目が覚めたら小学生の女の子でしたが、元陰キャなので静かに生きたい

羽蟲蛇 響太郎

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第7話 礼儀正しすぎて、誰も助けてくれない

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 朝の教室で、俺――音無すみれは確信していた。

 これはもう、
 誤解が文化として定着している。

「おはようございます、音無さん」

 男子が、深々と頭を下げた。

「……おはよう……」

 つい反射で返してしまったが、
 その瞬間、周囲の男子が一斉にこちらを見た。

「返事も丁寧だ……」
「やっぱ大人だよな……」

 違う。
 それはただの社畜の癖だ。

 席に着くと、今度は女子たちが集まってくる。

「すみれちゃん、おはよー!」
「今日の算数さ、テストあるらしいよ!」

 この距離感。
 この温度差。

 俺の左右で、世界が二つに割れている。

 休み時間。
 事件は起きた。

 女子グループが盛り上がっている最中、
 後ろの席の男子が立ち上がった。

「……あの……」

 空気が凍る。

 男子は俺ではなく、女子たちに向かって言った。

「その……ちょっと……声が……」

 最後まで言えなかった。
 代わりに、全員の視線が俺に集まる。

 なぜ。

「すみれちゃん、うるさかった?」
「ごめんね!」

 違う。
 俺は何も言っていない。

「……え……?」

 否定しようとした、その瞬間。

「い、いえ! 音無さんは関係なくて!」
 男子が慌てて言い足す。

「音無さんが困ってるかと思って……」

 困っていない。
 というか、今一番困っている。

 女子たちが一斉に男子を見る。

「え、すみれちゃん困ってたの?」
「ちゃんと言ってよ!」

「いや、だから……」

 男子は後ずさる。
 完全に悪者の構図だ。

 俺は悟った。

 俺が黙っている限り、勝手に代理戦争が始まる。

「……あの……」

 勇気を振り絞って声を出す。

「……大丈夫……だよ……」

 空気が止まる。

 女子も、男子も、担任すらも、俺を見る。

「……どっちも……悪くない……」

 言ってから後悔した。
 それは、最悪の中立発言だ。

「すみれちゃん、やさしい……」
「大人……」

 女子の評価が上がる。

「す、すみませんでした……」
 男子が頭を下げる。

 やめてくれ。
 誰も謝らなくていい。

 だが、状況はもう止まらない。

 昼休み。
 女子は俺の周りを固め、
 男子は一定距離を保つ。

 完全に緩衝地帯だ。

 その後のグループ活動でも同じだった。

 男子が意見を言う前に、
 「音無さん、どう思いますか?」と振られる。

 俺が黙ると、
 「じゃあそれで」と決まる。

 意思決定をしていないのに、
 決定者扱いされている。

 帰りの会。
 担任が満足そうに言った。

「音無さん、今日もありがとう。みんなをまとめてくれて」

 まとめていない。
 俺はただ、板のように立っていただけだ。

 帰り道、ランドセルがやけに重かった。

 女子にとっては、
 話を聞いてくれる安心枠。

 男子にとっては、
 逆らってはいけない存在。

 そして俺自身にとっては――
 逃げ場のない立ち位置。

「……静かに生きるって……難しいな……」

 誰にも聞こえないように呟く。

 音無すみれの小学生生活は、
 今日もまた、
 誤解の上に誤解を積み重ねて進んでいくのだった。
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