霊感専門相談所くじら特殊サービス

緒沢タラ

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第一話 シロイオリ

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「この部屋に限った話ではあるのですが・・・、どうもこの離れはその・・・」
 だが、開いたものの口調は重い。
 僅かに言い淀み逡巡すると、一度深く深く溜息をつき、そうして再び権堂へと顔を向けた。
「実はその・・・、このお部屋に関しては、恋人同士でお見えになったお客様がお泊りになった場合だけ、女性の幽霊が出ると言われておりまして・・・」
「女性・・・」
 支配人の言葉を拾った理久が、自身の身をギュッと抱きしめた。その視線がチラリと向いた、続き間の寝室にだけ有る、白い漆喰の壁。
 それを視界の隅で伺っていた権堂が
「恋人同士、だけですか」
 問いかけるのに、支配人はどこか決まり悪そうに「いえ・・・」と唸り
「正確には、その・・・お二人でお泊りになったお客様が、夜の営みをされている時に・・・という事らしく・・・」
 告げた言葉に、権堂は「ほぅ」と片頬を引き上げ笑う。
「え? てか、エロい事考えると消えるって言うあれは?」
 内容に多少のテレを感じてなのか、恥ずかしそうに言った理久へ
「迷信だろ」
 権堂はすっぱりと答える。
「そもそもお前、エロい事考えただけであいつらが消えた事あんのか?」
「・・・そんな状況でそんな事考えないですよ、権堂さんじゃあるまいし」
 呆れたような声へ、拗ねて唇を尖らした理久は、不満気にそう返し
「てか、それ何で分かったんですか? お客さんがエロいことしてました、なんてそうそう言わないですよね?」
 気を取り直して、何故状況が分かったのかと支配人へ向き直る。
「最初はお客様からの苦情が発端だったんです。この離れは元々は旧豪族の家屋敷にあった離れの蔵を私の曽祖父の代に移築した物でして。それからしばらくして、祖父の代になってから改装をしまして、スイートルームとして使用するようになりました。ただこちらにお泊りになったお客様から稀に、夜になると女性の幽霊が出たという話を聞くようになりまして・・・。ただし、全てのお客様が見ると言う訳ではないようで・・・多くても月に一度か二度、その様な話が有るかどうか程度だったのですが」
 だが、今回のあちこちで奇妙な現象が見られるようになったのと同じ頃から、この部屋での目撃談なども増えてきたのだと、言ってがっくりと項垂れてしまった。
「誘発されたんですかね?」
「まぁ、多少はそれも有るかもしれねぇなぁ。けどそれとは全く別の理由かもしらん。調べてみない事には何とも言えねぇけど、何にしろここには別の何かがいる」
 星の問いかけへ答えた権堂は、この話になってから僅かに顔色を悪くさせた理久の様子をチラリと伺った。
「ただまぁ今んとこ、それらしい気配を、俺は・・、感じれてねぇんだよな」
 そうしてから室内を見回した権堂が言うのに、理久も小さく頷いた。
「確かに、オレもまだ視えない・・・」
「全部消して回ったおかげで、ソレも消えたとかじゃないのか?」
 言った芳桐に
「無ぇな」
 権堂があっさりとそれを否定する。星もいつもの柔らかな表情を消し「たぶん関係ないよ」と首を振った。
「他の場所には、呪を込めた物が仕掛けられてたでしょ? でも、先生たちが分からないって事は、この部屋にはそれが存在しないんだよ。場所的には無いとおかしいのに」
 星の言葉に、「おかしい?」と、芳桐と支配人が問い返す。
「うん。えっと、さっき館内を回る前に、地図へ印を付けたでしょう?」
 キョロっと、辺りへ顔を巡らせる星の様子に、芳桐は立ち上がり、広縁の小さな机の上に置いてあったパンフレットを手に戻って来ると、それを星へ差し出す。
