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6章 妹大戦
第24話 堕天会議:同盟締結
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「それじゃあ、第一回『ザイナスに奪われた天使同盟』の会議を始めよう」
豪奢な部屋に宣言が響く。此処はアベルの隠れ家のひとつだ。表と裏ともうひとつ、アベルは顔を持っている。その全てに於いて彼は裕福だった。
ザイナスの隣で大卓に脚を掛けたラーズが、面白がって指笛を鳴らした。膝の上のエステルは意味もわからず手を叩いている。リズベットといえば相変わらずだ。机の上に肘を突き、責めるような半目でザイナスを睨んでいる。
「何だよ、それ」
ザイナスが小声で抗議する。
掛けず傍らに立つアベルは、きょとんとした目をザイナスに向けた。
「教会育ちのくせに聖典に疎いんだな、キミ。天使は使いの古い呼び名だよ。使徒なんて堅苦しく呼ぶより、華やかでキミにお似合いじゃないか」
「そうじゃない、そういう事を言ってるんじゃない」
滔々と語るアベルに向かって、ザイナスは口を尖らせた。
誤解は解けた――解けたには解けたが、事実は変わらない。御使いに触れ得るのはザイナスだけで、リズベットには如何わしきを疑われている。
勿論、エステルついては覚えがない。奉神不在を承知で言うが、神に誓って在り得ない。リズベットなら言わずもがなだ。何より、自身が一番よく知っている。
ただ、ラーズとアベルに関しては、無理やり奪った。それが負い目で居心地が悪い。リズベットの目がじっとりとザイナスを責め立てている。
とはいえ集う御使いの四人には、賞牌を刈り取る意思も資格もなかった。むしろ、ザイナスが他の御使いに奪われるのを懸念している。
そうして、今後についてを検討すべく集まったのがこの会議だ。
この席にいる御使いは、一応の休戦を結んでいる。人はザイナスひとりきり。微妙で複雑な立場だが、何よりアベルの命名は不名誉この上なかった。
王国第二都市ルクスルーナは今も混乱が続いている。
教会通りを中心に、市街の一部は完全に壊滅した。霧のような塵埃は未だ完全に吹き流れず、更地と化した街並みが白日に晒されるのは少し先だろう。
これは二人の御使いによる天の災だ――などとは、まだ誰も思っていない。御使いが聖堂を瓦礫に変える筈がなく、この街に神罰が落ちる謂れもない。
例え人死にがあろうとだ。むしろ、御使いに踏まれて死んだのであれば、魂の選別場でも優遇されるだろう。より善い来世に違いない。
教会の判断は棚上げだ。近く大聖堂から特務司教が派遣され、正式な宣言が為されるだろう。それまでは、巷の噂が「何が起きたのか」を先導する。
人の姿の災いを追って、御使いが降臨されたのだ。そんな流言も一部には既にある。それが厄憑きのザイナスのことなら、あながち間違いでもなかった。
いずれ、人外の災厄であることは隠しようがない。降臨したのがシンモラとスクルドと知れたなら、正当化の為にも、何らかの理由が必要になるのだろう。
何より、教会がそれを欲していた。
ルクスルーナは国営に重要な工業都市であり、これ以上の混乱は国家の維持にも宜しくない。何より、王都では市政派と王党派の対立が激化しており、事がどうあれ余計な火種は早々に鎮火しようと動くには違いなかった。
「まさか、この二人も堕としたなんて、ボクはザイナスを見くびっていたよ」
議長然は最初だけ、アベルは玩具を見つけた猫の目でザイナスを見遣る。
「訂正」
ザイナスは律儀に手を挙げた。捨て鉢なのが半分だ。
「僕には全く、身に覚えがない」
エステルをどうこうしようなどとは夢にも思わないし、妹に手を出す筈もない。勿論、アベルとラーズに対してはザイナスも弁解の余地はない。
だが、自衛は正当な理由だ。
「あんなことを言ってる、酷いと思わない?」
