スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第344話 英雄の誕生を

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「みんなぁ!酒は持ったな!それじゃあ…我らが王に!そして我らが英雄に!乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 ミチナガが勇者神より英雄の名誉を授かった日の夜。セキヤ国では国全体でお祭りが開かれた。皆涙を流して喜んだ。彼らはまだミチナガが英雄になると決まる前から英雄になることを信じていた。その夢が叶い、全世界に自分たちの王は英雄でもあるのだと胸を張って言うことができる。

 そんな人々は皆ミチナガに会った時の話をする。この国に住んでいてミチナガのことを見たことがないのはほんの数%だ。隔離施設にも顔を出すミチナガの顔は広く知れ渡っている。だから皆初めて出会った時のことを鮮明に覚えており、その印象を話す。

「俺は初めて出会った時からこの人は英雄だと思ったね!あの精悍な顔立ち。あの凛々しい佇まい。」

「それに俺たちを地獄から救ってくれた。今でもあの時のことを夢に見る。食えそうなものはなんでも食った。あんな小さな蟻でさえ美味しく感じたくらいだ。辛かった…本当に辛かった。あの人が英雄に選ばれるのは当然のことだ。」

 皆がミチナガのことを信頼し、敬愛している。そんな中、一部の人々が花やら酒やら食事やらを持ってどこかへ向かっている。彼らが向かった先はこの国の中央にある大広場の石碑だ。この石碑には多くの人々の名が刻まれている。

 ここに刻まれた人々はかつて火の国でミチナガを助けるために戦い、命を落とした者たちだ。そんな彼らの名が刻まれた石碑の前には溢れるほどの花や酒や食事が置かれている。

「ミチナガ様が英雄になりましたよ。あなたたちが命を賭して守った…我々の偉大な…愛する王様は…世界に認められる英雄に…ありがとう…ありがとう……みんなのおかげだよ…」

「弟よ!我が弟よ!誇れ!我らが王は世界に名を残す英雄になったぞ!お前が守った人は…お前が命をかけるだけの……それだけの人になったぞ…」

 皆思い思いの言葉を述べながら涙を溢れさせている。とめどなく溢れ出る涙は石碑の前を濡らし、水たまりができるのではないかと思うほどだ。すでにこの石碑にはミチナガが英雄に認められてからと言うもの絶えず人が訪れている。

 ミチナガは世界に認められる英雄になった。そして彼らはそのミチナガを守ったこの国の英雄だ。彼らがいなければミチナガという英雄は生まれなかった。彼らのおかげでミチナガは英雄になれた。だから人々はこの石碑に刻まれた人々の名を永遠に忘れることはない。

 そんなミチナガの英雄を祝う祭りは丸3日続いた。その後も続ける予定であったのだが、皆忙しくなってしまい祭りを続けることができなくなった。なぜならミチナガが英雄になったことを聞きつけて保護を願う避難民が押し寄せてきたのだ。

 この避難民たちはこれまでセキヤ国で避難民を保護しているという話を信じることができず、保護部隊の説得に応じずに森の中やその辺で暮らしてきたものたちだ。そんな彼らはセキヤ国の王が勇者神に認められた英雄だと知って保護を求めてきたのだ。

 勇者神に英雄に認められるというのは大きな意味を持つ。英雄とは人々を助け、悪を討ち亡ぼす。そういった掟のようなものがある。つまりミチナガが悪事を働けばそれは英雄たる器ではないとみなされ勇者神にその称号を剥奪される。

 だから英雄であるのならば避難民を保護しているという話も信じることができる。その行いは英雄たりえるものであるからだ。だから難民は保護を求めてきた。英雄になったことで得た社会的保障による大きな影響だ。

 これにより祭りをしている暇はなくなったのだ。英雄になったことで今後も増えていく避難民を対処しなくてはならない。だがこれによりこれから毎年この3日間は英雄を讃える日として国民の祝日になった。

 これがもしも5日や1週間になったら休みすぎで国の運営にも色々影響が出たことだろう。翌年にそのことを知った使い魔たちはホッと胸をなでおろした。




 そしてミチナガが英雄になったという知らせは他にも知られている。その知らせを聞いた少女はメイドたちの制止を振り切って駆けている。そして勢いよく扉を開いた。

「お父様!ミチナガ様が英雄になられたと!」

「ああ、今聞いたところだ。勇者神から世界貴族、大公の地位を授かったということだ。本来大公に選ばれるのは12英雄のみ。しかし過去を調べれば12英雄以外にも英雄と認められたケースがある。まあ今代の勇者神が12英雄以外の英雄を選ぶのは初めてのことだな。それよりもリリー。確か今日は学校のはずじゃ…」

「居ても立ってもいられず飛び出してきました。お父様お願いです。今ならミチナガ様も英雄の国にいらっしゃるはずです。私たちも英雄の国に向かってミチナガ様のことを祝いたいです。」

