100年の恋

ざこぴぃ。

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第一章

第5話・見溜有栖

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 一時、身を隠す為に訪れた緑子先生の『柳川診療所』。僕はそこで診察を受けていた西奈弓子の火傷跡を見てしまう。
 日も暮れ、彼女1人を帰らせるのは危ないと判断し、今日は離れで泊まって行くように緑子先生に勧められる。

「春文様……今宵はよろしくお願いします」
「は……はい」

 離れに着くと、彼女は僕のベッドの横に布団を敷く。離れと言っても、診療所の入院施設みたいな所だ。ベッドは3つ横並びであり部屋には洗面台も付いている。
 隣には大きな桶風呂とトイレもある。十分に生活は出来そうだ。ちなみに僕の荷物は隣の使っていない診察室に置いてある。
 彼女がお風呂に入ってる間に、緑子先生が夜ご飯にとおにぎりを持って来てくれた。色々聞きたい事もあったが、今は頭の中が彼女の事でいっぱいになりそれどころではなかった。
 白子はメモを残しいつの間にか帰っており、メモには『後日様子を見に来ます』とだけ書かれていた。

「お先にお風呂頂きました……春文様もどうぞ……」
「あ、はい。これ、緑子先生が晩ご飯にとおにぎりを……」
「ありがとうございます。頂きます」

 一言二言会話をし、僕はお風呂へと向かう。動揺していて言葉が続かない。白子とは2人きりでいても平気だった。しかし弓子と2人きりになるとドキドキしてしまう。

………
……


 お風呂から上がると、弓子はベッドに座わり外を眺めている。

「弓子さん、お風呂上がりました。晩御飯は食べられましたか」
「はい……」

洗面台には片付けられた食器が置いてあった。

「春文様、電気を消して頂いてもよろしいでしょうか」
「は、はひっ!!」

 緊張からか声が上ずる。電気を消し、弓子が座るベッドの隣に腰掛ける。
 月明かりが部屋に差し込み、電気が無くても明るかった。

「私……お月様を眺めるのが好きでして……何時間でもこうしていることがあるんです」
「そうなんですね……弓子さん」
「弓子って呼んで下さい……」
「え?あ……ゆ、弓子」
「はい」
「――その火傷はいつ頃……」

 言いかけて「しまった!」と思った。緊張からにしても、話題に火傷を選んだのは失敗かと思えた。
 彼女は黙って立ち上がり、窓の方を向いたまま着物を脱いでいく。
 
「まだ、幼い頃ですわ。私は覚えてはいません。霧川様という御屋敷で母親は働いていました。そこで火事に合い、私をかばうように亡くなったと聞きました」
「そんな……」
「父は西奈よろず店の2代目をしていました。母が亡くなって、それから病になり……」
「ごめん、あまり話したくない事でしたね……」
「いいえ、春文様には全部知って頂きたく――」

 そう言うと弓子は裸になり背中の火傷跡を見せてくれた。

「緑子先生には幼い頃からお世話になっているんです。傷が痛んでも背中は自分で薬も塗れません。ですので時々診療所に来て薬を塗ってもらってました。殿方にこうして見せるのも初めてです」
「弓子……」

 彼女の覚悟が伝わってくる。僕もベッドから立ち上がり、来ていた着物を脱いだ。

「僕も同じだ。小さい頃からこのアザが両腕両足にあって、女性と付き合った事もない。だから弓子が素敵な女性でも、正直どうしていいかわからなくて――」
「春文様っ……!」
「え?ちょ!」

 背中を向けていた彼女が向きをかえ、僕の胸に飛び込んできた。2人は何も着ていない。女性経験がまったく無い僕にとっては天変地異の様な出来事だった。

「ゆ、弓子!あの……えっと!」
「お静かに……」

 弓子の唇が僕の唇に触れ、吐息が漏れる。弓子が僕の背中に腕を回し、全身が密着する。

「ふふ……初めまして、小さい春文様……」
「こ、こら!弓子、そんな……」

 心臓が弾けそうなくらいドキドキしている。昔の僕に教えてやりたい。モテ期はやってくると!!
 いや、昔の僕が今の僕か……未来の僕に教えないといけないのか。

「春文様?何をお考えですの?」
「いや……なんでもない。はは……」
「ベッドに横になって下さい……」
「はい……」

 僕はベッドに横になり、呼吸を整えた。僕は今日、大人の階段を登る……ようやくこの時がやってきたのだ!
 月明かりが影になり、はっきりとは見えないがそこには弓子……裸の女性がいて、僕の上に覆いかぶさってくる。幸せとはこういう瞬間なのだろうか。彼女の髪が僕の顔に触れ、唇が触れ合う。

「はぁ……春文様……」
「弓子……」
(おい!押すな!バカタレ!)
(ねぇさま!交代してください!私も見たいです!)
(バカ!見つかるじゃろ!)
(交代してください!)


『え?』


 僕と弓子は目をパチクリと合わせ、窓の外に目をこらす。

「キャァァァァァ!!」
「誰だっ!!」
「チッ!バレたではないか!逃げるぞ!」
「もう!ねぇさま!もう少しでしたのに!」

ガタン!

