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第257話 暗躍するもの
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「見ろ!敵が逃げていくぞ!!」
「今度こそ本当に勝ったぞぉぉぉ!!!」
城壁の上にいる全員が諸手を挙げてようやく確信できた勝利に喜び、喝采する。当初総勢10万を超えていた敵兵は今や半数以下まで数を減らしている。しかしそれでも4万近い敵兵が一目散に逃げていくのはまさに蜘蛛の子を散らすようだ。
敵兵の中にはまだ果敢に戦いに来るものもいるが、そういったものたちは全てナイトの罠魔法にかかり命絶えている。敵にとってあまりにも無謀な戦いであるが、おそらく洗脳されているのだろう。洗脳を解除して助けるのもあれだけ暴れていると難しい。
そして敵兵の中にはその場で降伏するものもいる。魔力切れによって怪我の治癒ができないため、逃げられないと諦めたのだろう。中には元気そうなものたちもいる。仲間を見捨てられずに残ったものや半分自暴自棄になったものたちも大勢いる。
そういったものたちは他の敵兵が去って、周辺の安全を確認できたところでナイトの罠魔法を全て解除し、回収してまわった。捕虜だけでも数千人いる。彼らの処遇はこの国の王が決めるだろう。
これで本当に戦争は終わった。このままパレードと持ち込みたいところだが、負傷者の手当てが優先だ。兎にも角にも今は助けに来てくれたものたちを労わなければならない。ミチナガは助けに来てくれたセキヤ国国軍の元へ出向き、一人一人感謝の言葉を告げる。
皆、泣きながら感謝の言葉を述べるミチナガを笑顔で迎え入れてくれる。この戦争でセキヤ国国軍の人員も少なからず命を落としている。しかしそのことで決して誰かを恨もうとしない。命落とした彼らも、ここにいる皆も死を覚悟してここまでやって来たのだ。
そしてこの戦争で一番の活躍を見せたナイトは救国の英雄として祭り上げられている。ナイト本人は多くの人に囲まれて居心地が悪そうだ。しかしナイトに対して本気で感謝の言葉を述べる人たちを無下にできず、それとなく対応している。
ミチナガはその様子を見て少し微笑み、また他の面々に挨拶しにいく。そんな中とある一団が近づいて来た。その先頭にいるのはイシュディーンだ。この戦いの勝利は彼がいなくてはなかっただろう。
「イシュディーン!無事で何よりだ。みんなを率いてくれたんだろ?ありがとうな。」
「ミチナガ様もご無事で何よりです。しかしもうこんな無茶はやめてください。ああ、それと紹介いたします。今回の戦いに加わった傭兵団の主要な頭目の皆さんです。」
イシュディーンが連れて来たのは10人の男たちだ。誰も彼も幾多の戦場を渡り歩いたと言うだけあって面構えが常人とは違う。そんな彼らはその場で片膝をつきミチナガに最敬礼を行う。ミチナガはそんな彼らを見て急いで立ち上がらせる。
「みんな疲れているんだ。そんなにかしこまらなくても良い。初めまして。セキヤミチナガと言う。今回の勝利はあなた方がいなくては成り得なかった。ただ…他にも頑張ってくれた傭兵団もいることだ。そういった人々も集めてもらえるか?ちゃんと礼を言いたいんだ。すぐには難しいだろうから…1時間後に集まろう。連絡はこいつらを通して頼む。」
『ピース#2・よ、よろしくです!』
ミチナガは傭兵団たちとの話は一度後回しにして、今はセキヤ国国軍の人々への感謝の言葉を述べるために再び歩き回る。傭兵団たちとの話は金銭の話も絡むため長くなるだろう。その辺りも考えるとまとめて話した方が効率は良い。
そして予定通り1時間後に今回参加した全傭兵団のそれぞれの頭が一堂に会した建物内で改めて話をする。そこに集まった全員は緊張の面持ちでミチナガを出迎えた。
「先ほどはわざわざ会いに来てくれたのにすまなかった。改めて、セキヤミチナガだ。それからこっちはこのシェイクス国の王子、マクベスだ。それからこっちはナイト。どちらも俺の友人だ。」
