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第六章―愛すべき人―
6−5・陽子先輩
しおりを挟む―――帝国領マルク城―――
魔王を追い、帝国城へと乗り込む桃矢達。城門を開ける為に城内に入ったのは良いがそこにいたのは陽子先輩の姿をした悪魔だった――
「アノォ……ナンカ……スミマセン……」
「はぁ……いいですか?ヨウコパイセン。元の時代では綺麗で清楚で学校一の人気者だったかもしれませんが、この世界では違います!そこは理解してますか!」
「ハ、ハァ……」
「陽子先輩!!いくら桃矢くんと同じ部活をしてたとはいえ!いえですよ!それとこれは別問題です!」
「ハ……ハイ……」
もう泣きそうな陽子先輩。
「まぁまぁ、二人共その辺で……」
「ソロソロ……タタカワナイト……マオウサマガ……」
「ぬ。そう言えば魔王の気配が消えたのぉ……鬼門を抜けおったか……」
「エェェェ!?ワタシヲ、オイテイッタンデスカ!」
「ぬ……そのようじゃが……そもそもそなたは時間稼ぎで置かれておったのではないか……?」
「ソンナ……セッショウナ……」
「陽子先輩……さぁ、立ってください。僕が肩をお貸し――」
「トウヤクン……アリガ……」
『ダブルコークスクリューパンチッッ!!!』
「ガハッ!!」
ゴロゴロガッシャン!!
陽子先輩と桃矢は、早紀と舞の逆鱗に触れ、吹っ飛ばされ動かなくなった……
周りにいた悪魔達もいつの間にかいなくなっている……
カシャン!!
猿鬼が城門を開け、ミズチ達が城内になだれ込む。
「坊ちゃま!!大丈夫ですか!ぐぬぬ!悪魔共めぇぇ!!皆殺しじゃぁぁ!!」
『オォォォォォォォォ!!!』
城内に鬼達のけたたましい雄叫びが聞こえる。
勘違いした鬼達の……
「ぬ……何だこのおかしな展開は……」
「ノア様……ここは早紀様達に任せて……先をいそぎまショウ……」
さらに足蹴にされる陽子先輩を桃矢はかばい、早紀と舞は気が済むまで二人を罵っていた……
―――マルク城内―――
魔王が鬼門を開け放す……重く錆びたその扉は意志があるかのように、音を立てながらゆっくり開く。
「次郎よ……お前が鬼の里への門を隠していたとはな……封印の事もそうだが、とことん出来の悪い弟だ……」
「魔王様!!鬼の群れが城内に入って来ました!いかが致しますか!迎え討っ――」
「好きにするがいい……俺にはお前らもこの世界もすべてもう……用無しじゃ」
「え……今、何と……?」
「さらばじゃ、無能共……」
ギィィィィィ……
バタンッ!!
扉が閉まると同時に、先程まで明るかった部屋が真っ暗になる。
「メズ!魔王様はどのようにせよと!!」
「オズ兄か……魔王様は……クッ!!」
「メズ……?」
「魔王様は……鬼の国へと転移された……我らはすでに用無しと……」
「ど、どういうことだ……用無し?いったい今まで何の……為に……」
ガクっと、膝を着き座り込むオズ。メズも扉を見つめたまま言葉が出てこない。
「全軍撤退しよう……一度引き上げる……」
「……そうだな」
それから小一時間ほどの間に魔物はいなくなった。魔物が出てきたルートを辿ると、そこは神の山へと通じる転移陣だった。
桃矢達は神の山で魔物達がやって来たであろう門を閉じる。そしてマルク城内を散策し、鬼門にも施錠する。
一時的ではあるがこれでしばらくは魔物や悪魔との戦闘にはなり得ないであろう。
「ようやく……一息ついたな」
「ご主人様……お疲れ様デシタ」
「ぬ……わしの出番があまりなかったの」
「桃矢!街の人達が地下に避難してるそうよ!」
「桃矢くん!行きましょう!」
「トウヤクン!ワタシモイクワ!」
『え?』
皆が振り向く先には、悪魔の姿をした陽子先輩が立っていた――
――数日後。
「これで大丈夫!ヨウコおねぇちゃん!ゆっくり目を開けて!」
レディスに言われるまま、陽子は目を開ける……
「陽子先輩……」
「桃矢くん……私……生きてる……」
涙を浮かべて、桃矢に抱きつこうとする陽子先輩。
「はいはい!そこまで!ヨウコパイセン!近すぎです!イエローカードです!」
「えぇぇぇぇ!?」
早紀が陽子先輩を静止し、うなだれる陽子先輩。
レディスの血……それは生命力を増幅させるだけではなく呪いのたぐいをも浄化してしまう。ノアに教わり、色々と混ぜてこねて混ぜてこねて出来た薬を飲み、元の陽子先輩に戻れたのだ。
「さて、これからの事だが……」
桃矢達は壊れた城内で集まり、今後の方針を話し合っていた。
「マルク城の復興と管理はミズチとアズチに任せようと思う。そして、エルバルトの地下に居た鬼達もここで暮らしてもらおう。どうかな?ミズチ、アズチ」
「坊ちゃま。いっそ桃之家、桃園家の生き残りの鬼も桃矢家に入れてしまうのはどうでしょう?」
「ミズチ、それはいくら何でも……」
「いえ、坊ちゃま。今や坊ちゃまはジオナ様を凌ぐ影響力をお持ちです。奥方様をめとられ、桃矢家……いやオニ一族の復興を願います」
ガタンッ!
急に早紀が席から立ち上がる。
「しょ、しょうがないわね!奥方様になってあげるわよ!」
「ちょ!早紀ちゃん!桃矢くんの奥方様になるのは私が先なのぉ!」
「桃矢くん……私も立候補……」
『パイセンは駄目よ!!』
「えぇぇぇぇ……」
ミズチの放った『奥方様』の一言に、早紀も舞も陽子も譲らず、結局保留となった。
「マルク城はとりあえず鬼達の居場所として開放、復興する。次はエルバルトだが、こちらは人間主体で復興に入る。それでどうかな?」
「ふぁい……レディスちゃんはもうお眠の時間なの……」
レディスの一言でその日は会議を終えた。
帝国は鬼達が復興し、エルバルトは人間手で復興していく……
一方、桃之家は息を潜め、また桃園家も姿を見せることはなくなった。桃矢家は悪魔アドヴァンによりほとんどの者が殺され生き残りはわずかだった。
生き残った鬼達は桃矢の元へ集まり、長く続いた、いがみ合いも終息していく――
「ぬ……そうであったか。魔王が太郎だったとしたら次郎はどこへ……」
「ノアリス様……次郎様はもしかしたら……」
皆が寝静まり、静かになった会議室でノアリスと誰かが遅くまで話をしていた……
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