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第382話 セキヤ国の死闘
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「なぁ…本当に来ると思うか?」
「信じられねぇけど…来るんだろうよ。そういう話だ。」
「シェイクス国は可哀想にな。せっかく敵が船で来ると思って用意しておいたのに。」
「まあ上陸された時のことも考えて陸軍も強化しておいたから問題ないだろうよ。」
「全軍傾聴!偵察部隊が帰還した!!30分後に全軍広場に集合せよ!」
セキヤ国の防壁の上で待機していた兵士たち全員に聞こえるほどの声量で招集命令が下された。誰もが不安になりながら言われた通りに持ち場を離れる。持ち場を離れ防壁の下に降りると他の者達と合流する。そうして人が集まりだせばさらに不安は増長し、ざわめく声も大きくなる。
広場に全軍が集結すると一人一人は小声でも合わさることで巨大な音になる。そんな彼らの元にイシュディーンが現れた。イシュディーンは現在セキヤ国国軍の全ての軍権を委譲されている。そんなイシュディーンが現れると先ほどまでのざわめきが嘘のように止んだ。
「先ほど偵察部隊が帰還した。彼らの情報をまとめると明朝には法国と火の国の軍隊がこの地に集結するとのことだ。」
ところどころから呻き声のようなものが聞こえる。しかし大きな動揺にはならない。彼らも不安がってはいたが、こうなることも覚悟している。故に彼らの士気は落ちない。
「明朝、日の出前に全軍再び集結せよ。それまでは各自家族と暮らせ。…皆の中には明朝以降家族と会えなくなるものもいるだろう。明日から始まる戦いは戦争難民であった我々でも経験したことがないほど苛烈なものになるだろう。だがそれでも我々は戦わなくてはならない。もう2度と故郷を失わないために…愛するもの達を守るために。」
イシュディーンはありのままにすべて伝えた。ここにいる皆は知っている。戦争というものを。戦争をありありと経験した。その醜さも残酷さもその全てを経験した。だからこそ戦争なんてものはしたくないと思っている。しかし彼らは知っている。この戦争がなんのためなのかを。
故に彼らは憎むべき戦争をするのだ。全てを失わないために戦うのだ。全てを手放さないために、平和な明日を手に入れるために。そのために憎悪する戦争をする。
「臆しても良い。恐怖しても良い。戦争の恐怖を、死の恐怖を知らぬ我々ではない。その恐怖を知るからこそ怯える。それは恥ずべきことではない。恥ずべきことは立ち上がらぬことだ。恐怖から目を背けても去ってはくれない。今我々に襲いかかる恐怖は…皆の家族を、愛するもの達を襲う。我々が皆を恐怖から守るのだ。我々がこの国を守護するのだ。」
今回の法国との戦いにおいて負けはありえない。負ければ全てを失う。逃げるということもありえない。彼らに逃げる先はない。だからどんなに恐怖し足がすくんでも立ち上がらねばならない。
「今…この国に我らが王、ミチナガ様はいない。しかしミチナガ様も戦っておられる。この法国と英雄の国との戦いの最前線である英雄の国でだ。我らはミチナガ様の留守の間、この国を任された。ミチナガ様が帰還するその時まで我々がこの国を守り抜くぞ!!」
「「「おう!」」」
イシュディーンの演説によりセキヤ国軍の士気は高まった。しかし彼らはこの後一度解散し家族の元へと帰っていく。士気を高めるタイミングが早かったのではないかと思うが、兵士たちの士気が高まったことで町の人々も、戻ってきた兵士たちの士気に当てられて町の人々まで士気が向上している。
戦争は兵士も町の人々も全ての人々が一致団結する方が強い。イシュディーンの狙いはここにあった。おかげで変な動揺も見られない。町の人々が下手に動揺すればそちらにも人が必要になってしまう。大軍を相手にする現状では一人でも戦力を欠けさせたくない。