「マクベスです。この度は皆さんのおかげでこの国は救われました。本当に……本当にありがとうございます。」
しばらくマクベスとミチナガによる傭兵団たちへの感謝の言葉を述べた後に、早速今回の報酬の話に移る。ただ報酬の話はあらかじめ使い魔たちによって決められた金額があるので、特に難しい問題はない。
「傭兵団ごとに報酬に差はあるが、そこは成果の違いなどがあるからもめないように頼む。それから今回の勝利もあるから特別ボーナスを別途支給する。何か質問があるものいるか?」
「死んだ仲間の分の報酬は出るのか?壊滅した傭兵団の分は?」
「参加してくれた人数分払おう。もちろん亡くなった仲間の分もだ。彼らの家族に届けてやってくれ。壊滅した傭兵団の分は後にこちらで調べて彼らの家族に払おう。ただ天涯孤独の身の場合は厳しいな。そういう場合は孤児院にでも彼ら名義で寄付しておこう。他には?」
「それじゃあ俺も良いか?報酬だが…本当に払えるのか?これは防衛戦だろ?この国にそんな大金払うだけの予算があるとは思えない。」
この発言は黒翼傭兵団の頭、ギルバーツからのものだ。本来戦争の場合は敗戦国から多額の慰謝料を奪い取る必要がある。その慰謝料を持って雇った傭兵団などに報酬を支払うのがこの火の国での通例だ。戦争の絶えない火の国では基本的にどの国も貧しい。まともに傭兵団を雇うことは難しいのだ。
「こ、このシェイクス国にも多少の蓄えはあります!だからなんとかして……」
「待て待て待て待て…落ち着けマクベス。それから…ギルバーツだったな?契約の話をちゃんと聞かなかったのか?今回この傭兵団を雇ったのは俺だ。だから報酬を支払うのは俺だぞ?」
「セキヤ王。ではセキヤ国の予算から支払うということで良いんだな?まあそれなら安心だ。」
「……話聞いてた?お前たちを雇ったのは俺だ。俺個人だ。だから国の予算とかは関係ない。俺個人で支払う。そういう契約だ。」
「何?……わかっているのか?3万人の傭兵に支払うんだぞ。」
「…いくらだっけ?」
『ポチ・ちょっと待ってね……合算すると…金貨300万枚くらいかな?』
「え!まじで?……そんなもんなのか。どうせだ。勝利祝いにもう少し色つけておこう。少し計算し直しておいてくれ。」
『ポチ・りょうかーい。』
改めて計算し直してその結果の資料を各傭兵団ごとに渡す。するとその額を知った全傭兵団があまりの驚きに目を丸くしている。ギルバーツもなんとか平静を保とうとしているが、わずかに手が震えている。そしてたまらなくなったのかギルバーツは口を開いた。
「どこからこんな金を持って来た。あんた国王だろ?どれだけ国民に税を……」
「俺国王だけど本職は商人だからね。ミチナガ商会って知らない?おたくらが休んでいた国にもあったと思うけど。一応いろんな国で店を構えている大商会なんだよね。最近は純利益が日に金貨5万枚出ているからそのくらいの報酬は払えるよ。その金額に納得できたのならここで報酬払うけど良いかな?」
その言葉を聞いて再び驚愕する一同。彼らは命がけでなんとかこの大金を得ることができたが、ミチナガは2ヶ月働けば3万人分の額を儲けることができる。この世界での一般人の月の給料は金貨3枚ほどだ。冒険者でなんとか月に金貨10枚行くか行かないかである。そんな彼らとは月とスッポンほど違う。
全員がミチナガの提示した報酬で満足するとその場で現金を支払う。抱えるほどの大金に全員が満足したところでマクベスが口を開いた。
「皆さんに…ミチナガさんにもお願いがあります。もう一度…雇われてはもらえませんか?」
「どういうことだマクベス?」
「この戦争はまだ始まりでしかありません。今回の裏にいるのは法国です。そしてその法国がこれで諦めるとは思いません。きっと…まだこれから攻め込んでくると思います。その前にすでに法国の手中にある沿岸の国々を征服します。今回の件で兵力は著しく失われています。だから早いうちに攻め込んでこちらのものにしたいんです。」
