スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第444話 魔神たちの戦い1

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 十本指が動き始めてから1日が経った。戦いは急激に動くかと思われたが、予想とは異なりゆっくりとしたものであった。

 そもそも復活させられた死者たちは動きが遅い。昔ながらのゾンビ映画のようだ。あまりの遅さに各国から遊撃隊が派遣され、先に討伐する事態まで見られた。しかし遊撃隊はその光景の恐ろしさに震え上がった。

 視界を全て埋めるような死者の大軍勢。すでにその数は累計1000万を超えている。各国に分散したとしても一国当たり数万人の死者が襲いかかる。そしてそれは毎日毎日増えていくのだ。こんな光景はまさに地獄そのものだ。

 神剣イッシンと神魔フェイは現在も復活した魔神たちと戦闘を続けている。復活した魔神たちもイッシンとフェイの実力をちゃんと理解したため、むやみに攻勢に出ずに消耗戦を続けている。ただイッシンとフェイに疲れた様子はない。

 しかしこうしてイッシンとフェイを足止めされることは非常にこの戦いにおいて厳しくなってくる。イッシンとフェイは飛び抜けた戦力だ。この二人がいるからこんな状況でもこの世界が滅ばずに持っている。

 そんな二人以外の魔神の元へも多くの復活した魔神たちが押し寄せてきた。しかも十本指たちが新たに魔神を復活させたのか龍の国から逃げた魔神以外の魔神の姿も見られる。そしてその魔神たちは非常にいまの魔神たちと相性が悪い。

 凍てつく氷の国。そんな氷国の中でもさらに気温の低い危険地帯、9大ダンジョン極寒のニヴルヘイム。その土地の上空で控える現氷神ミスティルティアの眼前には5人の魔神の姿が見られる。

「ふう…死者が蘇るとは聞いていたけどまさかあなたたちだとは……お久しぶりですお爺様。それに先先代様も…歴代の氷神様たちも……」

「カカカ!まさか本当にあの世から蘇ったとは。ミスティ…べっぴんさんになったもんじゃ。」

「あら?今の氷神は可愛い子じゃない。女の氷神は珍しいのよ。大切にしないとね。」

 ミスティルティアの前に現れたのは5人の歴代の氷神たち。誰も彼もがかつてはこの氷国を治めた魔神だ。実力のほどは言うまでもない。そしてその5人を前にミスティルティアは冷や汗を流した。

「お会いできて光栄です。それで…ここにいらした理由を聞いても?懐かしの地に舞い戻り、かつてこの国を守ったように今もまた力を貸してくれると嬉しいのですが。」

「ああ、可愛いミスティ…わしの大切な可愛い可愛いミスティ……安心しなさい。お前はわしが殺してやろう。大丈夫…決して苦しませない。」

「……殺さない、と言う選択種はないのですか?」

「ダメよハモンズ。あなたの孫娘なんでしょ?可愛い氷神ですもの…私がいただくわ。」

「…話を聞く気は無いんですね。蘇ったものたちは生者を襲うと聞きましたが、意識が戻っていてもそうなんですね。」

 ミスティルティアは目の前で自身を殺そうとしている歴代の氷神たちを見て避けられぬ戦闘を悟った。明らかに正常な思考ができているとは思えない。何らかの催眠にかかっており、生きているものを襲うように仕向けられている。

 その催眠を解くのは難しいだろう。仕組みが全くわからない上に相手が相手だ。歴代の氷神を相手に催眠を解くために頑張るなど不可能な話だ。一瞬でも気を抜けば命を落とす。ただでさえ目の前の氷神たちから溢れ出る殺気で気が狂いそうなのだから。

「わしの孫娘だ。殺していいのはわしだけだ。」

「黙りなさい。あなたが年老いた私を殺した恨み、ここで晴らしても良いのよ?」

「黙って聞いていればお前ら…何を勝手に決めようとしている。あれは私のだ。」

 言い争いを始める氷神たち。どうやら仲間意識のようなものは低いようだ。このまま勝手に同士討ちしてくれれば非常に助かる。さすがに同格の氷神5人を相手にするのは危険すぎる。ミスティルティアは気配を薄くしながらその言い争いの様子を眺める。

「はぁ…仕方ない。このままでは決着がつかん。」

「そうね、仕方ないわ。」

「お前らよりも先に殺せば良いだけだ。」

「…そんな風に話をまとめないでくれたら嬉しかったのだけど。」

 突如こちらに顔を向ける5人。そして戦いはすぐに始まった。巨大な氷と氷の衝突。破砕音が響くかと思われたが、氷と氷はぶつかり合った瞬間に混ざるように一つになっていく。

