スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第451話 現れたるは神なる人

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「せ…先代様よ。悪いがあんたも超えさせてもらったぜ。」

「あの小童にこれだけやられるとはな……無念なり………」

 血を流しながらもなんとか立っているギュスカールの目の前で先代の崩神が崩れ落ちる。そんなギュスカールの周囲には歴代の崩神たちの死体や崩壊しきった肉体が塵のように積もっている。ギュスカールは幾人もの崩神たちとの戦いに勝ってのけたのだ。

 だがその肉体はすでに満身創痍。魔力もほとんど尽きている。そんなギュスカールの元に使い魔が近づいていく。

『黒之伍佰・お疲れギュスカール。回復薬だ。多少は魔力の戻りが違うぞ。』

「そんなことより…酒くれ酒……」

『黒之伍佰・いくらでもくれてやる。しばらく休んだらもう一働きしてもらうぞ。』

「ったく…本当に人使いが荒いな。お、酒酒!…っくぁ~~!!うめえなこの酒は!!」

『黒之伍佰・うちの秘蔵の一杯だ。沁みるだろ。』

「こんなにうまい酒は初めてだ。……それにこれで俺は歴代の崩神の中で最強ってことが証明されたな。…俺が最強の崩神だ。」

 ギュスカールはニンマリと笑みを見せる。自身の強さを証明できる機会はそうそうない。それが歴代の崩神で証明できたとなればなおさらだ。ギュスカールは人生で一番満足している。

 そしてギュスカールが自由に動けるようになったおかげで戦局が少し変わるだろう。法国、龍の国は陥落。魔国は神魔を刺激しないために戦闘はごくわずか。氷国は強烈な寒さのおかげで天然の要塞と化しており氷神たちの戦い以外は安定している。

 火の国、武の国はイッシンの妻サエとロクショウ流の門下生たちによって安定している。海国も蘇った神海が一時的に味方についたおかげで戦局は安定した。今一番危険なのは英雄の国がある大陸だ。

 十本指たちはこの大陸を重点的に攻めている。この大陸は100年戦争の影響で多くの猛者たちが生まれ、そして没している。蘇らせる戦力はこの大陸が一番強い。

 もしもこのままこの英雄の国がある大陸が落ちれば、その流れで氷国、魔国の両方を攻められる。それに魔神列強の中でも第2位にいる勇者神の英雄の国が落ちれば人々の精神的にもダメージが大きい。

 それにここでギュスカールを英雄の国に派遣し、英雄の国が優勢だという情報を人々に知らせればそれだけで人々に勇気と希望を与えられる。

『黒之伍佰・それじゃあギュスカール。休んだら英雄の国まで行くよ。』

「また随分と遠出だな。俺はあの国とはウマが合わないんだが……まあいいだろう。今は気分が良いからな。」

 ギュスカールは気分良さげに酒を飲み干す。まだギュスカールの体力は半分も回復していないが、それでも戦場に一石を投じるくらいの戦力にはなる。

『黒之伍佰・続きは移動しながら呑んで。さっさといくよ。』

「へいへい。わかったよ……待て。何か来やがった。」

 ギュスカールは遠くを見つめる。そこには人の姿らしき影があった。まだはっきりとは見えぬ人影。しかしギュスカールの体からはすでに汗が噴き出していた。

「あれはヤベェぞ。おい、回復薬よこせ。ありったけだ。」

『黒之伍佰・事前に用意しておいたのがいくつかあるけど、ここにあるのが全部だよ。』

「なんでも良いから早くよこせ!くそっ!なんだあれは…」

 焦るギュスカールはありったけの回復薬をすぐに飲み干した。ただし回復薬を飲んでもすぐに体力や魔力が回復するわけではない。徐々に徐々に回復していくのだ。

 ギュスカールは体を震わせながらただ一点を凝視する。その震えは武者震いであるとありがたい。だが身体中から吹き出る汗はそうではないことを物語っている。正直とっとと逃げてしまえば良いとも思う。だがもう逃げることはできない。すでに奴のテリトリーの中だ。

