行くか。頼んだぞダモレス。」

「フィーちゃんは援護頼むぜ。ここからは一瞬も油断できねぇ…他の4人も下層にたどり着いているからな。ナイトは…どこにいるんだ?」

『八雲・ゴブリンの逃げ道を潰しているようや。今のところ討ち損じはないで。』

「細かい仕事してもらって大助かりだな。なんと礼を言ったらいいか。まあそれは後回しだな、くるぞ。全員戦闘態勢!」

 フィーフィリアルとダモレスの部隊は前方からくるゴブリン達との戦闘が始まった。もう最下層にいるのは新たにゴブリンエンプレスから生まれたゴブリンか上位種のゴブリンジェネラル達だけだ。そんなのが相手では魔王クラスでなければ攻撃は通らないし、攻撃に耐えることもできない。

 すでに中層の下部に到達してから地上に戻ることをやめている。ここまで歩いてくるだけでも時間がかかるので時間節約だ。物資の補給の問題もあるが、そこは八雲が全て用意している。ミチナガの使い魔がいるからこその強行軍である。

 戦法はいたって単純でフィーフィリアルとダモレスでゴブリン達の部隊に楔を打ち込み、瓦解したゴブリン達を他の部隊員達が討伐する。単純ではあるが、これが最もフィーフィリアルとダモレスを生かせる戦法である。

 数千のゴブリンの上位種もこれには太刀打ちできないようであっという間に全滅させられる。そして再び進軍を開始する。そして再びゴブリンの襲撃という流れを何度も続けている。

 しかしこの戦法もさすがにゴブリンの数が多いため、兵の体力の消耗が激しい。しかしここ数日で明らかにその実力を増させている。兵の成長にはフィーフィリアルもダモレスも喜んでいた。

「ここで一度休憩だ。飯を食え、水分を補給しろ!八雲、最深部はあとどれくらいだ?」

『八雲・…近いで、もう1キロあらへんわ。他の部隊も同じくらいの距離で休憩させとる。もうここからは休憩なしや。それからゴブリン達は最深部で待ち構えとる。』

 このことを知ると部隊員は全員気を引き締め直した。ここから先は今までの戦いよりもさらに険しくなるだろう。八雲も食事の配給を良いものにして万全の体制を整えさせた。

 そして1時間の休憩ののち、再び出発を始める。その雰囲気は先ほどまでよりも鋭く、近づきがたいものがある。そのままゴブリンの巣の最深部まで進軍を始める。途中で襲撃してきたゴブリン達もその雰囲気に呑まれ、すり潰されて行く。

 そしてとうとう最深部に到達した。たどり着いたそこは大きな広間となっていた。そしてタイミング同じに他の部隊も到着した。全軍集合、ここからは総力戦である。

 しかしゴブリンエンプレスの姿が見えない。あれだけの巨体を隠すことは難しいと考えていたのだが、どうやらゴブリンの本陣に大きな穴を掘り、その中に隠しているようだ。つまり先にゴブリンエンプレスを討伐するのは難しいだろう。

 ゴブリンの数は残り5万ほどだ。しかしそのほとんどは上位種かジェネラルクラスだ。さらに砦を築いているため下手に攻め込むのが難しい。

 ゴブリン達を目の前にして膠着状態が続くものだと思っていた八雲であったが、それは間違いであった。これは膠着ではなく12英雄が本気で戦うための準備であった。

「精霊達よ。我が願いを聞き届け預け物を届けたまへ…召喚、神弓ユグドラシル。」

「フィーちゃんは精霊召喚で大変だな。こっちは宝物庫に空間繋げばいいだけだからな。しかし…久しぶりに持つな。やっぱトウショウの大剣はちげぇや。」

 フィーフィリアルが取り出した神弓ユグドラシルはエルフに伝わる秘法である。かつて、まだ世界樹が現存していた頃に、世界樹であるユグドラシルから切り出した。さらに弓の弦は特別な龍の髭を用いている。今では誰も名を知らぬその龍は人の目には写ることはなく、かつて世界樹を異空間から人知れず守っていたという。

 そしてダモレスが取り出したのはトウショウの最高傑作の一本、名刀などという言葉では言い表せない珠玉の一品。その名はツバキ、椿の花が落ちるようにボトリボトリと敵を切り倒すことから名前がつけられたという逸話がある。

 普段はこれらの武器は使わないように制約がかけられている。12英雄は常に高みを目指している。つまりこれらの武器を普段から使わないのは負荷をかけるためだ。何せただでさえ強い12英雄がそんな最高の武器を使えば、その眼前に敵と言えるものは存在しなくなるからだ。