 パンフレットを受け取った星は、館内図を開いて見せると
「芳桐が丸付けたところあるだろ。実際に呪物はここに仕掛けられてた」
 言って、丸がついた箇所を指で示していく。
 見えない線で繋ぐように辿る星の指先は、旅館の建物をぐるりと囲うように動いていった。
 芳桐と共にそれを目で追っていた支配人は
「ここだけ、外れていますね」
 ポツリと呟く。
 言葉の通り、今いる離れの場所は描いた円の外側に位置している。
「最初ここを見た時に、長洲くんがカプセルに入ってるみたいだって表現してたけど、その悪意っていうカプセルにこの場所だけは入ってないんだよね」
 印をつけた後、実際敷地内を歩いてみて分かった事だったが、呪物が作る範囲の内側では、所謂幽霊と言われる物や実体を伴わない影が多くいたのだが、その外側へ出ると、多少は有るものの、その数はあからさまに減っていた。
「それになぁ・・・」
 星の言葉に被せるよう
「この部屋だけ、最初から妙に綺麗なんだよ」
 グイッと日本酒を煽った権堂が言った。
「ここだけ不自然な程何もいねぇんだ」
 権堂の言葉に頷いた理久が
「むしろ、呼び込むために仕掛けられていた物とは反対に、何かが入り込むのを拒んでるみたい」
 言うのに「そうだな」と頷いた権堂が、小さくフッと息を吐く。
「まぁ何だ、言うなればここは、そいつの縄張りって事なんだろうな」
 新参者の悪意になど、侵されない。
 年季の入った、呪いや憎しみ。
「まるで・・・、この部屋自体が、呪いそのものみたいだ」
 理久がポツリと呟いた言葉に、ビクリと支配人が身を強張らせた。
「どうにか、できないのですか?」
 問いかけに、輝く白身魚の刺し身へ視線を向けた権堂は、箸でそれを掴み、口へ運ぶ。
 口の中でぷりぷりとした弾力のそれは、咀嚼すると甘みを感じる。
 それをじっくりと味わってから
「そうだなぁ・・・まずはその出歯亀ヤロウを、どうにかして引っ張り出さねぇ事にはなぁ」
 言った権堂に
「全く、視えもしないのか?」
 芳桐が理久へ問いかける。
 頷いて答えた理久はだが、少し躊躇いを見せ
「視えないです。ただ・・・、少しだけ、本当に微かになんですけど・・・」
 気配は感じる。
 言った理久に、権堂はクイっと片方の眉を上げると
「理久が微かにって程度じゃ、尻尾をふん捕まえて引っ張り出すのはちっと難しいな」
 ガシガシと、自身の頭をかき混ぜた。
「さっきの支配人さんのお話だと、ここでセックスをするって言うのがそれを呼び出す鍵になっているんでしょうねぇ」
 すでに大学も卒業し、成人してから数年が経過していると言うのに、未だ高校生にも間違われる事もある可愛らしい星が口にした言葉に、支配人と理久はぎょっと目を見張り、その横で芳桐は眉を寄せ苦い表情を作るが、その頬は薄く染まっている。
「けどなぁ、全員が全員見てるわけじゃないってのも引っかかるんだよな。何か他に、思い当たる節や、もしかしたらっていう共通点みたいのは無いですかねぇ?」
 唯一、星の言葉に動じなかった権堂が、支配人を伺うように見る。それに支配人は「そうですねぇ・・・」と考える様子を見せるが、客の個人情報に関わる事もあり事情も事情だけになのか、他に思いつく共通点は無いようで、そのまま黙り込んでしまった。
 そんな様子に権堂は「んー・・・」と唸り天井を仰ぎ見て、ややして、チラリと横の理久へ視線をやり、フッと一つ息を吐き
「試してみるしかねぇか」
 意を決したように言った。
「え?」
 それへ権堂へ集まる視線。
「試すって・・・」
 何を? と、その疑問を顔にありありと浮かべる理久の横で
「何か方法を思いついたんですか?」
 先生さすがです! と、星が尊敬の念で権堂を見つめる。
 だが権堂は
「いや、そんなのは無ぇ」
 とそれをきっぱり否定する。
「ただ、ここに居るやつをどうにかすんなら、まず呼び出さねぇと話になんねぇだろ」