マクベスの言う通り今回の裏にいるのは法国だ。そしてこれでもう大丈夫だと安心してしまえば法国の第2、第3の刺客によってシェイクス国はいつか滅びる。だから早い段階でシェイクス国を一大国家にする必要がある。
「言いたいことはわかる。だが…国力を削がれた国を取ってもなんの意味もないだろ。無駄に領地を増やしても守り辛いだけだ。」
「はい。そのままでは意味はありません。だから…周辺一帯にある国々も全て統一してみせます。火の国の半分とは言いません。せめて…4分の1でも統一できれば侵入を防ぐことができると思います。そうしなくちゃ…未来はありません。そのためにも傭兵団の皆様には力を貸して欲しいんです。そしてミチナガさん。そのためには物資もお金も必要になります。だから…」
「それは…金貨数百万じゃ足りないぞ。数億とかかる。物資だって山のように必要だ。犠牲だって山のように増える。お前にその全てが背負えるのか?俺のメリットはなんだ?」
ミチナガは少し厳しめにマクベスに問いかける。まっすぐと見つめるミチナガの目をマクベスはしっかりと受け止める。マクベスの瞳には力が宿っている。
「僕はこのシェイクス国を大国に…超大国にしてみせます。そしてセキヤ国を友好国にとして同盟を組みます。次期国王として…僕がこの国を変えてみせます。超大国と対等な同盟を組むことがメリットになります。それに借金も全額利子付きで返済してみせます!」
「……よくもまあそんなことが言えるようになったな。あの弱々しいマクベスとは思えないな。よし!全面支援しよう。好きなだけ金も物資も使いやがれ!お前の野望を叶えてみせろ!セキヤミチナガはマクベスを支援する。…ナイト、お前も手助けしてやってくれないか?」
「わかった。俺も手助けしよう。何かあったら呼べ。俺もお前の友だ。」
ここにミチナガとナイトのマクベスへの支援が決定した。一方は超資産家、もう一方は準魔神クラスの超武力。これだけの支援があるのであればマクベスの言う野望も現実味を帯びてくる。その話を聞いた傭兵団たちも勝ち馬に乗るためマクベスの力になることを決定した。
ここに火の国統一するための一大勢力が誕生した。法国の侵略からこの国を守るため、その力を一つにして法国と戦うために。
「まあここまで威勢良いこと言ったけど、お前まだ国王でもないよな?ちゃんとそこらへんのこと父親に話した方が良いんじゃね?」
「……あ、明日にでも話します。」
マクベスが火の国の一部を統一すると宣言したその日の夜。シェイクス国からだいぶ離れた海上。そこには巨大な戦艦が数百と浮かんでいた。その戦艦の目指す先は火の国。そしてその旗は真っ白で何も描かれていない。所属不明の艦隊だ。
だがその船内を見ればどこの所属かは明らかだ。今も祈りを捧げる彼らは法国の正規軍。彼らは明日の昼には火の国へ到達する。法国の火の国への進行が本格化してきたのだ。すでに法国の策略により火の国は弱り切っている。法国の正規軍が押入れば結束力の弱い火の国の国々など攻め落とすことは可能だ。
攻め入る法国の軍の人員は10万を超えている。中には魔王クラスの実力者に魔帝クラスの実力者もいる。これから本当に始まるのだ。法国の世界征服の動きが。その足がかりとしての火の国への侵略が今まさに始まろうとしている。
本当の戦いはこれから始まる。本当の戦いが。戦いが…たたか……た………た……………
だが、そんな運命は一人の怪物によっていともたやすく変えられてしまう。
「ふむ。我が王に初アニメ作品を見てもらおうと思いやってきたと言うのにこれはなんなのだヨウ殿?」
『ヨウ・うっわ……法国の大船団じゃん……これまずいよ……このまま攻め込まれたらシェイクス国どころか火の国滅ぶんじゃない?そうしたらセキヤ国も……』
「ふむ……つまりあれは敵で…見逃せば我が王の命に関わり…我が野望の妨げになると言うことか。」
『ヨウ・そうだけど…強い敵いっぱいいるよ?魔帝クラスだっているだろうし…それに下手に敵にヴァルくんのことがバレたらかなり問題になるよ?』
「なるほどなるほど…つまりだ。」
