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42話 整理という言葉の重さ
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蒼真はその場に立ち尽くしていた。
春菜の言葉は柔らかかった。
けれど、そこにある明確な“終わり”を、蒼真の心は飲み込めなかった。
(整理が……ついた?…忘れられて、たまるか)
拳を握りしめ、震える指先でグラスを置く。
飲みかけのワインはもう、味もしなかった。
その視線は消えた春菜の背中を追いかけていた。
――ラウンジの奥、関係者の挨拶を済ませた春菜が再び姿を見せると、会場の空気はもう次の話題に移り変わっていた。軽食の皿が減り、笑い声が広がっていくなかで、蒼真はその場に溶け込めずにいた。
春菜の笑顔は穏やかで、誰と話していても距離感を保ちつつ、きちんと礼儀を忘れない。だが、その姿が遠く感じられた。
(あの目は、もう……俺を見ていない)
その確信めいた感覚が、胸の奥にじわりと広がっていく。
グラスの中身を飲み干し、手に残った冷たさだけがやけに鮮明だった。
---
お手洗い前、誰もいない廊下
春菜が扉に手をかけた瞬間、背中から腕が伸びて、そっと彼女を抱きとめた。
「……春菜さん。整理がついたって、本当ですか?」
蒼真の声は、どこか幼い響きを残していた。
春菜はすぐに身をほどこうとはせず、静かに答えた。
「はい。……ですから…離してください。」
少し荒い呼吸。揺れる視線。そして――
「……ごめん、でも、どうしても……」
言い終えるより先に、抱きしめる腕に力がこもるが、春菜はそれに応えることはなかった。
「……整理なんか、つけなくていい。君が忘れても、俺は――忘れたくないんだ」
春菜は驚き、数秒間、何も言えなかった。
けれど、やがてゆっくりと彼の腕に手を添え、静かに距離をほどいた。
「……高瀬社長。わたしは、あなたに何も求めていません。
ただ、自分の足で前に進もうと決めただけです」
その声は優しかった。
けれど、もう揺らぐことはなかった。
蒼真はそれ以上、何も言えなかった。
ただ、自分の心の奥にある未練の重さだけを、噛みしめていた。
---
数分後、蒼真が会場へ戻ると、香澄がそっと隣に歩み寄ってきた。
「……顔色、悪いわよ。飲みすぎじゃない?」
気遣うような声色。しかしその瞳は探るように蒼真の横顔を追う。
蒼真は無言でグラスをテーブルに置き、静かに息を吐いた。言葉の代わりに、冷えた空気を胸から押し出すように。
ふと前方に目をやると、春菜が誰かと談笑している。グラスを揺らし、軽やかな笑みに合わせて頷いていた。――まるで先ほどの出来事など存在しなかったかのように。
香澄は言葉を飲み込み、ただグラスの縁を指先でなぞる。薄い硝子がかすかに鳴り、沈黙の響きが二人の間に落ちた。
春菜の言葉は柔らかかった。
けれど、そこにある明確な“終わり”を、蒼真の心は飲み込めなかった。
(整理が……ついた?…忘れられて、たまるか)
拳を握りしめ、震える指先でグラスを置く。
飲みかけのワインはもう、味もしなかった。
その視線は消えた春菜の背中を追いかけていた。
――ラウンジの奥、関係者の挨拶を済ませた春菜が再び姿を見せると、会場の空気はもう次の話題に移り変わっていた。軽食の皿が減り、笑い声が広がっていくなかで、蒼真はその場に溶け込めずにいた。
春菜の笑顔は穏やかで、誰と話していても距離感を保ちつつ、きちんと礼儀を忘れない。だが、その姿が遠く感じられた。
(あの目は、もう……俺を見ていない)
その確信めいた感覚が、胸の奥にじわりと広がっていく。
グラスの中身を飲み干し、手に残った冷たさだけがやけに鮮明だった。
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お手洗い前、誰もいない廊下
春菜が扉に手をかけた瞬間、背中から腕が伸びて、そっと彼女を抱きとめた。
「……春菜さん。整理がついたって、本当ですか?」
蒼真の声は、どこか幼い響きを残していた。
春菜はすぐに身をほどこうとはせず、静かに答えた。
「はい。……ですから…離してください。」
少し荒い呼吸。揺れる視線。そして――
「……ごめん、でも、どうしても……」
言い終えるより先に、抱きしめる腕に力がこもるが、春菜はそれに応えることはなかった。
「……整理なんか、つけなくていい。君が忘れても、俺は――忘れたくないんだ」
春菜は驚き、数秒間、何も言えなかった。
けれど、やがてゆっくりと彼の腕に手を添え、静かに距離をほどいた。
「……高瀬社長。わたしは、あなたに何も求めていません。
ただ、自分の足で前に進もうと決めただけです」
その声は優しかった。
けれど、もう揺らぐことはなかった。
蒼真はそれ以上、何も言えなかった。
ただ、自分の心の奥にある未練の重さだけを、噛みしめていた。
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数分後、蒼真が会場へ戻ると、香澄がそっと隣に歩み寄ってきた。
「……顔色、悪いわよ。飲みすぎじゃない?」
気遣うような声色。しかしその瞳は探るように蒼真の横顔を追う。
蒼真は無言でグラスをテーブルに置き、静かに息を吐いた。言葉の代わりに、冷えた空気を胸から押し出すように。
ふと前方に目をやると、春菜が誰かと談笑している。グラスを揺らし、軽やかな笑みに合わせて頷いていた。――まるで先ほどの出来事など存在しなかったかのように。
香澄は言葉を飲み込み、ただグラスの縁を指先でなぞる。薄い硝子がかすかに鳴り、沈黙の響きが二人の間に落ちた。
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番外編①~2020.03.11 終了
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