 他の12英雄達も各々の武器を取り出す。その瞬間、今まで以上にその覇気が増した。そこからは一方的な蹂躙だ。普通の弓矢1射で十数の敵を撃ち抜いたフィーフィリアルの矢は、1射で直線上のゴブリン全て薙ぎ払う。

 ダモレスはそのまま敵陣に突っ込む。ダモレスの振るう大剣は敵の武器も何も関係なく切り裂いて行く。遠くで落ちるマレリアの雷はその余波でも感電したゴブリンの内臓をも焼き爛れさせ、その命を奪う。

 もう敵が上位種だろうがなんだろうが関係ない。あるのは一方的な虐殺である。ゴブリン達は逃げ惑うこともなく、なすすべもなく倒されて行く。

 しかし不意に放たれたフィーフィリアルの1射が受け止められた。そのことに眉をひそめるフィーフィリアルであったが、さらにもう1射を放つ。するとその1射も止められた。ダモレスも怒涛の快進撃であったがその足を止めた。

「八雲、全員に通達しろ。ゴブリンキング発見、現在目測…数50。」

『八雲・ほいな。でもな、その前にダモレスを助けに行ったほうがええかもしれん。敵の大将…ゴブリンカイザーと会敵してもうた。』

「わかった。だが…それは他に任せよう。今は少しでも数を減らす。」

 フィーフィリアルは再びゴブリンの数を減らし始める。ダモレスのことは心配にはなっていない。なんせダモレスは12英雄、勇者神の持つ最高戦力の12人の一人である。心配をするほうがおかしいくらいだ。

 ダモレスは周囲のゴブリン達を斬り伏せて行く。その視界にはゴブリンカイザーがいる。しかしなんとも不気味なことにゴブリンカイザーはただ呆然としたまま動かない。周囲で他のゴブリンがやられて行っても気にもしていない。

 やがてその場にいるのがゴブリンカイザーとダモレスだけになった頃、そこに乱入者が現れた。同じ12英雄が一人、瞬撃のゲイドルだ。

「やあやあダモレス殿、入り込んでしまったがお邪魔かな?もしもそうならここから離れるが?」

「いや、助かったかもしれない。不気味だ…実に不気味だ。なぜ仕掛けてこない。……まあ何を考えても仕方ないか。ゲイドル、同時に行こうぜ。」

「よろしいでしょう。もとよりそのつもりでしたからな。」

 ゲイドルとダモレスの同時攻撃、12英雄の最高の攻撃はゲイドルのレイピアによる超高速の連撃にダモレスの全てを切り裂く一閃という完璧なコンビネーションであった。しかしゴブリンカイザーはそれをいともたやすくかわして再びこちらを観察している。

「ゲイドル…何普通に躱されてんだよ。」

「申し訳ない。まさか今の攻撃をかわすとは…つまり観察してこちらの動きを見切ったということですかな?」

「面白いやつだな。よし…じゃあ俺は他のやつやっておくから頼んだ。」

「了解です。瞬撃と呼ばれるこの私が敵に躱されては面目たちませんからな。」

 ダモレスはその場から少し離れて周囲のゴブリンキングに挑んだ。普通、敵に攻撃を躱されたのなら2人でなんとか戦うのが一般的だ。しかしそこは12英雄、敵に躱されて馬鹿にされてそのままでいるわけにはいかない。

 ゲイドルは再びゴブリンカイザーに突っ込む。そこからゲイドルが放つ連撃をゴブリンカイザーはいともたやすく躱せるはずであった。しかしそうはならない。ゴブリンカイザーはその連撃のほとんどを受けることとなった。

 ゴブリンカイザーは悲鳴をあげることもなく、今の現象を不思議に思っていた。2人では当てられなかったのに1人になった途端攻撃を当ててきた。このことが理解できなかった。

 このゴブリンカイザーは勘違いしていた。超一流の12英雄にとって共闘とはある意味自分に枷をすることになるのだ。共闘する仲間のために思考を奪われるため、自身が戦うために考えることが困難になるのだ。つまり一人になったこの状況こそがゲイドルの本領発揮である。

 流石のゴブリンカイザーも戦わないとまずいということを察したのか攻撃を開始するが所詮はゴブリン、その攻撃は拙いものでそこからの戦いは一方的なものであった。

 ゲイドルの攻撃はレイピアによる刺突。しかも肉体の重要な部分を突き刺すため、相手は手足が満足いくように動かせずに戦うことになる。そして動きがままならないまま弱点を突かれて生き絶えるのだ。

 ゴブリンカイザーとゲイドルの戦いはものの10分ほどで終了した。再生能力が高いせいで少し時間はかかったものの結果的には攻撃を一度も受けずに終わるという快勝であった。

