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19話 交差する視線
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朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。
春菜は目を覚ましたまま、しばらくベッドの中で天井を見つめていた。
昨日のことが、夢だったかのように思える。
優斗との会話。晃くんの名前。そして、優斗との関係でようやく終わった何か。
(あんなふうに話せるなんて、思ってなかった……)
涙はもう乾いていた。けれど、心の奥に残っていた「整理できなかった気持ち」は、昨日の言葉たちによって、少しずつ形を変えていった。
優斗のことは、もう大丈夫。でも――
「……行かなきゃ」
顔を洗い、メイクを整え、鏡の前で微笑む。
いつも通りに見せたかった。ただ、それだけ。
---
出社後、春菜は上司に挨拶を済ませると、すぐに外出の準備に取りかかった。
今日は、クライアント本社での重要な打ち合わせ。
そしてそこには、KITE社の蒼真も同席する予定だった。
春菜と蒼真が担当しているこのプロジェクトは、両社の共同提案として進められており、今日の打ち合わせはその重要な中間段階の打ち合わせでもある。
春菜は、何度も確認した資料ファイルをバッグにしまいながら、小さく息を吐いた。
(大丈夫。私は私の仕事をするだけ)
---
午後。クライアント本社の受付ロビー。
待合スペースの奥で、春菜はスーツ姿の蒼真の姿を見つけた。
「お待たせしました、高瀬社長」
「ちょうど着いたところです。……水沢さんも、準備は大丈夫そうですね」
落ち着いた声と、いつも通りの端正な身なり。
けれど、春菜はふと、ネクタイの色や、袖口に見えた腕時計にまで意識が向いてしまっていた。
(集中、集中……)
自分に言い聞かせるように、会議室へと向かう足を少しだけ速めた。
---
クライアントとの打ち合わせは、驚くほどスムーズに進んだ。
春菜は、事前に想定していた質問にも落ち着いて答え、蒼真もそれを見守るように静かに頷いていた。
最後の質疑応答が終わり、名刺交換を済ませたあと、クライアントが退室すると、会議室にはふたりきりの静けさが訪れた。
「……あの時の打ち合わせのこと、覚えていますか?」
不意に蒼真が口を開いた。
春菜は資料をまとめていた手を止め、顔を上げる。
「え……?」
「前回のプレゼンの時、君が先方の質問に的確に答えてくれた。それが今回の信頼関係につながったと思う」
その言葉に、春菜の心がほころんだ。
「……ありがとうございます。そう言っていただけて、嬉しいです」
「君の提案があったからこそ、このプロジェクトがここまで進んだ。……本当に、感謝している」
彼のまなざしは、まっすぐで、揺るぎない。
それが春菜の胸を静かに温めた。
――これまで重ねてきた仕事の中で、私はこの人に、こんなにも支えられてきたのかもしれない。
「水沢さん」
名前を呼ばれた瞬間、春菜の心が小さく跳ねる。
「……はい?」
「明日の午後、うちの方針会議があってね。君がまとめてくれた資料を、社内で共有させてもらってもいいかな」
「もちろんです。何か追加で必要な情報があればお知らせください」
まるで何事もなかったかのように、いつもの口調で業務の指示を出す蒼真。
けれど、ほんの数分前に交わした言葉の温かさは、春菜の中で確かに残っていた。
それは、ふたりの関係が、少しずつ確かに変化していることを物語っていた。
---
その日の帰り道、春菜はスマートフォンを手に取った。
《高瀬社長:お疲れさまです。明日の打ち合わせですが、10時で問題ないでしょうか? 資料の件も、改めてありがとう》
以前届いた、その短いメッセージを、思い出すように指先でなぞる。
たったそれだけの業務連絡なのに、あのときは心が揺れていた。
今は――どうだろう。
春菜は、夜の街に浮かぶ明かりを見つめながら、小さく息を吐いた。
優斗への気持ちには区切りをつけた。でも、この人への想いは、まだ自分でもよく分からない。
それでも、少しずつでも、自分の本当の気持ちと向き合っていこう――そう思えるようになっていた。
春菜は目を覚ましたまま、しばらくベッドの中で天井を見つめていた。