アベルは意地の悪い笑みを浮かべてエステルとリズベットに目を遣った。いつの間にかの断罪だ。しかも、ザイナスは一方的に責められている。
「んー」
広いテーブルを囲んでいるのに、エステルはザイナスの膝に上がり込んでいる。深い深い谷の奥底からじっと見上げるリズベットの目は、ひたすら怖い。
「一緒にお風呂に入ったから?」
エステルが顎を上げてザイナスを見上げる。
「兄さんッ」
リズベットが叫んで机に身を乗り出した。
「いや、いや、いや、リズベットだってそうだろう。御湿だって――」
「それ以上いったら、魂を砕くわよ」
リズベットが唸る。白狼のガンドの方が幾分に温和だ。輪転する魂を砕くなど、御使いの口にしてよい冗談ではない。信仰が根元から崩れてしまう。
「見立てだって言ったよね。どこまでが、その――そうなんだ」
リズベットの目に首を竦めつつ、ザイナスも困惑してアベルを振り返る。少なくともアベル、ラーズとは別物だ。聞かされた条件に合っていない。
「うーん、こればっかりはボクらの認識の問題だからね」
アベルは無責任に苦笑した。
「穏便に言うなら、責任を取らざるを得ない状況かな。お嫁さんにするとかね」
エステルがきょとんとアベルを見遣る。
「ザイナスのお嫁さんだが?」
どうやら既定らしい。
「おまえも妹で手を打て、シンモラ」
ラーズが苦笑して混ぜっ返した。
悪戯に燥ぐアベルに対して、彼女は面白がっている。ザイナスとの関係を被所有者と捉えている上、年齢、性別、立ち位置の全て於いて優位にある余裕だ。
「間に合っています」
リズベットが噛みついた。
「まあ、認識の問題か――」
アベルはもう一度そう言って、意味ありげな目でリズベットを見つめた。
「本人の知らないうちに何かあったり、とか」
アベルの迂闊な一言にリズベットが殺意の籠った目を向ける。流石に首を縮めたアベルだが、リズベットはリズベットでだらだらと変な汗をかいていた。
「とりあえず、ここにいる皆は兄さんに危害を加えないってことでいいのね?」
ひとしきり唸ってから、リズベットはどすん、と音を立てて椅子に座り直した。
「勿論だとも。むしろ、ボクの方がザイナスに襲われかねないくらいだ」
笑えない冗談だ、とザイナスは小さく呻いた。
「なら、ここで解散ね。兄さんは今まで通り私が護るから」
「やっぱりおまえが隠してんだな。道理で誰も見つけられなかった筈だ」
ラーズに責められ、リズベットは口を尖らせる。
「兄さんは酷い厄憑きなの。使いなんかよりよっぽど大変なんだから」
「なら、オレの方が適任だろう」
平然とラーズは応えた。
「もう魂刈りの資格がないんだから、関係ないでしょ」
「そうもいかん、オレはザイナスのものだからな」
リズベットが吸い切れないほどの息を吸い込んでザイナスを睨む。
「ヒルドに何したの、兄さん」
こっちに飛び火した。合意もなく唇を奪ったのは確かだけれども。
「うるさいの殺す?」
エステルがきょとんとザイナスを見上げ、物騒なことを言う。
「使い同士の争いも良いね。本来、それも賞牌刈りの目的だ」
「アベル」
ザイナスに叱咤され、アベルは肩を竦めた。
「だけどスクルド、いくらキミでもひとりは無理だ。だって、少なくともヘルフとスルーズにはザイナスのことがばれているからね」
リズベットに向かってアベルが説く。
「キミは知らないかもだけど、スルーズは王都の執政官で、ヘルフは聖堂商会の顧問だ。ザイナスの身元が知られている以上、逃げ遂せるのはまず無理だ」
初耳だったのか、二人の正体にリズベットの血の気が引いた。
「彼を護りたいなら、他の使いを一人残らず無力化するしかない」
アベルもまた物騒な物言いだが、実際それしかザイナスにも選択肢がない。
「幸いこっちは武闘派揃いだ、上手く立ち回れば何とかなるだろう」
ラーズが笑った。端から戦う算段をしていた様子だ。
「――もう」
