スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第193話 海に漁へ

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 あれから3日後、準備が完了した。正直もっとかかると思っていたのだが、海に行くということで使い魔達が密かに用意しておいてくれたらしい。俺は夜中に起き出して波止場で準備をしている。そこにゴードランの乗組員達が集まって来た。

「お、ようやく来たな。じゃあ早速乗り込んでくれ。用意は終わっているから。」

「こ、こいつはすげぇ…貴族様のやることはレベルが違ぇ…」

 ゴードラン達が目を見開いて驚いているそれは一隻の船だ。全長40m、200トンを超える漁船だ。元々アンドリュー子爵の釣り船として造られたものだが装備は最高だ。こんなものをいつの間に造っていたのか…

 そしていくらかかったのかは使い魔達がずっと誤魔化し続けている。間違いなく言えるのは魔導装甲車よりもはるかに高いだろう。今は金もあるので良いが、まじで今も俺の知らない事業を色々やっていそうで怖い。

 全員乗り込んだところで船は発進した。操縦は使い魔だが、道案内はゴードランに任せている。今日は定置網か何をやるのだろうと思っていると延縄漁のようだ。

 網を用いて魚を一網打尽にする定置網と違い延縄漁は長いロープに幾つも針のついた仕掛けを取り付けるものだ。網とは違ってある程度の大きさの魚しか釣れないので環境には優しいだろう。

「網でとっても手間しかかからない。それにそんなにたくさん獲っても食う奴がいない。それに網はモンスターに破られやすいからな。ああ、あのブイだ。」

 どうやら網を使った漁はモンスター被害が大きいので誰もやっていないらしい。それに消費量の問題や、保存問題もあり大量に乱獲する漁師は誰もいない。

 目的地にたどり着くと大きなオレンジ色の玉が浮かんでいる。あれに仕掛けがついているのだ。船に備え付けられている仕掛けの巻上げ機に取り付けると獲物を釣り上げる作業が開始される。どんなのが釣れるのか楽しみにしているとなんと1発目でマグロが釣りあがった。

 これには俺も大喜びしたのだが漁師達は特に喜んでいない。しかもどんどん釣り上がるマグロに舌打ちまでしている。

「な、なんでマグロが上がっているのにそんな嫌そうな顔をしているんだ?」

「そいつはダメになりやすいんだ。それに生臭くてな。人気のない魚だよ。」

 まじかよ。こんなに美味しい魚が人気ないなんて…。余談ではあるが江戸時代でもマグロの人気は低く、トロの部分は捨てられていたという。赤身の部分でさえも漬けにして食べていたという。今ほどのマグロ人気は割と近年のことと言える。

 俺はそんなマグロの人気を取り戻すためにすぐに仕事に取り掛かる。スマホから使い魔のシェフ、それにウオを出す。それから他の乗組員も呼び集めた。

「いいか、よく見ておけよ。大事なのは血抜きだ。本当は時間をかけてちゃんと血抜きしたいが今回は時間がないから簡単に行くぞ。ではシェフ、ウオ頼んだ。」

『シェフ・まずは脳天にナイフを刺して、そこからこの針金を入れて神経抜きをする。それからナイフを入れてエラの上部左右2箇所を外す。それに下側のエラの付け根も外す。血が山ほど出て来るから海水をかけ続けろ。』

『ウオ・それから内臓を取り出します。腹を割いて素早くね。内臓はそっちの穴から海に捨てちゃいます。ここまで出来たものは船体中央の保管庫の中に。中の氷で素早く冷やします。じゃあみんなどんどんやっていこう!』

「「「はい!」」」

 どんどん上がって来る魚を神経抜き、血抜き、内臓抜きを行なって行く。神経抜きを行うことで魚体が動き続けることを防ぎ、血抜きを行うことで血生臭さをなくす。そして内臓を取り出すことで内臓の熱が無くなる上に内臓の匂いが身に移るのを防ぐ。

 かなり完璧な処理だ。ちなみに内臓を抜く作業は魚種によってはやめている。なぜなら魚によっては肝が美味しいものがあるからだ。美味しい肝を捨ててしまうなんて勿体無いことはできない。それから1時間ほど経つとすべての仕掛けを回収し終えたようだ。

 もっと獲れば良いものだが、消費者がいないので仕方がない。船はそのまま港に寄港する。すでに他の組合の漁師達も漁を終えたようだ。

 漁師の組合というのは一つの漁港にいくつもの組合があるらしい。この漁港にも細々とした組合があるのだが、その中でも大所帯の組合は3つ。その一つにこのゴードラン組合もあるらしい。そして今、俺たちは大勢の漁師達の注目を集めている。

「ゴードラン、随分と羽振りが良いみたいだな。新しい船を買ったのか?」

「そうじゃねぇ…そうじゃねぇんだ。」

 ゴードランの威勢を知っている他の漁師達はその変わりように驚いている。そして必然的に俺に注目が集まる。ゴードランがこうなった理由は俺にあると理解しているのだ。

 俺はそんなことには御構い無しに今獲ってきた魚を降ろし始める。船に備え付けのクレーンで氷ごと船から下ろすのだ。多くの氷があることに他の漁師達は驚いている。製氷の魔道具はそれなりの値段がするのだ。

 ゴードラン達はそのまま魚を売りに出そうとしたのだが俺はそれをすぐに止める。驚き、慌てるゴードラン達に俺は告げた。

「ぜ、全部ですかい?」

「まあ全部じゃなくて良い。9割はうちですべて買い取ろう。うちの流通を使って海の魚を売りに出す。どれを買うか選別はこっちでやるから待っていてくれ。」

 せっかく完璧な下処理をしたというのにうちで買い取らないわけにはいかない。俺はすぐにシェフとウオにどれを買うか選ばせる。他の漁師達も俺に買ってほしいと近づいて来るのだが俺はそれをすべて断る。