ヴァルドールは額に血管を浮かび上がらせ、敵を睨みつける。その瞳は獲物を狙う捕食者のものだ。すでにヴァルドールにとってこの大船団は己の野望を邪魔する障害物として、敵として認識された。
「誰にも知られずに片付ければ良いのだろう?」
『ヨウ・うっわぁぁ…やる気満々。じゃあ一人残らず全員やるんだよ?見逃し禁止ね。逃げられるのも禁止。ヴァルくん…やるなら全滅以外ありえないからね?』
「委細承知。では我が野望の妨げになる障害を排除する。」
「か、艦長!周囲が暗く…」
「夜だから暗くなるのは当たり前だ。全く何を言うかと思えば……な、なんだこれは…」
突如周囲が暗黒に飲み込まれた。光一つ見えない暗闇の中、戦艦からいくつも光源が出るのだが、ほんの数メートル先を照らすだけで終わる。隣の戦艦の様子もまるでわからない。そんな中艦長は一つのことを思い出した。
「まさか…闇の帳……吸血鬼が好んで使う魔法……なぜ…」
「ほう?我が魔法に詳しそうなものがおるではないか。」
突如耳元から聞こえた声に飛び跳ねてその場から退避する。艦長が見たその先にいたのはこの闇の中でぼんやりと浮かぶ人間のような輪郭だけだ。
「な…何者だ……」
「我が名はヴァルドール。吸血鬼、ヴァルドールだ。」
「あ…ありえない……貴様はとうの昔に死んだはず……」
「我は死なぬ。決して死なぬし誰にも殺せぬ。さあ…我が野望を妨げる愚か者よ。貴様の断末魔を持って我への許しをこうのだ!」
「や、やめ……やめてくれぇぇぇ!!」
その夜。数百年ぶりにヴァルドールによる虐殺が行われた。誰にも見られることなく、誰にも知られることなく。彼らの叫びは決して誰にも届くことはない。彼らの願いを聞届けるものはいない。それは彼らが信仰する神にも届きはしなかった。
その翌日。空の戦艦が数隻、火の国の沿岸部に漂っていた。そこにはミチナガ商会への寄贈品と書かれた紙が貼り付けられていた。
「今度こそ本当に勝ったぞぉぉぉ!!!」
城壁の上にいる全員が諸手を挙げてようやく確信できた勝利に喜び、喝采する。当初総勢10万を超えていた敵兵は今や半数以下まで数を減らしている。しかしそれでも4万近い敵兵が一目散に逃げていくのはまさに蜘蛛の子を散らすようだ。
敵兵の中にはまだ果敢に戦いに来るものもいるが、そういったものたちは全てナイトの罠魔法にかかり命絶えている。敵にとってあまりにも無謀な戦いであるが、おそらく洗脳されているのだろう。洗脳を解除して助けるのもあれだけ暴れていると難しい。
そして敵兵の中にはその場で降伏するものもいる。魔力切れによって怪我の治癒ができないため、逃げられないと諦めたのだろう。中には元気そうなものたちもいる。仲間を見捨てられずに残ったものや半分自暴自棄になったものたちも大勢いる。
そういったものたちは他の敵兵が去って、周辺の安全を確認できたところでナイトの罠魔法を全て解除し、回収してまわった。捕虜だけでも数千人いる。彼らの処遇はこの国の王が決めるだろう。
これで本当に戦争は終わった。このままパレードと持ち込みたいところだが、負傷者の手当てが優先だ。兎にも角にも今は助けに来てくれたものたちを労わなければならない。ミチナガは助けに来てくれたセキヤ国国軍の元へ出向き、一人一人感謝の言葉を告げる。
皆、泣きながら感謝の言葉を述べるミチナガを笑顔で迎え入れてくれる。この戦争でセキヤ国国軍の人員も少なからず命を落としている。しかしそのことで決して誰かを恨もうとしない。命落とした彼らも、ここにいる皆も死を覚悟してここまでやって来たのだ。
そしてこの戦争で一番の活躍を見せたナイトは救国の英雄として祭り上げられている。ナイト本人は多くの人に囲まれて居心地が悪そうだ。しかしナイトに対して本気で感謝の言葉を述べる人たちを無下にできず、それとなく対応している。
ミチナガはその様子を見て少し微笑み、また他の面々に挨拶しにいく。そんな中とある一団が近づいて来た。その先頭にいるのはイシュディーンだ。この戦いの勝利は彼がいなくてはなかっただろう。
「イシュディーン!無事で何よりだ。みんなを率いてくれたんだろ?ありがとうな。」
