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第三章―尊さと鬼―
3−6・on it another word……
しおりを挟む―――オニノ城―――
とぅ……とぅ……とぅ……
舞いあがれ 咲き乱れ
桜吹雪よ
散りゆく花よ もがき遊べ
命の灯よ
今夜限りは……
とぅとぅとぅ……とぅとぅとぅ……
遠くで聞こえてくる耳障りの良い歌にしばし耳を傾け、この場にメローペがもういない事を思い出す。
早紀がそっと涙を拭いてくれる。歌はそこで終わり、しばらくすると、舞、愛そしてミーサが部屋へと来る。
ガチャ――
「桃矢くんっ!!」
「桃矢様!!」
「舞、愛……ミーサ……ただいま」
「桃矢様っ!!」
ミーサが寝ている僕に抱きつき、泣き出した。その頭をそっとなでる。
「心配かけたね……すまなかった」
「ヒック……ヒック……謝らないでください……エルバルト王国のせいでメローペ様は……!!私はあの人達を許しません!」
「ミーサ……ありがとう……」
「早紀ちゃん、桃矢くんの具合は?」
「傷口の回復は思ったより早いみたい。ただやっぱり桃矢の中には鬼の血が……」
コンコン……
「失礼します。桃矢様がお目覚めになられたと……」
「あっ、カディア、レディスもいらっしゃい」
「おにぃたん!おにぃたん!!わぁぁぁぁぁ!!」
部屋に入って僕の顔を見た途端、大泣きし始めるレディス。
「これっ!レディス!すいません!ずっと桃矢様の心配をしてたもので……」
「大丈夫です……こっちにおいで」
「ぐす……」
「レディス、怖かったね。よく頑張った。えらいな」
「うん……レディスはね……おにぃたんが起きないから、ずっと神様にお願いしてたの……死んじゃ駄目って……」
「ありがとう、レディス。もう大丈夫だ。元気になったらまた遊ぼうな」
「うんっ!レディスね!おにぃたんが元気になるおくちゅり作ったの!」
「おくすり?」
「はい、この子は人魚族でも特にマーメイド様のご加護が強く出てる子でして、レディスの――」
「はい!おにぃたんどうじょ!」
カディアの説明を聞いていると、レディスが一本の小瓶をくれた。レディスが渡してくれたその小瓶には赤いワインのような液体が入っている。
『おにぃたん』
手書きでそう書いてあった。
「ありがとう。あとで飲むね」
「うんっ!早く元気になってね!」
その気持ちが嬉しかった。ぽっかり空いた心塞ぐように、レディスの笑顔が響いた。
――その日の夜
「そういえば、レディスが飲んでって言ってた小瓶が……」
早紀が鋳造合成した簡易冷蔵庫から、小瓶を取り出す。一口ほどで飲める量だった。
「ごくっ……ふぅ……ちょっとにがいな。でも一生懸命作って――」
バタンッ!!
桃矢はまた意識を失った――
コンコンコンコンッ!!
「桃矢!!何か倒れる音がしたけど!大丈夫!?桃矢――」
◆◇◆◇◆
「よく会うのぉ……」
「ん……ここは……?ジョナサン?」
「ほぅ、覚えていたか。感心感心」
「ここはまた夢の中か……」
「夢?とは、ちと違うがの。まぁ似たようなもんじゃわぃ」
「ジョナサン、あの力は何だったんだ?こう意識がすべて怒りに飲み込まれていくような……」
「あれがわしらオニ族に伝わる鬼の血。ツクヨミは伝えなかったのかもしれぬが、お主は鬼の血を引くわしの血族じゃ」
「そうだったのか……」
「そうじゃのぉ……昔と今は違う。鬼の血を引くお主を追って、ツクヨミは犬飼と雉川の子を異世界へ送り込んだ。お主を殺すためにな」
「殺す?いや、そうか。僕は桃太郎の立ち位置で見ていたけど違うのか……僕は……鬼の立ち位置……なのか」
「そうじゃ。犬飼と雉川は元来、人間側の味方じゃ。もっとも猿鬼はわしの奴隷じゃったがな。がっはっはっは!」
「それで……僕の事をご主人と……」
「長話になったようじゃ、一つ忠告しておく。お主が先ほど飲んだ小瓶は人魚の血じゃ。鬼の血と人魚の血が混じることは過去に例がない。心しておけ――」
「人魚の血っ!?レディスの――」
話してる途中で意識が遠のいていく……
「西へ向え。そこに答えがあるはずじゃ――」
『――on it another word』
そんな言葉が微かに聞こえ、僕はまた夢の中へと落ちていく。
◆◇◆◇◆
少し時を戻し、戦争が終わった日の夜――
ベッドには傷付き横たわる桃矢の姿があった。馬上で気を失った桃矢をミーサが助け、ミーサ達を護りながら早紀も帰還した。
ダリアを失った兵士達も、桃之丞と共に馬車に乗せ帰っていく。
『ペローネが亡くなった――』
桃矢が暴走した原因を城に帰ってから聞いた。早紀もエルフ族も人魚族も嗚咽を漏らして泣いた。
舞は一通の手紙をロザリアから預かっていた。この地を離れる事、桃矢の鬼化を解くには『夢の歌』を三人で歌い続ける事、そしてペローネには桃矢との間に子が出来ていたこと――
舞は子の事に関しては誰にも口外せず胸の中にそっと閉まった……
「カディアさん!私と結婚してください!」
「困ります!私は子供もいますし!それに猿鬼さんは……そのメイさんの体であって……女性……」
「構いません!」
「私が構います!!」
「猿鬼うるさいっ!!」
パシッ!!
「あっ……」
バタンッッ!!
猿鬼が、レディスの母親のカディアに求婚を求めるシーンもあった。桃矢の件でナイーブになっている早紀は、猿鬼を黙らせるためにメイに戻した。
顔面から床にめり込んで動かないメイ……
「猿鬼はほっといて、桃矢が目を覚ますにはその夢の歌が必要なのね!」
「そうみたい。私と愛はこの歌を知ってるけどもう一人……」
「私に歌わせてください!」
「ミーサ!!」
「私も桃矢様の力になりたい!」
「わかったわ!舞、愛、ミーサ!お願いね!」
「はいっ!」
後に『アイ・マイ・ミー』として広く知れ渡る三人の歌姫の誕生の瞬間であったーー
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