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㉒ 声の残る場所で
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夕暮れの風が、廃校の中庭をかすめていく。
そのベンチは、昔と変わらず、レンガ敷きの地面にぽつんと佇んでいた。使われなくなった校舎の壁が西日を反射し、まばらな光がベンチの足元に揺れている。
長谷大悟は、そこに静かに座っていた。
かつて、高校時代、昼休みにひとりで弁当を食べていた場所。あのときのことは今でも鮮明に思い出せる。
——月島悠が、ふらりと現れて、何の前触れもなく隣に座った日のこと。
(……ここで、初めて声をかけてくれたんだったな)
その記憶をたどりながら、大悟は目を閉じた。
だが——
その静寂を破るように、校舎の裏手で、わずかな気配がした。
ふと顔を上げると、金色に染まった渡り廊下の先に、ひとりの少女の姿があった。
制服姿。真っすぐ前を向き、ためらわずに廃校舎の扉に手をかけている。
——見たことのない顔だった。
「……?」
ここはもう、生徒の立ち入りが禁止されているはずだ。地域の人間でも、そうそう近づかない。
(関係者……?でも、どうして今の時間に……)
大悟は、思わず立ち上がっていた。足音を忍ばせながら、渡り廊下へ向かう。
少女は扉をそっと開けて、中に入っていった。
大悟の胸に、妙なざわめきが走った。
(……ただの、興味本位じゃない)
この場所の静けさを乱すような思い出を荒らされるような感じが、心に引っかかった。
気づけば、大悟も扉を開けていた。
古びた校舎の中に、ふたりの影が音もなく忍び込む。
遠くから、カエルの声が鳴き始める。
そして、廊下の奥——
かつての放送室から、ふっと光が漏れているのに、大悟は気づいた。
(まさか……)
自分以外の誰かが、あの場所に引き寄せられている。
(君は——誰だ?)
放送室に大悟が入ってきて、すずりは思わず息を呑んだ。
鼓動が一気に早まる。目の前の男性はまったく知らない人――それなのに、どこか陰のある佇まいが、不意に恐怖を呼び起こす。
「夜の廃校は危ない」――悠の言葉が頭をよぎる。
まだ明るい。夕方だ。危険じゃない、はず。
(約束を破ったからだ。
だから今、こんなふうに怖い思いをしてる。
……それでも、戻れなかった。ここに来なきゃ、私は私の声を失う気がした)
逃げなきゃ――そう思うのに、足が動かない。すずりはその場に立ちすくんでいた。
大悟は、不意にすずりの様子に気づき、ゆっくりと目を向けた。
彼は悪意など微塵もなく、ただ静かにそこにいるだけだった。
「驚かせてしまったかな……?」
その声は低く、優しい響きを持っていた。
すずりは思わず顔を背け、心の中で小さく震えながらも、その声音がそっと語りかけてくるのを感じた。
――違う、怖がらせるつもりなんてなかったんだ、と。
……なのに。
——次の瞬間、足が勝手に動いていた。
気づけば、坂道を全力で駆け下りていた。
背後で誰かが呼ぶ声がした気がしたけれど、振り返る勇気はなかった。
そのベンチは、昔と変わらず、レンガ敷きの地面にぽつんと佇んでいた。使われなくなった校舎の壁が西日を反射し、まばらな光がベンチの足元に揺れている。
長谷大悟は、そこに静かに座っていた。
かつて、高校時代、昼休みにひとりで弁当を食べていた場所。あのときのことは今でも鮮明に思い出せる。
——月島悠が、ふらりと現れて、何の前触れもなく隣に座った日のこと。
(……ここで、初めて声をかけてくれたんだったな)
その記憶をたどりながら、大悟は目を閉じた。
だが——
その静寂を破るように、校舎の裏手で、わずかな気配がした。
ふと顔を上げると、金色に染まった渡り廊下の先に、ひとりの少女の姿があった。
制服姿。真っすぐ前を向き、ためらわずに廃校舎の扉に手をかけている。
——見たことのない顔だった。
「……?」
ここはもう、生徒の立ち入りが禁止されているはずだ。地域の人間でも、そうそう近づかない。
(関係者……?でも、どうして今の時間に……)
大悟は、思わず立ち上がっていた。足音を忍ばせながら、渡り廊下へ向かう。
少女は扉をそっと開けて、中に入っていった。
大悟の胸に、妙なざわめきが走った。
(……ただの、興味本位じゃない)
この場所の静けさを乱すような思い出を荒らされるような感じが、心に引っかかった。
気づけば、大悟も扉を開けていた。
古びた校舎の中に、ふたりの影が音もなく忍び込む。
遠くから、カエルの声が鳴き始める。
そして、廊下の奥——
かつての放送室から、ふっと光が漏れているのに、大悟は気づいた。
(まさか……)
自分以外の誰かが、あの場所に引き寄せられている。
(君は——誰だ?)
放送室に大悟が入ってきて、すずりは思わず息を呑んだ。
鼓動が一気に早まる。目の前の男性はまったく知らない人――それなのに、どこか陰のある佇まいが、不意に恐怖を呼び起こす。
「夜の廃校は危ない」――悠の言葉が頭をよぎる。
まだ明るい。夕方だ。危険じゃない、はず。
(約束を破ったからだ。
だから今、こんなふうに怖い思いをしてる。
……それでも、戻れなかった。ここに来なきゃ、私は私の声を失う気がした)
逃げなきゃ――そう思うのに、足が動かない。すずりはその場に立ちすくんでいた。
大悟は、不意にすずりの様子に気づき、ゆっくりと目を向けた。
彼は悪意など微塵もなく、ただ静かにそこにいるだけだった。
「驚かせてしまったかな……?」
その声は低く、優しい響きを持っていた。
すずりは思わず顔を背け、心の中で小さく震えながらも、その声音がそっと語りかけてくるのを感じた。
――違う、怖がらせるつもりなんてなかったんだ、と。
……なのに。
——次の瞬間、足が勝手に動いていた。
気づけば、坂道を全力で駆け下りていた。
背後で誰かが呼ぶ声がした気がしたけれど、振り返る勇気はなかった。
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