 氷神と氷神の戦いというのは歴史上何度か起きている。一番最近のは先代の氷神と先先代の氷神の戦いだ。その際はかなり激しかったという。ミスティルティアは先代の氷神が寿命で亡くなってから数年後に氷神になれる力をつけたため戦いにはならなかった。

 なお前回の氷神同士の戦いの時には世界の平均気温が10度近く下がったため、火炎系の魔帝クラスが数人がかりで半年かけて元の気温まで戻したという。その際の気候変動による世界の死者は数百万人に登ったとも言われる。

 そして今、そんな戦いが可愛く思えるような氷神たちの戦いが始まる。そして氷神たちは氷魔法に対する完全耐性がある。この戦いはそう簡単には終わらない。




 一方、大海原では突如波が高くなり天候も狂い始めてきた。まるで嵐の海だ。そんな嵐の海の上に立つ巨大な魚人がいる。鯨の魚人にして現海神ポセイドルスだ。そしてその眼前には10人以上の魔神の姿がある。その中でも一人の魔神にポセイドルスは恐怖し、手が震えている。

「まさか…あなた様まで来られるとは。神海コータクト様。」

「お主が…今の世の海の王か。随分と若いのぅ…」

「あなた様と比べれば全ての生物が若いでしょう。」

 ポセイドルスが怯える相手。神海コータクト。1000年生きたとされる伝説の魔神だ。かつては多く存在したという亀の魚人。ただ亀の魚人は動きが遅く、甲羅の価値が高いと人間による魚人乱獲時代にほぼ絶滅したと言われた。だが必死に隠れたわずかな生き残りのおかげで現在は数を増やしている。

 そしてそんな時代に最も人間に狙われ、最も人間に畏怖されたのがこの神海コータクトだ。正直このコータクトがいなければ魚人は滅んでいたとも言われる。歴史上でも数少ない神の文字が先に来る魔神。そんなのが相手ではポセイドルスになすすべはない。

 それに元々10人以上魔神がいるのだ。魚人は陸地で戦うのが苦手なため、神魔や神剣との戦いに参戦しなかった。それがこの10人以上の魔神がポセイドルスの目の前に現れた理由だ。ポセイドルスは手を握る力も振り絞れない。

 そんなポセイドルスを見て他の復活した魔神たちが今にも襲いかかろうと待ち構えている。その中でも海神の中で最も多い種族のサメの魚人の魔神が耐えきれないと動き出した。

「美味そうな肉じゃねぇかぁ!俺に食わせろぉ!!」

 突撃をかますサメの海神。それに対してポセイドルスは力なくうなだれたままだ。もうすでに戦いを諦めている。そんなポセイドルスに噛み付こうとしたサメの魔神は大きく口を開いたまま突如うねりをあげた海流に飲み込まれた。

 うねりをあげる海流はさらに大きくなり、他の魔神たちも飲み込んだ。そしてコータクトにより攻撃を加えられ、何人かの海神が命を落とした。

「諦めるでない。ほれ、手を貸すから手伝え。」

「コータクト様!?い、一体なぜ……平気…なのですか?」

「この暗示は神力の強いものなら耐えられる。ただずっと耐えられるわけではないぞ。こいつらをなんとかしたらわしを封印しろ。そして…あっちの方で暴れている男にわしを殺させろ。それで解決じゃ。」

「しんりょく?一体それは…」

「なんじゃそんなことも知らんのか。まあ今はそんな暇はない。ほれ、そのでかい図体は動かすことができんのか?年寄りを労らんか。」

 なんの異常も見られない神海コータクトはポセイドルスの味方になった。これは何よりもうれしい誤算だ。これならば例え10人以上の魔神が相手でも恐ろしくない。ポセイドルスは失っていた戦意を取り戻し、武器であるゲイボルグを高く掲げた。

「ホッホ、懐かしい。わしが昔ダンジョンからとってきたやつじゃな?杖に便利じゃからよく使っておったが、まだ残っておったか。」

「え、ええ。あなたが愛用した武器として今では海の王の証として使っているのですが…あなたにとってはこの神話の武器も杖程度ですか…」


 ポセイドルスは知りたくなかった真実を知ってしまい取り戻した戦意がくじけそうになったが、殺意を向けて来る復活した海神たちのおかげでなんとか立ち直った。海での魔神同士の戦いは存外早く決着がつきそうだ。
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