スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第254話 増援

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 丘の上に立つセキヤ国国軍の旗を掲げる一人の男。それはミチナガをここまで連れて来た、セキヤ国国軍をここまで案内した男、イシュディーンであった。その周囲にはセキヤ国に避難して来た強者たちがいる。

「間に合ったようで何よりだ。これで遅かったなんて言ったらどんな目にあったことか。」

「まあな。しかし…急いだ方が良さそうだ。みんなぁ!準備は良いかぁ!!我らの王を救いに行くぞぉぉ!!!」

「「「「「オォォォォォォ!!!!!」」」」」

 突如あげられた雄叫びに進行していた敵軍がこちらに気がつきその歩みを止めた。そしてミチナガを助けるために集められた6万5000の軍隊は武器を持つ手に力を込める。

「全軍…突撃ぃぃぃぃ!!!」

「「「「「アァァァァァァ!!!」」」」」

 一斉に走り出す男たち。突如現れ突撃してくる大群に敵兵は見事なまでに動揺している。完全に勝ち戦で増援など現れないと高をくくっていた矢先のことである。しかしそれでも敵はこちらに振り返り、迎撃のための魔法の矢を雨あられのように降り注がせた。

「来たぞイシュディーン!任せて良いんだよな?」

「もちろんです。そのまま突っ込んでください。」

 イシュディーンの体から魔力が溢れ出る。その魔力は小さな砂の粒を数千、数万、数億、数兆と生み出して行く。そしてその砂は敵の攻撃に向けて流れて行き、砂嵐を巻き起こす。イシュディーンの繰り出した砂嵐は敵の攻撃を全て飲み込み敵へ降り注ぐ。

「め、目がぁ!」
「なんだこの砂は…息ができない……」
「お、落ち着け!落ち着いて対処すれば…」

「ぶちかませぇぇ!!」

 降り注いだ砂に敵が悶絶しているとそこへセキヤ国国軍、傭兵団、西のエルフの人々が襲いかかる。敵は必死の抵抗を見せるが砂によって視覚が奪われているためまともに反撃できずになすすべなく倒されて行く。

「今の攻撃……まさかリブタイアの将軍、イシュディーンか!奴が生きていたのか!!」

 リブタイア王国。数年前まで火の国に存在していたその国は周囲に侵略国が多く、危険な立場にあった。しかし危険な立場にあるリブタイア王国であったがなぜかこれといって戦争に巻き込まれることがなかった。

 それはリブタイア王国に存在する特殊精鋭騎士団があったからだ。そしてそれを率いていたのが砂防の魔王イシュディーンである。イシュディーンの扱う砂魔法は攻撃性が低い。それこそ他の魔王クラスの魔法と比べれば天と地ほどの差がある。

 しかしイシュディーンの扱う砂魔法は防衛と妨害、そして隠蔽にかけては無類の強さを誇った。そしてイシュディーンが率いる特殊精鋭騎士団はイシュディーンの力を最大限引き出す最高の騎士団であった。

 イシュディーンによって隠された騎士団は敵のすぐ近くまで移動し、強襲する。卑劣な戦い方というものもいるが、イシュディーンは自分の率いる騎士団を誇りに思っていた。そしてイシュディーンが将軍となってから敵が攻め込んで来ないという実績が周辺国を恐れさせた。

 しかしそんなリブタイア王国も前王の死とともに崩れていった。国王が亡くなって国のまとまりが弱くなったところを付け込み敵が攻めこみ瓦解したのだ。

 その際にイシュディーンは自身の隠蔽魔法を使って国民たちを逃がそうとした。しかし敵に包囲され、窮地に陥る。このままではまずいと思ったその時、自身の率いる騎士団の面々が人々を守るためにとその命を投げ打って国民を守った。そこでイシュディーンの率いる騎士団はイシュディーンを残し全滅している。

 それから数ヶ月間火の国を放浪したのちにミチナガと出会い、リブタイア王国の人々を助けた。そして今はセキヤ国のため、ミチナガのためにその命を使っている。

 そして他にもセキヤ国に避難して来た強者は他にもいる。戦斧を振り回し、敵を薙ぎ払っている狂人ガザール。熊の獣人でかつては命知らずの特攻野郎と知られていた。だが一人の女に惚れ、子供までできてからは死ぬことが恐ろしくなり家族総出でセキヤ国へ避難して来た。

 そんな男であるのだが、実はミチナガとは飲み屋で一緒になってからは家族ぐるみの付き合いがあり、今回は娘にミチナガを助けて欲しいとお願いされ立ち上がった。なんだかおっかなびっくり戦斧を振り回しているがそれでも無類の強さを発揮している。

 さらに短剣を用いて高速で移動しながら敵の急所を確実に抉るダークエルフの女がいる。密かに暮らすダークエルフたちの中で、かつては村の守人として働いた暗殺術に長けたダリアである。ダリアは普段からダークエルフたちのまとめ役として、コーヒー栽培の時からミチナガとは親交のある人間の一人である。

