スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第483話 ナイトとムーンとフィードルと

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「ハハハハ!!どうしたどうした!逃げてばかりじゃないか!」

 フィードルから放たれる魔法による無数の破壊の飛礫。ものの1分足らずで周囲の木々は薙ぎ払われ、破砕され、粉砕された。あまりにも激しい破壊の渦。しかしナイトは息を切らすこともなくただじっとフィードルを観察していた。

「どうしたんだい?攻めてこないのかな?僕が何をしてくるのか観察して受けに徹するつもりかい?つまらないなぁ…」

 今のナイトに攻撃の意思がないと判明し、つまらなそうにため息をつく。そしてフィードルもナイトの観察を始め、互いに動かなくなってしまった。

 風の吹く音だけが両者の静寂をかき消す。そして先にしびれを切らし動き始めたのは意外なことにナイトが先であった。

 一瞬のうちにフィードルとの距離を詰めると肉弾戦が始まる。ナイトの数々の攻撃を軽くいなすフィードル。やはり狩神と呼ばれ数多くのモンスター、そして人々と戦った経験の差が大きく出ている。

 筋力は拮抗、技術はフィードル、経験もフィードルに分があるとすれば必然的にナイトが押されてしまう。しかしナイトにはそれを補うだけの魔法がある。

「おっと…おお?……おお!面白いね!」

 肉弾戦闘を行いながら数多くの設置型魔法を張り巡らせたナイトの猛攻が始まる。フィードルは腕どころか指先を動かすだけで設置型魔法に引っかかり、強烈な魔法がその身を襲う。

 並みの魔帝クラスならば白旗を上げるところだろう。しかし相手は狩神。そんなに上手くはいかなかった。

 次々と連鎖反応して発動していく設置型魔法。しかしフィードルはその全てを受け流している。ナイトもその光景を見て驚愕している。フィードルの戦闘センスはずば抜けている。初めて見る攻撃に対する対応力が異様に高い。

「面白い面白い!ここまで連鎖する攻撃は初めてだよ!空間に配置する魔法か。普通は何らかの感知ができるはずだけどそれができない。…いや、そうでもないか。」

 フィードルは指先に魔力を込めて振るう。するとナイトにしか感知できないところで設置型魔法の魔法陣が破壊された。そしてその構造を一度理解したフィードルは一瞬のうちに全ての設置型魔法を破壊して見せた。

「何もない…なんてことはありえない。発動するのなら必ずそこに繋がりがある。その僅かな繋がりを感知できれば造作もない。」

「…ここまで見破られたのは初めてだ。」

「あ…そうなの?ごめんねぇ?お得意の魔法潰しちゃって。けどもう構造わかったから効かないよ。」

 フィードルは少しも悪びれることなくそう言い放った。これでナイトの手札は一枚潰された。対するフィードルの手札はまだ何も判明していない。いや、異様なまでの戦闘センスというのはわかった。

 そしてナイトの圧縮魔法による強大な魔法というのも発動までの時間を考えればフィードルには通用しないだろう。はっきりいって設置型魔法が潰された時点でナイトの手段はほぼない。

 しかしナイトはそんなことは御構い無しに再び突っ込んでいく。そして今度は設置型魔法を設置してからすぐに発動させる。かき消す前には発動させてしまえば何の問題もない。しかし設置型魔法を設置した時点でフィードルは魔法の存在に気がつき、発動させても躱されてしまう。

 ナイトの攻撃が一切通じない。しかし今のところフィードルからの攻撃もナイトには通じていない。拮抗状態だ。するとフィードルがつまらなそうにあくびをする。その瞬間ナイトは再び苛烈な攻撃を加えた。

 ナイトは気がついている。フィードルは未だナイトにそこまで大きな関心がないことを。そしてナイトと戦うよりもここから離れてどこかで思う存分暴れて壊して殺し尽くした方が楽しいと思っている。

 フィードルがこの場から逃げ始めたらさすがのナイトも止めるのは難しい。逃げるフィードルを追って戦うこともできるが、そうなれば被害が大きくなる。ナイトはそれを止めたいために飽きさせぬように戦っているのだ。

