198 / 572
第193話 海に漁へ
しおりを挟む
あれから3日後、準備が完了した。正直もっとかかると思っていたのだが、海に行くということで使い魔達が密かに用意しておいてくれたらしい。俺は夜中に起き出して波止場で準備をしている。そこにゴードランの乗組員達が集まって来た。
「お、ようやく来たな。じゃあ早速乗り込んでくれ。用意は終わっているから。」
「こ、こいつはすげぇ…貴族様のやることはレベルが違ぇ…」
ゴードラン達が目を見開いて驚いているそれは一隻の船だ。全長40m、200トンを超える漁船だ。元々アンドリュー子爵の釣り船として造られたものだが装備は最高だ。こんなものをいつの間に造っていたのか…
そしていくらかかったのかは使い魔達がずっと誤魔化し続けている。間違いなく言えるのは魔導装甲車よりもはるかに高いだろう。今は金もあるので良いが、まじで今も俺の知らない事業を色々やっていそうで怖い。
全員乗り込んだところで船は発進した。操縦は使い魔だが、道案内はゴードランに任せている。今日は定置網か何をやるのだろうと思っていると延縄漁のようだ。
網を用いて魚を一網打尽にする定置網と違い延縄漁は長いロープに幾つも針のついた仕掛けを取り付けるものだ。網とは違ってある程度の大きさの魚しか釣れないので環境には優しいだろう。
「網でとっても手間しかかからない。それにそんなにたくさん獲っても食う奴がいない。それに網はモンスターに破られやすいからな。ああ、あのブイだ。」
どうやら網を使った漁はモンスター被害が大きいので誰もやっていないらしい。それに消費量の問題や、保存問題もあり大量に乱獲する漁師は誰もいない。
目的地にたどり着くと大きなオレンジ色の玉が浮かんでいる。あれに仕掛けがついているのだ。船に備え付けられている仕掛けの巻上げ機に取り付けると獲物を釣り上げる作業が開始される。どんなのが釣れるのか楽しみにしているとなんと1発目でマグロが釣りあがった。
これには俺も大喜びしたのだが漁師達は特に喜んでいない。しかもどんどん釣り上がるマグロに舌打ちまでしている。
「な、なんでマグロが上がっているのにそんな嫌そうな顔をしているんだ?」
「そいつはダメになりやすいんだ。それに生臭くてな。人気のない魚だよ。」
まじかよ。こんなに美味しい魚が人気ないなんて…。余談ではあるが江戸時代でもマグロの人気は低く、トロの部分は捨てられていたという。赤身の部分でさえも漬けにして食べていたという。今ほどのマグロ人気は割と近年のことと言える。
俺はそんなマグロの人気を取り戻すためにすぐに仕事に取り掛かる。スマホから使い魔のシェフ、それにウオを出す。それから他の乗組員も呼び集めた。
「いいか、よく見ておけよ。大事なのは血抜きだ。本当は時間をかけてちゃんと血抜きしたいが今回は時間がないから簡単に行くぞ。ではシェフ、ウオ頼んだ。」
『シェフ・まずは脳天にナイフを刺して、そこからこの針金を入れて神経抜きをする。それからナイフを入れてエラの上部左右2箇所を外す。それに下側のエラの付け根も外す。血が山ほど出て来るから海水をかけ続けろ。』
『ウオ・それから内臓を取り出します。腹を割いて素早くね。内臓はそっちの穴から海に捨てちゃいます。ここまで出来たものは船体中央の保管庫の中に。中の氷で素早く冷やします。じゃあみんなどんどんやっていこう!』
「「「はい!」」」
どんどん上がって来る魚を神経抜き、血抜き、内臓抜きを行なって行く。神経抜きを行うことで魚体が動き続けることを防ぎ、血抜きを行うことで血生臭さをなくす。そして内臓を取り出すことで内臓の熱が無くなる上に内臓の匂いが身に移るのを防ぐ。
かなり完璧な処理だ。ちなみに内臓を抜く作業は魚種によってはやめている。なぜなら魚によっては肝が美味しいものがあるからだ。美味しい肝を捨ててしまうなんて勿体無いことはできない。それから1時間ほど経つとすべての仕掛けを回収し終えたようだ。
もっと獲れば良いものだが、消費者がいないので仕方がない。船はそのまま港に寄港する。すでに他の組合の漁師達も漁を終えたようだ。
