ふための少女

ざこぴぃ。

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ふための少女

第6話・私の番

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 目が覚めると腕に点滴が繋がれ、見慣れぬ模様の天井が見える。ほのかに甘い香りがし、だんだんと意識が戻ってくる。
 目の前にはあの日見た少女の姿をしたゆいかがいた。
「ここは……?」
「気が付いたのかえ……無事で何よりじゃ」
「ゆいか……さん?」
「うむ……」
「僕は……確かホテルで……」
 記憶が戻るまでしばらくの間、黙ってゆいかは紅茶をすする。先程の甘い香りは紅茶の匂いだったらしい。
 僕はここに来た理由もわからず、ただ思い付く限りの話をゆいかにした。
「なるほどの、お主に届いた『ふための水晶』を覗いてここに来た……で間違いないのだな?」
「……はい、でも何が何やらわからなくて」
「そうであろうな。ふための水晶はその者の未来と過去を覗くと言い伝えられておる。お主、どこかでふための水晶を見たのではないか?」
「水晶を……?」
 記憶をさかのぼってみると、1つだけ気になる瞬間があった。
「そう言えば、祠にしがみついて地震が来た時に眩しい光に包まれて……」
「うむ、あの祠には元々水晶が祀ってあるのじゃ。もしかするとその水晶を見た事でお主は時間の狭間におるのかもしれぬな」
「時間の狭間……どうやったら元に戻れるんですか?」
「わからぬ。しかし、ここに来た意味があるとすれば……」
「いつきさんと与一さんか!」
「そうじゃな。2人を救う事が元の時間に戻る鍵になるじゃろう」
「ゆいかさん、今日は何日です?」
「今日は8月7日じゃが?」
「7日……!ゆいかさん聞いて欲しい事があるんだ!」
「な、なんじゃ!改まって……!?わしだって、心の準備と言うものがあってじゃな……その……急に……。しかしじゃ、年齢がちと離れすぎて――」
「たぶん、明日の霧の出る時間に……」
「いやいくらお主が若返った所でそれは……その……わしも……ごにょごにょ」
「ゆいかさん、さっきから何を言ってるですか?」
「え?ごほん……何でもない。それで明日がどうしたのじゃ?」
「8月8日の夕方……いつきさんと与一さんと僕は一緒にいたんだ……」
「なんじゃと!」
 ゆいかは飲みかけの紅茶を絨毯の上にぶちまけた。その音を聞きつけ、メイドと思われる使用人が部屋に入って来て片付けを始める。
「領主サマ、ジュウタン汚れる。だめ、絶対。シミ残る」
「う、うむ。メアリーよ、すまん……」
「良いのよ、ワカレバ。メアリー、怒ってないカラ。プンプン」
 なぜか上から目線の使用人。この屋敷には使用人が3名いるそうだ。メアリーと与次郎ともう1人……。
「それではるとよ、いつきと与一をどこで見たのじゃ」
「実は……」
 祠の裏の岩壁には元々穴があった事、地震で湖の周辺が地盤沈下し、水かさが増した事等を説明した。
「なるほど……どうりで見つからぬ訳じゃ……いや、確かあの穴は幼い頃に……」
「ゆいかさん、どうかしたんですか」
「いや、何でもない。話はだいたいわかったのだ。明日、霧の湖でその時間軸が合わさると言うのだな?」
「おそらく……」
「なるほど。しかしその空間にはもう1人のお主がおるはずじゃ。同一人物が同じ時間に存在した場合、予期せぬ事が起こる可能性はある……」
「そうか!僕はその場にもういるのか……」
「うむ。となると、わしが行くのがベストじゃろうの」
 その日はゆいかの屋敷で泊まり、翌日の15時に霧の湖に行く事になった。

………
……


 8月8日、15時過ぎ。霧の湖の周辺には濃霧が立ち込め1メートル先も見えない。
「ここまでじゃ。お主らはここで待機しておれ」
「ゆいかさん気を付けて」
「領主様、ご武運を」
「うむ。何かあれば知らせる」
 そう言うと、ゆいかは車道から続く細い道を霧の湖へと向かって行った。
「ここに見えない壁みたいな物がある……」
「そうでござるな」
「そう言えばこの道は、いつきさんが行き止まりって言ってた場所だ」
「霧の湖の空間と現在の時間がねじれ、見えない壁の様な物があるのでござろう。春斗殿は入らぬ方が良いでござるよ」
「ゆいかさんも同じ事を言ってた。ところで、猿渡さんは霧川家に仕えて長いのですか」
「そうでござるな……あれは富士の樹海、桜の里で――」
 ゆいかの帰りを待つ間、もう1人の霧川家使用人、猿渡の昔話を聞きながら待つ。
 時刻は16時前。地震が起き、携帯で助けを呼んだ時は時計が確か16時だった。
「そろそろ帰って来ても良さそうだけど……」
「説得に時間を費やしているのでござろうか」
「地震は必ず起きる。この霧の中で……」
 今か今かと、霧の中を見つめる。

 グラ――!