 踏み台が倒れるような音がして、人影が遠ざかっていく。

「弓子はここで待っててくれ」

 うなずく弓子にシーツを被せ、僕は急いで服を着て外へと出る。

「遅かったか。どこに行った……?」

 見渡すと診察室にはまだ電気が点いている。緑子先生が人影を見たかもしれない。

「緑子先生!緑子先生!」

 診察室の外から声をかける。すぐにカーテンに人影が写り、緑子先生が窓を開ける。

「緑子先生!先程誰かが離れを覗いてまして!人影とか見ませんでしたか!」

 窓から僕を見下ろす形で緑子先生は驚いた顔をしている。

「さ、さて……誰も見ていませんが気のせいじゃありませんか?ひゅぅ……ひゅぅぅ」
「……なぜ吹けない口笛を今、吹こうとしたんですか……」
「へ?あっ、いや、急に口笛を吹きたくなって……あはは……」
「先生、何を隠しているんですか……?」
「何も隠してないでござるよ!」
「ござる?語尾まで怪しい……失礼します!」

僕は窓に手をかけ、診察室に入ろうとする。

「ちょっと!やめなさい!こら!春文さん!」
「緑子先生!何を隠しているんですか!どいてくださ――!?」
「へ?」

 一瞬、右手が熱くなり勝手に動いた気がした。そして緑子先生の胸をわしづかみにする。
 断じて僕の意志ではない。95パーセントはメリーの仕業だ。残りの5パーセントは手が滑ったのだろう。

「ちょ!ちょ!ちょ!春文さん!手を離しなさい!そんなに強く揉んだら……!」
「離れません!僕の意志じゃないんです!たぶん!」
「たぶんって何ですか!いいから離しなさ……あっ……」

 緑子先生は後ろへと身を引き、室内へと座り込む。そのタイミングで僕も診療所へと乗り込む。

「はぁはぁはぁ……疲れた……緑子先生、大丈夫ですか?」
「きゅん……」

 子鹿の様に上目遣いの緑子先生を無視して、室内を見渡す。ベッドの下に明らかに何者かがいる。

「出てこい。そこにいるのはわかっている」

 しばらくベッドの下でゴニョゴニョ言ってた者達がゴソゴソと出てきた。しかし何かに引っかかっているのだろうか?後ろ向きで出ようとして出れず、ベッドの向こう側から這い出して来た。

「わ、わしの名は見溜有栖みためありすじゃ!頭が高い!」
「頭が高いわ!ねぇさまに平伏しなさい!この虫ケラが!」
「えぇぇぇ……態度でかいな……」

 ちんちくりんな女の子と、白子と瓜二つな態度のでかい女の子がいる。

「ははぁぁ!」

なぜか僕の後ろで緑子先生が平伏している。

「えぇと……誰がこの状況を説明してくれるんだ?」
「わしの名は見溜――」
「さっき聞いた。君は有栖ありすね。どこかで会った気もする。で、君は白子そっくりだけど……?」
「ぐぬぬ……わしを置いてけぼりとはいい度胸じゃのぉ!千家のこせがれめっ!」
「そうですわ!ねぇさま!このこせがれは叩き切ってしまいましょう!」
「何でそうなるんだ!君の名は――!」
「え?私達――」
「え?僕達――」

『体が入れ替わっ――!?』

「はい2人共、そこまでです。春文さん。この方は猿渡黒子さん。猿渡家の現ご当主でもあり、白子さんの双子の姉ですわ。でこちらが見溜有栖みためありす様。私らが神様と崇める存在のお方です」

緑子先生の的確な説明で少し落ち着いた。

「で、その神様ぽい有栖さんと、現ご当主様の黒子さんが覗きをしていたと。ふぅん……へぇ……神様なのに?はぁん……」
「ぐぬぬ……千家のこせがれはやはり口が悪いのか!」
「ねぇさま!もしかしたら今回は私達も悪いかもしれませんわ!」
「ぐぬぬ……千家のこせがれにハメられおったわ!」
「僕は、はめてないはめてない……」
「貴様!ねぇさまの前で下ネタをふりかざしたな!死んでもらう!」
「待たぬか!黒子!」
「ねぇさま!止めないで下さい!」
「黒子!今のは下ネタなのか!どうなのじゃ!」
「ねぇさま、ちょっとお耳を……ゴニョゴニョ……」
「お……おぅ……そんな仕組みなのか……そうか……ぽっ」
「2人で盛り上がってる所を悪いんだが、まず謝ってもらいたいんだが?」
「春文さん!神様にそれは失礼で――」

『ごめんなさい』

 有栖と黒子はすんなりと覗きを認めた。緑子先生も『神様に失礼』だと言いかけた手前、どうしていいかわからず視線をそらす。
 ――その後離れに行き、弓子に事情を説明し2人は謝った。弓子は黒子の存在を知っており恐縮していた。
 その日は僕のベッドで弓子と眠った。隣のベッドでは有栖と黒子が寝ている。

「ふふ……なんか、今さら気恥ずかしいですね。さっきまで裸だったからかしら……」
「弓子。なんというか、また機会があれば……」
「えぇ、いつでも……。これからも春文様の側にずっといさせて下さいませ」
「あぁ、もちろん。それと春文て、呼び捨てで構わないよ?」
「いけませんわ。旦那様になる方を立てるのは、当たり前の事です――」
(春文って呼び捨てで構わないよ)
(いけませんわ、ねぇさま。バカが移りますわ)
(ぶふぅ!黒子笑わせるでない!)
(ねぇさまこそ!聞いてるのがバレてしまいますよ……あっ)
「おい、お前達……全部聞こえてるんだが!」
「ひぃぃぃ!ごめんなさい!おやすみなさい!」
「もうねぇさま!ごみ虫に怒られたではありませんか!」
「ごみ虫……って……はぁ。この子達はまったく……」
「ふふ、かわいい」
「弓子、甘やかしたら駄目なんだ。こういう事はちゃんと言って聞かせないと」
「あらあらまぁまぁ。こちらにもとばっちりがきそうですわ!おやすみなさい!ふふ」
「弓子まで……はぁ……。おやすみ」

 そこでようやく静かになり目をつむる。寝る前に弓子とキスをした。この幸せな時間が続く事を願いながら、その日は眠りついた。
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