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9話 心の輪郭
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春菜は、冷めかけたコーヒーを前に、ノートPCの画面を眺めていた。資料の修正に集中するはずが、同じ行を何度も読み返してしまう。
──蒼真の、あの眼差しが、まだ胸に残ってる。
(ただの仕事の一環。きっと気のせい……)
そう思い込もうとしても、心のどこかがざわついていた。
「……コーヒー切れた?」
背後から堀井の声。振り返ると、彼女はカップを手に笑っていた。
「ちょっと休憩しない? 付き合ってよ」
「うん、じゃあ……少しだけ」
給湯室へ向かう廊下を並んで歩きながら、堀井がふと口にした。
「KITEの高瀬社長って、前より柔らかくなったよね。ちょっと意外」
「……そう、ですか?」
「水沢のこと、気に入ってるんじゃない? あの視線、普通の仕事相手には向けないと思う」
春菜は笑ってごまかしたが、心の奥で何かがざわめいた。
──気に入られてる? ……私が?
---
午後のリモート会議。画面越しに現れた蒼真の顔に、春菜の胸が一瞬だけ高鳴る。
「では、水沢さん。進捗のご説明を」
相変わらず冷静な口調。しかし、ふと視線が合ったとき、春菜はその一瞬に宿る感情を見逃さなかった。
(……目が、逸らされた?)
説明を終えると、蒼真は静かにうなずいた。
「丁寧なまとめをありがとうございます。非常に分かりやすかった」
それだけ。微笑みも、ほぐれる気配もない。
──距離を戻そうとしている。そう感じた。
会議が終わり、画面が閉じる。その瞬間、春菜は静かに息を吐いた。
(……やっぱり、私の勘違いだったのかな)
でも、心がそう割り切ってくれるほど単純ではなかった。あの目の奥に、一瞬だけ見えたもの。それを思い出すたび、胸が少しだけ痛くなる。
---
その夜。ソファに体を沈め、春菜はスマホの画面を見つめていた。
昨日送られてきたメッセージがそのまま残っている。
> 「ごめん、今日遅くなる。明日でも大丈夫?」
(……ああ、またか)
「うん、大丈夫」とだけ返して、スマホを伏せた。
以前なら、少しでも会える時間を作ろうとしてくれていたはず。でも最近は、こうしてすれ違うことが増えた。
(……本当は、私も期待してないのかもしれない)
頭ではわかっている。優斗が悪いわけじゃない。仕事が忙しいのも、無理をしてほしくない気持ちも。
でも、感情は理屈と同じスピードでは動かない。
その夜、ふと浮かんだのは優斗の顔ではなかった。
会議の中でふと逸らされた蒼真の視線。感情を抑えるような、あの静かな沈黙だった。
---
翌朝、春菜はいつもより早くオフィスに着いた。
誰もいない静かな空間でPCを立ち上げる。その動作の中に、決意のような静かな重さがあった。
(ちゃんと向き合わなきゃ)
優斗とのことも。変わっていく自分の気持ちも。
そして、心の奥で感じてしまった"あの人"の想いにも。
逃げずに見なければ──このまま曖昧なままではいられない。
春菜はゆっくりと息を吸い込んだ。
心の中で、静かに何かが変わり始めていた。
──蒼真の、あの眼差しが、まだ胸に残ってる。
(ただの仕事の一環。きっと気のせい……)
そう思い込もうとしても、心のどこかがざわついていた。
「……コーヒー切れた?」
背後から堀井の声。振り返ると、彼女はカップを手に笑っていた。
「ちょっと休憩しない? 付き合ってよ」
「うん、じゃあ……少しだけ」
給湯室へ向かう廊下を並んで歩きながら、堀井がふと口にした。
「KITEの高瀬社長って、前より柔らかくなったよね。ちょっと意外」
「……そう、ですか?」
「水沢のこと、気に入ってるんじゃない? あの視線、普通の仕事相手には向けないと思う」
春菜は笑ってごまかしたが、心の奥で何かがざわめいた。
──気に入られてる? ……私が?
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午後のリモート会議。画面越しに現れた蒼真の顔に、春菜の胸が一瞬だけ高鳴る。
「では、水沢さん。進捗のご説明を」
相変わらず冷静な口調。しかし、ふと視線が合ったとき、春菜はその一瞬に宿る感情を見逃さなかった。
(……目が、逸らされた?)
説明を終えると、蒼真は静かにうなずいた。
「丁寧なまとめをありがとうございます。非常に分かりやすかった」
それだけ。微笑みも、ほぐれる気配もない。
──距離を戻そうとしている。そう感じた。
会議が終わり、画面が閉じる。その瞬間、春菜は静かに息を吐いた。
(……やっぱり、私の勘違いだったのかな)
でも、心がそう割り切ってくれるほど単純ではなかった。あの目の奥に、一瞬だけ見えたもの。それを思い出すたび、胸が少しだけ痛くなる。
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その夜。ソファに体を沈め、春菜はスマホの画面を見つめていた。
昨日送られてきたメッセージがそのまま残っている。
> 「ごめん、今日遅くなる。明日でも大丈夫?」
(……ああ、またか)
「うん、大丈夫」とだけ返して、スマホを伏せた。
以前なら、少しでも会える時間を作ろうとしてくれていたはず。でも最近は、こうしてすれ違うことが増えた。
(……本当は、私も期待してないのかもしれない)
頭ではわかっている。優斗が悪いわけじゃない。仕事が忙しいのも、無理をしてほしくない気持ちも。
でも、感情は理屈と同じスピードでは動かない。
その夜、ふと浮かんだのは優斗の顔ではなかった。
会議の中でふと逸らされた蒼真の視線。感情を抑えるような、あの静かな沈黙だった。
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翌朝、春菜はいつもより早くオフィスに着いた。
誰もいない静かな空間でPCを立ち上げる。その動作の中に、決意のような静かな重さがあった。
(ちゃんと向き合わなきゃ)
優斗とのことも。変わっていく自分の気持ちも。
そして、心の奥で感じてしまった"あの人"の想いにも。
逃げずに見なければ──このまま曖昧なままではいられない。
春菜はゆっくりと息を吸い込んだ。
心の中で、静かに何かが変わり始めていた。
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