スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第446話 誰もいない部屋

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「神魔、神剣、海神、氷神、勇者神、崩神、妖精神の全員戦闘中か。この中でいち早く戦闘が終わる可能性があるのは神魔と妖精神。海神は蘇った神海に助けられたが、その後の処置で動けそうにないか。監獄神はどうしているんだ?」

『ポチ・それが監獄神の島はどれも監獄に使用するだけあって防御面が半端じゃない。何度か信号を飛ばしているんだけど返事がなくて立ち入ることができない。向こうから接触してこない限り連絡の取りようがない。』

「…監獄に使用するから死んだものたちも多いんだろう。どれも凶悪犯で猛者ばかりだ。もしかしたらそういった輩を止めてくれているのかもしれない。監獄神は動けないものとして考えよう。戦況を教えてくれ。」

 十本指たちが動き出してから1週間が経過した。この1週間の間に戦局は大きく変わった。主に悪い方にだが。

 ミチナガや魔神たちと連絡を取り合える国の中で陥落した国は今の所まだ一つもない。ただし、魔神やミチナガとも接触を拒んだり、アンドリュー自然保護連合同盟に加盟していない国などの状況は非常にまずいらしい。

 絶え間なく攻めてくる死者たち。その数は一国あたりで考えても数万ではきかない。しかもこの日のために装備を整えてきたわけではない。ほとんどなんの準備もせずに迎えたこの大戦争はあまりにも過酷すぎる。

 いくつかの国では救援要請が出されたらしいが、人に構っている余裕はない。このままこの戦局が続けばほとんどの国は滅びることだろう。

 ただミチナガとしてはそれは避けたい。人々を助けるためというのもあるが、それ以上にこの戦局を悪化させたくない。

 国が滅べばその分の敵戦力が他の国に回る。微々たる差かもしれないが、その微々たる差で将棋倒しのように周囲の国々がまとめて崩壊していくかもしれない。だからミチナガは使い魔たちを派遣して各国に救援物資を届けた。

『ポチ・現在の戦況はこんな感じ。今の所僕たちを派遣した国で滅んだところはない。ただ時間の問題だね。防壁が脆いし、この数を想定した作りになっていないから少しでも気が緩むと一気に崩壊する。』

「なんとしてでも耐えろ。魔神の誰か一人でも動けるようになれば状況は良くなる。それまでなんとしてでも耐えるんだ。」

 今頼りにできるのは魔神たちだけだ。それ以外の戦力は意味をなさない。特に神魔か神剣のどちらかが自由に動けるようになれば一気にこの戦局は解決するだろう。

 するとミチナガのいる部屋がノックされた。使い魔たちが開くと軽食を持ったメイドが現れた。どうやら随分と時間が経っていたらしい。ミチナガもその軽食を見て自身が腹をすかせていたことを知る。

「一度休憩にするか。こっちに持ってきてくれ。」

 ミチナガは机の上を開けるとそこに食事を置かせる。軽食はサンドイッチだ。小腹が空いていればちょうど良いのかもしれないが、今は本格的に腹が空いている。この程度ではすぐに食べ終わってしまうだろう。

 ただミチナガは自分でも用意できる。そのためメイドには礼を言って下がらせる。そしてサンドイッチを一つつまんでからスマホをいじって今日の昼食を決める。

「今日の昼はどうするかなぁ…このサンドイッチ美味しいな。昼はパンで良いか。フルーツサンドとカツサンド…スープはコーンポタージュで良いか。しかしパンを食うとシメに米食いたくなるんだよなぁ…おにぎり一つ用意しとくか。」

「いいですねぇおにぎり。私は明太子が好きです。あ、辛くないやつでお願いしますね。」

 突如聞こえた聞き覚えのない声。とっさに反応したミチナガは声のした方向へと向く。するとそこには仮面をした一人の男が、サンドイッチをつまんでいた。

「お!これ美味しいですね。さすがは城の食事。いいもの使ってますねぇ…」

「その見た目…その声……お前クラウンだな。十本指の一人。」

「ええ、そうですよ。初めましてセキヤミチナガ。あ、もう一ついただきますね。」

 ミチナガを前にしてなんとも余裕そうにサンドイッチをつまむ。おまけに椅子に座って紅茶まで飲み始めた始末だ。ここが敵地であることをまるで知らないような雰囲気まで出ている。

「どうやってここに侵入した。王城には転移対策の魔法が施されている。特にここは英雄の国の王城だ。魔法の質も格が違う。」

「それは常人の理。我々のように異世界からきたものたちの能力には当てはまらない。私に入れないところはありません。」

 クラウンは仮面の下でニヤつきながらミチナガを見る。クラウンの言葉は真実だろう。そしてそれはクラウンを捕まえる方法がないということだ。たとえ神魔であってもこの世界の理から外れる者の能力に干渉するのは難しいだろう。

 つまりクラウンを殺るのならば今しかない。ここでクラウンを殺すことができれば各地で死者を復活させる十本指たちの動きを遅らせることができる。それこそ居場所さえわかれば各個撃破も可能になるだろう。

 十本指との戦いにおいて大逆転の可能性を秘めた状況だ。ミチナガも緊張で手に汗が滲んでいる。ただクラウンを殺すのは楽なことではない。

 クラウンの転移能力は世界最高だ。一瞬の隙をつかないと失敗すればこの場から消え去ってしまう。そして一度警戒されればもう2度とこんなチャンスが訪れることはないだろう。ゆえになんとかして隙を作る必要がある。

「わざわざこんなところまで来て何用だ。俺に会いに来たんだろ?」

「ええそうです。あなたの能力は実に厄介だ。あなたがいる限り物資が底をつくことはない。永遠に守っていられる。時間がそっちに味方する。」

「ああそうだな。神魔もだいぶ終盤だからな。神魔が動けばこの戦争はすぐに終わる。まあそれは仮に俺をここで殺しても決定事項だ。」

「神魔?…ああ、彼女のことですか。彼女なら問題ありません。時期に大人しくなるでしょうから。一番危険なのは神剣でしょう。まあそれも彼を止めるために戦力の半分は使ってますから大丈夫でしょう。」

「神魔がおとなしく?はっ!神魔の恐ろしさを理解していないみたいだな。フェイを止める方法はない。万能さから考えれば神剣よりも恐ろしいぞ。」

 余裕を見せるミチナガに対しクラウンは紅茶を飲んで呑気にしている。そのクラウンの雰囲気にミチナガは不気味さを覚えた。十本指はハッタリを言うような奴らではない。何かあるはずだ。しかしそれを考える前にクラウンは紅茶を飲み終えた。

「美味しかったですよ。さて、満喫したことですし行きましょうか。」

「待て!どこに行く気だ!」

 満足し立ち去ろうとするクラウンにミチナガは焦る。ここで逃げられるわけにはいかないのだ。なんとしてでもここでクラウンを仕留める必要がある。必死に思考をフル回転させる。するとクラウンは飄々とこちらを見た。

「私がどこに行くかって?それは…」

 クラウンは指を鳴らした。その指を鳴らした音がミチナガの耳に到達する前にクラウンはミチナガの目の前から消えた。一瞬の転移。するとわずかな風の動きを背後で感じた。そしてクラウンはミチナガの耳元で囁いた。

「それは着いてからのお楽しみです。」






「失礼いたしますミチナガ様。食器を下げに……あら?お出かけしたのかしら?食事は空になっているから食べてから出かけたのね。夕食の時間もお伝えしようと思ったのだけれど…また後にしましょうか。」

 メイドは食器を片付けるとわずかに乱れたベッドを直して誰もいない部屋を後にした。
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