「うちに買ってほしいならうちの要望通りの下処理をした魚を持ってきてくれないとダメだ。味が落ちるからな。」

「そ、そんなに変わらねぇだろ!」

 さすがにこれには多くの漁師達からクレームがきた。しかし買うのは俺だ。俺が納得しなければ意味はない。しかし俺はここで一つの提案をした。

「では今日の夜にこっちの魚とそっちの魚で食べ比べをしよう。もちろん同じ品種でだ。そこで変わらないと納得させられたら明日そっちの魚を買おう。もちろん全体の9割だ。」

「よし!そういうことなら今日の夜だな。」

 漁師達はなんとしてでも俺を納得させると言い張り、今日釣り上げたものの中で最も良いものを選抜している。今日の夜が楽しみだ。



「料理人はうちで用意させてもらった。審査は公平に行うつもりだ。問題ないか?」

「ああ、問題ない。」

 一軒の料亭。ここはこの町一番の腕を持った魚料理のプロだ。全員が信頼できる料理人である。料理人は2匹のマグロを前に立っている。片方はうちで獲ったマグロ、もう片方は他の漁師のマグロだ。

「では初めの料理ですがいかがいたしましょうか。焼きでも煮でもいけます。」

「じゃあ生でくれ。刺身って言って薄く切ったやつが良い。みんなは生の刺身いけるか?」

「な、生だと!?そいつは新鮮な魚でやるもんだ。特にそいつなんて…」

 生の魚を食ったことがあるということなので早速刺身を作ってもらう。まず初めは他の漁師達のものだ。どっちがどっちかわからないようにしているらしいが、ちゃんと処理してあるかどうかですぐにわかる。マグロを卸して柵をとるのだが、正直あまり腕前は良くなさそうだ。

 包丁使いというのがあまり良くない。俺が色々注文をつけながらやってもらっているので普段はもっと違うさばき方なのだろう。慣れない手つきでなんとか刺身を作ってもらった。

 目の前に出されたのだが、血抜きを全く行なっていないためすでに生臭さを感じるし、血が滴っている。他の漁師達も嫌そうな顔をしているが、なんとか口に運んだ。

「うぉ…おおぉ…むぃ…むり…」

 これはダメだ。マグロが人気ないというのがよくわかった。生暖かいし血生臭いしドロリとしている。そういえばマグロは常に動いているため死後も体温が高く、傷みやすいというのを聞いたことがある。それにしても酷いな。常温保存で夜までというのはキツすぎる。

「お、おい…まだ続けんのか?これを食べるのはキツイぞ。」

「俺たちの方は大丈夫だ。同じようにもう片方もさばいてくれ。」

 俺の注文通りに裁き始める料理人だが、さばいた瞬間に違いがわかったらしい。まあそうだろうな。生臭さというのは全くない。そしてすぐに刺身が出来上がるともう見た目で全く違う。これは俺がよく見ていたマグロだ。

 早速一口食べる。しかし食感が俺の知っているマグロと少し違う。異世界だからかと思ったが、これはおそらく鮮度の問題だろう。基本的にマグロは数日経った熟成された状態のものか、冷凍物が出回る。だからこうして新鮮なマグロというのは初めての味わいだ。

「こいつは…イケるな。」

「ああ、俺は好きだぞ。」

 どうやら漁師達の反応も上々だ。俺は続けて腹身の大トロの部分も頼んだ。これも食べ比べをしようかと思ったが、もうあんな不味いのは食べたくない。しかも腹身にもなると処理の有無で大きく変わる。

 なぜなら腹身は内臓の臭みが移りやすいのだ。特にマグロのような肉食系の魚の内臓は本当に臭い。俺の提案に諦めきれないと一人の漁師が未処理のマグロの腹身を食べたのだがあまりの臭さに吐いていた。

 そんな奴を横目に俺は大トロの刺身を食べる。ちなみに刺身には欠かせないワサビだが、どうやら使い魔達がこの世界のものを見つけておいてくれたようだ。多めにワサビを乗せて醤油につけて食べる。

「っあ~…美味い。ワサビもう少し多くてもよかったかな。まあ油きつくてあと2切れくらいで十分だけど…どうせなら炙りも食べたいな。」

 どうせなのでウオとシェフを呼ぶ。二人は今か今かと待っていたようで、すでにやる気満々だ。そこからは豪華な食事になった。まず寿司は定番だが、生だけでなくカマの部分を塩焼きにしてくれた。それからネギトロを使った巻物だ。

 他の魚も使って舟盛りなんかも作ってくれた。そして一騒ぎした後に思い出した。これって食事会じゃなくて食べ比べだったわ。

「これで俺の言ったことわかってくれましたか?」

「はい…すいませんでした。」

 漁師達はがっくりとうなだれている。まあこれだけ味に違いがあったらわかってくれるだろうな。しかしここで終わらせてしまってはダメだ。金の匂いはこの先にある。

「皆さんにもこの魚の処理方法を学んでもらいたいと思っています。それに氷で冷やすだけでも小魚なんかは十分です。そのための設備を漁港に造ることは可能ですか?そうすれば私は皆さんから魚を買いましょう。」

「し、しかしそれだけの予算はなくて…」

「そうですか。それでは…」

 俺はあらかじめ考えていた構想をそのまま漁師達に告げる。いくつか反対意見も出たが、それらも取り入れて新たに構想を練り直した。ここに漁港再建プログラムが発足した。
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