 ユグドラシル国で一番大きな屋敷。その屋敷で執務を行なっていたリカルドの元に大慌てでリリーがやってきた。リリーはミチナガが英雄として認められたことを喜んでいるが、それ以上に久しぶりにミチナガに会いたいという欲求が募っているのだ。

「私にも公務と言うものがあってね。それにリリー…残念だが英雄の国に行ってもミチナガと会うのは難しいだろう。今や彼は大公、こちらは世界貴族では子爵だ。あまりにも差がある。英雄に選ばれれば多くの者たちは一目見ようとやってくる。そんな中で子爵の私たちが行ったところで会うことは叶わない。」

 ほんの数年前まではミチナガは貴族でもない遥か下の地位であった。それが今や世界貴族大公にして英雄。雲の上の存在になってしまったミチナガと会って話をすることは困難だ。しかしそれを聞いたリリーの瞳には闘志が宿った。

「確かにお父様の言うとおりですわ。だったら追いつくまでです!私がミチナガ様に追いついた時…もう一度この思いを口にします。」

「い、いや…そんなこと考えなくても…ま、まだ子供なんだし…」

「もう14歳になります!私はもう子供ではありません!…そう考えるとまずいですわ。適齢期を考えれば…1日たりとも無駄にはできません!」

 そう言うとリリーは部屋を出て何処かへ行ってしまった。ロザリオの呪いで死にかけていた頃とはまるで別人だ。もう立派な大人…しかしリカルドの中ではまだまだ子供。なんせ4歳の頃から寝たきりで、ようやく呪いが消えてリリーの成長を見られるようになった。

 だからまだまだ可愛い子供なのだが、どこか大人びてきた。その様子を見たリカルドは仕事が手につかなくなり頭を抱える。こんな時どうしたら良いのかまるでわからない。

「あの行動力は一体誰に……いや、間違いなく母親譲りだ。恋のためなら平民から貴族になる。きっとリリーも…ああ、間違いない。間違いなく諦めない。ああ、私はどうしたら…リリー……私の可愛いリリー…そんなに急いで大人になろうとしないでくれ……」

 その日のリカルドは思考がまとまらず仕事が手につかなかった。いつか来てしまう愛しいリリーの嫁ぐ日が。そんな日が永遠にこなければ良いのにと考えるリカルドであった。




 ミチナガが英雄に選ばれてから1週間後。とある森の川辺で釣りをしている者たちの姿があった。手慣れた手つきで魚を釣り上げる老人たちはなんとも楽しそうに話をしている。

「まさかあの若造が英雄にまで至るとはな!人間というものはわからんもんじゃ。」

「それをいうならアンドリューの倅もそうじゃ。あいつも今やなんとか同盟っていうのを作ったろ?」

「アンドリュー自然保護連合同盟だ。この国もすでに加入している。おかげで世界が大きく変わりつつある。王も戦争のための準備を取りやめ、国の発展に注力しだした。おかげで執務が増えて肩がこる。」

「もうその執務もあらかた方がついただろ。戦争の心配がなくなり練兵の時間も減ったから子供達に貴族として執務をやらせる。そのおかげで久方ぶりにこうして皆が集まり釣りができるんだからな。なあファルードン?」

「がはははは!よもやジャゼル、お前の言っていたことが本当に叶うとはな。アンドリューの一族は世界を変える一族か。」

 ファルードン伯爵は昔のことを思い出す。かつての友が言っていた世迷い言、己が託された使命を果たすのだと言って世界を変えるためにはどうすれば良いかなどと、そんな相談を酒に酔うたびにされた。

 今は亡き友アンドリュー・ジャゼル。彼は世界を変えるまでは至らなかった。しかしその孫、アンドリュー・グライドは英雄となる男を見つけ、まとまりのなかった諸王国群を束ね、今や世界最大の連合同盟を結成し、魔帝クラスまで至った。

 見事世界を変える男になった。アンドリューの一族は世界を変える一族として世界に知られるようになった。あんた頼りない、釣りしか知らないような若造が釣竿一本で見事世界を変えた。これを思い出すとファルードン伯爵は笑いが止まらなくなる。

「世界を変えるのに武器はいらねぇか。なんだか…久しぶりに会いたくなったな。なあ皆!もう仕事は子供らに引き継いただろ!久しぶりにどうだ!昔を思い出して旅でも。ルシュールの大将のところに行って転移でもしてもらえば多少は楽できるだろ。我らが友に会いに行かないか?」

「アンドリューの孫か!いいな!」

「偉くなったんだから酒でも奢ってもらうか。それに良い釣り場も教えてもらおう。今日集まれていない奴らにも声かけておくか。」

「俺らみたいな死にかけ老人じゃ最後の旅になるかもな!行く前にみんなで遺書でも書いておくか?」

「俺は譲れるもんはみーんな譲っちまったから遺書もいらねぇよ!とりあえず友の墓に挨拶回りでもしておくか!近々そっちに行くってよ!」

「がはははは!そうとなりゃ決まりだ!旅に出るぞ!」

 こうして平均年齢80歳越えのおじちゃんたちの旅は始まった。今は亡き友の孫に会うために。

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