漁師の組合というのは一つの漁港にいくつもの組合があるらしい。この漁港にも細々とした組合があるのだが、その中でも大所帯の組合は3つ。その一つにこのゴードラン組合もあるらしい。そして今、俺たちは大勢の漁師達の注目を集めている。
「ゴードラン、随分と羽振りが良いみたいだな。新しい船を買ったのか?」
「そうじゃねぇ…そうじゃねぇんだ。」
ゴードランの威勢を知っている他の漁師達はその変わりように驚いている。そして必然的に俺に注目が集まる。ゴードランがこうなった理由は俺にあると理解しているのだ。
俺はそんなことには御構い無しに今獲ってきた魚を降ろし始める。船に備え付けのクレーンで氷ごと船から下ろすのだ。多くの氷があることに他の漁師達は驚いている。製氷の魔道具はそれなりの値段がするのだ。
ゴードラン達はそのまま魚を売りに出そうとしたのだが俺はそれをすぐに止める。驚き、慌てるゴードラン達に俺は告げた。
「ぜ、全部ですかい?」
「まあ全部じゃなくて良い。9割はうちですべて買い取ろう。うちの流通を使って海の魚を売りに出す。どれを買うか選別はこっちでやるから待っていてくれ。」
せっかく完璧な下処理をしたというのにうちで買い取らないわけにはいかない。俺はすぐにシェフとウオにどれを買うか選ばせる。他の漁師達も俺に買ってほしいと近づいて来るのだが俺はそれをすべて断る。
「うちに買ってほしいならうちの要望通りの下処理をした魚を持ってきてくれないとダメだ。味が落ちるからな。」
「そ、そんなに変わらねぇだろ!」
さすがにこれには多くの漁師達からクレームがきた。しかし買うのは俺だ。俺が納得しなければ意味はない。しかし俺はここで一つの提案をした。
「では今日の夜にこっちの魚とそっちの魚で食べ比べをしよう。もちろん同じ品種でだ。そこで変わらないと納得させられたら明日そっちの魚を買おう。もちろん全体の9割だ。」
「よし!そういうことなら今日の夜だな。」
漁師達はなんとしてでも俺を納得させると言い張り、今日釣り上げたものの中で最も良いものを選抜している。今日の夜が楽しみだ。
「料理人はうちで用意させてもらった。審査は公平に行うつもりだ。問題ないか?」
「ああ、問題ない。」
一軒の料亭。ここはこの町一番の腕を持った魚料理のプロだ。全員が信頼できる料理人である。料理人は2匹のマグロを前に立っている。片方はうちで獲ったマグロ、もう片方は他の漁師のマグロだ。
「では初めの料理ですがいかがいたしましょうか。焼きでも煮でもいけます。」
「じゃあ生でくれ。刺身って言って薄く切ったやつが良い。みんなは生の刺身いけるか?」
「な、生だと!?そいつは新鮮な魚でやるもんだ。特にそいつなんて…」
生の魚を食ったことがあるということなので早速刺身を作ってもらう。まず初めは他の漁師達のものだ。どっちがどっちかわからないようにしているらしいが、ちゃんと処理してあるかどうかですぐにわかる。マグロを卸して柵をとるのだが、正直あまり腕前は良くなさそうだ。
包丁使いというのがあまり良くない。俺が色々注文をつけながらやってもらっているので普段はもっと違うさばき方なのだろう。慣れない手つきでなんとか刺身を作ってもらった。
目の前に出されたのだが、血抜きを全く行なっていないためすでに生臭さを感じるし、血が滴っている。他の漁師達も嫌そうな顔をしているが、なんとか口に運んだ。
「うぉ…おおぉ…むぃ…むり…」
これはダメだ。マグロが人気ないというのがよくわかった。生暖かいし血生臭いしドロリとしている。そういえばマグロは常に動いているため死後も体温が高く、傷みやすいというのを聞いたことがある。それにしても酷いな。常温保存で夜までというのはキツすぎる。
「お、おい…まだ続けんのか?これを食べるのはキツイぞ。」
「俺たちの方は大丈夫だ。同じようにもう片方もさばいてくれ。」
俺の注文通りに裁き始める料理人だが、さばいた瞬間に違いがわかったらしい。まあそうだろうな。生臭さというのは全くない。そしてすぐに刺身が出来上がるともう見た目で全く違う。これは俺がよく見ていたマグロだ。
早速一口食べる。しかし食感が俺の知っているマグロと少し違う。異世界だからかと思ったが、これはおそらく鮮度の問題だろう。基本的にマグロは数日経った熟成された状態のものか、冷凍物が出回る。だからこうして新鮮なマグロというのは初めての味わいだ。