「ミチナガ様もご無事で何よりです。しかしもうこんな無茶はやめてください。ああ、それと紹介いたします。今回の戦いに加わった傭兵団の主要な頭目の皆さんです。」
イシュディーンが連れて来たのは10人の男たちだ。誰も彼も幾多の戦場を渡り歩いたと言うだけあって面構えが常人とは違う。そんな彼らはその場で片膝をつきミチナガに最敬礼を行う。ミチナガはそんな彼らを見て急いで立ち上がらせる。
「みんな疲れているんだ。そんなにかしこまらなくても良い。初めまして。セキヤミチナガと言う。今回の勝利はあなた方がいなくては成り得なかった。ただ…他にも頑張ってくれた傭兵団もいることだ。そういった人々も集めてもらえるか?ちゃんと礼を言いたいんだ。すぐには難しいだろうから…1時間後に集まろう。連絡はこいつらを通して頼む。」
『ピース#2・よ、よろしくです!』
ミチナガは傭兵団たちとの話は一度後回しにして、今はセキヤ国国軍の人々への感謝の言葉を述べるために再び歩き回る。傭兵団たちとの話は金銭の話も絡むため長くなるだろう。その辺りも考えるとまとめて話した方が効率は良い。
そして予定通り1時間後に今回参加した全傭兵団のそれぞれの頭が一堂に会した建物内で改めて話をする。そこに集まった全員は緊張の面持ちでミチナガを出迎えた。
「先ほどはわざわざ会いに来てくれたのにすまなかった。改めて、セキヤミチナガだ。それからこっちはこのシェイクス国の王子、マクベスだ。それからこっちはナイト。どちらも俺の友人だ。」
「マクベスです。この度は皆さんのおかげでこの国は救われました。本当に……本当にありがとうございます。」
しばらくマクベスとミチナガによる傭兵団たちへの感謝の言葉を述べた後に、早速今回の報酬の話に移る。ただ報酬の話はあらかじめ使い魔たちによって決められた金額があるので、特に難しい問題はない。
「傭兵団ごとに報酬に差はあるが、そこは成果の違いなどがあるからもめないように頼む。それから今回の勝利もあるから特別ボーナスを別途支給する。何か質問があるものいるか?」
「死んだ仲間の分の報酬は出るのか?壊滅した傭兵団の分は?」
「参加してくれた人数分払おう。もちろん亡くなった仲間の分もだ。彼らの家族に届けてやってくれ。壊滅した傭兵団の分は後にこちらで調べて彼らの家族に払おう。ただ天涯孤独の身の場合は厳しいな。そういう場合は孤児院にでも彼ら名義で寄付しておこう。他には?」
「それじゃあ俺も良いか?報酬だが…本当に払えるのか?これは防衛戦だろ?この国にそんな大金払うだけの予算があるとは思えない。」
この発言は黒翼傭兵団の頭、ギルバーツからのものだ。本来戦争の場合は敗戦国から多額の慰謝料を奪い取る必要がある。その慰謝料を持って雇った傭兵団などに報酬を支払うのがこの火の国での通例だ。戦争の絶えない火の国では基本的にどの国も貧しい。まともに傭兵団を雇うことは難しいのだ。
「こ、このシェイクス国にも多少の蓄えはあります!だからなんとかして……」
「待て待て待て待て…落ち着けマクベス。それから…ギルバーツだったな?契約の話をちゃんと聞かなかったのか?今回この傭兵団を雇ったのは俺だ。だから報酬を支払うのは俺だぞ?」
「セキヤ王。ではセキヤ国の予算から支払うということで良いんだな?まあそれなら安心だ。」
「……話聞いてた?お前たちを雇ったのは俺だ。俺個人だ。だから国の予算とかは関係ない。俺個人で支払う。そういう契約だ。」
「何?……わかっているのか?3万人の傭兵に支払うんだぞ。」
「…いくらだっけ?」
『ポチ・ちょっと待ってね……合算すると…金貨300万枚くらいかな?』
「え!まじで?……そんなもんなのか。どうせだ。勝利祝いにもう少し色つけておこう。少し計算し直しておいてくれ。」
『ポチ・りょうかーい。』
改めて計算し直してその結果の資料を各傭兵団ごとに渡す。するとその額を知った全傭兵団があまりの驚きに目を丸くしている。ギルバーツもなんとか平静を保とうとしているが、わずかに手が震えている。そしてたまらなくなったのかギルバーツは口を開いた。
