君を知る前の僕には戻れない

にまる いお

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40話 手放すという選択

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ブライダル紹介フェア終了後の夜、蒼真は香澄と別れたあと、一人車の中に座っていた。

(話すはずだった……)

しかし、頭に浮かぶのは春菜のあの表情だった。心を閉ざしたように見えたその態度に、動揺してしまった。まるで手も足も出ない。気づけば香澄に伝えるべき言葉を、すっかり忘れてしまっていた。

蒼真は深くため息をつき、エンジンをかけた。


---

雨上がりの午後。春菜は自宅のダイニングテーブルに資料を広げていた。
フェアで使ったパンフレットのバックアップ、KITE社の広告素材、そして――未送信のまま残された、蒼真宛てのドラフトメール。

画面に映る蒼真の名前。そこには、かつて何度もやり取りを重ねた痕跡が残っていた。
「……ここ、もう修正しなくていいですか?」
そんなやり取りすら、今では遠い。

窓の外では、雨の雫がきらりと光る。
春菜はふと、成瀬と香澄の言葉を思い出す。

(「新居探しもお願いしようかしら」)

春菜は、自分の胸の奥に問いかける。

(私は、まだ……引きずっていたのかな)

だけど、その思いに名前をつけようとは思わなかった。
香澄の隣に立つ蒼真を見て、「もう終わっていたんだ」と、心が静かに納得していた。

画面を閉じ、資料をファイルにしまう。
成瀬が勧めてくれた次の特集テーマの案が、そこに挟まっていた。

「……手放すって、悪いことじゃないよね」
ふと漏れた言葉に、誰も答えない。
けれど春菜の顔には、少しだけ晴れやかな色が浮かんでいた。
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