その日は町のあちこちで宴会騒ぎが起きた。ハメを外すものも多いが、誰も咎めることはなかった。どんなにハメを外していても明日のことを考えて酒を飲む量だけは減らしていた。彼らに油断はない。そして兵士は誰一人欠けることなく日の出前に再び集結した。
集結した兵士たちの表情はイシュディーンが演説した時よりも精強に見える。一晩経ったことでさらに士気が高まったようだ。一応朝用の演説も考えてきたが、これ以上の演説は彼らには必要ないだろう。イシュディーンはそのまま彼らに指示を出す。
そして皆が小部隊に別れて各々で武装を整え、全員が持ち場へ移動しようとした時、何やら賑やかな団体がやってきた。それは町からやってきたセキヤ国に住む女性達だ。
「ああ、ちょうど良かった。間に合って何よりだよ。ご飯を持ってきたから持って行っておくれ。」
運び込まれたのは大量の食事だ。いくつもの荷車に乗せられた食事が運び込まれてきた。しかし悠長に食べている暇はない。イシュディーンも少し困った表情をしたが、よく見ると一つ一つ包装されている。
「こっちは持ち場についたら食べる朝ごはん分、こっちはお腹が減った時に食べる分だよ。飲み物も用意したから持っていきな。」
「こいつはありがてぇ。おいみんな!もらったらそのまま持ち場に移動するぞ!」
一人の兵士がそういうと全員が群がって食事を受け取る。そして駆け足で自身の持ち場へと移動した。女性達によって運び込まれた大量の食事はみるみる減っていき、このままでは全員に行き渡らないのではと思われた。
すると第二陣、第三陣と新たな食事が運び込まれた。溢れんばかりの食事は余裕を持って全員に行き渡った。中には一人で二人分の食事を持っていくものもいるほどだ。しかしそれでも余った食事は一部の兵士たちにより各地へと運ばれて行った。
そして全員に行き渡ったことを確認してから最後にイシュディーンも受け取りに行った。イシュディーンは運んできてくれた女性達一人一人にお礼を言っていく。
「ありがとうございます。おかげで皆の気持ちも高まりました。」
「いいってことよ。私たちは前線には立たないからこれくらいはね。まあでも…イシュディーン様、もしも私たちでも役に立つことがあれば言ってください。私たちだってこの国を護りたいという気持ちはあります。この気持ちだけなら男にだって負けません。」
「ええ、もちろんです。……でしたら少しお願いが…」
「早速ですね!任せておいてください。」
イシュディーンはその場にいる女性たちに指示を出すと皆嬉しそうに作業に取り掛かる。イシュディーンもこれで少し戦いが楽になるかもしれないと作戦を再考した。
そんなことを考えている地上から随分高く上がった場所、防壁の上では持ち場についた兵士たちが朝食を頬張っている。中には朝食をとらずに武器の最終確認をしているものもいる。どうやら今食べていないものは日の出を見ながら食事を食べるつもりのようだ。
そんな一人一人の思いの中、東の夜空がうっすらと明るくなってきた。ようやく日の出だと皆が明るくなってきた空を見る。ゆっくりと、ゆっくりと…ゆっくりと上がってきた太陽は、それはそれは赤かった。
そしてその日の出は皆が生涯忘れることのできない光景となる。ある者は言う、その日の出は美しかったと、これまでに見たどんな日の出よりも美しかったと。しかしまたある者は言う。その日の出ほど…恐ろしい太陽は見たことがないと。
人々は日の出によって照らされた大地を見た。そこにいるおびただしい数の敵を。砂埃が舞って敵の全てが見えたわけではない。しかしその砂埃の大きさから敵の数を感じ取った。
その数は以前シェイクス国で戦った時とは比にならない。20万、30万近くいるのではないだろうか。その敵の数に皆思わず息を飲んだ。本当に勝てるのかと怖気ついたものもいる。しかしどんなに敵が多くても勝たなくてはならない。
