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第368話 信じる者
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石畳の道。その道の脇では幾人もの人々が商品を売っている。野菜に果物、魚に肉などの食料品や布や料理道具のような生活用品まで様々だ。この道はこの国に住む人々には欠かせない商店街のような場所だ。
今日も元気に食料品を買う女性はこの国の兵士の奥さんだ。頑張っている旦那のために力のつく料理を作ろうと人数分よりも多めの食材を購入していく。その隣では他の客が金に余裕がないのかなるべく安いものを中心に買っていく。
様々な人々が行き交うここは英雄の国。貧富の差はあれど、基本的に皆暮らしていくことはできる。世界的に見ても比較的裕福な国だろう。そんな人々が行き交う道から外れ、複雑な小道に入っていくものたちがいる。
そのものたちはコソコソと歩き回ると一つの家に入っていく。あまりに怪しい彼らの動きを屋根の上から監視するものがいる。ミチナガの使い魔たちだ。彼らはミチナガが引き受けた法国の密偵と思われる者達を監視している。
『デルタ497・ここで間違いないみたいですね。それじゃあミニマムさん、お願いします。』
『ミニマム・りょうかーい。』
小指の爪ほどしかないミニマムはネズミの背中に乗り彼らの集会場所へと侵入した。内部に侵入すると集まっている人々の監視を行うのだが、誰もがただ祈りを捧げているだけだ。
この国で法国と同じように神に祈るのは難しい。なんせ法国はこの国にちょっかいを出し続けている。それにより被害を受けた者達もいるのに大々的に祈りを捧げることは難しいだろう。彼らはまるで隠れキリシタンのようだ。
そんな彼らがこの国で騒動を起こすとアレクリアルは予見しているが、まるでその兆しが見られない。彼らはただの教徒だ。過激な思想とかそういったものはまるで感じ取れない。それは彼らが去った後に部屋を調べて見ても何もないことが物語っている。
こんな場所が英雄の国には十数か所、周辺国でも似たようなものを数十か所見つけたがどれも同じだ。ただのおとなしい教徒。これだけを見るとアレクリアルが何を根拠に法国が攻め込んでくると言っているのかわからない。
『ミニマム・ここもダメか…そうなると証拠が得られそうなのは貴族の屋敷とかだよなぁ…』
彼らの集会所から何も得られないのならば裏切る可能性のある貴族の屋敷を調べた方が得策だろう。ただ貴族の屋敷はどこも警備が厳しい。使い魔達も侵入するのは容易ではない。
ただ逆に使い魔達が特に警備が厳しいと思う場所はいくつかピックアップできた。法国が何か考えているのであれば警戒は徹底的にするはずだ。だから逆に使い魔達が侵入することは無理だと諦めた場所が怪しい。
ただ、使い魔達が侵入できないと諦めたのにそこにどうやって侵入するかだ。侵入しなければ情報は得られない。出入りする人や物を監視するのも良いが、証拠となるものを確保したいのだ。だからそのためにプロを呼び寄せた。
「只今推参致しました。」
『デルタ497・あ、もう来てくれた。それじゃあこのリストにある貴族の屋敷に侵入して法国と繋がりを示す証拠を入手して。頼んだよ蛍火衆。』
使い魔達は蛍火衆の一部に召集をかけて潜入を任せた。彼らは侵入、暗殺のプロだ。使い魔達では無理でも彼らならきっとやり遂げてくれるだろう。使い魔達は引き続きリストにあるもの達の調査だ。
そんな使い魔の予想は大きく的中し、蛍火衆はどんどん貴族の屋敷に侵入して内部の調査を行った。大抵は愛人を囲うためや、家宝を守るための万全の警備が理由であったが、いくつか怪しげな家はあった。食料品や武器などを大量に買い集めているもの達がいたのだ。
ただ、そんな彼らが法国と繋がっているかというとそれはわからなかった。ただ武器や食料を集めている、そのくらいしかわからないのだ。書類を徹底的に調べ、会話も調べ上げたがこれといって怪しい点はない。
ただそんな中で蛍火衆であっても侵入は難しいという屋敷があった。おそらくそこは法国とつながる証拠を隠し持っている可能性が一番高いだろう。なんとかして潜入したいものだが、蛍火衆が難しいというのに潜入することができるものなど誰もいない。
