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11話 揺れるまなざし
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午前のオフィスは、いつもより静かに感じた。
春菜はデスクで手を動かしながら、ちらりとスマホを確認する。
(……まだ"既読"になってない)
昨夜送ったメッセージ。
> 「おつかれさま。明日、会える?」
シンプルな問いかけに、まだ優斗からの返事はなかった。
(……なんで、こんなメッセージ送ったんだろう)
自分でも分からない。いつもなら、もっと自然に連絡していたのに。昨日は、なぜか確かめたい気持ちが強かった。
蒼真の顔が脳裏をよぎる。あの穏やかな眼差しを思い出すと、胸の奥が温かくなる。その自分に気づいた瞬間、優斗への気持ちを確認したくなったのかもしれない。
(忙しいのかな。……それとも)
胸の奥がざわつくのを感じながら、気持ちを仕事に戻そうとする。
昼休み。スマホが震えた。
優斗からの短い返信だった。
> 「ごめん、今日は会えないかも。ちょっと立て込んでて」
読み終えた瞬間、胸のどこかが、きゅっと縮んだ。
「水沢、今日ランチ行かない?」
堀井の声に、無理やり笑顔を作ってうなずく。
(……優斗が忙しいのはわかってる。でも、どうしてこんなに冷たく感じるんだろう。私の気持ちのせい?)
ビルの外に出ると、風が強かった。春菜は上着の襟を立てながら、空を見上げる。
そのとき、ふと脳裏に浮かんだのは、蒼真だった。
──あなたの考え方には、いつも驚かされます。
その言葉が、なぜか印象深く心に残っていた。
(これは仕事の評価。そう思っているのに、なぜだろう。優斗とは違う種類の安心感を感じてしまう)
---
一日の仕事を終えた春菜は、会社を出てからもしばらく、まっすぐ帰る気になれなかった。
気づけば、小さな公園のベンチに腰を下ろしていた。
カバンの中から資料を取り出し、ぼんやりとページをめくる。
(あの人の言葉、ただのお世辞じゃなかった。ちゃんと、私を見てくれてた)
でも、それは仕事としての評価。そう思うようにしても、どうしても胸の奥がざわつく。
---
優斗の部屋では──
「春菜さんに、返事した?」
晃が何気なく尋ねた。
「……ああ、『今日は会えない』って」
「……本当にそれでいいの?」
優斗は振り返った。晃の表情は、いつもより真剣だった。
「もう中途半端な顔はできない。晃、俺……お前のことを、ちゃんと大切に思ってる」
「だったら、ちゃんと決断しなよ。このまま春菜さんを宙ぶらりんにして、俺と一緒にいるなんて、誰にとっても良くない」
晃の言葉は、優しいけれど容赦がなかった。
「誰も傷つけたくないって思ってるうちは、結局みんなを傷つけ続けることになる」
優斗は黙り込んだ。心の奥で、晃の言葉が正しいとわかっていた。
──君、昔から逃げるのが上手だったよね
晃の言葉が頭に響く。
優斗は立ち上がり、窓の外を見つめた。
「俺、怖いんだ。誰かを傷つけるのが」
「でも、もう傷つけてるんだよ。曖昧なままでいることで」
しばらく沈黙が続いた。
「……もう、逃げるのはやめよう」
優斗は小さくつぶやいた。
---
その日の夕方、優斗は晃のマンションを訪れた。
「早いじゃん。まだ6時だよ」
「……話があるんだ」
リビングに座り、優斗は晃を見つめた。
「はい。コーヒー入れたよ」
「ありがとう……俺、春菜とちゃんと話をする。もう逃げるのはやめる」
「……これまで築いてきたものを失うのが、怖かったんだ」
「でも、嘘を続ける方がもっと怖い」
優斗は頷いた。晃の言葉が、胸に深く響いた。
「俺、春菜には正直に気持ちを伝えなきゃいけない。でも、お前とも、まだ正式に付き合えるかわからない」
「……君らしいね」
「春菜を傷つけた罪悪感を、お前に持ち込みたくないんだ」
晃は静かに頷いた。
「でも、気持ちは決まってるんでしょ?」
「……ああ」
「君がそう決めたなら、俺も待つよ」
優斗は立ち上がった。
「春菜にちゃんと時間を作ってもらって、全部話すよ」
晃の表情に、痛みと感謝が入り混じった色が浮かんだ
「……わかった」
優斗は振り返ることなく、晃の部屋を後にした。
もう、逃げることはできない。
春菜はデスクで手を動かしながら、ちらりとスマホを確認する。
(……まだ"既読"になってない)
昨夜送ったメッセージ。
> 「おつかれさま。明日、会える?」
シンプルな問いかけに、まだ優斗からの返事はなかった。
(……なんで、こんなメッセージ送ったんだろう)
自分でも分からない。いつもなら、もっと自然に連絡していたのに。昨日は、なぜか確かめたい気持ちが強かった。
蒼真の顔が脳裏をよぎる。あの穏やかな眼差しを思い出すと、胸の奥が温かくなる。その自分に気づいた瞬間、優斗への気持ちを確認したくなったのかもしれない。
(忙しいのかな。……それとも)
胸の奥がざわつくのを感じながら、気持ちを仕事に戻そうとする。
昼休み。スマホが震えた。
優斗からの短い返信だった。
> 「ごめん、今日は会えないかも。ちょっと立て込んでて」
読み終えた瞬間、胸のどこかが、きゅっと縮んだ。
「水沢、今日ランチ行かない?」
堀井の声に、無理やり笑顔を作ってうなずく。
(……優斗が忙しいのはわかってる。でも、どうしてこんなに冷たく感じるんだろう。私の気持ちのせい?)