何拍もの間を置いて、リズベットは大きく息を吐いた。
「そうなると、いちばん厄介なのは黒神のシグルーンよ?」
皆に向かってそう言った。照れ隠しのつもりか、少し拗ねたような口振りだ。
「降りた先は知ってる?」
アベルが訊ねる。
「いいえ、黒神の修道院にいる神の娘なら妥当なところだけれど、それもシーグリッド・シベリウスが生きていればの話ね」
英雄の神と称される黒神に教会には独特の修道院があり、神の娘と呼ばれる比類なき技量を誇る特務司教を育成している。
「シーグリッドか。確か十年前に失踪した神の娘だ」
ザイナスも名を聞いたことがある。その高名な神の娘は、十九歳で消息を絶った。当時で既に天位の剣匠だったという話だ。
そんな相手の唇を奪うなど、想像したくもなかった。
「ヒルドは?」
「おまえとシンモラだけだ。こいつとは何度かやり合ったがな」
ラーズがエステルに手を伸ばし、その髪を掻き回した。手の動きに応えて首を振りながら、エステルはにかっと笑っている。案外に、仲が良い。
「白いわんこは食べ損ねた。ザイナスがダメって言うから」
ラーズが息を吐く。
「ザイナスはガンドの恩人だな。仔ができたらお前の従者にやるとしよう」
ここ一番の申し出だ。追い回されたアベルだけは、少し複雑な顔をした。
「ボクは王都にもうひとり、当てがあるけれど――あそこにはスルーズもいるし、今は情勢がはっきりするまで持った方が良いかもだ」
オルガも言っていた、血族神のレイヴの事だろう。
「となると、まずはヘルフ?」
知らずリズベットが積極的になっている。
「方法は気に入らないけど、ずっと逃げ回るよりまし。勿論、兄さんが出るまでもないから。降りた身体を潰してしまえば、使いは天に還るんだから」
妹ながら物騒なことを口にした。
「よし。そうなれば、聖堂商会の本拠は北のシムリスだ。皆、異論はないかな」
ぱん、とアベルが手を打った。
「おー」
わかっているのかいないのか、エステルが楽し気な声を上げる。どうやら、この中で腰が引けているのは、ザイナスひとりきりのようだった。
豪奢な部屋に宣言が響く。此処はアベルの隠れ家のひとつだ。表と裏ともうひとつ、アベルは顔を持っている。その全てに於いて彼は裕福だった。
ザイナスの隣で大卓に脚を掛けたラーズが、面白がって指笛を鳴らした。膝の上のエステルは意味もわからず手を叩いている。リズベットといえば相変わらずだ。机の上に肘を突き、責めるような半目でザイナスを睨んでいる。
「何だよ、それ」
ザイナスが小声で抗議する。
掛けず傍らに立つアベルは、きょとんとした目をザイナスに向けた。
「教会育ちのくせに聖典に疎いんだな、キミ。天使は使いの古い呼び名だよ。使徒なんて堅苦しく呼ぶより、華やかでキミにお似合いじゃないか」
「そうじゃない、そういう事を言ってるんじゃない」
滔々と語るアベルに向かって、ザイナスは口を尖らせた。
誤解は解けた――解けたには解けたが、事実は変わらない。御使いに触れ得るのはザイナスだけで、リズベットには如何わしきを疑われている。
勿論、エステルついては覚えがない。奉神不在を承知で言うが、神に誓って在り得ない。リズベットなら言わずもがなだ。何より、自身が一番よく知っている。
ただ、ラーズとアベルに関しては、無理やり奪った。それが負い目で居心地が悪い。リズベットの目がじっとりとザイナスを責め立てている。
とはいえ集う御使いの四人には、賞牌を刈り取る意思も資格もなかった。むしろ、ザイナスが他の御使いに奪われるのを懸念している。
そうして、今後についてを検討すべく集まったのがこの会議だ。
この席にいる御使いは、一応の休戦を結んでいる。人はザイナスひとりきり。微妙で複雑な立場だが、何よりアベルの命名は不名誉この上なかった。
王国第二都市ルクスルーナは今も混乱が続いている。