そのため仕方なく蛍火衆と使い魔達でその屋敷を徹底的に監視し続ける。もしも隙があれば蛍火衆に侵入してもらうつもりだが、そうそうやってこないだろう。それにこの屋敷が怪しいという予測も外れて欲しいという気持ちが若干ある。
『デルタ497・まさかシンドバル商会の屋敷を見張ることになるなんて……本当に裏切るつもりなのかな…ラルドさん。』
『ミニマム・ボスがいてくれたら面会とか色々何か称して侵入したり、話を聞いたりできるかもしれないけど……正直もどかしいね。』
英雄の国で一番怪しい屋敷の持ち主がラルド・シンドバルという事実に困惑する使い魔達。この事実をミチナガに報告するのは難しいだろう。なんとか早い段階でラルドとコンタクトを取り、説得できないかと考える。
ただその後の情報収集でもラルドが屋敷から出ることすらなく、接触する機会すらない日々が続いた。
どんなに他を調べても法国がこれから起こすと考えられている騒ぎに関与しているもの達の情報は得られない。どこをどう調べても何も出てこないのだ。後の可能性はラルドの屋敷しかない。蛍火衆も命がけで侵入を試みると言ってはくれるが、侵入がバレればそれだけでも大問題だ。確実にバレずに侵入する必要がある。
そこで使い魔達は貴族達を通じて一人の世界貴族と会うことに成功した。それはラルドを世界貴族に推薦したブランターノ公爵だ。ブランターノ公爵ならばラルドと密接な関係があるため屋敷内に入ることも可能なはずだ。
ただそのためにはブランターノ公爵にも事情を説明しなければならない。そのことがネックだったが、アレクリアルはブランターノ公爵は信頼できると話すことを認めてくれた。使い魔達はすぐにブランターノ公爵と秘密裏に会い事情を説明した。
「そんなバカな…ラルドがそんなわけ……何かの間違いです。」
『アルファ446・我々もそう思っています。ですがここ最近ラルドの屋敷を監視し続けましたが、ラルドが一向に屋敷から出ないんです。せめて話だけでもしたいと思い…なんとかなりませんか?』
「わかりました。そういうことならなんとかしましょう。私はラルドを信じている。彼は英雄に憧れる一人の男だ。彼ならきっと英雄になれると信じている。だからこそ…彼の無実を示すためになんとかしましょう。」
快諾したブランターノ公爵はすぐにラルドの屋敷に使いを出した。しかしラルドの屋敷のもの達はラルドは現在出かけている、用事があるといい面会を謝絶した。そしてある時、ラルドの体調が優れないので断ると言われた時にブランターノ公爵は動いた。
「体調が優れないとなれば見舞いに行くのが通りだ。馬車の用意を、それから護衛も呼ぶんだ。」
「かしこまりました旦那様。」
「それから…英雄ミチナガの使い魔にも連絡を取れ。これからラルドに会いに行くとな。」
なかなかの強硬策だが、屋敷にいるという確認さえ取れれば会うことは可能だ。出かけていると言われたら会うことはできないが、体調不良で休んでいるというのであれば会える。そしてすぐに呼び出された使い魔と作戦会議を行う。
『ミニマム・僕たちはブランターノ公爵の服のどこかに隠れておきます。そして隙を見て散らばります。こちらの回収は不要です。ただできれば注意をそちらに引いておいてください。その方が調査ははかどりますので。』
「わかった。では行こう。」
ブランターノ公爵はすぐに馬車に乗りラルドの屋敷へ向かう。その表情には緊張感があった。ラルドはすでにアレクリアルに目をつけられている。優秀な人間としてではなく、危険人物としてだ。
だがブランターノ公爵はラルドを信じている。ラルドならばいつか英雄に至れることを。だからこそラルドの身の潔白を証明し、アレクリアルの役に立つということを証明してみせる。そう考えればこれはチャンスとも言える。
数多くの世界貴族がいる中でラルドは現在悪い意味の方だが目立っている。だからこれを利用して、ここで活躍して見せれば評価も上がるはずだ。そうすればラルドはさらなる地位を目指せる。そう、これはチャンスなのだ。チャンス…
だがどれだけチャンスだと思ってもブランターノ公爵は嫌な汗が止まらない。本当はチャンスではないのではないかと、自分は何か強烈な間違いを起こしているのではないかと。しかしそれでもブランターノ公爵は止まろうとだけはしなかった。