昨日のことが、夢だったかのように思える。
優斗との会話。晃くんの名前。そして、優斗との関係でようやく終わった何か。
(あんなふうに話せるなんて、思ってなかった……)
涙はもう乾いていた。けれど、心の奥に残っていた「整理できなかった気持ち」は、昨日の言葉たちによって、少しずつ形を変えていった。
優斗のことは、もう大丈夫。でも――
「……行かなきゃ」
顔を洗い、メイクを整え、鏡の前で微笑む。
いつも通りに見せたかった。ただ、それだけ。
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出社後、春菜は上司に挨拶を済ませると、すぐに外出の準備に取りかかった。
今日は、クライアント本社での重要な打ち合わせ。
そしてそこには、KITE社の蒼真も同席する予定だった。
春菜と蒼真が担当しているこのプロジェクトは、両社の共同提案として進められており、今日の打ち合わせはその重要な中間段階の打ち合わせでもある。
春菜は、何度も確認した資料ファイルをバッグにしまいながら、小さく息を吐いた。
(大丈夫。私は私の仕事をするだけ)
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午後。クライアント本社の受付ロビー。
待合スペースの奥で、春菜はスーツ姿の蒼真の姿を見つけた。
「お待たせしました、高瀬社長」
「ちょうど着いたところです。……水沢さんも、準備は大丈夫そうですね」
落ち着いた声と、いつも通りの端正な身なり。
けれど、春菜はふと、ネクタイの色や、袖口に見えた腕時計にまで意識が向いてしまっていた。
(集中、集中……)
自分に言い聞かせるように、会議室へと向かう足を少しだけ速めた。
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クライアントとの打ち合わせは、驚くほどスムーズに進んだ。
春菜は、事前に想定していた質問にも落ち着いて答え、蒼真もそれを見守るように静かに頷いていた。
最後の質疑応答が終わり、名刺交換を済ませたあと、クライアントが退室すると、会議室にはふたりきりの静けさが訪れた。
「……あの時の打ち合わせのこと、覚えていますか?」
不意に蒼真が口を開いた。
春菜は資料をまとめていた手を止め、顔を上げる。
「え……?」
「前回のプレゼンの時、君が先方の質問に的確に答えてくれた。それが今回の信頼関係につながったと思う」
その言葉に、春菜の心がほころんだ。
「……ありがとうございます。そう言っていただけて、嬉しいです」
「君の提案があったからこそ、このプロジェクトがここまで進んだ。……本当に、感謝している」
彼のまなざしは、まっすぐで、揺るぎない。
それが春菜の胸を静かに温めた。
――これまで重ねてきた仕事の中で、私はこの人に、こんなにも支えられてきたのかもしれない。
「水沢さん」
名前を呼ばれた瞬間、春菜の心が小さく跳ねる。
「……はい?」
「明日の午後、うちの方針会議があってね。君がまとめてくれた資料を、社内で共有させてもらってもいいかな」
「もちろんです。何か追加で必要な情報があればお知らせください」
まるで何事もなかったかのように、いつもの口調で業務の指示を出す蒼真。
けれど、ほんの数分前に交わした言葉の温かさは、春菜の中で確かに残っていた。
それは、ふたりの関係が、少しずつ確かに変化していることを物語っていた。
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その日の帰り道、春菜はスマートフォンを手に取った。
《高瀬社長:お疲れさまです。明日の打ち合わせですが、10時で問題ないでしょうか? 資料の件も、改めてありがとう》
以前届いた、その短いメッセージを、思い出すように指先でなぞる。
たったそれだけの業務連絡なのに、あのときは心が揺れていた。
今は――どうだろう。
春菜は、夜の街に浮かぶ明かりを見つめながら、小さく息を吐いた。
優斗への気持ちには区切りをつけた。でも、この人への想いは、まだ自分でもよく分からない。
それでも、少しずつでも、自分の本当の気持ちと向き合っていこう――そう思えるようになっていた。
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