スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第489話 ミチナガが求めるものは

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 ヴァルドール、ナイト、リリーの3人がそれぞれ魔神を降し、勇者王カナエ・ツグナオの出現により戦局はすでに覆り始めている。主だった脅威となる魔神はもうそこまで数は多くない。

 しかし未だ世界各地で多くの人々が亡くなっている。どんなに強者を倒そうとこの戦争は十本指がいる限り終わることはない。

 だがそんな中ミチナガはある場所へ向けて戦闘機に乗り、高速で移動している。あらゆる紛争地帯を無視して一心不乱にその場所を目指した。そしてミチナガはその場所へとたどり着いた。

 戦闘機から降りるミチナガをその村の人々がで迎えようとした。しかしミチナガの鬼気迫る表情を見て誰も近づこうとしない。誰も近づけない。そんな中、一人の女が近づいた。

「このような有事の際にどうされましたかミチナガ様。」

「黙れミラル。黙って村長の場所まで連れて行け。」

 ミチナガに凄まれたミラルは口を閉じてミチナガを村長の元まで案内する。ミチナガが他の全てを無視してやってきたのは白獣の村だ。そして他の白獣たちの沈黙の中、ミチナガは真っ直ぐに村長の元へと向かった。


 木の床を力強く踏みしめる音。その音を聞いただけでもその踏みならしている主人は怒りに満ち溢れていることがわかる。苛立ちを隠そうという気も一切ない。怒りをぶちまけにきている。そしてその怒りを受け止める覚悟を持った老婆がミチナガを待つ。

 そしてただ粛々と待つ老婆の元へミチナガは勢いよく扉を開き現れた。開かれた扉の前で顔をわずかに伏せて待つ村長である老婆を見たときにミチナガは怒りで顔を震わせながらも何も言わずそこへ立っていた。

 そして数分かけて怒りで血の登った頭を冷静にさせていく。ミチナガ自身このままでは話ができないことは理解できている。だからこそ冷静になることが必要なのだが、それは非常に難しい。現にミチナガは途中でそれを諦めた。

 ミチナガは懐に手を入れて村長の前に一枚のカードを投げ捨てる。それはクラウンの落としていったトランプのジョーカーだ。村長はそれを見るが何も言わない。

「…クラウンはずっと俺に何かを隠していた。それを隠す理由はよくわからないが、まあ俺に聞かれたくないんだと思っていた。しかし言葉の端々で俺に何かを伝えようとしていた。」

 ミチナガは思い出す。クラウンと共に踏破した9大ダンジョン神域のヴァルハラ内での出来事を、他愛もない会話を。その会話の端々に散りばめられたミチナガへの訴えを。

「クラウンは結局俺に何も打ち明けずに去っていった。しかし去り際にこのトランプを残して行った。これはヒントだ。クラウンが打ち明けたいことのな。そしてこのトランプは英雄の国では取り扱っていない。俺の知る限りどこの商会でも取り扱っていない。だが…俺はこの絵柄を前に一度見ている。」

 ミチナガの記憶ではこれと同じトランプを扱っている店はない。白獣の村に来る道中で使い魔たちに調べさせたが、該当する商会はなかった。しかし使い魔たちもミチナガもこのトランプを見たことを覚えていた。それがどこにあったかも。

「ちょうど…ここだったな。このタンスの隙間だ。ここに挟まっている同じ絵柄のジョーカーを俺は見た。あの時はお前らが息抜きに賭け事でもしているのかと思ったよ。しかしそうじゃない。これはクラウンがわざとここに残したものだ。俺に気がつかせるために。」

「…………」

「クラウンとお前らは…十本指と白獣は繋がっている!いつからだ!いつから奴らとコンタクトを取っている!……いや、お前らが予言のこと以外で外部の人間と接触するなんて考えられない。十本指の世界征服そのものがミヤマの予言の一つなんだろ!答えろ!」

