スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第516話 ブラント国探訪

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「ありがとうございます!本当に…本当にありがとうございます。我が家の家宝にいたします。」

「喜んでくれて何よりだよ。今後ともよろしくね。」

「はい!はい!本当にありがとうございました。」

「お時間です。それでは次の方どうぞ。」

 係員の誘導により新たな人が部屋へ入ってくる。その人物の手には一冊の本が大切そうに抱えられている。そしてミチナガのことを見ると満面の笑みを見せる。

 一体何が起きているのか。なぜこんなことが起きているのか。それを説明するにはその日の朝まで時間を遡ることになる。




「せっかく旅に来たのにホテルで閉じ籠りっぱなしは無いよな。出かけよう!」

 元ブラント国王が来た翌日のこと、昨日は元ブラント国王とともにホテルで会談を丸一日していた。そのためせっかくブラント国へ来たというのにこれといったことを何もしていない。

 そこでやや鬱憤の溜まったミチナガは街へ出かけることを提案する。しかしクラウンたちは街へ出かけることに関して懸念があった。

「昨日ブラント国王からお前がこの国でどれだけ英雄視されているか聞かされたのに行くのか?間違いなく騒動になるぞ?」

「ちゃんと変装して行くよ。付け髭に帽子被って…服も変えれば問題ないだろ。大丈夫大丈夫、いつものことだから。」

「いつものことって……」

「ええ…いつものことですね。いつもそうやって護衛も連れずに街へ遊びに……」

「ぶらぶらしたいのに護衛引き連れていちゃね。ポチ!変装道具一式よろしく!あ、クラウン…は良いけど、イシュディーンとメイドちゃんはちゃんと変装してね。護衛にメイド引き連れていたら怪しまれるし。」

 ミチナガの発言にイシュディーンもメイドも従う。しかしこの時、イシュディーンには一つの確証があった。だがその確証はイシュディーンの心の中にしまっておいた。

 それから数十分後、ミチナガはホテルから出て街の散策へと向かう。ミチナガに施されている変装は確かなもので幾人もの人々とすれ違うが、誰もミチナガに気がつかない。

 これなら気兼ねなく散策できると喜ぶミチナガは記憶を頼りに街を散策しようとする。しかし周囲を一周見回した瞬間、ミチナガは全てを諦めた。

「全然わかんねぇ…どこがどこなの?」

「お前この国に来たことあるんじゃ無いのかよ。」

「あるけど…いやもう別の国だよ。面影とか一切ない。道路の拡張工事に建物の新造が施され過ぎていて何もわかんない。」

 ミチナガは確かにブラント国へ来たことがある。カイとの戦い後、自身の傷が言えるまで長く滞在した。しかしミチナガがブラント国を去ってからこの国は大きく変わった。ミチナガ商会と連携してほとんどの建物、道路を改築した。昔と今では別の国と言った方が間違いなく正しい。

 だからミチナガが記憶を頼りに散策しようとしても何もわからないというのは間違いなく正しい。そして記憶を頼りにできなくなった瞬間、ミチナガはどうしたら良いかわからなくなってしまった。

「何もわからないって……あ!そういえば上から見たときに緑や噴水が見える場所があったよな?そこに行くのはどうだ?」

「ああ!それはありだな!!確か部屋の窓から……あっちだったはずだ。よし!ナイスだクラウン!そっちに向かって出発だ!」

 ミチナガはクラウンの提案に賛同し向かう方角を決めて歩き出した。どこに言ったら良いかわからないのであれば、方角だけ決めて気ままに探索するのも面白い。ミチナガも知らない街などでは気の向くままに歩いて行く。それと同じことをするだけだ。

 適当に歩いて行っても周囲を観察していれば面白いものはいくつも見つかる。冒険者用品の店や雑貨屋、洋服に飲食店、気になるものはいくつも見つかる。

 そんな気になる店舗にフラフラと立ち寄りながら歩いて行くと目的の緑や噴水のある場所が見えて来た。どうやらここは憩いの場らしく、人気が多いように見える。

 ただあまりにも人が多いとバレる可能性が出てくる。そのため人気を避けて周囲を探索することにする。するとミチナガの目に一つの店舗が写った。その店舗の周囲には人が多く見られるが、それでもミチナガはその店舗へと入って行った。

