強引な初彼と10年ぶりの再会

矢簑芽衣

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第3話

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 それから、先輩は中庭に遊びに来るようになった。と言っても、一緒に花を植えたりすることはなく、先輩は花に一切興味がないようだった。先輩は中庭で私と喋ったり芝生に寝ころんで昼寝して過ごしている。
 花に興味ないなら別に中庭に来なくてもいいんじゃない? と疑問に思ったことがある。しかし、人が来ない中庭が先輩にとって好都合なんだということを私は知る。
 なんでも、先輩は女子生徒から人気があるのだ。全校朝礼で先輩が体育館に入って来たら女子の目線は先輩に一直線だし、私もクラスの女の子が「高坂先輩ってカッコイイよね~」と話しているのを聞いたことがある。
 これは私の推測なのだが、先輩は常に人の視線を感じていて気が休まらない。そこで目を付けたのが人けのない中庭だ。私は花にしか興味ないし先輩のファンでもないから実質的に先輩は一人のんびりと人の目を気にすることなく過ごすことができるのだ。
 

 季節は移り秋となった。中庭の花壇にはコスモスの花が咲き、風で揺れていた。
 そんなある日のこと、いつもなら昼休みになると先輩はすぐに中庭に来るというのに今日はなかなか姿を見せない。忘れがちだけれど先輩は受験生なのだ。きっと、勉強したりと何かしら用事があって中庭に訪れるのも少なくなっていくのだろう。
 私は花壇の前でしゃがみながら、次に植える花を何にしようか考えていると、目の端に人影が映った。反射的に顔を向けると先輩が真剣な表情で立っていた。
「あ、先輩来たんで――」
「ほのかが好きだ」
 私の言葉を最後まで待たずに先輩は言った。
「え?」
 急なことに思わず立ち上がる。コスモスが咲いている花壇を挟むようにして私と先輩が向かい合う。
「俺と付き合ってほしい」
 見つめられながら好きだと告白されて私は息を呑んだ。
 先輩は私のことが好き⁉ いつから? どうして私? どうして今このタイミングで? わからないことだらけだ。先輩は、じっと私から視線を逸らさない。本気で私に気持ちを伝えていることがわかった。
 すぅっと私は小さく息を吸うと「はい……」と頷いた。
 私が先輩の気持ちを受け入れたのは、先輩と一緒にいて楽しいし、これからもずっと一緒にいたいと思ったからだ。そして何より私のことを好きだと言ってくれて嬉しかったから。
 
 こうして私は先輩と付き合うことになった。付き合う、と言っても先輩の受験の邪魔になりたくなくて休日にデートしたりしなかった。付き合ってから変わったことといえば、放課後、一緒に帰るようになったことだ。

 その日、いつものように先輩と一緒に帰っていた。
「先輩は受験勉強どうですか?」
「俺は成績良いから大丈夫だろ。そういえば一ヶ月後、ほのかの誕生日だよな?」
「はい、12月24日です。覚えててくれたんですね」
「……何か欲しいものあるか?」
「えっ」
 私は足を止めた。まさか先輩が誕生日プレゼントをくれるなんて思ってもいなかったからだ。
「いやいや! プレゼントなんていらないですよ!」
 私は両手を突き出して断ると、先輩が私の手首を掴み引っ張った。
「俺がほのかにあげたいんだよ」
 掴まれた私の手の甲に先輩の唇が触れた。かぁぁと顔が熱くなるのがわかった。
「考えときます……」
 先輩の顔をまともに見れず俯いたまま答える。 
 その時、チリンチリンとベルを鳴らしながら自転車が勢いよく通り過ぎた。
「ほのかっ危ない!」
 先輩が私を引き寄せ、自転車にぶつからないよう守ってくれた。
「あ、ありがとうござ――」
 瞬間、気付いてしまった。今、私は先輩に抱きしめられていることに。そして、先輩を見上げている私の顔が先輩の顔と近いということに。
「ごめんなさい……」
 何について謝っているのか自分でさえもわからなかった。私は先輩から離れようと身をもがくが、先輩が私の肩を強く抱きしめて離さず、私の肩を壁に押しつけた。鼓動が速くなる。先輩の指が私の頬を撫でた。顔にかかった髪を優しく耳にかける。
「ほのか」
 先輩が顔を近づけた。これって――。
「嫌っ‼」
 私は先輩を突き放した。先輩にキスされる、そう思ったら身体が勝手に動いていた。
 
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