君を知る前の僕には戻れない

にまる いお

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80話 予想外の挑戦者

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オフィスの扉が静かに開く。
そこに現れたのは、いつもの元気いっぱいの梨花ではあるが、今回は雰囲気が少し違った。スーツをきちんと着こなし、手には整頓された履歴書と職務経歴書をしっかりと持っている。

「失礼します。面接に参りました、相川梨花です」

元気さは残っているが、口調は落ち着き、言葉遣いも丁寧だ。蒼真は思わず眉を上げる。

「……どうぞおかけください」

勢いだけで押しかけてくるのかと思っていた梨花が、きちんと面接に臨む姿に、蒼真は面食らった。

「はい」

梨花は席に座ると、背筋を伸ばして丁寧に頭を下げた。蒼真は書類を受け取りながら、内心でため息をつく。

「書類も揃えています。今日の面接で、私の能力を見ていただければと思います」

(……こんなに真面目に来るとは……)

「まずは自己紹介をお願いします」

梨花は落ち着いた声で話し始める。言葉は明瞭で、経歴や経験も端的にまとめられていた。接客バイトでの具体的な成果や、TOEICのスコア、語学スキルもきちんとアピールしている。

「……なるほど、しっかりしていますね」

蒼真は机越しに顔を上げ、梨花の目を見つめる。勢いだけの子が面接に来ると思っていたのに、社会人としての礼儀や態度がきちんとしている。

「質問です。うちの会社で、どのようなことに挑戦したいですか?」

「私は広報や広告の仕事に興味があります。まだ経験は浅いですが、学ぶ意欲と行動力には自信があります。試用期間での研修もしっかり取り組むつもりです」

その言葉に蒼真は軽く頭を抱える。

(……これは落とす理由が見当たらない……!)

面接の最後、梨花は深く頭を下げ、にこりと笑った。

「本日は貴重なお時間をありがとうございました。結果をお待ちしております」

蒼真は心の中で小さく呟いた。

(……真面目すぎる……)

書類も態度も完璧。勢いだけでなく、きちんと自分をアピールできる。蒼真は思わず苦笑いするしかなかった。

「……わかった、試用期間で、まずは様子を見よう」

その瞬間、梨花の顔がぱっと明るくなる。

「はい! ありがとうございます、高瀬社長!」

その笑顔に、蒼真は内心でため息混じりの覚悟を決める。

(……これは予想外すぎる……いや、しかし仕事だ、仕事)

---

試用期間が決まり、梨花は元気いっぱいに会社の一員として加わった。

「まずは、会社の資料整理からね」
篠原はデスク越しに、丁寧に業務を説明する。

「はい、わかりました!」
梨花は元気よく答え、資料の整理を始める。
その手際の良さに、周囲の社員も思わず目を丸くした。

ガラス越しに見ていた蒼真は内心でため息をつきつつ、少し困った顔をする。
勢いだけで押しかけて来ると思った梨花を思い出すと、今の姿とのギャップに驚かされる。

---

昼休み、社員たちがランチに出かける中、梨花はひとり資料に向かってノートを取り続けていた。
蒼真はそっと近づく。

「……相川さん、休憩は取らなくていいのか?」
「大丈夫です! このまま整理を終わらせたいんです」

真面目さに思わず苦笑が漏れる。
(……勢いだけの子じゃないんだな)

「真面目なのはいいけど……倒れたら困る。少し休め」

なぜか梨花は頬を染めた。
(……心配してくれるなんて。やっぱり優しい……)
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