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第266話 順調にいかぬ旅と出会い

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 ミチナガたち一行がセキヤ国を出発して1週間が経過した。ミチナガたちの道中は実に順調で何事もなく進んだ…と、言うわけでもなかった。始めの4日間は確かに順調であった。しかし5日目に火の国からの避難民と出会った。

 大部分はセキヤ国で保護したのだが、やはり未だに火の国からの避難民は絶えない。そんな避難民の一部はセキヤ国の噂を聞いて訪れ、さらにもう一部はセキヤ国の周辺を見回りに出ている部隊が保護してくれている。

 しかしそれでも見逃しはある。特にセキヤ国から魔道装甲車で4日も離れた位置ならば、それが顕著に現れるだろう。もちろんミチナガはそんな避難民を放っておくことができずに一時収容所を森の中に建設、セキヤ国から保護部隊がくるのを待つことにした。

 しかしただ待っているわけにもいかない。この辺りにはまだ他の避難民がいるはずだ。そこでミチナガは自身の随伴者をいくつかの部隊に分けて即席の保護部隊を完成させた。それから3日間の間だけで避難民の保護人数は500人を越えた。

 そして1週間目の今日。翌日にはセキヤ国からの保護部隊が到着する予定なのでミチナガは再び出発の準備を始めた。この調子ではおそらく明日か明後日には再び避難民と出くわすことになるだろう。そのためにも一部の保護部隊はしばらく随伴させて道中出会った避難民を連れて行ってもらわなくてはならない。

 そして翌日の昼過ぎ、ようやくセキヤ国からの保護部隊が到着した。全部で100台ほどの輸送車を運んで来た。1台あたり50人は乗れるので5000人は運ぶことができる。現在保護している避難民に対してあまりにも多すぎるが、今後のことを考えるとあっという間に定員オーバーするかもしれない。

「ミチナガ陛下!第3、第4保護部隊到着しました!」

「お疲れ様。それじゃあ早速…と行きたいけど出発は明日にしよう。今日の夕方にまた数人避難民がここに到着するらしいんだ。だからそこまでの人数を明日の早朝に運んで欲しい。残った部隊はしばらくこっちに同行してくれ。絶対に…間違いなく避難民と遭遇するからな。」

「了解しました!」

 ミチナガの元へ到着を報告しに来た男はそのまま自身の部隊へと帰って行く。そしてしばらくの間ミチナガに同行することを報告すると歓声が上がった。どうやら少しの間だけでもミチナガに同行できることが嬉しいらしい。

 そして翌日、避難民578名を連れた保護部隊がセキヤ国へ帰還し、残る部隊はそのままミチナガに同行した。帰る部隊は何とも悔しそうにしていたが、見かねたミチナガが一人一人に感謝の言葉と避難民をよろしく頼むことを伝えるとなんとも嬉しそうに帰って行った。

 ようやく出発したミチナガは保護部隊がついて来たことで移動速度を遅くしなければならなくなり、予定よりも英雄の国への到着日時が遅くなりそうで勇者神アレクリアルに怒られそうだと心配している。

 それから数日間、どんどん出会う避難民を保護しつつ移動を続けるが定期的に発見する避難民の数に同行する保護部隊が足りないと早々に判断して他の保護部隊を呼び寄せた。これでまた移動に時間がかかるとため息をつくミチナガに同行していたメイド長が声をかけた。

「このままでは海岸線に出るまでに1月はかかります。いっそのこと避難民を無視されては?」

「それができたらセキヤ国も完成しなかっただろうな。……すまないなメイド長、こういう性分なんだ。」

「そうでしょう。それではあまりため息はつかないように。他の者まで辛気臭く感じますから。」

「あ~…すまない。何、これだけゆっくりしているとアレクリアル様に怒られそうで。いや、きっと怒られるのは確定しているんだろうな。はぁぁ……あ、すまん。またため息が…」

 ミチナガが決して避難民を見捨てないというのを聞いて皆喜んでいる。彼らはミチナガのため息の原因が避難民の保護で、見捨てようと考えているのではないかと少し不安になっていたのだ。

 そして今日、随伴していた保護部隊が避難民の定員人数を超えてしまったため、全部隊が帰投してしまった。最後の方は無理やり乗せて5500人ほどは避難民を保護した。しかしそれでも避難民はまだまだ現れる。ミチナガたちは再び避難民の保護のために収容施設を建設して新たな保護部隊が到着するのを待つことにした。

「ミチナガ陛下、本日の避難民は400名を超えました。これで1000名を超えたことに……」

「1日で400人も集まるのか……この辺りは随分と避難民が多いな。次の保護部隊の到着は明後日だ。それまでの間は頼んだぞ。」

「かしこまりました。それでは仕事に戻ります。」

 あまりにも多い避難民の保護に頭を悩ませるミチナガ。スマホのおかげで食事などは問題ないが、これだけに人数が増え続けるとセキヤ国の国土が足りなくなる恐れがある。色々と問題が発生しそうな予感に再びため息をつくミチナガの元へ一人の騎士が報告にやって来た。

「何?避難民を預かって欲しいとやってきた?」

「はい、それが道中で数十人の人々に出会い、人の気配が集まっているこの場に連れてきたと…それもなかなかの手練れです。」

「ん~…少し話を聞いてみよう。」

 ミチナガは報告にやってきた騎士について行く。歩く道中の道沿いには避難民たちが幸せそうに炊き出しの食事を食べている姿がある。ミチナガも警戒している避難民が少なくて安心する。下手に警戒している人が来るとそれだけで騒ぎになることもあるため、警戒されないよう気にかけているのだ。

