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第七章―鬼斬丸―
7−5・死者の泉
しおりを挟む―――カランデクル町付近―――
僕達は、カランデクルの町から死者の泉を探して川沿いを南下していた。
そして無事に海へとたどり着く。
「桃矢様、これは……?」
「あぁ……迷子だな……」
道に迷ったらしい。カランデクルから川沿いを南下すると、海までの間に死者の泉があると、サクラから地図を預かった。しかしそれらしい物はなかった。
「桃矢様、どうしますか?カランデクルまで帰ってたら日が暮れますぞ」
「そうだな……さっき通り道で開けた場所があった。今夜はそこで野宿をして、明日周辺を捜索するか」
「ぬ……そうじゃの。街まで戻っても見つかるとも限らまい」
桃矢達は来た道を引き返す。食料はある。野宿する道具は無いが何とかなるだろう、という気持ちでいた。
ところが……
「うわぁぁぁ!!虫が多すぎる!」
「ぬぁぁぁぁぁ!!わし!虫は無理じゃぁぁ!!」
「桃矢様!ノア様!!森に明かりが見えます!あそこへ避難ををを!!」
とんでもない量の虫に襲われた……森を走っていると山小屋を偶然見つけた。急ぎドアノックする。
ドンドンッ!
「すいません!!一晩泊めさせて頂けませんかっ!すいません!」
「は、はぁい!少々お待ち下さい!!」
しばらくすると、山小屋の扉が開く。
キィィィ……
「夜分すいません!野宿しようしたら、虫がすごくて……一晩……泊めさ……」
桃矢は言葉を失った……そこには……
チカゲを少し幼くしたような色の白い美しい女性がいた……
「狭いとこですが、どうぞお入り下さい……」
「ねぇさん……あぁ、ありがとうございます……」
「どうかされましたか?」
「あ……知り合いに良く似てて……」
「そうなんですか……」
桜雪と名乗る女性は桃矢達を温かく迎え入れてくれた。
「夜分に本当にありがとうございます。野宿をする予定が虫がたくさんいてそれで……」
「ふふ、何だか一生懸命ですね」
「あ、いや、その……」
「ぬ……お主……」
「……あら?そちらの三つ目の方は?」
「ノアと言います。と、仲間の鬼達です。大人数で押しかけてすいません……」
「ぬ……桃矢よ、良く聞け……」
「さっ!皆様、お食事はまだですかね!久しぶりに腕によりをかけようかしら?ふふ。ノアさん手伝ってもらえるかしら?」
「ぬ……わしは料理は苦手……」
「女性は他におられないのでお願いしますね!」
「ぬ……ふん……」
サユキとノアは厨房へ向かう。
「桃矢様、あの方がどうかされたのですか」
「あぁ、ねぇさんのチカゲに良く似ていてな。それで驚いてしまったんだ……」
「左様でしたか。しかし、こんな所でお一人とは物騒ですな」
「そうだな……不便も多いだろうしな。僕らの用事が済んだら鬼の里へ案内してみるか」
「それがよろしいかと。一期一会と言いますしね」
カチャカチャ……
「ぬ……お主、その肉体とは別の者じゃな?」
「……やはりあなた様だけお分かりでしたか」
カチャ……
悲しそうな表情をするサユキ。
「私の肉体は死者の泉の底に沈んでおります……」
「ぬ……やはりそうか。お主の魂には違和感がある。肉体にも定着していないのであろう?」
「はい……この体の持ち主はもう亡くなっております……」
「ぬ……その肉体はどこで手に――」
「サユキさん、ノア、何か手伝おうか?」
「あっ、いえ、大丈夫です!ゆっくりなさってて下さい!」
「そうですか……何か申し訳なくって」
「お気になさらず!」
カチャ……カチャ……
「……この肉体は異界の者の体です。赤子の時に拾いました。そして数年後、私は泉で殺され幼子も虫の息になっておりました……気がつくと私は幼子の体に入っており何とか生き延びてきました」
「ぬ……その赤子はもしや人間がさらって来たという……」
「それは存じ上げませんが……」
「ぬぅ……ではお主を殺したヤツは覚えておるのかえ?」
「はい……名前は……鬼切丸……」
鬼切丸――それはカランデクルの街に巣食う魔物の一団。街のいたる所で貼り紙がしてあった。
「ぬ……だいたい話はわかった。お主の体を見つければ成仏できると言う事でよいな?」
「え……は、はい!そんな事できるのでしょうか?」
「おぉい!何か手伝いを――」
「ぬ……こやつに任せておけ。外見は粗末じゃが中身はそこそこじゃ」
「ちょっ!ノア!誰の外見が粗末なんだ!」
「ぷっ!あはははは!」
サユキは初めて心の底から笑った。そもそも二十数年生きてきて笑う機会などほとんど無かった。
サユキは元々東の国で生まれ育ち、中央都市へと働きに出た。そこで鬼斬丸と出会い、騙され、この秘境で誰にも気付かれず死んだのだ。
苦しみ悲しみの先に、サユキの魂は成仏出来ず、拾い育てた我が子に乗り移る……
その子は山すそにあった門の側で泣いていたと言う。赤子の頃から育てあげた末、最後は同じ日に襲われ虫の息だった……
サユキの魂が幼子に憑依したとこまでは覚えていたらしい。だが次に気がついたのは半月も経ってからの事だった。カランデクルの街の病室だったそうだ。
幼子一人で生きて行くにはあまりに過酷で、住み込みをしながら昼夜問わず働き、笑う事も怒ることも悲しむ事も忘れていった……
彼女の半生はあまりにも苦しい道のりだった。そして、ふと幼子と暮らしていたこの小屋を思い出して数ヶ月前に越して来たそうだ。
桃矢達が眠る傍らで、ノアは黙ってサユキの話を聞いていた……
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