スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第521話 歯医者

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「いや…そのね、今日は歯医者に行くだけだから…」

「いいの!私もミチナガくんと一緒に行く!」

 朝食を終えたミチナガが出かけようとした時、どこからともなくリリーが現れてべったりとくっついた。ミチナガとしてはのんびりと出かけるだけだったのだが、リリーが一緒になると話は大きく変わってくる。

 リリーは実質この国の女王だ。民主主義の国とはいえ、国の象徴である世界樹の力を掌握したリリーをこの国の国民は崇拝している。そんなリリーと一緒に出かければ騒動が巻き起こることは間違いない。

 しかしこうなってしまってはリリーが退くことはまずないだろう。するとその時、ミチナガはリリー以外の強大な気配を感じ取った。リリーもすぐに察知したらしく、ミチナガから離れて服装の乱れを直す。

 すると一陣の風とともに何かが屋敷の中へと入ってきた。ただしそれに誰も敵対しようとはしない。いや、相手がわかっているからこそ何もできない。すると中へと入ってきた存在は自身の魔力で空間を屈折させ、その姿を現した。

「ハローリリー。それに久しぶりねミチナガ。」

「本日もご機嫌麗しいようでピクシリー様。」

「あれ、ピクシリー。どうしたの急に。」

 突如現れた存在、それは妖精女王ピクシリー。妖精たちの女王であり、魔神の一角でもある彼女が一体何様で屋敷に入ってきたのか。ただリリーの受け答え的にそれなりに知った仲ではある様だ。

「世界樹の側は居心地が良いから時々来るのよ。それにそこの世界樹の守り人とも仲が良いの。私の友達よ。数少ない人間の友達なんだから。」

「ああ、友達少なさそうだもんね…」

「失礼ね!女王でもあり魔神でもあると簡単に交友関係広げらんないのよ!!あんたにもこの苦労わかるでしょ!!」

「俺は店の従業員とも仲良いし、国民の家に時々泊まりに行くくらい仲良いよ?友達いっぱい。」

「それはそれで困るのですが…」

 少し離れたところでツッコミを入れるイシュディーン。ただピクシリー的には友達が多いというミチナガの発言に御冠のようだ。

「あんた相手が誰かわかってんの!今や魔神第3位の妖精女王である私にそんな口聞いてたら死刑よ死刑!」

「お、やるか?そんなことしたらうちの店が妖精たちに提供している娯楽ストップすんぞ。スイーツも売ってやらないからな。」

「きぃぃ悔しい!ちょっとリリー!あんたも加勢しなさい!」

「…ユグドラシル国の税収の半分はミチナガ商会関連です。それに私個人としても敵対するつもりはありませんよ。」

 冷静に淡々と述べるリリー。さらに味方をするならミチナガ側と言わんばかりにミチナガの腕に抱きつく。それを見たピクシリーはふてくされる。そしてミチナガの服装を見て気がついた。

「あれ?あんた出かけるところだったの?」

「ああ、歯医者の予約をしたからな。人気だからなかなか予約取れないんだよ。使い魔たちに定期的に見てもらっていたけど、プロに見てもらうのが一番だからな。」

「へぇ…歯医者ね。なんか人間っぽい……面白そうだから私もついて行くわ!」

 歯医者という未知の体験に興味を示したピクシリーの同行が強制的に決定した。そしてそれと同時にリリーだけ置いて行くこともできないとなり、二人を連れてのお出かけが決まった。



 街を歩くミチナガ。そんなミチナガを街の人々は遠巻きに羨ましそうに見つめる。中には嫉妬や憎しみもあるだろう。まあそれもそのはず、傍らには美女たるリリーとピクシリーを連れているのだから。

「これ刺されても文句言えないかも…昔の俺なら刺しにくる。」

「何変なこと言ってんのよ。あ!ミチナガ!あれ美味しそう!買って!」

「これから歯医者に行くんだから買い食い禁止。歯医者終わったら買ってあげるから。」

「え~~…金持ちのくせにケチ…」

 ぶーたれるピクシリー。そんな隣ではリリーがご機嫌で歩いている。リリーとしては今はミチナガとデートしている気持ちなのだろう。背後にはイシュディーンやリリー側の護衛も数人いるのにこれをデートと呼べるかは疑問だ。ただミチナガの心拍数はいつもより多い。

「ケチじゃないの。ほら、もうすぐ着くから。ここを曲がったところに……なんじゃこりゃ。」

 曲がり角を曲がった先にはミチナガの想像を超える大きな建物があった。そしてそこにはハジロ歯科医院の文字も。まさかただの歯医者がこんなに立派な3階建ての建物な訳がない。だがそんなミチナガの考えは中に入った瞬間打ち砕かれた。

