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38話 重圧の夜、そして迷い
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その夜、蒼真は一人、自宅の書斎にいた。
デスクの上には財前グループ会長からの手紙が置かれていた。
レストランを出る際に香澄が言った言葉を思い出す。
「そうそう、父からお渡しするように言われていたものがあるの」
香澄は上品な封筒を取り出した。
「お忙しい中恐縮ですが、お時間のある時に目を通していただければ」
蒼真君へ
香澄は私にとって、何よりも大切な娘だ。
その隣に立つことを許すのだから、君には相応の責務が生じる。
私は常に見ている。
財前伸一
蒼真はそれらを見つめながら、ため息をついた。
(重い……)
香澄との会話が、頭から離れなかった。
「私たち、このままでいいのかしら?」
あの問いかけは、自分がずっと胸の奥で感じていた疑問と重なっていた。
---
蒼真は椅子から立ち上がり、窓に向かった。夜景がきらめいている。
この結婚について、これまでは会社のメリットばかり考えていた。しかし、春菜と出会ってから、特にあの夜に想いを伝え合ってから、自分の中で何かが変わり始めていた。
香澄は理想的な相手だった。美しく、聡明で、自分を理解してくれる。結婚相手としては申し分ない。
でも――。
(それは、恋愛ではない)
蒼真は自分に正直になろうとした。香澄への気持ちは、尊敬と親しみはあるものの、心から愛しているとは言えない。そして、おそらく香澄も同じように感じているのではないだろうか。
今日のレストランでの彼女の表情を思い出す。どこか遠くを見つめるような、何かを探すような目をしていた。
(彼女も、本当の幸せを求めている)
---
蒼真はデスクに戻り、引き出しから結婚についての資料を取り出した。
両家の合意書、式場の仮予約――すべてが着実に進んでいる証拠だった。
(ここまで来て、今更……)
責任感が彼を躊躇させる。会社のことを考えれば、この結婚は最良の選択だ。財前グループとの提携は、確実に事業を安定させてくれる。
それに、両親も喜んでいる。香澄の父親の期待も大きい。
(だが、このまま流されていいのか?)
春菜への想い。あの夜に確認し合った気持ち。それは偽ることのできない、自分の真実だった。
同時に、香澄との関係も簡単に切り捨てられるものではない。
蒼真は混乱していた。答えは簡単には出そうになかった。
---
スマホを手に取り、カレンダーを確認する。明後日は、財前グループのブライダル紹介フェア。大きなイベントが終わった後なら、落ち着いて話ができるだろう。
(フェアが終わったら、香澄さんと正直に話してみよう)
自分の気持ち。そして、お互いがこの関係をどう思っているのか。
まずはそこから始めるしかない。結論を急ぐ必要はない。だが、曖昧なままにしておくのも、お互いにとって良くないだろう。
蒼真はスマホにメモを入力した。
「フェア終了後、香澄さんと率直に話し合い」
(そして……)
春菜への想いをどうするのか。それも含めて、すべてを整理しなければならない。
---
蒼真は資料を片付けながら、肩の力が少し抜けたのを感じた。
すべてを決断したわけではない。けれど、少なくとも逃げるのをやめる決心はついた。
(まずは、向き合うことから)
窓の外の夜景を見つめながら、蒼真はそうつぶやいた。
結果がどうなるかは分からない。しかし、このまま曖昧な状態を続けるのは、誰のためにもならない。
蒼真は書斎の電気を消し、そっと部屋を出た。
胸の内には、まだ迷いがあった。それでも前に進もうという意志だけは、確かにあった。
---
翌朝、蒼真が出社すると、デスクに香澄からのメッセージが届いていた。
「お疲れさまです。明日のフェア、よろしくお願いします」
いつもと変わらない、丁寧で上品な文面。
蒼真は返信を打った。
「こちらこそ。フェアの成功に向けて頑張りましょう」
そして、内心で付け加えた。
(その後で……きちんと話をしよう)
蒼真は息を整えて、今日一日の仕事に向かった。まだ答えの出ない問いを抱えたまま、歩き続ける男の、決意と迷いが混在した表情で。
