生きること（笑）

始まり

3話

　　　　『お前、馬鹿かィ。』

突然、声がした。
私は、さっき拾った木の棒を構えながら、振り返る。
…誰もいない。気のせい？
少し気を緩め、視線を下げたところには、ニヤッと嗤う猿。
そして、猿はその口を開く。

　『お前を心配する奴なんていないだろォ。』

葵は、猿が言ったことにとても苛ついていた。
なぜ、猿が喋るのかということに対して、疑問を持たないくらいに…。
「そんなわけない。急に私がいなくなったんだ。皆心配してるに決まってるじゃない。」怒りのあまり、葵は叫ぶように猿に言い返す。
しかし、猿はそれを嘲笑った。

　『お前は、向こうでは死んでるんだよォ？お前も、なんとなくそれはわかってたんだろォ。ただ、気づかないふりをしていただけ。それに、お前が生きていたって、心配なんてする人間なんていないだろォ？』

葵は顔を真っ赤にし、「死んでなんかない。私は家に帰るの。お父さんとお母さんだって、きっと今頃、心配してる。」ともはや自分に言い聞かせるように叫んだ。
猿は、もう一度ニヤッと笑い『お前、馬鹿だなァ』　と言い残して消えていった。

「今更だけど、猿が喋った…。」
猿が消えた安心感からか、今までの疲れからか、葵はドサッと木によりかかり、ズルズルっと座り込むと、本当に今更なことを呟き、目を閉じていった。