スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第306話 蛍火衆

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「そしたらあいつがさ~」

「え~!そんなことが!すごいっすねぇ!」

 あれから1週間、ミチナガは蛍火衆の面々と仲睦まじそうに毎日過ごしていた。さすがに1週間も蛍火衆の頭首の元に居れば、他の蛍火衆の面々もやってくる。さすがに全員会ったわけでは無いだろうが、それでも30人以上は会うことに成功した。

 とはいえ会っても話をしてくれるのは一部のものたちだけだ。ほとんどのものたちはふらふらとやってきてそのままどこかへ行ってしまう。話してくれるものたちは普段から町民に紛れて情報収集するタイプなのだろう。人と仲良く話をするのが実にうまい。それでいてどこか壁がある。

 相手にほだされないように自分を偽って話しているのだろう。ミチナガは1週間経った今でも完全に仲良くなることはできていない。上辺だけの仲だ。

 そして世界樹の根に覆われている頭首はもうすぐ魔法が完了する。ここでもしも失敗したらミチナガの命はない。だがミチナガは失敗するとは露ほども思っていない。そもそも成功確率をよく知らないので心配することが難しい。

「なぁ、他の蛍火衆を集めに行ってくれないか?魔法が完了するまでもう1時間切ったぞ。」

「ああ、それなら問題ないですよ。一部の者たち以外は既に集まっていますから。」

「え…まじか。さすがの隠密術だな。全然気がつかなかった。」

 今部屋にいるのはミチナガと話し相手になってくれている蛍火衆の男と使い魔たちだけだ。一体どこに隠れる場所があるのかと不思議に思うが、おそらく嘘はついていない。それだけの高い隠密術だ。

「やっぱ隠密術いいなぁ…今度ナイトにでも教えてもらおうかな……あ、ナイトっていうのはうち専属の冒険者ね。ちゃんと隠密しているところ見たことないんだけどナイトもすごいんだよ。あ、でもみんなが教えてくれても良いんだよ?」

「残念ですけど極秘術ですからそれは無理ですね。」

 さらりと断られたミチナガは今度ナイトに教えてもらうと心に決めて時間が来るのを待つ。そしてその時は唐突にやってきた。

 ふと目を世界樹の方に向けると世界樹の根が徐々にスマホに戻っていく。疲れきったのかドルイドは魔法の完了を前にしてスマホに戻って行った。やがて世界樹の根が全てスマホに戻っていくとそこには一人の少年が現れた。

 この少年が先代蛍火衆の頭首の息子にして現頭首だ。その体は完全に人間のものだ。モンスターらしき部分はまるで見えていない。そんな少年を見ていると突如シェフが動き出した。

『シェフ・場所を空けて。かなりの空腹状態だから起きたらすぐに飯を食い始めるよ。』

 シェフは経験則から少年の空腹状態を見抜いた。どこをどうやってみればそんなことがわかるのかわからないが、シェフはどんどん料理を運び出す。その量は到底一人が食べる量には見えない。

 すると突如眠っていたと思われる少年が飛び起きて周囲にある料理にかぶりつき始めた。その食べ方は獣のようだ。どの食材も飲むように食べている。頭首が目覚めたと言う感激もつかの間、すぐに皆食事の準備を手伝う。

 かなり大量の食事を用意したのだが、あっという間になくなっていく。続々と運ばれる料理の数々、そして運び出される空っぽの器。あの少年の体のどこにこれだけの量の食物が入っていくのだろうか。

 すると突如少年の背中が蠢き出した。そのうごめいていたものは何かのモンスターのように化けていく。そして少年と同様に周囲の食事を食べ始めた。

「食事が足りないぞ!もっともってこい!」

『パワー・そこを退くっす!持ってきたっすよ。』

 パワーはスマホから豚の丸焼きを丸々持ってきた。少年はすかさずそれに目をつけて飛びついてきた。すると少年の体のあちこちから口のついた触覚のようなものが飛び出してその豚の丸焼きをものの数秒で平らげてしまった。

 しかしその後もスマホからは様々なモンスターの丸焼きが出てくる。それを平らげ続けること約2時間。ようやく少年の食欲は落ち着いてきたらしい。仕上げにバケツいっぱいのデザートを複数用意してやるとそれを飲み干してようやく満足したようだ。

