異世界転移した少女は、黒髪ゆえ虐げられるも、王子に愛され復讐する~プラネット・ロンダリング~

百葉

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 16歳の誕生日。
 放課後、少し遠回りをして帰った私は道に迷い、気づいた時には冬の海の中にいた。
 腰まで海に浸かっていて、雪景色の浜辺が見える。
 寒い。

 浜にいた男女が私を見つけ、「おーい」と声を張り上げた。
 男性は海の中に入ってきて私を引っ張ってくれた。
「ばかやろう」
 男性は私を陸に導きながら、悔しそうに何度も言った。

 女性は私をショールで包み、浜の小屋に連れていってくれた。
 この小屋は、海で働く人たちのための作業小屋のようだ。
 男性も女性も若いのに髪は白く、彫りの深い顔立ちだ。

 女性は私に着替えを用意してくれて、男性は火を起こして部屋を暖めてくれた。
 私はびしょびしょになってまった制服とコートを脱いで、火の側で乾かしてもらい、着替えた。

 かぶっていたニット帽を脱いだ私を見て、二人は息を飲んだ。
 男性は罰の悪そうな顔をして私から目を逸らし、頬を掻いている。
「その、あれか、その髪を気に病んで海に入ったのか?気にすることはない。俺は綺麗だと思うぞ」

 髪?
 私の髪がおかしいのだろうか。
 私はショートボブの黒髪だ。

 寒さで歯の根が合わぬほど震えていた。
 話すことができなかったのが、火にあたって落ち着いてきた。

「お二人が考えているようなことではなくて、気が付いたら海の中にいたんです」
 私は言った。
 男性は疑わしそうな目を向けてくるので、私は「本当です」と念を押した。

「それよりも、ここはどこでしょうか。私は道に迷ってしまって、帰り道を探しています」
「どこに帰りたいの?」
「松崎町」
 二人は顔を見合わせている。
 知らないようだ。

 話しているうちに陽は落ち、外は真っ暗になった。

「もしよかったら、今夜はうちに泊まって。ここから少し歩いたところなの。明日明るくなってから帰ればいいでしょう」

 女性は優しく言ってくれて、男性も頷いた。
 私は二人の言葉に甘えることにした。
 もう帰れない予感がしていたのだ。

 私は小屋を出て、まだ濡れている制服とコートを持って、二人の後をついていった。
 浜から少し歩いたところに、二人の家はあった。

 男性の名前はウォーレン、女性の名前はクレアのようだ。
 二人は新婚さんだった。
 今日は結婚3か月の記念日で、出会った浜に遊びに来て、私を見つけたそうだ。
 二人は夕食を食べながら、楽しい話をしてくれた。
 私は一度考えてしまった“帰れない”という言葉に引っ張られ、涙を流しながらも、二人の話に笑った。


 思いついて、私はリュックの中からチョコレートを取り出した。
 もうすぐバレンタインなので、学校帰りに買ったものだ。

 自分用の高級ショコラティエのチョコレート1箱3200円と、手作りに使うためのクーベルチュールチョコレート業務用1㎏。
 もちろん友チョコ用だ。

 高級チョコレートを記念日の2人のためにプレゼントした。
 幸いリュックの上の方に入っていたこの箱は、濡れていなかった。
 ラッピングも綺麗な状態だ。

 二人はラッピングの綺麗さに驚いてくれて、私は二人の喜ぶ顔で幸せな気分になった。
 箱を開けた二人はさらにチョコレートの美しさに驚いている。

 私が買ったのは、惑星の形のチョコレートだった。
 二人は食べ物だとは思わなかったみたいで、私が1つ口に入れると目を真ん丸にして驚き、次には私を真似て惑星を口に入れ、その美味しさに驚いていた。

『今日二人に出会えてよかった』
 私は思った。
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