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第七章―鬼斬丸―
7−6・鬼斬丸
しおりを挟む―――サユキの山小屋―――
桃矢達が迷子になりたどり着いた山小屋で、宿を取らせてくれたサユキ。
ノアだけが知っているサユキの過酷な半生。だが、桃矢との出会いでそれは少しづつ変化していった――
「ここは昨日通った道ですが……しかし今日も霧が……」
ザッザッザッ……
桃矢達はサユキの後をついて行く。昨日より霧が深く、数十メートル先は真っ白で見えない。
「ここの木から道を外れますね、足元気をつけて下さいね」
「はい……て!サユキさん!そっちは崖っ!!」
サユキは崖から一歩踏み出す。
「ちょ!危なっ……」
桃矢が手を伸ばすが一歩及ばず、サユキは崖から落下した――かに見えた。
「ど……どういう事だ?」
サユキが宙を浮いている。
「足元に気をつけていらして下さい。ここは蜘蛛の橋。霧が出る日のみ通れる道なのです」
ギシ……
「本当だ……見にくいけど道がある……」
「ぬ……わしはいつも浮いてるからどっちでも良いが……しかし、これは知らないと気付かないのぉ」
「ノアって普段から浮いてるんだ……」
「ぬ……お主がミーサとやっておる時も天井から――」
「だぁぁぁ!!ノアッ!!そういう事は言わないの!」
「どうかされましたか?足元気をつけていらして下さい」
「は、はい……」
ギシ……ギシ……
しばらく霧の中を進むと、木々に囲まれた泉に着く。
泉の周りは霧が晴れ、別世界の様な感じがした。
「ぬ……誰かおるぞ……?」
「人……?皆、気をつけて……」
泉の近くで倒れている人がいる。泉は半分が血で染まり、倒れている人はすでに息絶えていた。
「嘘だろ……誰がこんな事を……」
年端も行かぬ子が死んでいる。
「誰かいる……」
ガキィィィィィン!!!
辺りに甲高い金属音が響くっ!!
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぬぬぬ……間一髪じゃわい!」
「ホゥ……人ではないな」
サユキの首を切断しようとした剣をノアの大鎌が受け止めた。
『漆黒の太刀……蓮華!!』
ズシャ!!
鈍い感触が桃矢の刀に伝わる。致命傷ではない。直感で感じた。
「オマエも死にたいらしいな……」
その得体の知れない何かが剣を振り下ろす!!
ガキィィィン!!
妖刀村正で受け止めるが、剣の重さで徐々に押されるのが分かる。
「くっ!!」
「ぬ……!!桃矢!!力を使えしっ!!」
『鬼魂感魂!!』
ゾワゾワッ!!
鬼の血が騒ぎ、頭の中で幼子が鬼の歌を歌い出す。
桃矢の頭にツノが一本現れ、体が青白く光る。
「グアァァァァァ!!!」
相手の太刀を跳ね返し、一刀二刀三刀……と、桃矢の繰り出す攻撃に相手は後ろに引き始める。
「チッ!鬼かっ!!いずれまた会おうぞ!」
そう言い残すとその得体の知れない何かは霧の中へと消えた。
「ハァハァハァ……皆、大丈夫か?」
「はい、桃矢様もご無事で何よりです。しかし今のはいったい……」
「あれが私を殺した鬼斬丸です……」
そうサユキが告げた。
周囲を警戒する。もう鬼斬丸はいないようだ。霧は一向に晴れない。まるでこの泉を隠すように深くそして冷たい空気が漂う。
しばらく休憩した後に、鬼の一人が口を開く。
「さっきから泉の真ん中に誰かいるんですが、皆さんお気付きで?」
「あぁ……見ないフリをしている……」
「ですよね……あれどう見ても目を合わせたら駄目なやつですよね……」
「ぬ……あれは死者の魂をあの世に連れて行く案内人じゃな」
「ノアと同じたぐいの死神っていうこと?」
「ぬ……わしとは違う。アレは言葉を持たぬ。ただそこの幼子の魂が完全に抜けるのを待っておるのじゃ」
「普通の幽霊か……試しに話しかけてみるか」
「桃矢様、危のう御座います。立ち去るまでお待ち下さ――」
桃矢はサユキの言葉を聞く前にその案内人に話かける。
「こんにちは、いいお天気ですね」
「こんにちは、そうですか?毎日霧で気が滅入ります……」
『話すんかいっ!!』
鬼達がいっせいにツッコミを入れた。
「ぬ……お主!わしが嘘をついたみたいな雰囲気を作りおって……許さんっ!!」
「ノア!ちょっと待てっ!怒るところが違う!」
「すいません、すいません。私なぜかしゃべれるんですよね。すいません。すいません」
謝る案内人の霊に何だか、親近感が湧いた一行だった。
「私もこの仕事早く辞めて成仏したいんですよぉ」
「わかる!上司の言いなりで残業やら、うんぬんかんぬん――」
なぜか、幽霊と鬼達が仲良くなっている……
「ねぇ……何か想像と違うんですが……」
「は、はぁ……私に言われましても……私も驚いてまして……」
「ぬ。幽霊よ。ところでつかぬ事を聞くが、泉の底にサユキを名乗る遺体はなかったかえ?」
「サユキ?名前はわかりませぬが、以前ここで殺された遺体は白骨化して沈んでますね。持ってきましょうか?」
「えぇぇぇぇぇっ!!」
サユキが人生で一番大きな声をあげた瞬間だった。サユキは過酷な半生を送ってきた。笑うことや悲しむ間もなく生きてきた。そして驚くことさえも……忘れていた。
目の前で幽霊とお話し、自分の遺体を死者の泉から引き上げてくれると言う。
「もっと早くにお友達になりたかった……」
「私もです」
涙を流すサユキの肩をポンっと叩く幽霊。
「ぬ……ところで幽霊よ。そこの幼子の魂はすでに名簿に記されてるものか?」
「はい……ですが、なぜ名簿の事をご存知で?」
「あぁ、この人は死神ノアリス。一応……神様」
「ぬ……失敬な。立派な神様じゃ」
「ノ、ノアリス様っ!?た、大変失礼を致しました!」
急に態度が一変し、恐怖からなのか、肩を震わせ涙を流す幽霊。その場の空気が変わる。
「恐れ多くも……大ファンです!!」
「ただのファンかいっ!!」
「ファンかいっ――」
「ファンかいっ――」
桃矢のツッコミがやまびことなって泉のほとりに響いたのだった。
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