セキヤ国軍の者たちは武器を握る手を固く握り締めた。ついに戦争が始まるのだ。目の前にいるあの大量の軍勢と戦わなければならない。ただ少しだけ哀れなのは、日の出を見ながら朝食を取ろうとしていた者たちだ。あれだけの軍勢を目の当たりにしては食事も喉を通らない。
「信じられねぇけど…来るんだろうよ。そういう話だ。」
「シェイクス国は可哀想にな。せっかく敵が船で来ると思って用意しておいたのに。」
「まあ上陸された時のことも考えて陸軍も強化しておいたから問題ないだろうよ。」
「全軍傾聴!偵察部隊が帰還した!!30分後に全軍広場に集合せよ!」
セキヤ国の防壁の上で待機していた兵士たち全員に聞こえるほどの声量で招集命令が下された。誰もが不安になりながら言われた通りに持ち場を離れる。持ち場を離れ防壁の下に降りると他の者達と合流する。そうして人が集まりだせばさらに不安は増長し、ざわめく声も大きくなる。
広場に全軍が集結すると一人一人は小声でも合わさることで巨大な音になる。そんな彼らの元にイシュディーンが現れた。イシュディーンは現在セキヤ国国軍の全ての軍権を委譲されている。そんなイシュディーンが現れると先ほどまでのざわめきが嘘のように止んだ。
「先ほど偵察部隊が帰還した。彼らの情報をまとめると明朝には法国と火の国の軍隊がこの地に集結するとのことだ。」
ところどころから呻き声のようなものが聞こえる。しかし大きな動揺にはならない。彼らも不安がってはいたが、こうなることも覚悟している。故に彼らの士気は落ちない。
「明朝、日の出前に全軍再び集結せよ。それまでは各自家族と暮らせ。…皆の中には明朝以降家族と会えなくなるものもいるだろう。明日から始まる戦いは戦争難民であった我々でも経験したことがないほど苛烈なものになるだろう。だがそれでも我々は戦わなくてはならない。もう2度と故郷を失わないために…愛するもの達を守るために。」
イシュディーンはありのままにすべて伝えた。ここにいる皆は知っている。戦争というものを。戦争をありありと経験した。その醜さも残酷さもその全てを経験した。だからこそ戦争なんてものはしたくないと思っている。しかし彼らは知っている。この戦争がなんのためなのかを。
故に彼らは憎むべき戦争をするのだ。全てを失わないために戦うのだ。全てを手放さないために、平和な明日を手に入れるために。そのために憎悪する戦争をする。
「臆しても良い。恐怖しても良い。戦争の恐怖を、死の恐怖を知らぬ我々ではない。その恐怖を知るからこそ怯える。それは恥ずべきことではない。恥ずべきことは立ち上がらぬことだ。恐怖から目を背けても去ってはくれない。今我々に襲いかかる恐怖は…皆の家族を、愛するもの達を襲う。我々が皆を恐怖から守るのだ。我々がこの国を守護するのだ。」
今回の法国との戦いにおいて負けはありえない。負ければ全てを失う。逃げるということもありえない。彼らに逃げる先はない。だからどんなに恐怖し足がすくんでも立ち上がらねばならない。
「今…この国に我らが王、ミチナガ様はいない。しかしミチナガ様も戦っておられる。この法国と英雄の国との戦いの最前線である英雄の国でだ。我らはミチナガ様の留守の間、この国を任された。ミチナガ様が帰還するその時まで我々がこの国を守り抜くぞ!!」
「「「おう!」」」
イシュディーンの演説によりセキヤ国軍の士気は高まった。しかし彼らはこの後一度解散し家族の元へと帰っていく。士気を高めるタイミングが早かったのではないかと思うが、兵士たちの士気が高まったことで町の人々も、戻ってきた兵士たちの士気に当てられて町の人々まで士気が向上している。
戦争は兵士も町の人々も全ての人々が一致団結する方が強い。イシュディーンの狙いはここにあった。おかげで変な動揺も見られない。町の人々が下手に動揺すればそちらにも人が必要になってしまう。大軍を相手にする現状では一人でも戦力を欠けさせたくない。