「その通りでございます。」

 ミチナガは頭に登った血がすっと引いていくのを感じた。怒りを通り越して冷静さを取り戻したのだ。そして白獣たちがこの今の世界の動乱を巻き起こした十本指の仲間であることが判明した。いや、諸悪の根源なのかもしれない。

「…今世界で何十万…いや何億人死んだかわかっているのか?」

「承知でございます。」

「今尚死んでいる人々がいることもわかっているのか?」

「承知でございます。」

 ミチナガは再び頭に血が上っていくのを感じる。しかし冷静に行かなければならないと必死に言い聞かせる。

「これが…これがお前たちのやりたかったことなのか?これが…ミヤマが望んだことなのか?俺にも…同じことをさせるのか?」

「…これは全てお膳立て。人々の死は必要な犠牲なのです。我々の目的はこの先にございます。」

「まだ…まだ殺し足りないのか……俺にもお前らの片棒を担がせるつもりか……俺は…お前らは良い奴だと思っていた。しかしそれは間違いだったらしい。俺にはこれ以上お前らを協力することはできない。いや!お前らの蛮行をこのまま許すわけには行かない!」

 ミチナガは使い魔を搭乗させたエヴォルヴを多数周囲に展開させた。それを見たミラルもすでに太刀打ちできるレベルを終えていることを察し、手を上げて降伏した。しかし村長だけは微動だにせず、その場に座っていた。

「ミチナガ様。我らの行いが蛮行かどうか、それを見定めてからでも遅くはないのでは?」

「……これ以上俺に何をさせたい。」

「もう我々にできることは全て終えました。あとはミチナガ様、あなたに託すのみ。今こそあなた様は真実を知る時です。」

「…真実?」

「我々があなた様に何をさせたいのか。いったいこの世界で何が起きたのか。そして…なぜあなた様がこの世界に来たのか。その全てです。」

「………」

 ミチナガは黙る。頭の中では必死に状況分析とこのあとどうすれば良いか考えている。しかし怒りと戸惑いにより上手く結論が出せない。しかしミチナガは興味をそそられている。真実というものが何か知りたくなっている。

「ミチナガ様。真実を知りたくば龍の国に向かいなさい。そしてそこで待つミサト・アンリに会いなさい。彼女は全てを知っています。」

「ミサト・アンリ…十本指の頭目が…この件の首謀者がそこにいるのか?」

「ええ。」

「そして全てを知っている?真実を…」

「ええ。真実を知っております。」

 ミチナガは黙る。しかしそこまで聞けばもうやることは決まっている。だが万が一嘘をついている可能性もある。この場を凌ぐための嘘を。だからこそミチナガはその時のための策を講じる。

 ミチナガはさらにエヴォルヴたちを展開させ、白獣の村を囲んだ。誰もこの場から逃げられないように。そしてミチナガの命令を確実にこなすためにバーサーカーを呼び出した。

「バーサーカー命令だ。他の使い魔たちを指揮し、この村から一人たりとも白獣たちを逃すな。そして………」

『…ウガァ?』

「…そして……そして万が一俺の身に何か起きた時は彼らを皆殺しにしろ。女子供関係なく。不審な動きや逃げ出そうとした奴も殺して構わない。…確実に命令を遂行しろ。そして…真実とやらを聞いて俺が納得できなかった場合には…俺から指示を出す。その時はその指示通りに任務を遂行しろ。」

「ウガァ!」

 バーサーカーは元気よく返事をした。バーサーカーはミチナガに絶大な信頼を置いている。だからこそバーサーカーならば私情関係なくミチナガの指示通りに任務を遂行するだろう。

 ミチナガとしては白獣たちを許すことはできない。白獣たちのせいで数億人もの人々が死んだと考えれば決して許すべきではない。だからこそミチナガは私情を抜きにして、いや私情があるからこそ自らの指示のもとこの残虐な決定を下した。

 そしてミチナガはバーサーカーにその場を任せて再び戦闘機に登場する。そしてミチナガは真実を求め、十本指の頭目死神ミサト・アンリのいる龍の国へと向かった
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