「え?今、揺れ……」

 グラグラ――!!

「来たでござる!春斗殿!離れるでござる!」

 グラグラグラグラッ!!ミシミシッ!

 その地震はゆっくりゆっくりと横に揺れ、辺りの木々が音を立てて震える。
「春斗殿はここで待機を!私は領主様の元へ!」
「わ、分かった!」
「では――!」
 猿渡は木々の間を飛ぶ様に跳ねて行く。地震で地盤が緩んだのだろう。辺りの木々は自重に耐えきれず、倒れそうになっている。僕は慌てて車道まで引き返す。
 地震が収まると、霧も徐々に晴れて来た。道路には無数のひび割れが見え、水が至る所で噴き出している。それは時間をも歪ませる力だったのだと、そう思える程に。

 その場でしばらく待ってみるが誰も帰って来る気配がない。
「ゆいかさん!猿渡さん!」
 霧に向かって呼んでみるが、2人からの返事はない。どうなったのか気になり、霧の湖へ向かおうと、見えない壁に触れた瞬間だった。
「え……!?」
 目の前が真っ白に輝き出し、何も見えなくなる!
「ちょっ!ちょっと待てよ――!!」
 霧を掴む様に手を伸ばす僕はそのまま意識が遠くなり、深い深い眠りにまた落ちていった……。


……
………

「――ると!春斗!」
「うぅ……」
「気が付いたの!?今、救急車呼んだからね!すぐ来るからね!」
「お兄ちゃんっ!お兄ちゃん!」
 母と千草の顔が、ぼやっと見える。
「ここは……?」
「お兄ちゃんは急に気を失ったの!大丈夫なの!」
 千草が心配そうな顔をしている。記憶が曖昧だ。写真を見てたら目眩がして……それから……。
 僕は一時的に記憶が無くなり、病院で検査入院する事になった。
「思い出せない……いや、さっき手紙を読んでいて……そこまでは覚えてる。その後、どこかへ行った様な……」
「春斗、今は何も考えず休みなさい」
「うん……」
 帰ったら手紙を読み返そう。きっと何か思い出すだろう。
 僕はそれから2日程、検査入院する事になった。

◆◇◆◇◆◇


……
………

「はぁ、大丈夫かな。お兄ちゃん……」
 私は母と兄を病院へ見送った後、留守番をする事になった。兄の部屋の散乱した洋服を片付ける。
 そして手紙を片付けると、またあの綺麗な水晶が目に入った。
「そう言えばこの水晶をお兄ちゃんが持ってた様な……?」
 私は何気にその紫色の水晶を覗き、そこに書いてある文字を見つめる。
「綺麗……吸い込まれそう……。釈迦牟尼仏か……」
 次の瞬間!辺りが眩い光に包まれ私は目を開けていられなくなる!
「まぶっ!!何っ!?」
 まるで水晶に魂を抜かれる様に、体から力が抜け、その場へ倒れ込む。
「誰……か……助け……て……」
 私はそのまま気を失った。


……
………

 気が付くと見慣れぬ天井が見える。ふかふかのベッドで横になり、眠っていた様だ。
「ここは……どこよ……」
 重い体を起こすと、軽い目眩と頭痛に襲われる。
「いつっ……!」
 部屋を見渡すと、少しずつ記憶の中にある部屋とイメージが一致した。
「あれ?ここって……百鶴ひづる?」
 カーテンを開け、見下ろすと見覚えのある風景が見える。
「やっぱり百鶴だ。どうして……?」
 水晶を覗き込んだ所までは覚えている。それから気を失って……。
 窓から外を覗いていると、兄が自転車で通り過ぎて行くのが見えた。
「あっ!お兄ちゃ――!って行っちゃった……」
 兄の姿を見たせいか、急に不安になってくる。とりあえず祖母の家に帰ろうと思い、部屋を出ると廊下は薄暗い。
「え?」
 廊下には電気が点いていて当たり前だと思っていた。予想していなかった光景に自分の心臓の音が大きく聞こえ始め、無性に怖くなってくる。その時だった。
 ガタンッ!と廊下の先で物音がした。
「ひっ!」
 思わず声が出てしまい、自分で自分の口を抑える。誰か……いる?
「見当たりませんわ……」
 見ると、長い髪の女性が物置で何かを探している。人間だとわかりほっとした反面、こんな暗い廊下で何を探しているのだろうと思った。
「あの……」
 私は後ろからその女性に声をかけた。
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