「ラルド…私は君を信じている。だが…もしも君が……間違いを起こそうとしているのならば私は君を止めてみせる。君を正してみせる。たとえ…たとえこの命に代えても。」
ブランターノ公爵が乗る馬車は進む。やがてその前方にはラルドの屋敷が見えてきた。
今日も元気に食料品を買う女性はこの国の兵士の奥さんだ。頑張っている旦那のために力のつく料理を作ろうと人数分よりも多めの食材を購入していく。その隣では他の客が金に余裕がないのかなるべく安いものを中心に買っていく。
様々な人々が行き交うここは英雄の国。貧富の差はあれど、基本的に皆暮らしていくことはできる。世界的に見ても比較的裕福な国だろう。そんな人々が行き交う道から外れ、複雑な小道に入っていくものたちがいる。
そのものたちはコソコソと歩き回ると一つの家に入っていく。あまりに怪しい彼らの動きを屋根の上から監視するものがいる。ミチナガの使い魔たちだ。彼らはミチナガが引き受けた法国の密偵と思われる者達を監視している。
『デルタ497・ここで間違いないみたいですね。それじゃあミニマムさん、お願いします。』
『ミニマム・りょうかーい。』
小指の爪ほどしかないミニマムはネズミの背中に乗り彼らの集会場所へと侵入した。内部に侵入すると集まっている人々の監視を行うのだが、誰もがただ祈りを捧げているだけだ。
この国で法国と同じように神に祈るのは難しい。なんせ法国はこの国にちょっかいを出し続けている。それにより被害を受けた者達もいるのに大々的に祈りを捧げることは難しいだろう。彼らはまるで隠れキリシタンのようだ。
そんな彼らがこの国で騒動を起こすとアレクリアルは予見しているが、まるでその兆しが見られない。彼らはただの教徒だ。過激な思想とかそういったものはまるで感じ取れない。それは彼らが去った後に部屋を調べて見ても何もないことが物語っている。
こんな場所が英雄の国には十数か所、周辺国でも似たようなものを数十か所見つけたがどれも同じだ。ただのおとなしい教徒。これだけを見るとアレクリアルが何を根拠に法国が攻め込んでくると言っているのかわからない。
『ミニマム・ここもダメか…そうなると証拠が得られそうなのは貴族の屋敷とかだよなぁ…』
彼らの集会所から何も得られないのならば裏切る可能性のある貴族の屋敷を調べた方が得策だろう。ただ貴族の屋敷はどこも警備が厳しい。使い魔達も侵入するのは容易ではない。
ただ逆に使い魔達が特に警備が厳しいと思う場所はいくつかピックアップできた。法国が何か考えているのであれば警戒は徹底的にするはずだ。だから逆に使い魔達が侵入することは無理だと諦めた場所が怪しい。
ただ、使い魔達が侵入できないと諦めたのにそこにどうやって侵入するかだ。侵入しなければ情報は得られない。出入りする人や物を監視するのも良いが、証拠となるものを確保したいのだ。だからそのためにプロを呼び寄せた。
「只今推参致しました。」
『デルタ497・あ、もう来てくれた。それじゃあこのリストにある貴族の屋敷に侵入して法国と繋がりを示す証拠を入手して。頼んだよ蛍火衆。』
使い魔達は蛍火衆の一部に召集をかけて潜入を任せた。彼らは侵入、暗殺のプロだ。使い魔達では無理でも彼らならきっとやり遂げてくれるだろう。使い魔達は引き続きリストにあるもの達の調査だ。
そんな使い魔の予想は大きく的中し、蛍火衆はどんどん貴族の屋敷に侵入して内部の調査を行った。大抵は愛人を囲うためや、家宝を守るための万全の警備が理由であったが、いくつか怪しげな家はあった。食料品や武器などを大量に買い集めているもの達がいたのだ。
ただ、そんな彼らが法国と繋がっているかというとそれはわからなかった。ただ武器や食料を集めている、そのくらいしかわからないのだ。書類を徹底的に調べ、会話も調べ上げたがこれといって怪しい点はない。
ただそんな中で蛍火衆であっても侵入は難しいという屋敷があった。おそらくそこは法国とつながる証拠を隠し持っている可能性が一番高いだろう。なんとかして潜入したいものだが、蛍火衆が難しいというのに潜入することができるものなど誰もいない。
そのため仕方なく蛍火衆と使い魔達でその屋敷を徹底的に監視し続ける。もしも隙があれば蛍火衆に侵入してもらうつもりだが、そうそうやってこないだろう。それにこの屋敷が怪しいという予測も外れて欲しいという気持ちが若干ある。