その日は町のあちこちで宴会騒ぎが起きた。ハメを外すものも多いが、誰も咎めることはなかった。どんなにハメを外していても明日のことを考えて酒を飲む量だけは減らしていた。彼らに油断はない。そして兵士は誰一人欠けることなく日の出前に再び集結した。
集結した兵士たちの表情はイシュディーンが演説した時よりも精強に見える。一晩経ったことでさらに士気が高まったようだ。一応朝用の演説も考えてきたが、これ以上の演説は彼らには必要ないだろう。イシュディーンはそのまま彼らに指示を出す。
そして皆が小部隊に別れて各々で武装を整え、全員が持ち場へ移動しようとした時、何やら賑やかな団体がやってきた。それは町からやってきたセキヤ国に住む女性達だ。
「ああ、ちょうど良かった。間に合って何よりだよ。ご飯を持ってきたから持って行っておくれ。」
運び込まれたのは大量の食事だ。いくつもの荷車に乗せられた食事が運び込まれてきた。しかし悠長に食べている暇はない。イシュディーンも少し困った表情をしたが、よく見ると一つ一つ包装されている。
「こっちは持ち場についたら食べる朝ごはん分、こっちはお腹が減った時に食べる分だよ。飲み物も用意したから持っていきな。」
「こいつはありがてぇ。おいみんな!もらったらそのまま持ち場に移動するぞ!」
一人の兵士がそういうと全員が群がって食事を受け取る。そして駆け足で自身の持ち場へと移動した。女性達によって運び込まれた大量の食事はみるみる減っていき、このままでは全員に行き渡らないのではと思われた。
すると第二陣、第三陣と新たな食事が運び込まれた。溢れんばかりの食事は余裕を持って全員に行き渡った。中には一人で二人分の食事を持っていくものもいるほどだ。しかしそれでも余った食事は一部の兵士たちにより各地へと運ばれて行った。
そして全員に行き渡ったことを確認してから最後にイシュディーンも受け取りに行った。イシュディーンは運んできてくれた女性達一人一人にお礼を言っていく。
「ありがとうございます。おかげで皆の気持ちも高まりました。」
「いいってことよ。私たちは前線には立たないからこれくらいはね。まあでも…イシュディーン様、もしも私たちでも役に立つことがあれば言ってください。私たちだってこの国を護りたいという気持ちはあります。この気持ちだけなら男にだって負けません。」
「ええ、もちろんです。……でしたら少しお願いが…」
「早速ですね!任せておいてください。」
イシュディーンはその場にいる女性たちに指示を出すと皆嬉しそうに作業に取り掛かる。イシュディーンもこれで少し戦いが楽になるかもしれないと作戦を再考した。
そんなことを考えている地上から随分高く上がった場所、防壁の上では持ち場についた兵士たちが朝食を頬張っている。中には朝食をとらずに武器の最終確認をしているものもいる。どうやら今食べていないものは日の出を見ながら食事を食べるつもりのようだ。
そんな一人一人の思いの中、東の夜空がうっすらと明るくなってきた。ようやく日の出だと皆が明るくなってきた空を見る。ゆっくりと、ゆっくりと…ゆっくりと上がってきた太陽は、それはそれは赤かった。
そしてその日の出は皆が生涯忘れることのできない光景となる。ある者は言う、その日の出は美しかったと、これまでに見たどんな日の出よりも美しかったと。しかしまたある者は言う。その日の出ほど…恐ろしい太陽は見たことがないと。
人々は日の出によって照らされた大地を見た。そこにいるおびただしい数の敵を。砂埃が舞って敵の全てが見えたわけではない。しかしその砂埃の大きさから敵の数を感じ取った。
その数は以前シェイクス国で戦った時とは比にならない。20万、30万近くいるのではないだろうか。その敵の数に皆思わず息を飲んだ。本当に勝てるのかと怖気ついたものもいる。しかしどんなに敵が多くても勝たなくてはならない。
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