ラジオの中の届かなかった想い

にまる いお

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⑮ 届いてしまった声

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数日の午後。悠は校門の前に向かいながら、ふと心の中でつぶやいた。

(夜の住人、最近大人しくなったな……)

警察の対応もあったのだろうか。手紙や不穏なメッセージは途絶えていた。少し安堵の気持ちが湧く一方で、完全に安心できるわけではなかった。影は消えたわけではなく、まだどこかで息を潜めているのかもしれない――そう考えると、わずかに背筋が寒くなる。

悠はそんなことを思いながら、すずりの高校に足を運んだ。

校門の前に見慣れた背中があった。

「月島さん……!」

すずりが驚いて声を上げると、月島悠はふと振り返り、少し照れたように笑った。

「お疲れさま。ちょっと、伝えたいことがあってさ。」

近くの公園のベンチに腰掛けて、二人は並んで座る。風がやさしく、新緑の葉を揺らしていた。

「先週の朗読、すごくよかった。本当に……胸にきたよ。」

「……ありがとうございます。でも、あのナレーション……」

すずりは視線を落とし、ぎゅっと制服の裾を握る。

「私、あの言葉、自分のものみたいに使っちゃった。ごめんなさい。あれ……月島さんの未送信の録音から……勝手に……」

その言葉を聞いた月島は、少しだけ目を細めて、ゆっくりと首を振った。

「勝手になんて、思ってないよ。」

「え……?」

「むしろ、ありがとう。僕の“届かない”と思ってた声を、拾ってくれて。」

すずりは、ぽかんと彼を見つめた。

「忘れられてた言葉に、もう一度意味をくれた。誰にも聞かれなかった声が、君の声に変わって、あんなにも届いていた。……僕は、それがすごく、嬉しかったんだ。」

その言葉に、すずりの瞳が潤む。

「……でも、それって、ずるいことだったかもしれない。自分の言葉として、語ってしまったから。」

「君の声で語られた時点で、それはもう、君の言葉だよ。」

月島の声は、深くてあたたかかった。

「声って、不思議だよね。誰かが話したことが、別の誰かの中で育って、別の形でまた届けられる。……ラジオも、そういう力を信じてるんだ。」

沈黙が、ふたりの間に優しく流れる。

やがて、すずりは小さく息をつき、笑った。

「……じゃあ、私、これからも声を届けていいですか?」

「もちろん。」

月島は、静かにうなずいた。

「今度は君自身の言葉で。……でも、たまには僕の言葉も、混ぜてくれていいからね。」

すずりは、ふわっと笑った。

——誰にも届かないと思っていた“声”が、確かに届いていた。
そして、届いた声はまた誰かの声となり、どこまでも続いていくのだ。



……その様子を、ひとりの人物が遠くから見つめていた。

公園の向こうのベンチ。
木陰に潜むその影は、ふたりの姿が見えなくなってからも、しばらく動かなかった。

手には、小さな封筒が握られていた。
表には、丁寧な文字で書かれている――
「月島悠 様へ」



公園から駅へと向かう道。
ふたりは静かに並んで歩き、やがて駅前で立ち止まった。
軽く会釈を交わして別れ、月島はひとり、ゆっくりと歩き出す。
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