ジェントル・ジョーカー 最悪な僕

斑鳩入鹿

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第1章

発症

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「PTSDが出てますね。」

精神科医が言った。
戦地に赴いた戦士が、戦後にかかるような病だ。
なんで俺にそんな症状がでる。

原因不明。そんなことはよくあることだ。
医学はクソだ。

医者の所見によれば、精神を相当程度に追い込むだけのストレスがある、との事だ。なんのことだか思い当たることがない。

「エブリーファイン」

バカみたいなネーミングの薬をもらった。

なにがファインだ。毎日元気エブリーファインって。製薬会社を訴えようかと思った。こいつは万能薬に見えて麻薬に近い。

クリニックを出て処方箋を投げ捨てた。
おれにこんなものはいらない。


ここは東卿都、六王子。
郊外のこのクソ田舎の街におれは住んでいる。
京皇線が都心の新宿にいやどまで伸びてるので便利ではある。
駅前は栄えてるが裏路地に行けばピンクのお店があったり、飲み屋に、パチンコ、浮浪者。ありきたりな光景がそこにある。

ラーメン屋のダクトからとんでもなくいい匂いがする。腹が減った。

腹ごしらえをすることにした。


席について、タウィッターをチェックしながら、ふと過去を思い出した。

おれは過去に一度、精神病棟に入っている。
これもまあ、そうなった原因は不明だが社会的には鬱と言われている。

ある日おれは、地下鉄に飛び込もうとしたらしい。
他人みたいな言い方をするのは、その時の状況をよく覚えていないからだ。

夢の中の暗いモヤの中で、もがいてもがいて、光が見えたのでそこに向かってある行ったのを覚えている。
その光が地下鉄のライトだったということを病室のベッドで悟った。

当時付き合ってたヒカリ。
心配して遠くから駆けつけてくれた。
衰弱して変わり果てたおれの姿を見て抱きついてきたのを今でも思い出す。

こんな欠陥人間にはもったいない子だった。


最大の愛情を受け取ったとき、おれは一人で生きていくことを決めた。


「へい、お待ち!」


思考を遮断するかのようにラーメンが出てきた。
これは美味そうだ。
六王子むつおうじはラーメンだけは美味い。


隣の席のカップルがいちゃつく。
ラブホテルでやれよ。
ここはラーメン屋だ。
そう皮肉に思った。

あの頃のおれもこんなバカをやっていたかと思うと、ちがう意味で死にたくなる。

時に、幸せは思考を鈍らせ、周りを見えなくする。


見えなくなってるのは本人。
周りはそれを見て微笑ましく思ったり、殺意を抱いたりする。

「幸せそうだったから殺した」

ヤフィーニュースで殺人犯の情報を見た。

京皇線殺傷事件。
カップルの女の子の方を、彼の目の前で滅多刺しにしたらしい。

犯人は、女の子ではなく残された彼のココロの方を滅多刺しにしたかったのだろう。

やるなら二人ともやってあげればいいのに。
犯人は優しくないと思った。

残された方はたまったもんじゃない。


幸せそうなカップルに一瞥をくれて、水を一杯飲み干して店を出た。
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