ビルの外に出ると、風が強かった。春菜は上着の襟を立てながら、空を見上げる。
そのとき、ふと脳裏に浮かんだのは、蒼真だった。
──あなたの考え方には、いつも驚かされます。
その言葉が、なぜか印象深く心に残っていた。
(これは仕事の評価。そう思っているのに、なぜだろう。優斗とは違う種類の安心感を感じてしまう)
---
一日の仕事を終えた春菜は、会社を出てからもしばらく、まっすぐ帰る気になれなかった。
気づけば、小さな公園のベンチに腰を下ろしていた。
カバンの中から資料を取り出し、ぼんやりとページをめくる。
(あの人の言葉、ただのお世辞じゃなかった。ちゃんと、私を見てくれてた)
でも、それは仕事としての評価。そう思うようにしても、どうしても胸の奥がざわつく。
---
優斗の部屋では──
「春菜さんに、返事した?」
晃が何気なく尋ねた。
「……ああ、『今日は会えない』って」
「……本当にそれでいいの?」
優斗は振り返った。晃の表情は、いつもより真剣だった。
「もう中途半端な顔はできない。晃、俺……お前のことを、ちゃんと大切に思ってる」
「だったら、ちゃんと決断しなよ。このまま春菜さんを宙ぶらりんにして、俺と一緒にいるなんて、誰にとっても良くない」
晃の言葉は、優しいけれど容赦がなかった。
「誰も傷つけたくないって思ってるうちは、結局みんなを傷つけ続けることになる」
優斗は黙り込んだ。心の奥で、晃の言葉が正しいとわかっていた。
──君、昔から逃げるのが上手だったよね
晃の言葉が頭に響く。
優斗は立ち上がり、窓の外を見つめた。
「俺、怖いんだ。誰かを傷つけるのが」
「でも、もう傷つけてるんだよ。曖昧なままでいることで」
しばらく沈黙が続いた。
「……もう、逃げるのはやめよう」
優斗は小さくつぶやいた。
---
その日の夕方、優斗は晃のマンションを訪れた。
「早いじゃん。まだ6時だよ」
「……話があるんだ」
リビングに座り、優斗は晃を見つめた。
「はい。コーヒー入れたよ」
「ありがとう……俺、春菜とちゃんと話をする。もう逃げるのはやめる」
「……これまで築いてきたものを失うのが、怖かったんだ」
「でも、嘘を続ける方がもっと怖い」
優斗は頷いた。晃の言葉が、胸に深く響いた。
「俺、春菜には正直に気持ちを伝えなきゃいけない。でも、お前とも、まだ正式に付き合えるかわからない」
「……君らしいね」
「春菜を傷つけた罪悪感を、お前に持ち込みたくないんだ」
晃は静かに頷いた。
「でも、気持ちは決まってるんでしょ?」
「……ああ」
「君がそう決めたなら、俺も待つよ」
優斗は立ち上がった。
「春菜にちゃんと時間を作ってもらって、全部話すよ」
晃の表情に、痛みと感謝が入り混じった色が浮かんだ
「……わかった」
優斗は振り返ることなく、晃の部屋を後にした。
もう、逃げることはできない。
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