 店舗内には幾人もの客がいる。正体がバレる可能性があるが、それでもミチナガは気にせず店舗内を見渡した。すると一人の店員がこちらに気がつき近寄って来た。

「ジャギック魔道具店へようこそ。何かお探しでしょうか?」

「あ~商品じゃないんだ。ジャギックさんはいるかな?昔お世話になったから挨拶したくてね。」

「店長のジャギックですね?最近年齢の影響もあってあまり出てこないんですけど…一応呼んで来ます。あの…お名前は?」

「あ~…壁に隠した魔道具を借りた男でわかるかな?」

「はい?えっと…じゃ、じゃあそう言ってきます。」

 どういうことかわからずにとりあえずそう伝えに行く店員。もしも会えなかったとしても仕方がない。ジャギックはあの頃も相当な年齢だった。場合によっては死んでいてもおかしくはない。

 するとミチナガは店の一角に懐かしいものを見つけた。相手に投げつけて粘着性の液体をつける球、相手に絡みつき動きを阻害する棒。防御する首飾りは置いていないらしい。

「懐かしいなぁ…これには世話になっ…」

「おい!わしを訪ねて来たのは誰じゃ!あんなことを言うのは…おお!やはりそうか!ミチナガ!久しいのう!」

 勢いよく飛び出し、そして大声を張り上げるジャギック。その声に反応した他の客はミチナガが来ているのかと周囲をキョロキョロと見回す。そんな中ミチナガは頭を抱えながら帽子と付け髭をとった。

「お久しぶりですジャギックさん。お忍び中なのに大声でどうも…」

「おお!やはりミチナガではないか!これは懐かしい…おお!ここで話すのもなんじゃ。奥へ来い。」

 ミチナガの姿を見てさらに大声をあげるジャギック。どうやら耳が遠くなった影響で声が大きくなったらしい。そして本物のミチナガが目の前にいることを知った客たちは驚きと喜びでその場を動けずにいた。ミチナガはその隙に店の奥へと入って行く。

 そして久しぶりの再会に喜んだジャギックと数時間にわたり会話をしたミチナガが店の外に出る頃にはミチナガがいると言う情報が出回り、数百人もの人だかりができていた。

 その光景に驚き固まるミチナガ。そしてミチナガという英雄を前にして失礼があってはいけないと動けずにいる人々。そんなこう着状態が続く中、一人の子供が勇気を振り絞りミチナガへと駆け寄って来た。

「ミチナガ様のことが大好きです!お母さんに本も買ってもらいました!あの…サ、サインください!」

「あ…例の本……ありがとうね。サインか、よし任しとけ。」

 本の最後のページにサラサラっとサインを書くミチナガ。普段から書類にサインをしているおかげでサインを書くのはお手の物だ。そしてサインを書き終わると子供は満面の笑みを見せ、お礼を言ってその場から去った。

 そして後に残るはサインが欲しい数百人もの人だかり。これを無視してこの場を後にするのは無理だろう。全てを観念したミチナガは急遽近くのミチナガ商会の一角を借りてサイン会を開くことになった。

 本格的にサイン会を開くと決まり、私も欲しいと集まったのは千人を軽く超えた。すでに1日では終わらないと判断した使い魔たちが数日間のサイン会の開催を告知し始めている。

 その背後ではクラウンがため息をつき、イシュディーンはこうなることを予知していたのかミチナガをサポートする準備を始めている。

「イシュディーン。あんたこうなること知っていたな?」

「…ミチナガ様はちょくちょく変装して出かけますが、最後は必ず正体がバレて兵士の誰かが連れ帰ります。どんなに隠そうともミチナガ様は王なのですよ。隠しきれぬオーラというものがあるんです。まあ後、今回は例外でしたが本人も途中から隠すのが面倒になるらしく、自分から変装解くこともあります。バレて当たり前なんですよ…」
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