「こいつは…イケるな。」
「ああ、俺は好きだぞ。」
どうやら漁師達の反応も上々だ。俺は続けて腹身の大トロの部分も頼んだ。これも食べ比べをしようかと思ったが、もうあんな不味いのは食べたくない。しかも腹身にもなると処理の有無で大きく変わる。
なぜなら腹身は内臓の臭みが移りやすいのだ。特にマグロのような肉食系の魚の内臓は本当に臭い。俺の提案に諦めきれないと一人の漁師が未処理のマグロの腹身を食べたのだがあまりの臭さに吐いていた。
そんな奴を横目に俺は大トロの刺身を食べる。ちなみに刺身には欠かせないワサビだが、どうやら使い魔達がこの世界のものを見つけておいてくれたようだ。多めにワサビを乗せて醤油につけて食べる。
「っあ~…美味い。ワサビもう少し多くてもよかったかな。まあ油きつくてあと2切れくらいで十分だけど…どうせなら炙りも食べたいな。」
どうせなのでウオとシェフを呼ぶ。二人は今か今かと待っていたようで、すでにやる気満々だ。そこからは豪華な食事になった。まず寿司は定番だが、生だけでなくカマの部分を塩焼きにしてくれた。それからネギトロを使った巻物だ。
他の魚も使って舟盛りなんかも作ってくれた。そして一騒ぎした後に思い出した。これって食事会じゃなくて食べ比べだったわ。
「これで俺の言ったことわかってくれましたか?」
「はい…すいませんでした。」
漁師達はがっくりとうなだれている。まあこれだけ味に違いがあったらわかってくれるだろうな。しかしここで終わらせてしまってはダメだ。金の匂いはこの先にある。
「皆さんにもこの魚の処理方法を学んでもらいたいと思っています。それに氷で冷やすだけでも小魚なんかは十分です。そのための設備を漁港に造ることは可能ですか?そうすれば私は皆さんから魚を買いましょう。」
「し、しかしそれだけの予算はなくて…」
「そうですか。それでは…」
俺はあらかじめ考えていた構想をそのまま漁師達に告げる。いくつか反対意見も出たが、それらも取り入れて新たに構想を練り直した。ここに漁港再建プログラムが発足した。
「お、ようやく来たな。じゃあ早速乗り込んでくれ。用意は終わっているから。」
「こ、こいつはすげぇ…貴族様のやることはレベルが違ぇ…」
ゴードラン達が目を見開いて驚いているそれは一隻の船だ。全長40m、200トンを超える漁船だ。元々アンドリュー子爵の釣り船として造られたものだが装備は最高だ。こんなものをいつの間に造っていたのか…
そしていくらかかったのかは使い魔達がずっと誤魔化し続けている。間違いなく言えるのは魔導装甲車よりもはるかに高いだろう。今は金もあるので良いが、まじで今も俺の知らない事業を色々やっていそうで怖い。
全員乗り込んだところで船は発進した。操縦は使い魔だが、道案内はゴードランに任せている。今日は定置網か何をやるのだろうと思っていると延縄漁のようだ。
網を用いて魚を一網打尽にする定置網と違い延縄漁は長いロープに幾つも針のついた仕掛けを取り付けるものだ。網とは違ってある程度の大きさの魚しか釣れないので環境には優しいだろう。
「網でとっても手間しかかからない。それにそんなにたくさん獲っても食う奴がいない。それに網はモンスターに破られやすいからな。ああ、あのブイだ。」
どうやら網を使った漁はモンスター被害が大きいので誰もやっていないらしい。それに消費量の問題や、保存問題もあり大量に乱獲する漁師は誰もいない。
目的地にたどり着くと大きなオレンジ色の玉が浮かんでいる。あれに仕掛けがついているのだ。船に備え付けられている仕掛けの巻上げ機に取り付けると獲物を釣り上げる作業が開始される。どんなのが釣れるのか楽しみにしているとなんと1発目でマグロが釣りあがった。
これには俺も大喜びしたのだが漁師達は特に喜んでいない。しかもどんどん釣り上がるマグロに舌打ちまでしている。
「な、なんでマグロが上がっているのにそんな嫌そうな顔をしているんだ?」
「そいつはダメになりやすいんだ。それに生臭くてな。人気のない魚だよ。」
