強引な初彼と10年ぶりの再会

矢簑芽衣

文字の大きさ
15 / 36

第15話

しおりを挟む
 ほのかの首筋にあの日の痕がついてなかったか……。
 目に見える痕として残せば俺の欲望も少しはおさまるかと思っていた。
 高坂玲はあの日の夜の出来事を思い出していた。
 あの日の俺は嫌がるほのかを縛り、本能のままほのかに触れた。ほのかの涙で潤んだ瞳や、顔を赤らめ恥ずかしそうにする姿を思い出すだけでぞくぞくと身体が疼く。
 柔らかい胸の感触、まだ誰にも侵されたことのない秘所。俺が触れると身体を強張らせよじるほのか。
 ほのかに触れたい。キスしたい。抱きたい。そう湧き上がってきた感情をぶつけることができたのに。
 〝俺だけのものにしたい〟その気持ちは収まらず、増幅させていく。
  

 もうすぐ就業時間という間際に電話の着信音がオフィスに鳴り響いた。
 どうやら個人のスマホに電話がかかってきたらしい。スマホの持ち主である前川さんが電話に出る。
「え? 子供が熱出した? はい。今仕事で……まだ終わらないのですぐ迎えには……」
 前川さんには小さな子供がいる。話から察するに子供を預けている保育園から電話がかかってきたのだろう。
「前川さん」私は声を掛ける。「あと何の仕事が残っているんですか?」
「データの入力がまだ……」前川さんはパソコンを一瞥する。
「それなら私も出来ますし、私が引き受けますよ。前川さんはお子さんを迎えに行ってあげてください」
「ありがとう、助かるっ」前川さんは頭を下げると慌ててオフィスを飛び出した。
 就業時間が過ぎ、皆が帰っていくなか私は一人パソコンに向き合う。麻耶も一緒に手伝ってくれると言ってくれたけど、私が引き受けた仕事に麻耶を付き合わせるのが忍びなくて断った。

 一人きりのオフィスにはキーボードを打つ音しか聞こえない。ふと時計を見ると八時前だった。
 もうこんなに時間が経っていたんだ……。私は急いで仕事を片付ける。
 あと少しで終わる……。そんな矢先になぜかパソコンの入力が出来なくなってしてしまった。
「え⁉ 何これ⁉」パニックになりながらパソコンを叩く。すると「何一人で騒いでるんだ、お前……」
 そこへやって来たのは先輩だった。呆れた様子で私を見ている。
「高坂さん⁉ 帰ったんじゃ……」
「忘れ物をした。で、どうしたんだ?」
 先輩がパソコンを覗き込む。
「それが急に入力出来なくなってしまって」
 私はマウスを動かして状態をみせる。すると、マウスを握る私の手に先輩が手を乗せてきた。
「――っ⁉」
 私の手は先輩の大きな手にすっぽりと包まれる。
「これはこうすれば……ほら出来たぞ」
 先輩が手を離すと同時に私もマウスから手を離した。まだ手の甲に感じる先輩の熱を消そうと、私は先輩に触れられた手をもう片方の手で押さえ、熱を上塗りさせる。
「あ、ありがとうございます。先輩は忘れ物ありましたか?」
「あぁ、あったよ――」
 先輩は私を抱き寄せるとキスをした。
 これで何度目のキスだろう。ぼんやりと考えていたら先輩が顔を離した。
「上の空で随分余裕そうじゃねぇか」
 先輩は眉間に皺を寄せると、今のキスは無かったかのように親指で私の唇を荒々しく拭った。そしてもう一度キスをする。
「……っ!」
 先輩の舌が私の口の中を侵す。堪らず私が先輩にしがみつくと先輩は満足そうに目を細めた。
「はっ……あ」
 息苦しくて呼吸が乱れたまま先輩を見つめる。
「――っ」
 先輩は切なそうな顔をすると私の首筋に吸い付いてきた。
「あっ……」チクリとした痛みを感じて声が出る。
 先輩は私の首筋を吸ったり甘噛みしたりを繰り返す。そして何かを確認すると先輩は口元を緩ませた。
「あの……」離れようとする先輩の袖口を私は引っ張った。
「どうして先輩は私に――」
 ――キスするんですか? そう訊きたかったけど訊けなかった。なぜなら私のスマホに電話がかかってきたからだ。
 私は背中を向けて先輩と距離を取った。電話に出てみると、相手は木佐貫くんだった。
『急に電話してごめん、ちょっと話がしたくて……今何してた?』
「ううん、気にしないで。私は残業してたところ」
『あっごめん、忙しかったよね⁉』
「もう終わるところだったから大丈夫だよ」
 喋りながら私は振り返ると、先輩は立ったまま私がまだ終えていない残りの仕事を片付けてくれていた。
 先輩と目が合う。先輩は私に微笑むと手を振って帰っていった。
 ……結局、何も訊けないまま終わってしまった。

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

会長にコーヒーを☕

シナモン
恋愛
やっと巡ってきた運。晴れて正社員となった私のお仕事は・・会長のお茶汲み? **タイトル変更 旧密室の恋**

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

処理中です...