異世界おにぃたん漫遊記

雑魚ぴぃ

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第一章―旅立ちと双子―

1−9・愛の告白

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―――トメト村―――

翌日――

 僕達はメイを残し、山小屋へと帰る。帰る前に魔物からドロップした素材や武器をお礼に頂いた。

「たっだいまぁ!」

ガタンッ!

早紀が勢いよくドアを開けて、ドアが外れる。

「ふぅ、ここは何だか安心するね!」
「ここがねぇさん達の暮らしてた犬小屋……」
「愛……心の声が漏れてるぞ」

 ボロい山小屋だが、コテージと思えばそう気にならない。むしろ好きだ。

「うん、これだけ素材もあるし、鋳造合成も覚えたし……リフォームしよう!」
「早紀ちゃん!賛成!!」
「えぇ!楽しそう!!犬小屋の改造ね!」
「犬小屋で悪かったな!」

とりあえず、作業を分担することにした。

 僕は早紀の安全を確保するため、近場で薪を集め、早紀は山小屋の改修工事。舞と愛は食料の調達に出掛けた。

ガコォォォォォン!ガシャン!ドドドドド!

――数時間後

「ふぃ、お魚さん取れたよぉ!早紀ちゃん達は――は?」
「ねぇさん、ちょっと待って!運動不足で足が――は?」



「おっ!舞と愛!ちょうど薪を集め終わって――は?」

数時間前にここには山小屋があった……はずだった。
誰もが目を疑った!

何ということでしょう!

 深い緑の林を抜けると、心地よい風が吹き広大な草原が広がる。草原の周辺の杉林はすべて無くなり遠くまで見渡せる。
 小高い丘の上には昔、山小屋があったであろう場所に匠の技が光る。

皆の見据える先には何とっ!!

「城が建ってんじゃん……」
「どうしてこうなったの……」
「早紀様は神なの……?」
「おっ!皆!おかえり!早紀様のリフォーム終わったよ!」

広大な草原の真ん中に、突如として城が建っている。
ものの数時間で……

開いた口が塞がらない三人をよそに、早紀がせかす。

「早く!早く!入って!」
「う、うん……お邪魔します」
「ねぇさんの友達はヤバい人……」
「土足でいいのか……」

思い思いに扉を開ける――

ギィィィィィ……

 玄関ホールにシャンデリアがある。電気も点いている。中世のお城そのものだ。

「えへへ!どお?一度お城に住んでみたかったんだ!」
「どぉ?と言われても……早紀ちゃん」
「いや、ねぇさん、これは歴史が変わる瞬間なのかもしれない」
「やりすぎだ。イラスト描く人が大変だろう」

それはさておき――

 食堂、会議室、王広間、トイレにお風呂、部屋数は十を超える。数十億円はかかるであろうお城に住むことになった僕達。

「拠点としては十分よね!城壁も作りたいんだけどもろもろ素材足りなくて!桃矢!また集めて来てね!」
「は、はい……」
「よろしい!ではご飯作ろう!おぉ!」

そしてこの後しばらくして気付く。
お風呂を大きく作ったはいいが、水を運ぶのは桶しか無い事に……

カポーン

◆◇◆◇◆

「おはよう!皆、良く眠れた?」
「うん!早紀ちゃん!久し振りにベッドで眠れたよ」
「ねぇさんと一緒に寝るの何年ぶりで楽しかったよ」
「腰が痛いよ……」

昨日、水汲みを何往復したか覚えていない。

「そこよねぇ。水を引けないかしら?」
「早紀ちゃん、今日は私と愛でトメト村のメイを迎えに行ってくるわ」
「わかったわ。私は水を引く計画を立てて……また忙しくなるわね!」
「腰が……」
「桃矢!なによぉ!だらしないわね!さっ!ご飯食べたら手伝いなさい!」
「はひ……」

――その日の夕方

「ただいまデス!あっ!早紀さ……」

 山小屋へと戻ってきたメイが目にしたのはお城だった。山小屋は影形も無く、ただただ中世のお城がある。メイは口を開けてしばし固まる。

「あぁ、メイおかえり!良かった!どお?新しい住まいに……ほらっ電気も!」

ニコニコと出迎える早紀。ポロポロと涙を流すメイ。

「そんなに嬉しかった?ふふ、かわいい所あるわね!さっ、入って!」

そう言うと早紀はお城へ入って行く。ひざから崩れ落ち地面に手を着くメイ。

「ご主人様との思い出が……」
「わかる……けど、諦めなさい」

愛がメイの肩を叩き、舞が優しい言葉をかける。

「どんまい」
「は……はひ……」

それは夕日が美しい日の事だった……

◆◇◆◇◆

 それから僕達の五人の生活が始まる。時間をかけコツコツと城壁を作り、川の上流から水を引く。トメト村からマイア神様に参拝に来る者をめんどくさそうに愛があしらい、舞がなだめる。

 結果、トメト村をお城から見える眼下に作り直すことになる。川を挟んで草原が広がる場所に城壁を組み上げ中央に石像を建てる。周辺には田畑を作り、城までの道を整備する。

 この時から『バナナ街』へ名称を改め大きく様変わりした。一方でトメト村は旅人達の休息所として、また冒険者と呼ばれる者達の集合場所として使われることになる。

 それからしばらして、また秋の気配がやってきた。

――九月一日

「――あれからもう二年が経つか」

カツン……カツン……カツン……

 皆と、王広間からベランダへの階段を登りながら噛みしめる。僕達は十八歳になっていた。

カチャ……

『マイア神様万歳!!マイア神様万歳!』

 城の下では大勢の人が集まり、マイア神様を祝うお祭りが開催されていた。愛が手を振り、愛想笑いを振りまく。

そして全員に乾杯のぶどうジュースが配られ乾杯をする。

『かんぱぁぁい!!』

「ねぇ、桃矢様」
「ん?」

僕は乾杯のぶどうジュースを飲む。

「私と結婚してください」
『ぶぅぅぅぅぅ!!!!』

愛の突然の申し込みに、僕と早紀、舞が一斉にぶどうジュースを吹き出す。

「ちょ、ちょっと待て!なぜそうなゅいった……」

動揺しすぎて言葉にならない。

「はんっ!お幸せに!お幸せに!お幸せに!!」

早紀がぶどうジュースを瓶であおる。

「愛ちゃん!駄目でしょ!お姉さんが先なのっ!」

舞が便乗して愛を告白する。

『ぶぅぅぅぅぅ!!!』

街人達が何かの儀式と勘違いし、ぶどうジュース吹き出し祭りが始まる。

それはもうお祭りというか……

地獄絵図だった――
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