スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第292話 戦いとも呼べぬ戦い

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 この港町は海運の中継地点として、めまぐるしい発展を続けてきた。しかし発展を続ければそれに少しでもあやかろうと多くの商会が参入してくる。しかし下手に商会同士で争いごとが起こると海運に影響が出かねない。

 そのため、この港町の発展に貢献した3つの商会がこの港町を取り仕切ることが決まった。それが現在の3大商会の始まりだと言われている。足並みをそろえたこの3大商会によってこの港町は今まで平穏を保ち続けてきた。

 そんな3大商会が集まるこの3大商会会議はこの港町の今後に大きく影響する。この会議で、もしも目をつけられた他の商会はまず間違いなくこの港町にはいられない。そのためこの港町中の人々が大きく関心を寄せる会議でもある。

 そんな3大商会会議に異変が起きていた。長年足並みをそろえていた3大商会の足並みが揃わなくなったのだ。それはいつものように行われていた会議で、突如シドリア商会のドルードが他の2つの商会を突き放したのだ。

「ふん!馬鹿馬鹿しい。わしは降りるぞ。」

「ドルード?もしかして…日和ったのかしら?わかっているの?私たちが成長しない限り船の発注なんて来ないわよ?」

「相手の大きさも見誤るような馬鹿と心中するつもりはないわい。決まりもあるから会議にはこのまま出席する。だがわしはお前さんらの計画には加わらん。」

 今回の会議では3大商会によるミチナガ商会の吸収合併の目論見を立てる予定であったというのに、ドルードは頑なにそれを拒んだ。こうなってしまっては、ドルードはそう簡単に動かないことを二人は知っている。

「あら…へそを曲げちゃった。それで?もしかしてロッデイム商会も降りるつもりなのかしら?どうなの?ハーマー。ここまで計画進めたのに降りる?」

「正直…わからなくなってきた。マリリーになんとしてでもミチナガ商会を出席させるようにと言ったが……マリリー曰く格が違うそうだ。そしていざという時は辞めると言って辞表まで提出された。一体どういう事だ?…船酔いするような連中を連れた商会がそんなに格が違うなんて……ありえない……」

 3大商会のトップ、メランコド商会のメイリヤンヌ、ロッデイム商会のハルマーデイム、シドリア商会のドルードの3名はミチナガ商会を取り込むために動く予定であった。

 しかし蓋を開けてみればすでにドルードは戦意喪失、ハルマーデイムは混乱している。唯一ミチナガの情報をうまく得られていないメイリヤンヌだけは当初の予定通り動こうとしている。

 そんな彼らの背後にはそれぞれのお付きの者たちが立っている。その中にはマッテイの姿もあった。ミチナガ商会にコンタクトを取った功績としてこの場にいることを許されたのだ。そしてそんな彼らの元へミチナガの来訪が告げられた。

「ようやく来たわね。とりあえずハーマー。いつまでも混乱していると舐められるわよ。ドルードはもう降りたみたいだけど私たちの邪魔はしないでよ。だけどそうね、もしも気が変わったのならグラスの位置を右から左に移動しなさい。それを合図にするから。」

「ふん!じゃあお主らも諦めたらグラスの位置を左から右にしろ。それを合図にしてやる。」

「私たちがそんなことするわけないじゃない。ほら、お客さんが来たわよ。」

 3人が見つめる中、部屋の扉が開け放たれた。そこにはここまで先導して来たマリリーとミチナガ、それに護衛の騎士2名が立っていた。そして3人は登場したミチナガの姿を見て、驚きで目を見開いた。

 そしてようやく事態を理解した。この中で唯一ミチナガと出会っていたドルードがなぜ早々に離脱したのか。なぜマリリーが辞表まで書いて自身を守ろうとしたのか。そして全てを理解したメイリヤンヌとハルマーデイムの二人はゆっくりと近づいてくるミチナガを見ながらグラスを持ち上げ一口飲むとそのままグラスを右側に置いた。

「どうも初めまして。ミチナガ商会の商会長のミチナガです。ああ、ドルードさん、昨日は船の点検どうもありがとうざいます。マッテイさんは夕食をご馳走になりましてありがとうございます。」

「おう、良い船を見せてもらった。」

「しょ、商会長?…だ、だって下男だって…俺はそう聞いて……」

 ミチナガは微笑むとマリリーが引いてくれた椅子に座る。ミチナガが席に着くとマリリーはそのままハルマーデイムの背後に移動していく。その際にハルマーデイムに私は言いましたからね、という表情を見せるとそのまま背後に立った。

 ミチナガの背後には二人の騎士が立ちそびえている。なかなかの風格を見せているが、その前に座っているミチナガはそれ以上の風格を見せている。ミチナガの雰囲気に飲まれつつある3人の前でミチナガは口を開いた。