 しばらくし、騎士に案内された場所にたどり着くとそこにはやせ細った避難民に囲まれた体つきのしっかりとした男が立っていた。細マッチョのようだが、その筋肉は自身の戦闘スタイルに合わせて鍛え上げられたものだ。確かになかなかの手練れである。

 ミチナガは男を観察しながら近づいていく。すると服の胸のあたりに紋章が刻まれていた。初めて見る紋章であるが、何やら記憶が蘇って来る。

「避難民の一団を連れてきたのはあなたですか?それにその胸の紋章……もしや冒険家の方ですか?」

「ええ、冒険家のガゼルと言います。あなたが避難民を保護しているこの集団のトップですか?」

 冒険家。それは一般的な冒険者と違い世界を旅してモンスターの情報や遺跡の調査をする者達のことだ。冒険者ギルド創設者、冒険神の志に賛同した者達の集まりで最低でも準魔王クラスでないと冒険家にはなれない。

 世界中を転々としている彼らに出会うのはなかなか難しいことである。なんせ特定の拠点を持たず、一人で行動することの多い彼らは出会おうと思って出会える人間ではないからだ。ミチナガも以前話を聞いていたからいつか会いたいと考えていたが、まさかそれが今訪れるとは思わなかった。

「ええ、ミチナガと言います。では皆さんをこちらに。ガゼルさんもこちらへどうぞ。彼らをここまで連れてきてくれたお礼に食事をご馳走させてください。それに冒険家の方と出会えるというのはそうそうない経験ですから。」

「それではご馳走になります。実は食事は彼らにあげてしまったので何も食べていなかったんです。」

 ミチナガは冒険家と話ができそうだと喜ぶ。なんせ彼らほどこの世界に精通している人間はいないだろう。彼らから聞く話は間違いなく有益なものになること間違いなしだ。

 すぐに食事を提供し、風呂も勧めた。まさか風呂にまで入れるとは思ってもおらずびっくりしていたが、体もさっぱりしたおかげで随分と気分が良さそうだ。早速ミチナガはガゼルにこれまでの冒険の話を聞かせてもらったのだが、どれも興味深いものばかりであった。

「へぇ…天に登る滝かぁ……いつか見てみたいです。」

「かなり危険な地域なので難しいとは思いますが、一見の価値はあります。あのあたりは重力が反転しており、浮島もいくつもありますから。」

「浮島かぁ……ファンタジーだなぁ……そういえばここにはどうして?隣の火の国ではいくつもの国が戦争続きで大変だというのに…」

「ちょっと用事がありまして。特別な森に行くんですよ。」

「特別な森?もしや猫森ですか?どうしてあんなところに…」

 ミチナガがそういうと空気がピリついた。これは殺気だ。ガゼルがミチナガに対して飛ばしたこの殺気だが、本気で殺す気はないだろう。殺気というよりも苛立ちという意味合いが強い。しかしこれだけの強者だと苛立ちで飛ばす殺気でも背筋が凍る思いをする。

「…申し訳ないがあまり詮索はしないでほしい。」

「も、申し訳ない。詮索する気は無かったんだ。ただ…もしも目的地が猫森で、あそこにいる猫神に会いに行こうとしているんだとしたら、大変だと思って。今猫神は所用で出かけていてしばらくは帰ってこないから。」

 ミチナガは慌てて答えた。この慌てはガゼルにビビったからではない。ガゼルの苛立ちによる殺気のせいでミチナガを慕って護衛をしている周囲の騎士達が武器に手を伸ばそうとしたからだ。

「猫神がいない?なぜ?猫森は魔力の荒れやすい土地だから常に猫神がいなくては……」

「しばらく猫森を任せられる猫が誕生したので、自身は他の土地を鎮めにいくようです。まあこの程度しか知りませんが…もしも猫神目的でがっかりされてはと思いまして…」

「いや、これは貴重な情報を……。それに申し訳ない。こんなにも親切にされた方に失礼な態度を……。実は以前仲間の冒険家が行き先を話したところ、お宝があると勘違いしたものが先回りしてその土地を荒らしたことがあって…」

「いえ、お気になさらずに。誰にだって詮索されたくないことはありますから。ああ、猫森を目指すのなら避難民の乗る乗り物に一緒に乗って行きますか?目的地は猫森のあたりなので。もしも同行してもらえると護衛にもなって彼らも安心するでしょうから。」

「ここまでよくしてくれるなんて…私で良いのならいくらでも護衛しましょう。しかし猫森のあたりですか……あの辺りの国というと……どこだろう?」

「ははは、それは行ってのお楽しみということで。こういう冒険も時には良いでしょ?」

 その後はミチナガとガゼルは随分と打ち解け、酒も入り出して話は盛り上がった。もうガゼルも特に警戒した様子はない。その様子を見られてミチナガも安心した。なんせ周囲の護衛の騎士達が気を揉んでいるのがよくわかったからだ。

 冒険家とはいえ怪しげなやつと、王であるミチナガが警戒されながら、時には殺気を出されながら話をするなど心配でしょうがなかったのだろう。

 そしてその翌日、ガゼルにも協力してもらって周囲の避難民を集めた。随分と人数が増えてきたが、さらにその翌日にやってきた避難民保護部隊が全員保護してセキヤ国まで運んでくれた。その際にガゼルも同行してセキヤ国へ向かった。

 もう少し冒険家の話を聞きたかったミチナガではあるが、自身も急ぐ旅路である。その後も避難民を保護しながら何とか海岸線に出ることができた。ようやくここまで来られた。ここからは海を渡り、乱立する諸王国を抜ければ英雄の国だ。
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