異世界おにぃたん漫遊記

雑魚ぴぃ

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第九章―世界の向こう側―

9−9・隠し事

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【エスポワール大陸】
―――オニノ国―――

 結婚式の宴が行われた夜。タケミカヅチがノアの元を訪れる。
 桃矢の祖母、鬼子母神が生きている事、鬼の血を引く者を根絶やしにしようとする神々から桃矢を殺せという命令を受けたこと、そして――

 桃矢は大広間の扉を開け、皆を大広間の中へと入れる。

(早紀、舞、愛、メイ、ミーサ、レディス、クルミ……この中に神の命令で監視する者がいるのか……)
(ぬ……気をつけよ、昨夜一番に来たのは愛じゃった……)

「皆、すまないがこれからウィンダの街経由でムルーブの街へ行く。ウィンダの街ではちはやさんのお墓参りと教会への寄付をしようと思う」
「寄付は賛成だわ、ちはやさんには幾度となくお世話になったもの。でもムルーブの街は?」
「早紀……皆、聞いてくれ。鬼子母神が生きている。知ってると思うが僕のおばぁちゃんだ。たぶん……ムルーブの街にいる」
「何ですって!?」

 愛がまっさきに声をあげた。皆もそれに続き、驚きの声を上げる。

「あの壁画にあった『復讐』が行われるかは分からない。だが、放おってもおけない。早紀はミーサとオニノ国を、愛はメイとマイア城の留守を頼む」
「私とレディスちゃんとクルミちゃんはどうしたら良いの?」
「あぁ、舞とレディスとクルミは着いて来てくれないか?レディスは元々ちはやさんの紹介、クルミはムルーブの街に詳しい。道中、舞は二人を守ってやって欲しい」
「そういう事ならわかったわ。二人共、お出かけの準備をしておいで」
『はぁい!』

レディスとクルミは部屋へと走っていく。

「何が起こるかわからない。早紀、頼んだぞ」
「えぇ、わかったわ。桃矢も気をつけてね」
「あぁ……」

 皆はそれぞれ支度をし、早紀達は大広間の穴の修理の段取りをしていく。

「ノア。これで愛はマイア城だ。メイに見張りを頼んでおく。たぶん……僕らの動きはわからないはずだ」
「ぬ……そうじゃな。一つずつ片付けるとするかのぉ」

 翌日には桃矢とノア、舞、レディス、クルミはウィンダの街へと向かった。道中変わった事もなく、馬車に揺られ無事に到着する。
 ウィンダの街の教会に寄り、ちはやさんへのお別れと教会への寄付、ムルーブの街から帰るまでの数日間レディスを預かってもらう事にした。

「桃矢様、本当にありがとうございます。ちはや様もきっと喜んでおられる事と思います。皆様に神のご加護があらんことを……」
「こちらこそありがとうございました。レディスをよろしくお願いします。明日には母親のカディアも到着しますし、久しぶりの故郷でゆっくりさせてやってください」
「おにぃたん!クルミちゃん!舞お姉ちゃん!またねぇ!」
「うんっ!レディスちゃんまたね!」

 レディスとクルミが手を振り、数日間の別れを惜しんだ。

―――ムルーブの街―――

 数日後、ムルーブの街に着いた桃矢とノアと舞は鬼子母神が祀ってあるお堂へと出向く。ここは以前、アドヴァンの襲撃により半壊したが既に元通りになっていた。

「おにぃたん!クルミはお友達に挨拶してから街をご案内するにゃ!」
「あぁ、わかったよ。僕達はお堂にしばらくいると思うから。久しぶりのムルーブだ、ゆっくりしておいで」
「はいにゃ!」

 クルミも久しぶりのムルーブの街で、はしゃいで駆けていった。

「さて、今日はお堂で宿泊できるか聞いてみようか」
「はい、桃矢くん」
「ぬ……わしは地下の宝物庫の様子を見てくるぞぃ」
「あぁ、ノア。気を付けて。舞、行こうか」
「うん」

桃矢と舞は、お堂横の宿舎へと向かう。

「ごめんください!誰かいませんか!」
「……誰もいない?」
「どこか出かけてるのかな、まぁ、ここは以前お世話になっているし……待合室で少し待たせてもらおうか」
「うん、あっ、お茶入れるね」

 舞が気を利かせ、待合室に合ったお茶を入れてくれる。待合室には、以前のお堂の写真や、鬼子母神像、そしてチホさんの写真が飾ってあった。

「懐かしいな……」
「桃矢くん、どうぞ」
「あっ、ありがとう。舞はムルーブは初めて来たんだっけ?」
「ううん、一度早紀ちゃんと寄った事あるわ」
「早紀と?」
「うん、桃矢くんがデゼスポワール大陸に行ってる時にね……ここにも一度来たの」
「へぇ……そうなのか」
「うん……」

少し沈黙が流れ、桃矢は会話が続かずお茶をすする。

「静かね……この世界に桃矢くんと私しかいないみたい」
「舞とこうして二人でいる事も今まで無かったもんな」
「そうね……これが最初で最後かもしれないけどね……」
「え……?」

カタン……カランカランカラン……

ドサ……

桃矢は長椅子に座っている舞の方へと倒れ込む。

「か……ら……しび……れ……」
「桃矢くん……ごめんね。そのうち意識も無くなると思う。そのまま聞いて欲しい……」
「ま……いぃ……?」

パサ……

舞が自分の頭へと手をかけ、髪の毛をむしり取る。

「あ……い……なの……か……?」
「そうね。私は愛……お姉ちゃんの舞はもう……いないわ」

 桃矢は目を開けていられなくなり、次第に目の前が暗くなる。まだ意識はギリギリ残っているが、深い霧の中に連れて行かれるようなそんな感覚がした。

「あの日……オニノ国をまだキュウカ島と呼んでいた頃。お姉ちゃんは魔物に心臓を貫かれた。その後、ロザリア様に神の山で見てもらった時にはね……お姉ちゃんの息はもうなかったの……」

ポツン……と桃矢の顔の上に涙が落ちる。

「でね、私はロザリア様に頼んだの。心の支えだったお姉ちゃんをどうしても存在させたかった。あの頃の私は封印を解かれたばかりで、お姉ちゃんのいない世界なんて考えられなかった……だから……だから……!!」

ポツンポツン……と愛の涙は止まらなかった。

「常闇の断捨離を使ったの……死にかけていたお姉ちゃんの命に、私の命の半分を代償としてもう一人のお姉ちゃんを作ったの……それは私の意識と同調できる分体……」

 桃矢の頭を撫でながら愛が続ける。もう桃矢にはほとんど聞こえていない。

「ねぇ……桃矢様……あの世でもしお姉ちゃんに会ったら伝えて欲しい……私は地獄へ落ちるかもしれない。だからもう……お姉ちゃんにも桃矢様にも……会えないかもだけど……!!だけど……私は二人の事が大好きだったよ……うぅ!!」

カラカラカラ……

「愛よ。もう良いか?そろそろ迎えが来る……」
「ノアリス様……はい……うぅ……」
「桃矢よ、騙してすまなかったの……」
「ノアリス様……いいえ、鬼子母神様。これで本当に……良かったの……ですか……」
「あぁ……難儀な務め、ご苦労じゃった。向こうに行っておれ。桃矢の魂を今から抜き取る……」
「……うぅ……は、はい……」

 ムルーブの街には夕焼けが広がり、街は赤く染まっていた。まるで鬼の血を流した様なそんな景色だった。



この日……桃矢は帰らぬ人となった。
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