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第四章―苛立ちと悲しみ―
4−8・死神ノアリス
しおりを挟む―――ムルーブの街寺院跡―――
僕達は、ノアに言われ寺院跡の宝物庫へと来た。エルバルト王国の海底に繋がっていた転移陣。ノアがその行き先を変えたらしい。足元にはその転移陣がある。
「じゃぁ、行ってみるか。少し待っててくれ」
「桃矢様気をつけてください」
「あぁ、行ってくる」
僕は転移陣の中央ヘと進む。以前乗った時は海中へ放り出された。今回は……
スンッ!
「ここは……?」
「ぬ。成功じゃな」
カツン……カツン……カツン……
ギィィ……
「眩し……い」
暗闇を抜けて、扉を開けるとそこは……
「ここはオニノ国か」
「ぬ。元々、あの街はここに繋がっておった。誰ぞ、いじったのでは無いか」
「そうだったのか。まさか一週間以上かかった場所まで一瞬とは……転移陣を作った人はすごいな」
「ぬ。そんなに褒めるな。作った本人を目の前にして。照れるではないか」
「え?嘘だろ?転移陣はノアが作ったのか」
「ぬ。当たり前であろう。転移陣の素材は死者の魂じゃ。神の中でも作れる者は少ないじゃろうて」
「なっ……死者の魂」
「ぬ。ほれ、早う皆を連れて来ぬか」
「あぁ……わかった」
僕はミーサとクルミ達を迎えにムルーブへと転移する。
「うぬ。誰もわしの事を、死神ノアリスと気付いてはおらぬようじゃ。シシシ。それもまた一興だの。さてこの世界はどう変わるのか見せてもらうかの……」
一人、青い空を見上げ嬉しそうな死神。
彼女は……死神ノアリス。創造主アリスから産まれた死を司る神。そして魔鏡・八咫の鏡に封印されし死神。桃矢は知らない間に死神の封印を解いていたのだった――
◆◇◆◇◆
「桃矢ぁぁぁ!」
「桃矢くんっ!!」
「早紀!舞!」
早紀を抱きしめようとした所、一歩手前で早紀が止まり握手になる。なんでだ。この広げた手をどうしてくれよう。
「抱きしめようとしたわね!この変態桃矢!」
「え?あっ!えっと……」
舞も広げた手をそっと降ろす。
「と、桃矢くんおかえり」
舞とも握手する。なんでだ。早紀が一番強いのか。
「そちらの方々は?」
早紀の目線の先にはノア達がいた。
「クルミですにゃ!初めてなのにゃ!」
「ぬ。死神ノアじゃ。お主ら契約――」
「カナデです。以前、サウスタウンの街ではお世話になりました」
「ビルで――」
「あなたは知ってるわ。で、死神さん。あなたが桃矢を殺したのね!ちょっとそこに座りなさい!」
「ぬ。わしは――」
「いいから座りなさい!」
なんでだ。死神ノアが座らされ、早紀に説教されている。ビルは出した手を申し訳なさそうに下げる。ミーサは挨拶すら出来てない。
「ぬ。ぬぬ……桃矢。へるぷみーじゃ」
「さ、早紀!その辺で!皆、疲れてるんだ!」
「フン!いいわ!休憩したら続きだからね!死神!逃げたら承知しないから!」
「早紀様……相変わらず……」
「キャァァ!ミーサ!久しぶり!」
ミーサを見つけ抱きつく早紀。カナデがビルの背中をポンポンして慰めていたのを見たのは僕だけだった――
―――オニノ城―――
カポーン
「はぁぁぁぁぁ、良い湯だ」
「ぬ。お風呂は最高じゃな」
「だなぁ……はぁ、温まる……え?」
「ぬ?」
「なんでノアが一緒に入ってるの?」
「以前も入ってたであろう?」
「……それもそうか……はぁ……落ち着く」
ザパァン……
旅の疲れを我が家のお風呂で癒やす。至福のひとときだ。
「ごしゅじんたまぁぁ……」
「しぃぃぃ!おにぃたんのたまはレディスちゃんが洗うの!」
「だめだにゃ!ごしゅじんのたまは、みゃぁが洗うのにゃ!」
「こらっ!二人共!」
「げっ!ミーサおねぇちゃん!」
「逃げるのにゃ!!」
ガシャンガシャァァァン!!
「まったくぅ。桃矢様、お湯加減はいかがですか?」
「あぁ、ミーサちょうどいいよ。レジオネラ菌もいないしな」
「フフ、何ですかそれ……お背中流してさしあ……」
ガラガラガラ……
「ぬ。お主も入るのかえ?」
「桃矢様……ノアさんが何で一緒に入ってるんですか……」
「あぁ、ノアはあれだ。死神だから……」
「死神でも女子とお風呂に入るなんてっ!!この!変態っ!!」
パコォン!!
まぁ、それはそれは見事な投球だった。ミーサの投げた桶が放物線を描き僕の額に、桶の一番堅いであろう角の部分が命中する。
「ガフ……ボコボコボコ……」
「フンッ!」
パシァァン!!
「……ぬ。大丈夫かえ?」
その後ノアに介抱され、ミーサに命までは取られはしなかったが……完全にノックダウンしたのだった……
◆◇◆◇◆
――数日後
「話しかけないでください!変態が伝染ります!」
「ちょ!ミーサ!まだ怒っ……はぁ……」
「どうしたの?変態桃矢」
「早紀……いや、何でもない……」
「おにぃたぁぁん!レディスちゃんと遊ぼう!」
「レディス……よし。そうだな、遊ぶか!」
「わぁい!!クルクルも一緒に行こう!」
「みゃぁは……寒いのはちょっと……苦手にゃ……」
「そうなの?レディスちゃんは平気!おにぃたん!行こう!」
誘われた湖にはうっすら氷が張っていました。
「ふぅ!おいっちにぃ!おいっちにぃ!」
「レ、レディスや……今日は……屋内で遊ばないかい……ガタガタ……」
「かんちゅーすいえーですよ!それぇい!」
「え……?」
バッシャァァァン!!
「ブクブクブクブク……」
「おにぃたん!潜るの速い!レディスちゃんも行きますよぉ!」
僕はその夜、熱を出した……
「ヘックション!!」
「はぁ……この寒いのに寒中水泳とか……桃矢くんはレディスちゃんに甘々だねぇ……」
「そう言うねぇさんは桃矢くんを独り占め出来て嬉しそうな顔してますけどねぇ」
「あいっ!」
「おっと!用事を思い出した!退散退散!」
「もう……桃矢くん、ゆっくり休んでね……おやすみ」
そう言うと舞は、僕のおでこにキスをしてから部屋の明かりを消した。
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