教会通りを中心に、市街の一部は完全に壊滅した。霧のような塵埃は未だ完全に吹き流れず、更地と化した街並みが白日に晒されるのは少し先だろう。
これは二人の御使いによる天の災だ――などとは、まだ誰も思っていない。御使いが聖堂を瓦礫に変える筈がなく、この街に神罰が落ちる謂れもない。
例え人死にがあろうとだ。むしろ、御使いに踏まれて死んだのであれば、魂の選別場でも優遇されるだろう。より善い来世に違いない。
教会の判断は棚上げだ。近く大聖堂から特務司教が派遣され、正式な宣言が為されるだろう。それまでは、巷の噂が「何が起きたのか」を先導する。
人の姿の災いを追って、御使いが降臨されたのだ。そんな流言も一部には既にある。それが厄憑きのザイナスのことなら、あながち間違いでもなかった。
いずれ、人外の災厄であることは隠しようがない。降臨したのがシンモラとスクルドと知れたなら、正当化の為にも、何らかの理由が必要になるのだろう。
何より、教会がそれを欲していた。
ルクスルーナは国営に重要な工業都市であり、これ以上の混乱は国家の維持にも宜しくない。何より、王都では市政派と王党派の対立が激化しており、事がどうあれ余計な火種は早々に鎮火しようと動くには違いなかった。
「まさか、この二人も堕としたなんて、ボクはザイナスを見くびっていたよ」
議長然は最初だけ、アベルは玩具を見つけた猫の目でザイナスを見遣る。
「訂正」
ザイナスは律儀に手を挙げた。捨て鉢なのが半分だ。
「僕には全く、身に覚えがない」
エステルをどうこうしようなどとは夢にも思わないし、妹に手を出す筈もない。勿論、アベルとラーズに対してはザイナスも弁解の余地はない。
だが、自衛は正当な理由だ。
「あんなことを言ってる、酷いと思わない?」
アベルは意地の悪い笑みを浮かべてエステルとリズベットに目を遣った。いつの間にかの断罪だ。しかも、ザイナスは一方的に責められている。
「んー」
広いテーブルを囲んでいるのに、エステルはザイナスの膝に上がり込んでいる。深い深い谷の奥底からじっと見上げるリズベットの目は、ひたすら怖い。
「一緒にお風呂に入ったから?」
エステルが顎を上げてザイナスを見上げる。
「兄さんッ」
リズベットが叫んで机に身を乗り出した。
「いや、いや、いや、リズベットだってそうだろう。御湿だって――」
「それ以上いったら、魂を砕くわよ」
リズベットが唸る。白狼のガンドの方が幾分に温和だ。輪転する魂を砕くなど、御使いの口にしてよい冗談ではない。信仰が根元から崩れてしまう。
「見立てだって言ったよね。どこまでが、その――そうなんだ」
リズベットの目に首を竦めつつ、ザイナスも困惑してアベルを振り返る。少なくともアベル、ラーズとは別物だ。聞かされた条件に合っていない。
「うーん、こればっかりはボクらの認識の問題だからね」
アベルは無責任に苦笑した。
「穏便に言うなら、責任を取らざるを得ない状況かな。お嫁さんにするとかね」
エステルがきょとんとアベルを見遣る。
「ザイナスのお嫁さんだが?」
どうやら既定らしい。
「おまえも妹で手を打て、シンモラ」
ラーズが苦笑して混ぜっ返した。
悪戯に燥ぐアベルに対して、彼女は面白がっている。ザイナスとの関係を被所有者と捉えている上、年齢、性別、立ち位置の全て於いて優位にある余裕だ。
「間に合っています」
リズベットが噛みついた。
「まあ、認識の問題か――」
アベルはもう一度そう言って、意味ありげな目でリズベットを見つめた。
「本人の知らないうちに何かあったり、とか」
アベルの迂闊な一言にリズベットが殺意の籠った目を向ける。流石に首を縮めたアベルだが、リズベットはリズベットでだらだらと変な汗をかいていた。
「とりあえず、ここにいる皆は兄さんに危害を加えないってことでいいのね?」
ひとしきり唸ってから、リズベットはどすん、と音を立てて椅子に座り直した。
「勿論だとも。むしろ、ボクの方がザイナスに襲われかねないくらいだ」