デスクの上には財前グループ会長からの手紙が置かれていた。
レストランを出る際に香澄が言った言葉を思い出す。
「そうそう、父からお渡しするように言われていたものがあるの」
香澄は上品な封筒を取り出した。
「お忙しい中恐縮ですが、お時間のある時に目を通していただければ」
蒼真君へ
香澄は私にとって、何よりも大切な娘だ。
その隣に立つことを許すのだから、君には相応の責務が生じる。
私は常に見ている。
財前伸一
蒼真はそれらを見つめながら、ため息をついた。
(重い……)
香澄との会話が、頭から離れなかった。
「私たち、このままでいいのかしら?」
あの問いかけは、自分がずっと胸の奥で感じていた疑問と重なっていた。
---
蒼真は椅子から立ち上がり、窓に向かった。夜景がきらめいている。
この結婚について、これまでは会社のメリットばかり考えていた。しかし、春菜と出会ってから、特にあの夜に想いを伝え合ってから、自分の中で何かが変わり始めていた。
香澄は理想的な相手だった。美しく、聡明で、自分を理解してくれる。結婚相手としては申し分ない。
でも――。
(それは、恋愛ではない)
蒼真は自分に正直になろうとした。香澄への気持ちは、尊敬と親しみはあるものの、心から愛しているとは言えない。そして、おそらく香澄も同じように感じているのではないだろうか。
今日のレストランでの彼女の表情を思い出す。どこか遠くを見つめるような、何かを探すような目をしていた。
(彼女も、本当の幸せを求めている)
---
蒼真はデスクに戻り、引き出しから結婚についての資料を取り出した。
両家の合意書、式場の仮予約――すべてが着実に進んでいる証拠だった。
(ここまで来て、今更……)
責任感が彼を躊躇させる。会社のことを考えれば、この結婚は最良の選択だ。財前グループとの提携は、確実に事業を安定させてくれる。
それに、両親も喜んでいる。香澄の父親の期待も大きい。
(だが、このまま流されていいのか?)
春菜への想い。あの夜に確認し合った気持ち。それは偽ることのできない、自分の真実だった。
同時に、香澄との関係も簡単に切り捨てられるものではない。
蒼真は混乱していた。答えは簡単には出そうになかった。
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スマホを手に取り、カレンダーを確認する。明後日は、財前グループのブライダル紹介フェア。大きなイベントが終わった後なら、落ち着いて話ができるだろう。
(フェアが終わったら、香澄さんと正直に話してみよう)
自分の気持ち。そして、お互いがこの関係をどう思っているのか。
まずはそこから始めるしかない。結論を急ぐ必要はない。だが、曖昧なままにしておくのも、お互いにとって良くないだろう。
蒼真はスマホにメモを入力した。
「フェア終了後、香澄さんと率直に話し合い」
(そして……)
春菜への想いをどうするのか。それも含めて、すべてを整理しなければならない。
---
蒼真は資料を片付けながら、肩の力が少し抜けたのを感じた。
すべてを決断したわけではない。けれど、少なくとも逃げるのをやめる決心はついた。
(まずは、向き合うことから)
窓の外の夜景を見つめながら、蒼真はそうつぶやいた。
結果がどうなるかは分からない。しかし、このまま曖昧な状態を続けるのは、誰のためにもならない。
蒼真は書斎の電気を消し、そっと部屋を出た。
胸の内には、まだ迷いがあった。それでも前に進もうという意志だけは、確かにあった。
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翌朝、蒼真が出社すると、デスクに香澄からのメッセージが届いていた。
「お疲れさまです。明日のフェア、よろしくお願いします」
いつもと変わらない、丁寧で上品な文面。
蒼真は返信を打った。
「こちらこそ。フェアの成功に向けて頑張りましょう」
そして、内心で付け加えた。
(その後で……きちんと話をしよう)
蒼真は息を整えて、今日一日の仕事に向かった。まだ答えの出ない問いを抱えたまま、歩き続ける男の、決意と迷いが混在した表情で。
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