「これがSSSS級のモンスターですか。まあ拍子抜けですな。噂に尾ひれがついただけのものでしょ…」

「ゲイドル!後ろだ!」

 ダモレスが大声を張り上げる。ゲイドルはすぐにその場を離れた。ダモレスの隣に降り立ったゲイドルであったがその顔には脂汗が浮かんでいる。そしてその脂汗を拭こうにもゲイドルの両腕はなかった。

 ゲイドルが先ほどまで立っていた位置にはゴブリンが立っている。その体格は小柄だ。先ほどのゴブリンカイザーよりも小柄である。しかしその体からは高密度の魔力があふれていた。

「ゲイドル…逃げられるか?」

「逃げたいところですが…腕ごとレイピアを奪われましたからね。トウショウの一振り、アヤメを取られて逃げたくはないですな……しかし腕がなかなか治らない。魔力阻害までやられるとは。」

 突如現れたゴブリンはゲイドルのもがれた腕を剥がしてレイピアを握る。その表情は満足そうだ。そしてそのまま高速で接近してダモレスにレイピアによる突きを放つ。ダモレスはその突きを避けることもせずにゴブリンを大剣で薙ぎ払う。

 するとレイピアの突きはダモレスを貫くことはおろか、服さえも貫かない。そしてダモレスの大剣による攻撃を受けたゴブリンはレイピアを手放して吹っ飛んだ。

「ほらよ。取り戻してやったから一旦引いて休んでいろ。それからガリウスかケリウッドを連れてきてくれ。あれはやばいだろ。俺の一撃で皮もきれてないぞ。」

「あれが…本当のゴブリンカイザーなのだろうな。すぐに呼んでくる。それまで耐えてくれ。」

「任せとけ…って言いたけどこれはきついぞ。」

 ゲイドルはすぐに退避する。ダモレスはこれで一対一になった。正直、ダモレスの生涯最強の敵だ。ダモレスは改めて気合いを入れ直す。弾き飛ばされたゴブリンカイザーは再びこちらに迫ってこようとする。そしてその時、何者かの悲鳴が轟いた。

「のわぁぁぁぁぁぁぁ!!あだ!ま、全く痛いのう…あの小娘め、ここはどこだ?」

「な、なんであんたがここに!一体どうやって!」

「ん?…ああ、お主は確か勇者のとこのか。どこからって上からだ。昼寝しておったら殴り飛ばされてな。」

 そう言って老人が指をさす先には地盤に穴が空いている。つまり地上からこのゴブリンの巣の最下層まで突き抜けてきたのだ。普通だったらありえない。しかしこの老人ならそれもあり得る。

「崩神であるあんたを殴り飛ばすだと?そんな無茶苦茶ができる奴なんて一体どこの……ってまさか…」

 ダモレスは一つの想像にたどり着いた。そしてその表情を青ざめさせた。嘘だと言って欲しい、間違いだと言って欲しいという表情である。しかし崩神は無情にも告げた。

「そのまさかだ。早く逃げた方が良いぞ。儂を追って奴も…煉獄の嬢ちゃんもくる頃だ。ああ、気温が上がってきたな。ほれ、早く逃げろ。この辺りのモンスターは巻き込まれるから安心せい。」

「安心できるか!おい!全軍撤退!全速力で逃げるぞ!煉獄が来る!」

 ダモレスは急いでその場を離れる。煉獄が来ることを伝えると全員が最初のダモレスと同じ表情をとった。そこからは全速力の撤退だ。ナイトにも八雲経由でそのことが伝えられ撤退が始まる。

 やがて撤退の準備ができたところでゴブリンの巣の最下層の天井が赤黒く赤熱し始めた。やがて溶岩のようにドロドロと解け始めてきた時に崩神に向かって落ちる炎があった。そこからは笑い声が聞こえる。

「全く人の昼寝の途中で襲うとはどういう根性しとるんだ!」

「勝手に寝ておいて何言ってんだ?ああ?それよりちょっと死ねぇ!!」

「ちっくしょう!早く逃げろ!崩神と煉獄の喧嘩に巻き込まれんな!余波だけでも十分死ねるんだぞ!早くしろ!早く!」

『名無し・ちょ、ちょっと待って!潜入頑張った僕も回収してぇ!』

『八雲・ごめん無理!』

 無情にも潜入して内部情報を伝えていた使い魔は崩神と煉獄の戦いに巻き込まれてしまった。死に物狂いで逃げた12英雄の部隊はなんとかゴブリンの巣から脱出に成功した。

 そして数日後、崩神と煉獄の喧嘩が終わり、溶岩が冷え固まった頃に再びゴブリンの巣の最深部に侵入。焼き爛れ、体の半分を崩壊させたゴブリンカイザーとゴブリンエンプレスの死体を確認し、残党確認をしたところで今回の任務は完了した。
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