 その実力はミチナガが西のエルフの国に行く際も護衛を任せられたほどの腕利きである。さらに今は他のダークエルフの面々と連携を取りながら敵兵を次々に屠って行く。連携力が他と比べても頭一つ抜きん出ている。

 ミチナガの護衛についていた狼の獣人のダルーや陸魚人のクァクァトゥラも怒涛の勢いで敵を屠っている。あまりにも勢いのあるセキヤ国国軍の強さによって敵の前線はどんどん瓦解して行く。

 しかしそんな中、セキヤ国国軍から離れどんどん敵に突っ込んで行く集団がある。彼らは金で雇われた傭兵団だ。本来あんな戦いをしていれば消耗が激しそうなものであるが、その強さは倒れて行く敵を見ればよくわかる。

 いくつもの傭兵団が我先にと敵へ突っ込んで行く。なぜあんなにも無謀な戦いをしているかというと、実は彼らには敵の司令官や上官を討ち取れば特別報酬が出るという風に伝えてある。そのため我先にと突っ込み、どんどん特別報酬を稼いでいるのだ。

 傭兵団も命あってのものだとは思うのだが、使い魔たちによって提示された特別報酬の額に魅了されてどんどんその勢いは増している。

「よぉぉぉしっっ!!敵の上官討ち取ったぞぉ!!!こいつはいくらの首だ?」

『デルタ#3・金貨300枚です。報酬に上乗せしておきますね。あ、それから3時の方角に金貨500枚の首がありますよ。』

「金貨500!おいお前ら!3時の方角だぁ!金貨500枚は俺たちのもんだぁ!しっかし最高だぜ。金払いの良い客は大歓迎だ!!」

 傭兵団には眷属たちが付き添っている。そして敵の上官を討ち取るたびに報酬が上乗せされていく。このシステムを傭兵団は実に喜んでいる。なんせ敵の上官を討ち取ってもそれの真偽を確かめる際に揉めることがあるからだ。しかしこれなら誤魔化されることはない。

 普通、200人ほどの傭兵団で一つの戦争の際に貰える報酬はだいたい1日金貨600枚とか良くて800枚程度だ。しかしそれに近い金額が敵上官一人討ち取るごとに貰えるので狂喜乱舞している。

 そんな中、今回傭兵団の中では最大の1万人を抱える巨大傭兵団にして、一番雇うのに金のかかった黒翼傭兵団が猛威を振るっている。他の傭兵団の一人あたりの金額の数倍以上の金額を払うことになったが、雇って正解だったと確信している。

 今も特別報酬の上乗せをしているのだが、すでに上乗せだけで金貨5万以上儲けている。間違いなくこの援軍の中で最強の傭兵団である。

 彼らの強みは幹部と呼ばれる七人の魔王クラスのものたちだ。しかもその副官は準魔王クラスである。そして彼らの頭目は準魔帝クラスの猛者だ。

 通常魔王クラスや魔帝クラスはそう簡単にいるものではない。基本的に国が召しかかえるため雇うことなどは難しいのだ。だから今回雇った傭兵団全ての中に魔王クラスは10人ほどしかいない。そんな魔王クラスを8人も保有しているこの傭兵団は怪物だ。

 戦場は大きく変わった。すでに敵はミチナガの増援の勢いに飲まれ瓦解している。その様子を見た城壁の上の兵士たちは涙を流しながら雄叫びをあげている。ミチナガも顔を上げることもできずにただただ涙を流している。

 完全に負けるものであったと思われた戦争は突如逆転し、そして終わりの兆しが見え始めた。敵は後方を取られてしまい野営地が破壊されつつある。こうなっては今日1日しのいだとしても敵は野営が困難になり、防備のなにもないまま明日を迎えることになる。

 つまり敵としては今日中に決着をつけねばまともに明日を迎えることができない。そして決着をつけることはこちらに来た増援によって不可能となった。

 つまりこの戦争はもう終わったも同然である。直にこの戦いそのものが終わり敵は撤退して行くだろう。やがて敵の食料庫から火の手が上がった。

「やったぞぉぉぉぉ!!」

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 歓声がさらに大きくなる。火の手が上がったということは火払いの鎮火旗がないということ。それはつまり敵の野営地に敵兵がいないということだ。本来食料庫を燃やすのは躊躇するのだが、ミチナガがいる限り食料を奪う必要はない。ならば徹底的に破壊して敵を困らせてやるのが一番だ。食料も失われた今、敵になすすべはない。

 さらなる徹底的な破壊が行える。遠目からでも見える敵野営地の破壊に合わせて味方からさらなる歓声が上がる。そしてその歓声とともに勝利を確信し始め、もう士気も生きる気力も失われていた兵士たちは喜びに体を震わせる。

「やった…勝った……勝った…終わったんだ…本当に…本当に……なあ、お前もそう思うだろ?…どうしたんだよ。」

「おい…あれ……なに?」

 城壁の上にいる兵士がある方向を指差した。何かと思いポチもミチナガも城壁の上から身を乗り出してその様子を伺う。


 そこには3000ほどの兵馬に乗った騎士たちがいた。

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