「ようこそハジロ歯科医院へ。本日はご予約…リ、リリー様!それにミチナガ様に…よ、妖精女王……」

「俺は予約してあるんだけど、飛び入りでピクシリーも歯科検診受けたいんだ。リリーも待っているだけじゃ暇だろう?受けるか?」

「私は定期検診を受けているので問題ありません。お二人をお待ちしています。」

 突如やってきた三人に慌てふためく受付係。他の客からもどよめきが起きている。そしてこの事態をすぐにハジロの元へ伝えに行く受付嬢は数分後、ハジロとともに現れた。

「やあハジロさん。久しぶり。大盛況だね。」

「お久しぶりですミチナガさん。すみません今孤児院の子を見ていて…後30分ほどお待ちいただけますか?」

「オッケー。まったり待っているよ。」

「ありがとうございます。……ほら、だから言っただろ?」

「でも…そんな……」

 どうやら受付嬢はミチナガたちを1分でも待たせてはいけないと、今の診察を終わらせミチナガたちの診察を無理やりさせようとしたらしい。本来ならこの受付嬢の判断は正しい。ゆったりと待つことを不快に思わないミチナガが変なのだ。

 それからまったりと遊びながら待つこと30分後、ようやくミチナガが呼ばれホッとする受付嬢。そして診察室に入ったミチナガはハジロとの再会を喜ぶ。

「お久しぶりです。しかし歯医者だけでここまで大きな建物が建つとは…驚きです。やり手ですね。」

「ミチナガさんに比べれば大したことはありません。ここの3階は貴族や王族用の特別室なんです。私以外の歯医者も増えたからこそのこの大きさなんですよ。歯医者という言葉が一般に普及して嬉しい限りです。さて、あまり時間もないので早速診察を開始しますね。」

 この後も予約が大量にあるので手早く仕事を開始するハジロ。ものの数分で歯の診察を終えると魔法を構築し始めた。

「虫歯などはありませんが、歯茎内に歯石が多少隠れているようです。この魔法で簡単に取れるレベルなので口に入れたら3分ほど待ってください。」

 そういうとミチナガの口の中に魔法を放り込む。すると口の中でハジロの魔法が暴れまわる。ただこの魔法に不快感はない。口の中を水流が駆け巡り、歯を徹底的に綺麗にして行く。

「さて…それではこちらも始めましょう。妖精の歯を見るのは初めてです。」

「私も歯の治療を受けるのなんて初めてよ。口を開けていれば良いのよね?」

 そう言って口を開くピクシリー。ハジロは興味深そうに口の中を覗き込み、一本一本の歯を徹底的に調べる。

「歯の構造が人間とは異なりますね。犬歯のような噛みちぎるための歯がない。それに…非常に綺麗だ。歯石もない。虫歯らしきものもない。…口内細菌の種類が違うのか?これは面白い…ただこれでは特に治療は必要ありませんね。」

「そうなの?残念…人間みたいで面白そうだったのに。」

「そうですね…それでしたら歯のホワイトニングをしましょうか。歯を白くする治療です。独自の魔法を編み出したのですぐに真っ白になりますよ。」

「歯を白くするの?面白そうね。それじゃあそれをお願いするわ。」

 早速ピクシリーの歯のホワイトニングを始めるハジロ。すでに十分すぎるほど白い歯をもつピクシリーには必要ないと思われるが、せっかくということでわずかでも違いが出れば良いと魔法を行使する。

 するとほんのわずかにだが、白さと光沢が増したように見える。この結果にピクシリーも満足そうだ。その横で魔法の効果が切れたミチナガが水を吐き出す。するとその水の中には小さな石のようなものがいくつも点在している。

「うわ!こんなに汚かったの!?」

「どんな人でも綺麗に磨いているつもりでも歯と歯茎の隙間までは綺麗にできないんですよ。それにミチナガさんは…随分と歳をとられた……年齢の影響もあるのでしょう。」

「魔力を持たない俺では老化が早いですからね。…今じゃ肉体年齢はハジロさんよりも上ですね。」

 少し空気が重くなる。初めて会った時、ハジロはミチナガよりも年上であった。しかし今では誰が見てもミチナガの方を年上に思うだろう。ミチナガの老化のスピードは魔力を持つものと比べてあまりにも早すぎる。

「ミチナガさんもホワイトニングしましょうか?」

「ええ、是非ともお願いします。真っ白にしちゃってください。」

「わかりました。ああ、昔の治療痕も無くしておきましょうか?歯の復元も可能ですよ。」

「マジで!?それは是非ともお願いします。」

 ハジロの治療が終わる頃にはミチナガの歯は全て真っ白で健康的に生まれ変わっていた。まるでアイドルのような綺麗な歯を手に入れたミチナガはその結果に満足する。先ほどの重い空気は何処へ行ったのか。
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