「どこからこんな金を持って来た。あんた国王だろ?どれだけ国民に税を……」
「俺国王だけど本職は商人だからね。ミチナガ商会って知らない?おたくらが休んでいた国にもあったと思うけど。一応いろんな国で店を構えている大商会なんだよね。最近は純利益が日に金貨5万枚出ているからそのくらいの報酬は払えるよ。その金額に納得できたのならここで報酬払うけど良いかな?」
その言葉を聞いて再び驚愕する一同。彼らは命がけでなんとかこの大金を得ることができたが、ミチナガは2ヶ月働けば3万人分の額を儲けることができる。この世界での一般人の月の給料は金貨3枚ほどだ。冒険者でなんとか月に金貨10枚行くか行かないかである。そんな彼らとは月とスッポンほど違う。
全員がミチナガの提示した報酬で満足するとその場で現金を支払う。抱えるほどの大金に全員が満足したところでマクベスが口を開いた。
「皆さんに…ミチナガさんにもお願いがあります。もう一度…雇われてはもらえませんか?」
「どういうことだマクベス?」
「この戦争はまだ始まりでしかありません。今回の裏にいるのは法国です。そしてその法国がこれで諦めるとは思いません。きっと…まだこれから攻め込んでくると思います。その前にすでに法国の手中にある沿岸の国々を征服します。今回の件で兵力は著しく失われています。だから早いうちに攻め込んでこちらのものにしたいんです。」
マクベスの言う通り今回の裏にいるのは法国だ。そしてこれでもう大丈夫だと安心してしまえば法国の第2、第3の刺客によってシェイクス国はいつか滅びる。だから早い段階でシェイクス国を一大国家にする必要がある。
「言いたいことはわかる。だが…国力を削がれた国を取ってもなんの意味もないだろ。無駄に領地を増やしても守り辛いだけだ。」
「はい。そのままでは意味はありません。だから…周辺一帯にある国々も全て統一してみせます。火の国の半分とは言いません。せめて…4分の1でも統一できれば侵入を防ぐことができると思います。そうしなくちゃ…未来はありません。そのためにも傭兵団の皆様には力を貸して欲しいんです。そしてミチナガさん。そのためには物資もお金も必要になります。だから…」
「それは…金貨数百万じゃ足りないぞ。数億とかかる。物資だって山のように必要だ。犠牲だって山のように増える。お前にその全てが背負えるのか?俺のメリットはなんだ?」
ミチナガは少し厳しめにマクベスに問いかける。まっすぐと見つめるミチナガの目をマクベスはしっかりと受け止める。マクベスの瞳には力が宿っている。
「僕はこのシェイクス国を大国に…超大国にしてみせます。そしてセキヤ国を友好国にとして同盟を組みます。次期国王として…僕がこの国を変えてみせます。超大国と対等な同盟を組むことがメリットになります。それに借金も全額利子付きで返済してみせます!」
「……よくもまあそんなことが言えるようになったな。あの弱々しいマクベスとは思えないな。よし!全面支援しよう。好きなだけ金も物資も使いやがれ!お前の野望を叶えてみせろ!セキヤミチナガはマクベスを支援する。…ナイト、お前も手助けしてやってくれないか?」
「わかった。俺も手助けしよう。何かあったら呼べ。俺もお前の友だ。」
ここにミチナガとナイトのマクベスへの支援が決定した。一方は超資産家、もう一方は準魔神クラスの超武力。これだけの支援があるのであればマクベスの言う野望も現実味を帯びてくる。その話を聞いた傭兵団たちも勝ち馬に乗るためマクベスの力になることを決定した。
ここに火の国統一するための一大勢力が誕生した。法国の侵略からこの国を守るため、その力を一つにして法国と戦うために。
「まあここまで威勢良いこと言ったけど、お前まだ国王でもないよな?ちゃんとそこらへんのこと父親に話した方が良いんじゃね?」
「……あ、明日にでも話します。」
マクベスが火の国の一部を統一すると宣言したその日の夜。シェイクス国からだいぶ離れた海上。そこには巨大な戦艦が数百と浮かんでいた。その戦艦の目指す先は火の国。そしてその旗は真っ白で何も描かれていない。所属不明の艦隊だ。