 じゃなきゃ何もできねぇ。
 あっさりと言うが、それに理久の眉間がギュッと顰む。
「た、確かにそうですけど・・・、でもじゃあどうやって」
 戸惑う理久を横目で視ていた権堂は、支配人へ向き直ると
「木田島さん」
 呼びかける。
「ここのヤツをどうにかするにあたって、何個かお願いがあるんすけどね」
「あ、は、はい」
 突然、自分に戻ってきた話に頷いた支配人は、不安げな表情で「何でしょう」と居住まいを正した。
「まず、あっちのヤツらをかなりの数片付けたもんで、正直今日はもう疲れてしんどいんですよ。なんで、ここのヤツを消すなら一泊追加してくれませんかね?」
 言った権堂に、支配人は「はい、問題ございません」と頷く。
「で、原因は別ではあるんですが、追加報酬は無しで結構です。依頼としては元々、原因に関係なく、こちらで起きている霊現象の解決でしたから」
 権堂の言葉に、支配人の表情がパッと明るくなる。
 条件の中に、おそらく報酬の追加が含まれると思っていたのだろう。あからさまにホッとした様子の支配人に苦笑した権堂は
「ただ、明後日帰るまでの飯を付けてくれますかね。あぁ、勿論こんなに豪華じゃなくて良いんで」
 普通でいいですよ普通で。と告げた。
 それにも頷き了承した支配人へ
「あともう一つ。これが一番重要なんですが。もう一部屋、普通のツインの部屋で良いんで用意してもらえませんか」
 権堂が言うのに、全員がどういう事かと権堂をまじまじと見る。
「お部屋、ですか?」
 それは問題ないですが・・・。
「もう一部屋って? 十分4人で寝れる広さですよ?」
 支配人がやや戸惑いながらも承諾するのを確認してから、星が首を傾げ理由を問うのに頷いた権堂は
「ここの部屋の主を呼び出す条件は、恋人同士のセックスだろ?」
 言って、自分へ視線を向けてくる面々を見回した。
「ってなったら、関係無い人間がいるのは良くねぇだろ」
 そうして、当然のように言った。
「ちょっと待ってください。関係のない人間って、じゃあ逆に誰が関係の有る・・・」
 僅かに権堂から身を引いて、恐る恐る疑問を口にした理久へ
「俺とお前がここに泊まるに決まってるだろ」
 アホな事を聞くなと、権堂が鼻で笑った。
「え!?」
 瞬間、ブワッと顔だけでなく耳や首までも真っ赤に染めた理久が、目に見えてオロオロと、自分を見る他の面々に助けを求めるように顔を向ける。
「あのなぁ、目的はここに巣食ってるヤツを呼び出して消すのが目的なんだぞ。視えもしない芳桐とお坊ちゃんがここに残ってヤッたって意味ねぇだろ」
「ヤッ・・・」
「!?」
 何を言ってるんだと呆れを滲ませ言う権堂は、伸ばした指でツイっと理久の顎へ触れるとそこをクイッと持ち上げる。
「それとも、坊ちゃんたちに見られても良いのか? 俺は別に構わねぇけどな」
 ニヤニヤとした笑いを浮かべた権堂の顔が理久へ近付いた。
「だ・・・だからって・・・」
 それへ慌てて身を引いた理久が狼狽えるのに、権堂は小さく吹き出す。
「冗談だよ。誰も本当にヤるなんて言ってねぇ」
 言って、先程理久が気にしていた、寝室の白い壁へとチラリ視線をやった。
「まずはそれらしいフリをしてみて、変化があるかどうか様子を見たい」
 まぁあわよくば騙されて出てきてくれりゃラッキーなんだけどな。
 権堂の言葉に、釣られたようにチラリと壁へ視線をやった理久は、再び目の前の権堂へ視線をやり、自分たちを何とも言い難い空気で見つめる3人へ視線をやり
「本当に・・・フリですよね?」
 確認するように、権堂に問いかける。
 それへ権堂は「おぅ」と返すと、顔を真っ赤に染めた理久の、恥ずかしげに見上げてくる黒い瞳にフッと目を細めて片頬で笑った。

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