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第八章―赤蛇様―
8−5・鬼斬丸の正体
しおりを挟む【エスポワール大陸】
―――オニノ国―――
「早紀様!!大変で御座います!」
「ん?どうしたの?ハトが豆――」
「喰らってません!南の空が!!」
ガタンッ!
早紀はベランダに飛び出し、南の空を見る。
「あれは何……?真っ赤な空……」
「わかりません!先程、カナデ様が偵察に向かわれました!」
「舞……達に急ぎ、急報を!」
「はっ!」
慌てふためいて護衛兵は王室を出ていく。
カツンカツンカツン……
「ロメリア様、南の空が真っ赤に染まっております!これはいったい何なの?」
「異様な波動を感じたが……赤蛇様が異世界で復活なされたのかもしれん……世界の終わりが近いのかもしれん……」
「そんなっ!!ロメリア様!詳しく教えてください!!」
―――ウィンダ街―――
「ティータ、お願い。私に何かあった時はこの子を連れていってちょうだい」
「チハヤ様!なりません!そのお体では!」
「いいえ、私もあの方たちの力になりたいのです……いいですか?北の大陸に渡りエルフの森に行きなさい。この子はメローペ様の――」
「――チハヤ様……かしこまりました。命に換えてもお守り致します」
「ふふ、ティータ。優しい子。それとお守りにこの刀を……」
チハヤはベッドの下から一振りの刀を取り出す。それは大事に大事に綺麗な布に包んであった。
「これはあるお方から預かった刀です。もしもの時はこれを使いなさい。この刀の名は――獅子王丸」
「獅子王丸……わかりました。大事に致します」
「頼んだわよ、ティータ」
―――エルバルト国境―――
「ダリア様!マルク城からミーサ様ご到着です!」
「うむ、通せ!」
「はっ!」
カチャ……
「ダリアねぇさん!早紀様から急報が!」
「ミーサ、私の所にも来たよ。あれはただごとではない」
「どうしましょう!」
「一旦様子を見るが、各街の住民はエルバルトの地下へ案内した方が良さそうだ。元鬼達の住処だが、あそこは改築して避難所として使えるようにしてある」
「わかったわ。ムルーブとマルクの住民は避難させます!ねぇさんはどうされますか?」
「南へ行く」
「!?」
「案ずるな、様子を見に行くだけだ。桃矢様が無事に帰られるまで死ぬわけには行かないからな」
「ふふ、ねぇさんまで桃矢様をお待ちなんですね……わかりました。私も行きます」
「良いのか?危険だぞ」
「はい。桃矢様が留守の間にこの大陸が無くなってしまったのでは合わせる顔がありませんものね!」
「そうだな。明朝、南へ向かう!全軍準備を致せ!」
「はっ!!」
「ではねぇさん、私もマルクから合流致します!」
「わかった。ミーサ、明日またな」
「はいっ!」
【デゼスポワール大陸】
―――カランデクル近郊―――
――死者の泉
グラグラ……
「地震か!?」
「ぬ……これは赤蛇が這っておるな……」
死者の泉に着いた桃矢達だったが、そこにはぽっかり空いた穴しか無かった。
空は益々赤く染まり血の雨が降って来そうな雰囲気だった。
「ジゴク丸さん、赤蛇様を止める手段はあるのですか?」
「あるにはあるが……しかしあれは――」
「誰かいますっ!!」
セリが指差す木の陰に人影がある。
「ジャマはさせぬよ……赤蛇様はこの世界を喰らい尽くす……」
「貴様っ!!姿を現わ……え?」
桃矢が叫ぼうとすると、相手の方から姿を見せる。十数人の黒い服を来た鬼の集団が現れる。その先頭にいたのは……
「トキ……じいさん?」
「桃矢よ……愚かな。太郎に食われておれば何も知らずに死ねたものを……」
「桃矢様!!この者です!千年の滝で赤子を食べていたのは!!同じ目をしています!」
「セリ……この人は鬼の里の管理をしていた……トキじいさんだ。どういうことなんだ?」
「坊や、いい加減理解しなさい。鬼斬丸旅団頭首、トキ様ですよ。フフフ」
「陽子先輩まで……」
桃矢は頭ではわかっていても気持ちが付いていかない。鬼達がなぜ赤蛇を復活させ、この世界を壊そうとするのか。
今まで出会ったジオナやサクラ、大勢の鬼達。だけどその鬼達は平和を願い、共に戦ってきた。なのになぜ……桃矢の足は前に出ない。
ジゴク丸達はすでに戦闘体制に入り、緊迫した時が流れる。
「かかれぃぃ!!」
鬼斬丸頭首、トキの一声で黒服の者達が桃矢達に襲いかかる!!
「やれぃぃ!!」
負けじとジゴク丸が雄叫びを上げる!!
激しく剣と剣、拳と拳がぶつかり合い、一瞬にして大地は赤く染まっていく――
「やめろ……もうたくさんだ……」
「桃矢様!!危ない!!」
セリの声が後ろから聞こえる。
キィィィィン!!
「ぬぅ……ぎりちょん……」
ノアの大鎌が桃矢の眼の前で、鬼の剣を受け止める。
「ぬ……桃矢よ、所詮は鬼。血で血を洗う事が生きる本能なのじゃ、履き間違えるな。剣を抜け」
キィィィィン!!
「だけど……それじゃぁ……太郎と何も変わらない。僕は……」
その時だった!!
いつもふいに現れるソレは今の桃矢には十分な時間を与えてくれた。
ゴロゴロ……
チュドォォォォン!!
バリバリ……
「おいおいっと。鬼同士の喧嘩なんてお犬様も食べないよっと!!」
「タケミカヅチ様!!」
「ぬ……タケオ。遅い!」
「わぉ……ノアリス!ここに居たのかっと。さてさて……」
「ほほぅ……タケミカヅチ様とな?アドヴァン様を殺した、たわけた奴等とつるんでおられるとは……」
鬼斬丸のトキはタケミカヅチに軽々しく近づいて行く。
「情けないですなぁ……それでも神ですか?」
その刹那だった。トキが刀を抜き、タケミカヅチの首をはねたように見えた……がっ!!
『雷帝のかんざし』
チュドォォォォン!!
「下郎が。僕の体に気安く触れるな……よっと」
「がは……」
勝負は一瞬だった。鬼斬丸を束ねる頭領のトキが一撃で瞬殺される。ひるむ鬼斬丸の仲間達。
「くっ!!引けいぃ!!」
陽子の号令で散り散りに飛んで行く鬼斬丸。
「逃がすな!!追えぇい!!」
負けじとジゴク丸達も鬼斬丸達を追っていく。
「ぬ……桃矢よ、お主はどうするのじゃ?」
「僕は……」
立ち尽くす桃矢を、ノア、メイ、セリ、タケミカヅチは黙って見守っていた。
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