まじかよ。こんなに美味しい魚が人気ないなんて…。余談ではあるが江戸時代でもマグロの人気は低く、トロの部分は捨てられていたという。赤身の部分でさえも漬けにして食べていたという。今ほどのマグロ人気は割と近年のことと言える。
俺はそんなマグロの人気を取り戻すためにすぐに仕事に取り掛かる。スマホから使い魔のシェフ、それにウオを出す。それから他の乗組員も呼び集めた。
「いいか、よく見ておけよ。大事なのは血抜きだ。本当は時間をかけてちゃんと血抜きしたいが今回は時間がないから簡単に行くぞ。ではシェフ、ウオ頼んだ。」
『シェフ・まずは脳天にナイフを刺して、そこからこの針金を入れて神経抜きをする。それからナイフを入れてエラの上部左右2箇所を外す。それに下側のエラの付け根も外す。血が山ほど出て来るから海水をかけ続けろ。』
『ウオ・それから内臓を取り出します。腹を割いて素早くね。内臓はそっちの穴から海に捨てちゃいます。ここまで出来たものは船体中央の保管庫の中に。中の氷で素早く冷やします。じゃあみんなどんどんやっていこう!』
「「「はい!」」」
どんどん上がって来る魚を神経抜き、血抜き、内臓抜きを行なって行く。神経抜きを行うことで魚体が動き続けることを防ぎ、血抜きを行うことで血生臭さをなくす。そして内臓を取り出すことで内臓の熱が無くなる上に内臓の匂いが身に移るのを防ぐ。
かなり完璧な処理だ。ちなみに内臓を抜く作業は魚種によってはやめている。なぜなら魚によっては肝が美味しいものがあるからだ。美味しい肝を捨ててしまうなんて勿体無いことはできない。それから1時間ほど経つとすべての仕掛けを回収し終えたようだ。
もっと獲れば良いものだが、消費者がいないので仕方がない。船はそのまま港に寄港する。すでに他の組合の漁師達も漁を終えたようだ。
漁師の組合というのは一つの漁港にいくつもの組合があるらしい。この漁港にも細々とした組合があるのだが、その中でも大所帯の組合は3つ。その一つにこのゴードラン組合もあるらしい。そして今、俺たちは大勢の漁師達の注目を集めている。
「ゴードラン、随分と羽振りが良いみたいだな。新しい船を買ったのか?」
「そうじゃねぇ…そうじゃねぇんだ。」
ゴードランの威勢を知っている他の漁師達はその変わりように驚いている。そして必然的に俺に注目が集まる。ゴードランがこうなった理由は俺にあると理解しているのだ。
俺はそんなことには御構い無しに今獲ってきた魚を降ろし始める。船に備え付けのクレーンで氷ごと船から下ろすのだ。多くの氷があることに他の漁師達は驚いている。製氷の魔道具はそれなりの値段がするのだ。
ゴードラン達はそのまま魚を売りに出そうとしたのだが俺はそれをすぐに止める。驚き、慌てるゴードラン達に俺は告げた。
「ぜ、全部ですかい?」
「まあ全部じゃなくて良い。9割はうちですべて買い取ろう。うちの流通を使って海の魚を売りに出す。どれを買うか選別はこっちでやるから待っていてくれ。」
せっかく完璧な下処理をしたというのにうちで買い取らないわけにはいかない。俺はすぐにシェフとウオにどれを買うか選ばせる。他の漁師達も俺に買ってほしいと近づいて来るのだが俺はそれをすべて断る。
「うちに買ってほしいならうちの要望通りの下処理をした魚を持ってきてくれないとダメだ。味が落ちるからな。」
「そ、そんなに変わらねぇだろ!」
さすがにこれには多くの漁師達からクレームがきた。しかし買うのは俺だ。俺が納得しなければ意味はない。しかし俺はここで一つの提案をした。
「では今日の夜にこっちの魚とそっちの魚で食べ比べをしよう。もちろん同じ品種でだ。そこで変わらないと納得させられたら明日そっちの魚を買おう。もちろん全体の9割だ。」
「よし!そういうことなら今日の夜だな。」
漁師達はなんとしてでも俺を納得させると言い張り、今日釣り上げたものの中で最も良いものを選抜している。今日の夜が楽しみだ。
「料理人はうちで用意させてもらった。審査は公平に行うつもりだ。問題ないか?」
「ああ、問題ない。」
一軒の料亭。ここはこの町一番の腕を持った魚料理のプロだ。全員が信頼できる料理人である。料理人は2匹のマグロを前に立っている。片方はうちで獲ったマグロ、もう片方は他の漁師のマグロだ。
