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第三章―尊さと鬼―
3−5・血の絨毯
しおりを挟む―――オニノ国西側―――
戦場に甲高い音が響く。桃矢と剣を交わし、打ち合ってる誰かがいた――
「我が名は桃之丞!いざっ!」
戦場で激しく、鬼と化した桃矢とエルバルト王国の桃之丞が切り合う!
キィィィィン!キィィィン!キィィィン!
金属のぶつかる音が西門まで聞こえてくる。
――西門
「レディス!レディス!!」
「ママァァァ!!」
「カディア!良かった、無事だったのね!」
「マイア様!ありがとうございますありがとうございます!」
「お礼は桃矢くんに言ってあげて……戻って来れたら……だけど」
「戻って来れたら……?」
ワァァァァァァァァァ!!!
戦場では桃矢と、桃之丞の周りを兵士が囲み、一対一での戦闘が繰り広げられる。
「鬼よ!なぜ人々を殺す!!」
「グガガガァァ……ダ、ダマレ……!!」
ザシュュュュッ!!
怒りに任せて村正を振り抜くと、桃之丞の左手方向の兵士達が切られ倒れていく……
「おのれぇぇ!!鬼め!!桃之家奥義――」
『桃切三年……花切八年!!!!!』
ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!!!
激しい連撃が桃矢を襲う!!
「くっ!?」
数激かわせず、体中から血が吹き出る。膝を着き、うなだれる桃矢――
「桃矢ぁぁぁぁ!!」
早紀は桃矢がひざまずく姿が見えた!しかし周りの兵士に足止めされ進めない!その時、早紀の横を歩いて行く人影が目に入る。
「ミーサ!!危ない!!」
バシャバシャバシャ……
血の絨毯の上を桃矢に向かって歩くミーサ……
「お前ら!道を開けろぉぉ!!ミーサ様のお通りだ!!」
ビルがミーサの後ろから声を張り上げる。ミーサの前にはいつしか桃矢まで続く道が出来ていた。
「おい、あれ、ミーサ様じゃねぇか。どういうことだ?鬼退治じゃなかったのかよ?」
軍勢は意味がわからず戦闘を中断する。
バシャバシャバシャ……
「桃矢様……申し訳ありません。私がいながらこんなにも傷付けてしま――」
「ミーサァァァ!!そこにいるのか!!すぐに国へ戻れ!!」
「姉上!?」
馬上から声が聞こえる。
「ダリア様!!危のう御座います!お下がりを!」
「かまわん!もうあの鬼は桃之丞が切り捨てる!」
「姉上!!この者は私を救ってくれた命の恩人です!軍を引いて下さい!!」
「黙れっ!!ミーサ!私の言うことが聞けぬか!!ミーサを捕らえよ!!」
「姉上!!」
……どんどこどん どんどこどん
鬼が眠ったら 起これ起これ
鬼が起きたら 眠りれ眠りれ
どんどこどん どんどこどん……
「ミィツケタ……」
「貴様!!まだ立て――ガフッ!!」
桃矢の前に立ちはだかる桃之丞が桃矢の一撃を浴び、そのまま倒れて動かなくなる。
「ソコカ……マッテリ……ロ……クック……」
「桃矢様!動いてはいけませぬ!傷口がっ!!……えっ?桃矢様?」
それは一瞬の出来事だった。桃之丞の目の前にいたはずの桃矢の姿が消え、遠く離れたダリアの目の前に現れる!
「イイオンナダ……ナ……」
「き、貴様!!我を侮辱するか!やれいぃ!!」
ダリアの号令で近衛兵が一斉に桃矢に襲いかかる!
が――
ザシュュュュュュュ!!!
ダリアの周りの兵士はすべて切られ誰もいなくなった。
「おのれぇぇ!!貴様!!勝負――んんん!!?」
「オマエハ、イズレ、オレノオンナニナレ……」
皆、唖然とした。何が起こったのかわからない。
馬上で刺されたと思った者もいただろう。
ただただ、戦場にはダリアを呼ぶ悲痛なさけび声が聞こえる。
「ダリア様ぁぁぁ!!」
「そんなぁぁ!!」
馬上で、鬼と化した桃矢に唇を奪われ、胸を揉まれ、抵抗することなく、魂が抜けたようにだらんとするダリアの姿があった。
それは戦争の終わりを告げる光景でもあり、絵画の様な美しい姿に皆……武器を捨てた。
そして馬上の二人はそのまま意識を失っていた――
◆◇◆◇◆
ほどなくして、エルバルト王国の軍隊は引き上げていく。ダリアは気を失ったまま、馬車に乗せられ連れ帰られる。
一方、桃矢も馬上でそのまま気を失いオニノ城へと帰還する。
―――オニノ城地下―――
カツンカツンカツン――
カチャ……
「ここにおったか」
「ロザリア様!!ペローネ様は!」
ロザリアは黙って首を横に振る。
「そんな……ペローネ様……」
「泣いている暇はないぞ、その子を連れて北の出雲の国へ向かう。付いて参れ」
「は、はい!零様、さぁ一緒に行きましょう」
「ママはどこに行ったの?」
「ママはね――」
ペローネの最後のお願いは、桃矢との間に産まれた神と鬼の血を引くこの子を守ってやって欲しいとの願いだった。ロザリアはこののち、出雲の国で生涯をこの子のために捧げることになる。
――数日後・オニノ城
「……ここは?僕はいったい……」
「桃矢サマ!!気が付かれましタカ!」
「桃矢っ!!良かったぁ……ビル!舞達を呼んで来て!」
「は、はい!」
微かに歌が聞こえる。あの少女達が歌う鬼の唄ではない。とても心地よい耳ざわりの良い歌だ。
「舞と愛……とミーサ?の歌が聞こえる……」
「そうよ、三人が桃矢が戻って来れるようにずっと歌ってたのよ」
「戻って……そうか。メローペが腕の中でいなくなった辺りから記憶が……メローペ……」
涙が自然と流れた。いつも近くで見守っていてくれて決して前には出ず、いつも笑顔でいてくれた。
「ありがとう……メローペ……」
そんな僕を見て、早紀が柔しく涙を拭いてくれた――
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