笑えない冗談だ、とザイナスは小さく呻いた。
「なら、ここで解散ね。兄さんは今まで通り私が護るから」
「やっぱりおまえが隠してんだな。道理で誰も見つけられなかった筈だ」
ラーズに責められ、リズベットは口を尖らせる。
「兄さんは酷い厄憑きなの。使いなんかよりよっぽど大変なんだから」
「なら、オレの方が適任だろう」
平然とラーズは応えた。
「もう魂刈りの資格がないんだから、関係ないでしょ」
「そうもいかん、オレはザイナスのものだからな」
リズベットが吸い切れないほどの息を吸い込んでザイナスを睨む。
「ヒルドに何したの、兄さん」
こっちに飛び火した。合意もなく唇を奪ったのは確かだけれども。
「うるさいの殺す?」
エステルがきょとんとザイナスを見上げ、物騒なことを言う。
「使い同士の争いも良いね。本来、それも賞牌刈りの目的だ」
「アベル」
ザイナスに叱咤され、アベルは肩を竦めた。
「だけどスクルド、いくらキミでもひとりは無理だ。だって、少なくともヘルフとスルーズにはザイナスのことがばれているからね」
リズベットに向かってアベルが説く。
「キミは知らないかもだけど、スルーズは王都の執政官で、ヘルフは聖堂商会の顧問だ。ザイナスの身元が知られている以上、逃げ遂せるのはまず無理だ」
初耳だったのか、二人の正体にリズベットの血の気が引いた。
「彼を護りたいなら、他の使いを一人残らず無力化するしかない」
アベルもまた物騒な物言いだが、実際それしかザイナスにも選択肢がない。
「幸いこっちは武闘派揃いだ、上手く立ち回れば何とかなるだろう」
ラーズが笑った。端から戦う算段をしていた様子だ。
「――もう」
何拍もの間を置いて、リズベットは大きく息を吐いた。
「そうなると、いちばん厄介なのは黒神のシグルーンよ?」
皆に向かってそう言った。照れ隠しのつもりか、少し拗ねたような口振りだ。
「降りた先は知ってる?」
アベルが訊ねる。
「いいえ、黒神の修道院にいる神の娘なら妥当なところだけれど、それもシーグリッド・シベリウスが生きていればの話ね」
英雄の神と称される黒神に教会には独特の修道院があり、神の娘と呼ばれる比類なき技量を誇る特務司教を育成している。
「シーグリッドか。確か十年前に失踪した神の娘だ」
ザイナスも名を聞いたことがある。その高名な神の娘は、十九歳で消息を絶った。当時で既に天位の剣匠だったという話だ。
そんな相手の唇を奪うなど、想像したくもなかった。
「ヒルドは?」
「おまえとシンモラだけだ。こいつとは何度かやり合ったがな」
ラーズがエステルに手を伸ばし、その髪を掻き回した。手の動きに応えて首を振りながら、エステルはにかっと笑っている。案外に、仲が良い。
「白いわんこは食べ損ねた。ザイナスがダメって言うから」
ラーズが息を吐く。
「ザイナスはガンドの恩人だな。仔ができたらお前の従者にやるとしよう」
ここ一番の申し出だ。追い回されたアベルだけは、少し複雑な顔をした。
「ボクは王都にもうひとり、当てがあるけれど――あそこにはスルーズもいるし、今は情勢がはっきりするまで持った方が良いかもだ」
オルガも言っていた、血族神のレイヴの事だろう。
「となると、まずはヘルフ?」
知らずリズベットが積極的になっている。
「方法は気に入らないけど、ずっと逃げ回るよりまし。勿論、兄さんが出るまでもないから。降りた身体を潰してしまえば、使いは天に還るんだから」
妹ながら物騒なことを口にした。
「よし。そうなれば、聖堂商会の本拠は北のシムリスだ。皆、異論はないかな」
ぱん、とアベルが手を打った。
「おー」
わかっているのかいないのか、エステルが楽し気な声を上げる。どうやら、この中で腰が引けているのは、ザイナスひとりきりのようだった。
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