 だがその時、フィードルの目に自身の好奇心を満たすものを見つけた。それは先ほどまでナイトの肩に乗っていたムーンが乗り込んだエヴォルヴの姿であった。

 フィードルにとってムーンという使い魔自体見るのは初めてであった上に、それが乗り込んだエヴォルヴという機械の兵士を見るのはフィードルの知的好奇心をくすぐった。

 もう完全に目の前のナイトから興味は失せている。そして一心不乱にムーンの乗るエヴォルヴの元へと駆け寄った。

「いいよ君!面白い!実に面白い!!」

『面白かろうと気味わるいから近づかないで。』

 まっすぐに近寄るフィードルに対しムーンはモンスターの皮紙を広げ、そこに刻まれた魔法を発動させる。それはナイトが編み出し、魔力を込めた使い捨ての魔法発動皮紙である。

 使用するモンスターの皮によって魔法の強度は変わるが、今使用したのはかなりのランクのモンスターの皮だ。フィードルにも十分通用する強力な魔法がフィードルめがけて突き進む。

 だがフィードルはそんな魔法気にもとめず、まっすぐに突き進む。そしてムーンの攻撃を全て受け止めると無傷のままムーンへと駆け寄ってくる。

「君は実に面白いよ!その腕も足も指先も全て!全て分解して見してくれ!」

『いやいやキモいわ。ただまあ……流石に油断しすぎだよね?』

 フィードルの全ての集中力がムーンに注がれた今、ナイトに対する注意をおろそかにしてしまった。ナイトはその両腕に封印しておいた圧縮魔法を複数解除し、一つの魔法へと昇華させる。

「構築完了…星喰い。」

 ナイトから圧縮魔法の発動コードが発せられる。それは一瞬のうちにフィードルを飲み込み、光すらも飲み込んだ。圧倒的なまでの破壊。いや、破壊というよりも空間ごと消滅させられたという方が正しい。

 フィードルは完全に飲み込まれた。この一撃はフィードルであっても一撃のもとに屠ることができるほどのものだ。ナイトに対し完全に油断していたからこそ発動できた絶好のチャンスであった。

 だがナイトの背後にフィードルの姿がある。それは幻覚でも何でもない。確かにそこにいる。しかし一瞬のうちにナイトに気が付かれずにここまで移動するのは不可能に近い。だが現実としてフィードルはそこにいる。

「うざっ…消えろよお前…」

 至近距離からのフィードルの一撃。しかしナイトはそれを簡単に避けて見せた。最初から今の一撃でフィードルを屠れないと判断していたナイトは決して油断していなかった。

 そして再び距離を取る両者。しかし確実に先ほどの魔法が当たったように見えたフィードルは無傷だ。それに疲弊した様子も見られない。しかしナイトにはその理由はすでにわかっていた。

「空間魔法師か。」

「ん?よくわかったね。ご名答、その通りだ。」

 空間魔法師。それは生まれた時から独自の空間を保有し、そこへアクセスできる魔法使いのことだ。かつては戦争にも商売にも何にでも使えるということで空間魔法師狩りなんてことも行われたほどだ。

 そして空間魔法師の血統は絶えていると言われているが、そのうちの一人がこのフィードルということだ。そしてその独自空間はいくつかの性能を持つ。

「触れた魔法をそのまま空間へ飛ばすのと移動の空間と他にもいくつか…まあ簡単にいうと魔法は効かないし最強ってこと。」

「そうか…」

 飛来した魔法の全てを当たった瞬間に別空間に飛ばす魔法と瞬時に転移を可能とする魔法を持ち、ナイトの設置型魔法も感知できる。その上肉弾戦闘もナイトより上。全てにおいて格上の相手だ。

『どーすんの?やる気出た?』

「そうだな……本気を出すか。」

『そうこなくっちゃ!離れておくから後はよろしく。』

 ムーンはナイトから距離を取る。そしてナイトの本気の戦いがここから始まる。
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