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㉖ 届く声
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廃校の放送室。
雨が降っているわけでもないのに、窓ガラスの向こうは、どこかにじんで見えた。
「じゃあ、今日も、お願いします」
すずりはマイクの前に立ち、深呼吸を一つ。目の前にいる大悟は、スピーカーの調整をしながら頷いた。
「緊張しなくていい。昨日より少し、声が前に出せればいいから」
「はい」
すずりはいつもより、ほんの少しだけ大きな声で語り始めた。
言葉を繋ぐ。息継ぎを意識する。
目の前の空気に、意味を流し込むように。
「……と、そこまで」
読了と同時に、すずりは息を吐いた。
大悟が静かに拍手を送る。
「音の輪郭が、はっきりしてきた。昨日よりずっと、届く声になってる」
「……ありがとうございます」
「うん」
彼は、マイクの電源を落とし、カセットデッキのレバーをゆっくりと巻き戻す。
「すごく手慣れてますね……。前にも、こういうことをしてたんですか?」
ふと、すずりが尋ねた。
大悟は少しだけ視線を逸らし、ゆっくりとテープを巻く手を止める。
「うん、まあ……そんな感じかな」
「そうなんですね」
大悟は机の上のカセットテープを指先で転がしながら、小さく息を吐いた。
「……あの夜、ラジオから流れてきたのは、あの人の声だった。ずっと憧れてた声で、でも、ただ“聴くこと”しかできなかった。でも、その声に救われた気がしたんだ」
すずりは静かに頷いた。その言葉が、まるで自分の過去をなぞるように胸に沁みる。
「……私も、です」
少し間を置き、彼女は続けた。
「月島さんの放送、最初はただの偶然で聴いたんです。
でも、あの声が夜のざわめきみたいに心に届いて……
気づいたら、“また聴きたい”って思ってました」
大悟は少し目を細め、窓の外を見やりながら呟く。
「……そうかもしれない」
すずりはそっと笑みを浮かべた。
「今は、もう“聴くだけ”じゃないですよね。きっと、伝えたいことを届けられるようになるんじゃないかな」
大悟は少し目を見開き、照れくさそうに笑った。
「……そうかな。そうだといいな」
風がカーテンを揺らし、テープが小さく光を跳ね返す。
“誰かの声に救われた人間”が、今度は“誰かに寄り添う存在”になる——
そんな瞬間が、確かにそこにあった。
*
放送室を出ると、風の匂いが変わっていた。
廃校の廊下を歩きながら、外の空を見上げると、細かい雨粒が降り始めていた。
雨に濡れた校庭を抜け、彼は傘もささずに家路を歩く。
心の奥で、あの声に支えられた感覚が、まだ温かく残っていた。
そして今。
自分の声で、誰かを救おうとする少女がいる。
彼は小さく呟いた。
「……僕も、変われるかな」
窓の外。雨は、少し強くなっていた。
雨が降っているわけでもないのに、窓ガラスの向こうは、どこかにじんで見えた。
「じゃあ、今日も、お願いします」
すずりはマイクの前に立ち、深呼吸を一つ。目の前にいる大悟は、スピーカーの調整をしながら頷いた。
「緊張しなくていい。昨日より少し、声が前に出せればいいから」
「はい」
すずりはいつもより、ほんの少しだけ大きな声で語り始めた。
言葉を繋ぐ。息継ぎを意識する。
目の前の空気に、意味を流し込むように。
「……と、そこまで」
読了と同時に、すずりは息を吐いた。
大悟が静かに拍手を送る。
「音の輪郭が、はっきりしてきた。昨日よりずっと、届く声になってる」
「……ありがとうございます」
「うん」
彼は、マイクの電源を落とし、カセットデッキのレバーをゆっくりと巻き戻す。
「すごく手慣れてますね……。前にも、こういうことをしてたんですか?」
ふと、すずりが尋ねた。
大悟は少しだけ視線を逸らし、ゆっくりとテープを巻く手を止める。
「うん、まあ……そんな感じかな」
「そうなんですね」
大悟は机の上のカセットテープを指先で転がしながら、小さく息を吐いた。
「……あの夜、ラジオから流れてきたのは、あの人の声だった。ずっと憧れてた声で、でも、ただ“聴くこと”しかできなかった。でも、その声に救われた気がしたんだ」
すずりは静かに頷いた。その言葉が、まるで自分の過去をなぞるように胸に沁みる。
「……私も、です」
少し間を置き、彼女は続けた。
「月島さんの放送、最初はただの偶然で聴いたんです。
でも、あの声が夜のざわめきみたいに心に届いて……
気づいたら、“また聴きたい”って思ってました」
大悟は少し目を細め、窓の外を見やりながら呟く。
「……そうかもしれない」
すずりはそっと笑みを浮かべた。
「今は、もう“聴くだけ”じゃないですよね。きっと、伝えたいことを届けられるようになるんじゃないかな」
大悟は少し目を見開き、照れくさそうに笑った。
「……そうかな。そうだといいな」
風がカーテンを揺らし、テープが小さく光を跳ね返す。
“誰かの声に救われた人間”が、今度は“誰かに寄り添う存在”になる——
そんな瞬間が、確かにそこにあった。
*
放送室を出ると、風の匂いが変わっていた。
廃校の廊下を歩きながら、外の空を見上げると、細かい雨粒が降り始めていた。
雨に濡れた校庭を抜け、彼は傘もささずに家路を歩く。
心の奥で、あの声に支えられた感覚が、まだ温かく残っていた。
そして今。
自分の声で、誰かを救おうとする少女がいる。
彼は小さく呟いた。
「……僕も、変われるかな」
窓の外。雨は、少し強くなっていた。
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