『デルタ497・まさかシンドバル商会の屋敷を見張ることになるなんて……本当に裏切るつもりなのかな…ラルドさん。』
『ミニマム・ボスがいてくれたら面会とか色々何か称して侵入したり、話を聞いたりできるかもしれないけど……正直もどかしいね。』
英雄の国で一番怪しい屋敷の持ち主がラルド・シンドバルという事実に困惑する使い魔達。この事実をミチナガに報告するのは難しいだろう。なんとか早い段階でラルドとコンタクトを取り、説得できないかと考える。
ただその後の情報収集でもラルドが屋敷から出ることすらなく、接触する機会すらない日々が続いた。
どんなに他を調べても法国がこれから起こすと考えられている騒ぎに関与しているもの達の情報は得られない。どこをどう調べても何も出てこないのだ。後の可能性はラルドの屋敷しかない。蛍火衆も命がけで侵入を試みると言ってはくれるが、侵入がバレればそれだけでも大問題だ。確実にバレずに侵入する必要がある。
そこで使い魔達は貴族達を通じて一人の世界貴族と会うことに成功した。それはラルドを世界貴族に推薦したブランターノ公爵だ。ブランターノ公爵ならばラルドと密接な関係があるため屋敷内に入ることも可能なはずだ。
ただそのためにはブランターノ公爵にも事情を説明しなければならない。そのことがネックだったが、アレクリアルはブランターノ公爵は信頼できると話すことを認めてくれた。使い魔達はすぐにブランターノ公爵と秘密裏に会い事情を説明した。
「そんなバカな…ラルドがそんなわけ……何かの間違いです。」
『アルファ446・我々もそう思っています。ですがここ最近ラルドの屋敷を監視し続けましたが、ラルドが一向に屋敷から出ないんです。せめて話だけでもしたいと思い…なんとかなりませんか?』
「わかりました。そういうことならなんとかしましょう。私はラルドを信じている。彼は英雄に憧れる一人の男だ。彼ならきっと英雄になれると信じている。だからこそ…彼の無実を示すためになんとかしましょう。」
快諾したブランターノ公爵はすぐにラルドの屋敷に使いを出した。しかしラルドの屋敷のもの達はラルドは現在出かけている、用事があるといい面会を謝絶した。そしてある時、ラルドの体調が優れないので断ると言われた時にブランターノ公爵は動いた。
「体調が優れないとなれば見舞いに行くのが通りだ。馬車の用意を、それから護衛も呼ぶんだ。」
「かしこまりました旦那様。」
「それから…英雄ミチナガの使い魔にも連絡を取れ。これからラルドに会いに行くとな。」
なかなかの強硬策だが、屋敷にいるという確認さえ取れれば会うことは可能だ。出かけていると言われたら会うことはできないが、体調不良で休んでいるというのであれば会える。そしてすぐに呼び出された使い魔と作戦会議を行う。
『ミニマム・僕たちはブランターノ公爵の服のどこかに隠れておきます。そして隙を見て散らばります。こちらの回収は不要です。ただできれば注意をそちらに引いておいてください。その方が調査ははかどりますので。』
「わかった。では行こう。」
ブランターノ公爵はすぐに馬車に乗りラルドの屋敷へ向かう。その表情には緊張感があった。ラルドはすでにアレクリアルに目をつけられている。優秀な人間としてではなく、危険人物としてだ。
だがブランターノ公爵はラルドを信じている。ラルドならばいつか英雄に至れることを。だからこそラルドの身の潔白を証明し、アレクリアルの役に立つということを証明してみせる。そう考えればこれはチャンスとも言える。
数多くの世界貴族がいる中でラルドは現在悪い意味の方だが目立っている。だからこれを利用して、ここで活躍して見せれば評価も上がるはずだ。そうすればラルドはさらなる地位を目指せる。そう、これはチャンスなのだ。チャンス…
だがどれだけチャンスだと思ってもブランターノ公爵は嫌な汗が止まらない。本当はチャンスではないのではないかと、自分は何か強烈な間違いを起こしているのではないかと。しかしそれでもブランターノ公爵は止まろうとだけはしなかった。
「ラルド…私は君を信じている。だが…もしも君が……間違いを起こそうとしているのならば私は君を止めてみせる。君を正してみせる。たとえ…たとえこの命に代えても。」
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