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第六章―愛すべき人―
6−2・逃げられない過去
しおりを挟む―――マルク街―――
「次郎様!ロメリア様がお越しです!」
「あぁ、今行く……」
ここはマルクの街。後の帝国である。桃園家はこの街でキジカワ公爵に仕えていた。この国は武勇に長ける者が多く、世界中から強者が強者を求めて集まる。
今、まさに城が築かれ帝国としての一歩を踏み出そうとしていた。
「お待たせしました。ロメリア様」
「おぉ、次郎。無事に帰って来たか」
「はは……父に会いに行っただけですよ、取って食われたりはしませんよ。ところで今日は?」
「うむ。一つは桃之家が何やら不穏な動きをしておってのぉ……一度調べて欲しいのじゃ」
「太郎兄さん……いえね、先日も色々あって……」
「イヌカイ公爵、そしてキジカワ公爵も裏で動いてるみたいなのじゃ。わしの思い違いなら良いのじゃが……」
「わかりました。調査します」
「それとな、マルク領主がいよいよ帝国城主になるそうじゃ。近々、式典がある」
「いよいよですか……さぞご立派な式典でしょうね」
「他人事ではないぞ?お主にはキジカワ公爵の護衛の任務が与えられるじゃろうて」
「はぁ……護衛かぁ。面倒くさいなぁ……」
「何を言う。これもキジカワ公爵あっての生活なのじゃぞ?」
「わかってますよ……ちょっと愚痴を言っただけです。忘れてください」
「そういえばキジカワ公爵のところの娘がお主に会いたいそうじゃぞ、ほほ……隅におけぬのぉ」
「僕にですか?勘弁してください。人間との関係は表面だけで十分ですよ……」
「こんにちは、ロメリア様。何のお話をされているのですか?」
「おぉ、ヒナタか。邪魔しておるぞ。お腹の子ももう産まれそうじゃな……あらあらチカゲちゃんも大きくなって……」
「ふふ、チカゲ挨拶しなさい」
「こ、こんにちは……」
「さて、ロメリア様。僕はちょっとエルバルトへ行ってきますので、ごゆっくりして行ってください――」
桃園次郎とキジカワ公爵の娘は後に双子を授かった。しかし間もなくして、桃園家はキジカワ家は仲違いをすることになる――
―――エルバルト王国―――
「くそっ!どいつもこいつも!」
「太郎様!落ち着いてください!」
「黙れ!!どいつもこいつも親父にペコペコしやがって!」
「ほっほっほ!荒れておいでますな……」
「あぁん?……ハリス公か……何の用だ?」
「太郎様、実はエルバルト国王によからぬ噂がありましてな……ちょっとそこの君は席を外してくれぬか」
「は、はい!失礼しました!」
「ミザリー下がれ。で……ハリス公よ、くだらぬ話ではないだろうな?」
「はい……実は……」
バタン……
「あら?ミザリー、どうしたの?顔色悪いわよ」
「あっ!王妃様!ご機嫌麗しゅう御座います」
「ふふ、堅苦しい挨拶は抜きよ。太郎様はお戻りなのかしら?」
「は、はい!それが今はハリス公爵様がおいででして……そのぉ……」
「……そっ。それなら後にするわ。ミザリー、少しお茶に付き合いなさい」
「はい、王妃様……」
カツン……カツン……カツン……
「ところで、ミザリー。つかぬことをお伺いするのだけれど?」
「はい、何で御座いましょう?」
「エルバルト国王に仕えてみぬか?」
「え!?大変光栄ですけれど、私は桃之家の給仕をしておりますゆえ……」
「ふふ……返事は焦らずとも良い……私はこの国の発展を望んでおる。しかし、私にはなかなか子が出来ぬゆえ……いや、何でもない。そなたの気持ちが変わればまた言うがいい。待っておるぞ」
「は……はぁ……」
カツン……カツン……カツン……
バタン……
「……それで、ハリス公よ。この国の軍隊は自由に使えるのだな?」
「もちろんです。イヌカイ公爵と、キジカワ公爵も話はついております」
「面白い……王の替わりにか。準備を進めろ。親父に目にもの見せてくれる……」
「ほっほっほ!さすがは太郎様……話が早い。それでは私が内政を、太郎様が外交を担うという事で……」
「うむ。任せた。我ら桃之家は……鬼を退治するぞ!」
「ははっ!!」
―――キュウカ島北西の村―――
――一年後。
「誰ぞ!!誰ぞおらぬか!」
「おや、これは鬼ぃ様の所のお兵さんじゃのうですかい」
「おぉ、ばあさま。村長はおらぬか?」
「はぁ……あいにく昨日から村の者と狩りに出かけておりまして……」
「ちっ!遅かったか!ばあさま、行き先を教えてくれ!それとばあさまは早く逃げた方がいい……」
「はて?どういう――」
この時、太郎をそそのかしたハリス公爵はすでに動いていた。キュウカ島の鬼の子を誘拐し、神への捧げ物として島に流したのだ。
それは古くから伝わる習わし……飢饉の年になると人々は神への貢物として、赤子を島へと流した。神の怒りに触れたと迷信を信じていたからだ。
そしてハリス公爵は飢饉の年を今か今かと待っていた。
この行為が、ジオナとキシボインの怒りを買う事になる……すべてハリス公爵の作戦だとも知らずに――
「赤子を誘拐した犯人をさがせぃぃ!!人間とて容赦はするな!」
鬼の中には人間を毛嫌いする者もいる。この火種を消すまいと、中には進んで人間を襲い歯止めが効かなくなる。
反対に人間の肩を持つ者もいる。が、それは少数派だった。ジオナは最悪のシナリオを歩もうとしていた。
「ミズチはおるか?」
「はっ!ジオナ様、ここに」
「この争いは……最悪の結果を招くかもしれん。ひとつお主に頼みがある」
「何なりとお申し付けくださいませ!」
「うむ……」
鬼の棲む島……キュウカ島を中心に火種は世界中を巻き込んでゆく――
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