 するとふわっと風が吹いた。風の強さから言えば本来心地よいはずの風量。しかし今のこの風は鉛のように重く、全身に電流が走るかのように衝撃的であった。

「ふむ…ここらに転がるのは魔神クラスの猛者たちか。そして今ここに立つお前が勝者か。」

 一瞬の出来事であった。ギュスカールは確かに遠くに見えるその人影から目を離したつもりはない。だがいつの間にかその遠くに見えた人影はギュスカールの背後に立ち、そして声を発していた。

「なに…もんだ……」

「ふむ、今のはまさかこの我に対しての言葉か?だとしたらあまりに無礼な口ぶりだ。だがまあ…そうだな。我がこの世を去ってから随分の月日がたったことだ。我を知らぬのも仕方がない。許してやろう。」

『黒之伍佰・それで…あなた様はどなたなのでしょうか。』

「ほう?なんと珍妙な使い魔だ。これほど生物として確立された使い魔を見たのは初めてだ。良いだろう。お前に免じて答えてやる。我は人間の頂点に存在する神に至りし人間よ。名はアレクレイ・ドキュルスター。よく覚えておくがよい。」

『黒之伍佰・まさかあなたがあの神人ですか。人類史上最強の魔神と呼ばれる神に至った人間。プロジェクト人神の……』

「ほう!なかなか博識なようだ。褒めてやろう。」

 魔神とは人類最強の称号の一つだ。そしてその中でも神の文字が先に来る魔神は魔神すら越える強者として知られる。そして様々な歴史学者たちの話題の一つに史上最強の魔神は誰かという議論がある。

 もちろんそんな議論に結論は出ない。実際に戦わせて見ないとどうなるかはわからない。相性や戦う土地の関係など様々な要因で結果は変わってくる。しかしそれでも一人だけ名を上げるとしたら必ずこの神人という魔神の名は出てくる。

 かつて行われた人工的に魔神を生み出すという研究。そんな簡単に人類の神秘を解き明かすことはできない、決して成功することのない研究と言われたこの一大プロジェクトは一人の子の誕生とともに終止符が打たれた。

 それが後の神人アレクレイ・ドキュルスター。3歳の時には魔法と剣術の腕前は魔王クラスに匹敵。6歳の頃には両親を越え魔帝クラスに至ると10歳の頃には魔神クラスに至った。

 魔法も剣術も芸術も学術も全てにおいて当時の最高峰をはるかに超えていた。なにをやらせても全てこなしてみせる。究極の人類と言えるだけの才能を持っていた。

 そしてそんな男が今目の前に立っている。この世に蘇りこうして立っているのだ。だが今の所殺気は感じない。ギュスカールもどう対処して良いかわからず困惑している。すると使い魔はアレクレイの服のシミを見つけた。

『黒之伍佰・そのシミは…血痕でしょうか?』

「ん?汚れがついていたか。全く…実はさっきまで蘇ったとかいう奴らに喧嘩を売られてな。退屈しのぎに蹴散らしていたのよ。上ではなにやら派手にやっていたようだからな。」

「つまり…お前は神魔とは戦わずに逃げてきたわけだな?流石の神人も神魔からは逃げるか。はっ!これなら俺でも勝てるかもな!」

「逃げる?実に不愉快なことを言う老害だ。小娘に対し大の大人が手を上げるのはあまりにも愚かなことだ。それに戦いだけが全てではない。と言うより少し満足したからな。今は現代の芸術とやらでも見に行こうかと散歩の最中だ。」

 アレクレイは復活による思考の汚染の影響をまるで受けていない。蘇ったからといって人類を皆殺しにしようとかそう言う気は一切ないのだ。これはもしかするとうまく話をつけられれば味方になってくれるかもしれない。

 わずかな希望を見出した使い魔。しかしその希望は一瞬のうちに消え去ることになる。突如噴き出した膨大な魔力。それは目の前の敵がギュスカールとどれほど力の差があるかを物語っていた。

「散歩でもしようかと思ったが、お前のように無礼な奴がいてはかなわないからな。愚者とは存在するだけで不愉快だ。少し地上が静かになってから観光でもしよう。」

 ギュスカールは思わずたじろぐ。神に至った人間が人類に牙を剥いた。
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