だがその船内を見ればどこの所属かは明らかだ。今も祈りを捧げる彼らは法国の正規軍。彼らは明日の昼には火の国へ到達する。法国の火の国への進行が本格化してきたのだ。すでに法国の策略により火の国は弱り切っている。法国の正規軍が押入れば結束力の弱い火の国の国々など攻め落とすことは可能だ。
攻め入る法国の軍の人員は10万を超えている。中には魔王クラスの実力者に魔帝クラスの実力者もいる。これから本当に始まるのだ。法国の世界征服の動きが。その足がかりとしての火の国への侵略が今まさに始まろうとしている。
本当の戦いはこれから始まる。本当の戦いが。戦いが…たたか……た………た……………
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『ヨウ・うっわ……法国の大船団じゃん……これまずいよ……このまま攻め込まれたらシェイクス国どころか火の国滅ぶんじゃない?そうしたらセキヤ国も……』
「ふむ……つまりあれは敵で…見逃せば我が王の命に関わり…我が野望の妨げになると言うことか。」
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「なるほどなるほど…つまりだ。」
ヴァルドールは額に血管を浮かび上がらせ、敵を睨みつける。その瞳は獲物を狙う捕食者のものだ。すでにヴァルドールにとってこの大船団は己の野望を邪魔する障害物として、敵として認識された。
「誰にも知られずに片付ければ良いのだろう?」
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「委細承知。では我が野望の妨げになる障害を排除する。」
「か、艦長!周囲が暗く…」
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突如周囲が暗黒に飲み込まれた。光一つ見えない暗闇の中、戦艦からいくつも光源が出るのだが、ほんの数メートル先を照らすだけで終わる。隣の戦艦の様子もまるでわからない。そんな中艦長は一つのことを思い出した。
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「ほう?我が魔法に詳しそうなものがおるではないか。」
突如耳元から聞こえた声に飛び跳ねてその場から退避する。艦長が見たその先にいたのはこの闇の中でぼんやりと浮かぶ人間のような輪郭だけだ。
「な…何者だ……」
「我が名はヴァルドール。吸血鬼、ヴァルドールだ。」
「あ…ありえない……貴様はとうの昔に死んだはず……」
「我は死なぬ。決して死なぬし誰にも殺せぬ。さあ…我が野望を妨げる愚か者よ。貴様の断末魔を持って我への許しをこうのだ!」
「や、やめ……やめてくれぇぇぇ!!」
その夜。数百年ぶりにヴァルドールによる虐殺が行われた。誰にも見られることなく、誰にも知られることなく。彼らの叫びは決して誰にも届くことはない。彼らの願いを聞届けるものはいない。それは彼らが信仰する神にも届きはしなかった。
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《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
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強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
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こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
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