「はぁ~~…食べた食べた。ものすごくお腹が空いちゃって…あ、みんな久しぶり。」

「お久しゅうございます若様。…いえ、我ら蛍火衆頭首。」

「……そっか。親父たちは死んだか………色々積もる話もあるだろうけど…そこの御仁は誰だ?」

「ミチナガだ。お前の治療をした。それにしても体すごいことになっているな。少し触診するぞ。その身体から出ている触覚は操れるのか?」

 ミチナガはすぐに何人か使い魔を呼び出して頭首である少年の診察をする。いくつか診察していくが、どうやら多少の記憶の混濁を除けば少年の精神は問題ないらしい。まあ少し野生的な本能も強くなっているようではある。

「それじゃあ…人間食べたいみたいな欲求はないんだな?」

「ないな。人間よりも普通の料理の方がうまい。…ただ飢えたらどうなるか正直どうなるかわからん。まともな思考ができなくなる。」

「なるほどなぁ…まあ野生的なことなんだろうな。動物やモンスターだって美味いところを食べたい。まずいものを食べるのはよほど飢えているか味覚がないものだけだ。人間の味覚があるから基本的に料理を食べることが優先されるんだろ。ただしばらく体を動かすのは禁止だな。診察中もそうだが自分の肉体を御しきれていない。」

 診察中に突如体が変化したり、攻撃性…というより診察から身を守るための防御性が出てきたのだろう。軽く使い魔たちが怪我をした。ただ命に関わるレベルではない。

 それから丸一日、蛍火衆たちだけでの話し合いが行われるため、ミチナガは一度商館に帰還した。他のセキヤ国の面々には心配させたが大きな戦力を得ることができた。そしてその翌日、改めて蛍火衆と話し合いが行われた。

 話し合いのために再びどこかへ連れ去られて目の前が暗転した。そして次の瞬間には大きな広間に出ていた。今日のために作られたと思われる話し合いの場だ。蛍火衆の全員が集まっている。そしてその一番前には頭首である少年がいた。

「それではミチナガ殿。改めて名乗らせていただきます。蛍火衆頭首、ホタルであります。この名は頭首だけが名乗れる名であります。今までは幼名もございましたが、これからはホタルとお呼びください。」

「そうか。ではホタル。よろしく頼む。さて、俺が名乗る前にいくつか質問がある。蛍火衆は現在ダエーワの一員として働いているがこれからはダエーワとは一切関わりを無くしてこちらについてくれるのか?」

「私の治療の条件がそうなっていた。その約束は守る。」

「それは他の者たちも納得しているのか?誰も反対意見はないか?ホタル。お前はつい一昨日まで眠っていた。蛍火衆全員がお前についてきてくれるという確信はあるのか?すでに裏切られているとは思わないのか?」

 ミチナガの発言に他の蛍火衆から殺気が漏れ出す。殺伐とした空間に変わってしまった。しかしこれは重要なことだ。下手にここで情報が漏れたらミチナガたちはお終いだ。こちらの味方に対して敵があまりにも多すぎる。

 しかしミチナガのそんな言葉に対してホタルは微笑んでみせた。その表情からはなんの心配も感じられない。

「我ら蛍火衆に裏切りはない。我々は皆家族だ。私はそう思っている。これまでの歴代の頭首もそう思ってきたはずだ。信じてほしい。この通りだ。」

 ホタルは頭を下げた。まだ幼いながらもその姿には風格が見え始めている。将来は大物になることだろう。そして部下も良い者たちが揃っている。彼らは隠密のプロだ。彼らは決して情報を漏洩するようなヘマはしないだろう。そしてミチナガはそれを信じた。今は猶予がない。

「ホタル、頭を上げろ。すまなかったな。こっちもギリギリなんだ。こっちも戦力を準備できればよかったんだけどな。戦力不足だから余裕がないんだ。では俺も名乗ろう。セキヤ国国王にしてミチナガ商会商会長。商国の魔帝セキヤミチナガだ。お前たちにはこれより始まるこの国のダエーワとの全面衝突の際に動いてもらうぞ。」

「…まさか国王であり魔帝クラスでもあったなんて……しかし相手はダエーワ。商人の魔帝クラスとしては世界で5本の指に入るほどの強大な組織ですよ。…勝ち目はありますか?」

「勝つんだよ。小悪党になんぞ負けてたまるか。もう時間がない。大規模作戦開始までこれから忙しく働いてもらうからな。」


 ミチナガ商会。闇組織ダエーワとの全面戦争開始まで残り4日。
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