「まずはご招待ありがとうございます。それで…ここでは一体どのような話をしているんでしょうか?」

「ま、まあ…この街のこれからに関して…ね。ああ、私はメイリヤンヌ。メランコド商会の商会長よ。それで…ミチナガ商会っていうのはどこを拠点にしているのかしら?詮索するのは失礼だと思ったんだけど、初めて聞く商会だからつい気になって。」

「構いませんよ。今はセキヤ国が拠点ですかね。他には大きな都市だと英雄の国、海上都市、氷国、神剣様のとこのランパルド国とかですかね。他にもちらほらあります。」

「っひ!……ご、ごめんなさい…なんでもないわ。」

 メイリヤンヌは思わず悲鳴をあげた。他の二人はなんとか堪えられたようだが、それでも顔が青ざめつつある。ミチナガのあげた地名は全て魔神が治める土地だ。そこは世界で最も栄えている場所とも言える。

 だから商人は魔神の治めている土地で店を開くことを夢にするものが多い。そしてミチナガはその夢を大量に叶えまくっているのだ。それだけでミチナガ商会の大きさというものがわかる。それだけでこんな小さな港町で幅をきかせている3大商会のちっぽけさを惨めに思ってしまう。しかしそれでもメイリヤンヌは挫けずに会話を続けた。

「お、主にどんなものを扱っているのかしら?」

「食料品が多いですが…後は化粧品や服飾品。映像産業にと…まあ手広くやらせてもらっています。興味あるものにどんどん手を出すものですからこれと言った得意分野はないんですけどね。」

「そ、そうなの…」

 若干声が裏返りながらもメイリヤンヌはある程度の質問をすることができた。その手は震えている。そしてもうこれ以上は無理だから次はハルマーデイムの番だと言わんばかりの視線を送っている。もちろんそれに気がつかないハルマーデイムではないのだが、なかなか言葉が出てこない。

「そ、その…旅の目的は英雄の国ということでしたが…いかような目的で?あ、いや…すみません。深く詮索するようなことを……」

「ああ、構いませんよ。実はアレクリアル様に呼び出しくらっちゃったんです。爵位やったんだから顔を出せって。色々ごたついちゃって本来必要な1年後の顔見せすっぽかしているんです。」

「爵位!……アレクリアル様というのは勇者神の…つまりそれは世界貴族…」

「ええ、世界貴族伯爵の地位をいただきました。おかげで色々自由が効くようになったので感謝していますよ。」

 世界貴族伯爵。それを聞いた時点でハルマーデイムはぐったりとうなだれた。魔神の国に出店するだけでなく、世界貴族の地位まで与えられた。それはもう格があまりにも違いすぎる。そしてハルマーデイムの姿を見ればもうこれ以上の質問は無理だろう。ドルードは仕方ないと後を引き継いだ。

「それじゃあその後ろにいる騎士は本物の騎士か。世界貴族の伯爵っていうことは領地くらい持っているんだろ?」

「領地…は一応英雄の国近くの土地をいただきましたね。ただ彼らはそこの騎士ではなくセキヤ国の騎士です。まだ最近建国したばかりなので人も足りないのですがどうしてもついてくると言って。」

「陛下をお守りするのが我らの役目ですから。」

「…へ、陛下?ってことはお前さん……」

「陛下って言ってもまあ建国して5年も経っていない国ですよ。人が集まって国になったので、国には王が必要ってことなだけです。まあ彼らは私を信頼してくれていますから私もその信頼に応えるように日々精進しています。そうですね、肩書きで言えば…ミチナガ商会商会長、世界貴族伯爵、セキヤ国国王のセキヤミチナガです。…ああ、忘れるところでした。一応二つ名もありまして…商国の魔帝と言います。」

「魔帝クラスの商人……そんなの初めて出会ったぜ……俺の見る目もまだまだってことか…」

 シェイクス国で調べた時はまだ商王の魔帝であった。しかしあれから4ヶ月が経過した。その間に使い魔達が動きに動いたおかげで商王の魔帝という二つ名から商国の魔帝へと移り変わった。

 まあ1番の要因はアンドリュー自然保護連合同盟だろう。これのおかげで加盟国ほぼ全てにミチナガ商会を展開することができた。すでにミチナガの知らないところでミチナガ商会第100号店まで完成した。どの店舗も売り上げは好調のため、ミチナガの月の収入は数倍まで膨れ上がっている。

 そんなミチナガが自身の自己紹介をしたところで3人とその背後に立つ全員は満身創痍であった。ミチナガもまさかこんなことになるとは思ってもおらず苦笑いをしている。それからしばらく休憩を挟む。

 どうせなのでミチナガ商会のスイーツと紅茶、もしくはコーヒーを提供したところ、あまりの美味しさに目を剥いて驚いている。メイリヤンヌに至っては壊れたように乾いた笑いをあげている。これでようやくミチナガの自己紹介が終わった。そしてそれと同時に3大商会とミチナガ商会の戦いとも呼べぬ戦いも終わった。
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