「では初めの料理ですがいかがいたしましょうか。焼きでも煮でもいけます。」
「じゃあ生でくれ。刺身って言って薄く切ったやつが良い。みんなは生の刺身いけるか?」
「な、生だと!?そいつは新鮮な魚でやるもんだ。特にそいつなんて…」
生の魚を食ったことがあるということなので早速刺身を作ってもらう。まず初めは他の漁師達のものだ。どっちがどっちかわからないようにしているらしいが、ちゃんと処理してあるかどうかですぐにわかる。マグロを卸して柵をとるのだが、正直あまり腕前は良くなさそうだ。
包丁使いというのがあまり良くない。俺が色々注文をつけながらやってもらっているので普段はもっと違うさばき方なのだろう。慣れない手つきでなんとか刺身を作ってもらった。
目の前に出されたのだが、血抜きを全く行なっていないためすでに生臭さを感じるし、血が滴っている。他の漁師達も嫌そうな顔をしているが、なんとか口に運んだ。
「うぉ…おおぉ…むぃ…むり…」
これはダメだ。マグロが人気ないというのがよくわかった。生暖かいし血生臭いしドロリとしている。そういえばマグロは常に動いているため死後も体温が高く、傷みやすいというのを聞いたことがある。それにしても酷いな。常温保存で夜までというのはキツすぎる。
「お、おい…まだ続けんのか?これを食べるのはキツイぞ。」
「俺たちの方は大丈夫だ。同じようにもう片方もさばいてくれ。」
俺の注文通りに裁き始める料理人だが、さばいた瞬間に違いがわかったらしい。まあそうだろうな。生臭さというのは全くない。そしてすぐに刺身が出来上がるともう見た目で全く違う。これは俺がよく見ていたマグロだ。
早速一口食べる。しかし食感が俺の知っているマグロと少し違う。異世界だからかと思ったが、これはおそらく鮮度の問題だろう。基本的にマグロは数日経った熟成された状態のものか、冷凍物が出回る。だからこうして新鮮なマグロというのは初めての味わいだ。
「こいつは…イケるな。」
「ああ、俺は好きだぞ。」
どうやら漁師達の反応も上々だ。俺は続けて腹身の大トロの部分も頼んだ。これも食べ比べをしようかと思ったが、もうあんな不味いのは食べたくない。しかも腹身にもなると処理の有無で大きく変わる。
なぜなら腹身は内臓の臭みが移りやすいのだ。特にマグロのような肉食系の魚の内臓は本当に臭い。俺の提案に諦めきれないと一人の漁師が未処理のマグロの腹身を食べたのだがあまりの臭さに吐いていた。
そんな奴を横目に俺は大トロの刺身を食べる。ちなみに刺身には欠かせないワサビだが、どうやら使い魔達がこの世界のものを見つけておいてくれたようだ。多めにワサビを乗せて醤油につけて食べる。
「っあ~…美味い。ワサビもう少し多くてもよかったかな。まあ油きつくてあと2切れくらいで十分だけど…どうせなら炙りも食べたいな。」
どうせなのでウオとシェフを呼ぶ。二人は今か今かと待っていたようで、すでにやる気満々だ。そこからは豪華な食事になった。まず寿司は定番だが、生だけでなくカマの部分を塩焼きにしてくれた。それからネギトロを使った巻物だ。
他の魚も使って舟盛りなんかも作ってくれた。そして一騒ぎした後に思い出した。これって食事会じゃなくて食べ比べだったわ。
「これで俺の言ったことわかってくれましたか?」
「はい…すいませんでした。」
漁師達はがっくりとうなだれている。まあこれだけ味に違いがあったらわかってくれるだろうな。しかしここで終わらせてしまってはダメだ。金の匂いはこの先にある。
「皆さんにもこの魚の処理方法を学んでもらいたいと思っています。それに氷で冷やすだけでも小魚なんかは十分です。そのための設備を漁港に造ることは可能ですか?そうすれば私は皆さんから魚を買いましょう。」
「し、しかしそれだけの予算はなくて…」
「そうですか。それでは…」
俺はあらかじめ考えていた構想をそのまま漁師達に告げる。いくつか反対意見も出たが、それらも取り入れて新たに構想を練り直した。ここに漁港再建プログラムが発足した。
10
あなたにおすすめの小説
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる